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第1部 ものづくり基盤技術の現状と課題
第3章 ものづくりの基盤を支える教育・研究開発
第1節 Society 5.0の実現に向けた教育・ものづくり人材の育成

人材は日本が世界に誇る最大の資源であり、ものづくり分野における我が国の国際競争力を強化し持続的な経済成長を目指すためには、変化に対応でき、新たな価値を生み出すことのできる科学技術イノベーションを支える人材を量・質共に充実させることが必要である。特に、産業構造と就業構造の急激な変化に対応できるIT人材等の専門人材の不足は一層深刻化しており、我が国が目指すSociety5.0の実現に向け、人工知能(AI)など情報技術を高度に活用して社会の具体的な課題を解決できる人材の育成が重要となる。これに加え、これからの時代の人材育成は、情報技術を主体的に使いこなす力だけでなく、人ならではの感性・創造性を発揮しつつ新しい価値を創造する力を育成することが一層重要となる。

このような観点から、優れた若手研究者や多様な場で活躍できる人材など理工系分野における「人」をどのように育成・確保していくかが重要な鍵となる。また、次代を担う科学技術人材の育成に向けて、人材育成の基盤を担う小学校段階からのプログラミング教育の実施や「主体的・対話的で深い学び(アクティブ・ラーニング)」の展開など、戦略的な人材育成が求められている。

さらに、人生100年時代に対応した「人づくり革命」に向けて、社会人の学び直しの推進やものづくりにおける女性の活躍促進も重要である。

このような認識の下、我が国のものづくり人材の育成については、ものづくりへの関心・素養を高める小学校、中学校、高等学校における理数教育等の充実や、大学の工学関連学部、高等専門学校、高等学校の専門学科、専修学校等の各学校段階における職業教育等が大きな役割を担うとともに、あらゆる学校段階を通じた体系的なキャリア教育注1の推進が重要である。また、ものづくりについての社会の理解を進めるため、科学技術の理解増進活動や、公民館、博物館などにおける様々な活動を推進することが求められるとともに、伝統的な技法等と最新技術等を生かしたものづくりによって文化財を生かした新たな社会的・経済的価値の創出や、文化や伝統技術を後世に継承する取組なども重要となっている。さらに、イノベーションの源泉としての学術研究や基礎研究の重要性も鑑みつつ、ものづくりに関する基盤技術の開発や研究開発基盤の整備も不可欠の取組である。

注1 一人一人の社会的・職業的自立に向け、必要な基盤となる能力や態度を育てることを通してキャリア※発達を促す教育。
※キャリアとは、人が、生涯の中で様々な役割を果たす過程で、自らの役割の価値や自分と役割との関係を見出していく連なりや積み重ね。

1.科学技術イノベーション人材の育成

(1)先端基盤技術を高度に活用できる人材の育成

近年ではイノベーションが急速に進展し、技術がめまぐるしく進化する中、第四次産業革命やSociety5.0の実現に向け、AI・ビッグデータ・IoT(Internet of Things)注2などの技術革新を社会実装につなげ、産業構造改革を促す人材を育成する必要があり、その中心を担う大学における工学系教育への期待が高まっている。これらのことを踏まえ、2017年1月、文部科学省内で「大学における工学系教育の在り方に関する検討委員会」を開催し、今後の工学系教育における学部・大学院の教育体制・教育課程の在り方、産学連携教育の在り方等について検討を行い、2017年6月に「大学における工学系教育の在り方について(中間まとめ)」を取りまとめた。また、この中間まとめの内容を踏まえた具体的な制度設計(学科の縦割りの見直し等)について、2017年9月より「工学系教育改革制度設計等に関する懇談会」において議論し、2018年3月に検討内容の取りまとめを行った。本取りまとめでは、今後の大学における工学系教育に関し、学科・専攻の縦割りの見直しや一般教養教育としての情報教育の履習促進、学部・大学院連結教育プログラムの構築によるメジャー・マイナー制(主専攻・副専攻)の導入等を進めることが重要であると提言されている。今後、この取りまとめ内容について2018年度から順次実施し、2019年度からの本格実施を目指している。

また、大学における情報技術人材の育成機能を強化するため、産学協働の実践教育ネットワークの形成により、課題解決型学習等の実践的教育の充実を図るとともに、社会人の学び直しのための体系的教育プログラムの開発を推進するため、「成長分野を支える情報技術人材の育成拠点の形成(enPiT)」を実施している。

さらには、AI、IoT、ビッグデータ、セキュリティ等を扱うデータ関連人材の育成・確保に向けて、2017年度より、博士課程学生・博士号取得者等の高度人材に対して、データサイエンス等のスキルを習得させる研修プログラムを実施することにより、我が国社会で求められるデータ関連人材を育成し、社会の多様な場での活躍を促進する「データ関連人材育成プログラム」を実施している。

注2 IoT(モノのインターネット)とは、「あらゆるモノがインターネットにつながる」ということである。従来、インターネットへの接続は、人が操作するコンピュータを介してネットワークに繋ぐということが必要であったが、近年では、家電や自動車といった身の回りのモノ自体がインターネットに直接つながるようになっている。

図311-1 IT人材の需給に関する推計結果の概要

資料:経済産業省「IT人材の最新動向と将来推計に関する調査」(2016年6月)より

図311-2 工学教育改革の具体的方策のイメージ

資料:文部科学省「大学における工学系教育の在り方について」より

コラム:「成長分野を支える情報技術人材の育成拠点の形成(enPiT)」による取組

-大阪大学―

「成長分野を支える情報技術人材の育成拠点の形成(enPiT)」では、情報技術を活用して社会の具体的な課題を解決できる人材を育成するため、複数の大学と産業界によるビッグデータ・AI、セキュリティ、組込みシステム、ビジネスシステムデザインの4分野にわたって、それぞれの分野に専門領域を有する全国の大学・大学院大学の教員や企業の技術者を結集したプログラムを開発・実施し、学部3~4年生を主な対象に実践的な情報教育を実施している。

ビッグデータ・AI分野は大阪大学を拠点として24大学と25の企業が連携し(2018年3月末時点)、実践的な教育プログラムを開発・実施している。2017年度は、東日本、関西、九州、それぞれの地区の大学が協同して教育を実施した。

プログラムは、基礎知識学習とPBL基礎と発展学習に分かれている。関西では、基礎知識学習として、5月から7月に各月1回土曜日に講義・演習を実施するとともに、当日学習した技術をビジネスにいかしている企業の方による講演を実施した。PBL基礎として9月に大阪大学にて短期集中講義を行い、発展学習として10月~11月に分散でPBLを継続し、最後に成果報告会を実施した。PBLでは異なる大学の学生から構成される9グループがそれぞれスーパーの116店舗、33万商品目、3億1千レコードの売上げからなる実際のPOSデータを使用して、幾つかの商品に関する自動発注システムを作成し、4年分のデータを利用して5年目の売上をシミュレーションした。自動発注システムには、それまでに学習したビッグデータ処理、AI、クラウドに関する技術を利用している。受講生は、単に情報技術を学ぶだけでなく、共同作業を通じて社会人としての基礎を修得することができる。

これらの取組を通じ、ビッグデータ処理、AI、クラウド技術を用いて新しいビジネスや価値を創出するといった、将来、第一線で活躍するエンジニアや研究者の卵となる人材を育成するための教育を推進している。

図:自動発注システムの概要

写真:成果報告会の様子

コラム:大学や企業等の人材育成方法に関する先進事例

-産業技術大学院大学-

公立大学産業技術大学院大学(AIIT)はITとデザインエンジニアリング分野における社会人のリカレント教育のための専門職大学院である。

専門職学位課程の中心となる教育プログラムはPBL(Project Based Learning)型教育(課題解決型教育)である。開学前に複数の教員でスタンフォード大学、カーネギーメロン大学、デルフト大学、アイントホーフェン大学などをつぶさに調査し、日本の専門職大学院にふさわしいPBL型教育の体系を構築し開学した。ソフトウェア開発などの「アジャイル開発」や「ビッグデータ活用サービス」、「高齢化対策モビリティ」などを、PBL型教育で展開し、産業界の委員で構成されるPBL検討部会を設置するなど産業界と密に連携できる仕組みを構築している。

図:1年次・2年次の流れ

本学は4 学期制(クォータ制)を採用し、1 年次には4 サイクルで各種の基礎・専門科目を学修することにより、知識・スキルを修得。そして2 年次には前期・後期の2 サイクルに分けて1 年間かけてPBL を実施。

図:PBL 運営の仕組み

PBL のテーマを教員だけで設定すると、その教員が現在実施している研究分野に集中してしまい、視野が狭くなってしまう問題点がある。AIIT では、そうした事態を防ぐため、外部評価委員制度を取り入れて、実施しているテーマに関連する専門家を招き、定期的にPBL 活動のレビューをしてもらっている。

(2)優れた若手研究者の育成・活躍促進

科学技術イノベーションは我が国の成長戦略の重要な柱の一つであり、我が国が成長を続け、新たな価値を生み出していくためには、これを担う創造性豊かな若手研究者の育成・確保が重要である。そのためには、若手研究者の安定した雇用と流動性の両立を図りながら、自らの自由な発想に基づいた研究に挑戦することができるよう、研究環境を整備していくことが求められている。しかし、近年、我が国における25歳から39歳の人口比率の減少と比べて大学本務教員に占める40歳未満の若手の割合がより低下するなど、若手研究者が厳しい状況に置かれている。

図311-3 大学における40歳未満の本務教員の割合

資料:文部科学省「学校教員統計調査」に基づき作成

図311-4 人口に占める各年代人口の割合

資料:総務省「人口推計」に基づき文部科学省作成

文部科学省では、新たな研究領域に挑戦するような優秀な若手研究者に対し、安定かつ自立して研究を推進できるような環境を実現するとともに、全国の産学官の研究機関をフィールドとして新たなキャリアパスを提示する「卓越研究員事業」を2016年度より実施している。

また、優秀な若手研究者が自らの研究に専念できる環境を整備し、安定的なポストに就けるようにするために「テニュアトラック制」注3を導入する大学等を支援する「テニュアトラック普及・定着事業」や、複数の大学等でコンソーシアムを形成し、企業等とも連携して、研究者の流動性を高めつつ、安定的な雇用を確保しながらキャリアアップを図るとともにキャリアパスの多様化を進める「科学技術人材育成のコンソーシアムの構築」をはじめとして、博士課程の学生及び若手研究者等の活躍促進を図るための取組を講じている。

さらに、2016年11月に「基礎科学力の強化に関するタスクフォース」を開催し、優秀な人材が博士後期課程や研究者を目指せるようサポートを行うとともに、若手研究者が安定かつ自立して研究に打ち込める環境を実現するための具体的な対応策等を検討し、2017年4月、「基礎科学力の強化に向けて-『三つの危機』を乗り越え、科学を文化に-」をまとめた。

加えて、文理融合分野など異分野の一体的教育や我が国が強い分野の最先端の教育を可能にし、複数の大学、研究機関、企業、海外機関等が連携して形成する「卓越大学院プログラム」について、2017年度に日本学術振興会に産学官からなる「卓越大学院プログラム(仮称)構想推進委員会」を設置し、2017年12月に「卓越大学院プログラム 公募の方向性について-最終報告-」が取りまとめられ、2018年4月に公募を開始することとした。

注3 若手研究者が自立的に研究できる環境を整備し、要件(①公募を実施するなど公正で透明性の高い選考方法であること、②一定の任期を付して雇用すること、③任期終了前に公正で透明性の高いテニュア審査が設けられていること)を満たした形態で教員・研究者を採用する人事制度。

図311-5 あらゆるセクターを牽引する卓越した博士人材育成に向けての取組(卓越大学院プログラム)

(3)科学技術イノベーションを担う多様な人材の育成・活躍促進

文部科学省では学部学生や大学院生、若手研究者等に対するアントレプレナー(起業家)育成プログラムの実施により、我が国のベンチャー創出力を強化する「次世代アントレプレナー育成事業(EDGE-NEXT)」を2017年度から実施している。

また、我が国の大学等では、研究開発内容について一定の理解を有しつつ、研究マネジメントを行う人材が十分でなく、その結果、研究者に研究活動以外の業務で過度の負担が生じている状況にある。したがって、文部科学省では、研究者の研究活動を活性化するための環境整備、大学等の研究開発マネジメント強化及び科学技術人材の研究職以外への多様なキャリアパスの確立を図る観点も含め、大学等における研究マネジメント人材(リサーチ・アドミニストレーター)の支援方策について調査研究等を実施している。

リサーチ・アドミニストレーター(URA)の年齢構成・雇用形態・職務従事状況(大学等)注1

■ 大学等におけるリサーチ・アドミニストレーター(URA)は40~49歳が31%と最も多い。

■ 雇用形態の77%は任期付き雇用であり、不安定な雇用形態となっている。

■ 業務別には、プレ・アワードに関与している者が642人、ポスト・アワードに関与している者が512人、研究戦略推進支援に関与している者が458人と比較的分散しているものの、プレ・アワードに関与する者が最も多い注2

注1 大学等には、大学、短期大学、高等専門学校、大学共同利用機関を含む。

注2 URA/RAの業務別人数については、複数の業務に携わっている者も1人としてカウントした。例えば「プレ・アワードに関与している者」は図表1の「主としてプレ・アワード担当」、「プレ・アワード及びポスト・アワード担当」、「プレ・アワード及び研究戦略推進支援担当」、「プレ・アワード、ポスト・アワード、研究戦略推進支援担当」、の合計となる。したがって、複数の業務に携わっている者は、重複してカウントされていることに注意が必要である。

図311-6「URAとして配置」と整理する者の年齢構成・雇用形態・職務従事状況(大学等)

資料:文部科学省作成「2016年度大学等における産学連携等実施状況調査」の関連調査を基に作成

URAに求められる人材像や業務に必要な実務能力等を人材育成等の指針として示したスキル標準や育成・研修に資するカリキュラム等を踏まえ、URAの質の向上を図るとともに、URAシステムの課題を共有し、大学間の連携を促すことでURAのネットワーク構築に向けた取組を進めている。

また、2013年8月より、大学等における研究マネジメント人材(URAを含む)群の確保・活用等を支援するため、「研究大学強化促進事業」を実施している。

そのほか、国立研究開発法人科学技術振興機構(以下「(国研)科学技術振興機構」という。)では2015年度より、「プログラム・マネージャーの育成・活躍促進プログラム」を実施し、我が国の優秀な人材層に、「プログラム・マネージャー(PM)」という、イノベーションの触媒、目利き、イノベーションの可能性に富んだ研究開発プロジェクトの企画・遂行・管理を担う新たなイノベーション創出人材モデルの育成を開始している。

(4)次代を担う科学技術イノベーション人材の育成

次代を担う科学技術人材を育成するため、初等中等教育段階から理数系科目への関心を高め、理数好きの子供たちの裾野を拡大するとともに、その才能を伸ばすため、次のような取組を総合的に推進し、理数系教育の充実を図っている。

文部科学省では、先進的な理数系教育を実施する高等学校等を「スーパーサイエンスハイスクール(SSH)」に指定し、(国研)科学技術振興機構を通じて支援を行うことで、生徒の科学的能力や科学的思考力を培い、将来の国際的な科学技術人材等の育成を図っている。具体的には、学習指導要領によらないカリキュラムの開発・実践や課題研究の推進を通じた科学技術人材の育成等を実施するとともに、他校への成果の普及に取り組んでいる。2018年度においては、全国204校の高等学校等が特色ある取組を進めている。

(国研)科学技術振興機構は、意欲・能力のある高校生を対象とした、国際的な科学技術人材を育成するプログラムの開発・実施を行う大学を「グローバルサイエンスキャンパス(GSC)」において選定し、支援している。これに加え、2017年度から、理数分野で特に意欲や突出した能力を有する小中学生を対象に、その能力の更なる伸長を図るため、大学等が特別な教育プログラムを提供する「ジュニアドクター育成塾」を開始した。そのほか、学校・教育委員会と大学等が連携・協働し、中高生自ら課題を発見し、科学的な手法にしたがって継続的・自立的な実践活動を進める「中高生の科学研究実践活動推進プログラム」等の取組を実施している。

加えて文部科学省では、全国の自然科学系分野を学ぶ大学学部生等が自主研究を発表し、切(せっ)磋(さ)琢(たく)磨(ま)し合うとともに、企業関係者とも交流を図ることができる機会として、「第7回サイエンス・インカレ(2018年3月3日~4日)を東京都豊島区において開催し、計263組の応募の中から書類審査を通過した計169組が発表を行った。

さらに、(国研)科学技術振興機構では、数学、物理、化学、生物学、情報、地理、地学の国際科学オリンピックやインテル国際学生科学技術フェア(Intel ISEF)注4等の国際科学技術コンテストの国内大会の開催や、国際大会への日本代表選手の派遣、国際大会の日本開催に対する支援等を行っている。また2017年度は、全国の高校生等が、学校対抗・チーム制で理科・数学等における筆記・実技の総合力を競う場として「第7回科学の甲子園」(2018年3月16日~19日)が埼玉県さいたま市で開催され、神奈川県代表チームが優勝した。

コラム:スーパーサイエンスハイスクールの事例

-福岡県立香住丘高等学校「課題研究」-

福岡県立香住丘(かすみがおか)高等学校は、「科学的に『探究する力』・『伝え合う力』の育成法と能力評価法の研究開発」をテーマに掲げ、生徒課題研究を積極的に行っている。普通科・数理コミュニケーションコースの学校設定教科「SS科学探究」や物理部・化学部・生物部・数学部の活動では、生徒が自由な発想で研究を進めていく。仮説の検証方法を考え測定装置を自作するなどの地道な活動で思考力・判断力を向上させている。SSH生徒研究発表会で最高賞受賞、日本物理学会Jr.セッションで4年連続入賞するなど、様々な大会で高い評価を受けている。

写真:自作の装置による風力発電効率の測定

図311-7 国際科学オリンピック国内大会への参加者数の推移

※参加者数は次年度の国際大会に向けた、主に高校生を対象とした国内大会の受験者数を指す。

注:「数学」は、JMO(高校生以下対象)とJJMO(中学生以下対象)の二つの国内大会の合計値

資料:文部科学省作成

写真:科学の甲子園ジュニア優勝チーム(東京都代表チーム)

写真左から  粟野あわの  稜也りょうや さん(筑波大学附属駒場中学校2年)、 松澤まつざわ  泰健たいけん さん(筑波大学附属駒場中学校2年)、 秋吉あきよし  悠希ゆうき さん(筑波大学附属駒場中学校2年)、 有山ありやま  秋実あみ さん(豊島岡女子学園中学校1年)、 加納かのう  彩瑛さえ さん(豊島岡女子学園中学校1年)、 内田うちだ  葵華あいか さん(豊島岡女子学園中学校1年)

資料:(国研)科学技術振興機構 提供 ※学年はすべて受賞当時

写真:科学の甲子園優勝チーム(神奈川県代表 栄光学園高等学校チーム)

写真前列左から 竹中たけなか  りょう さん(1年)、 大嶋おおしま  俊之としゆき さん(2年)、 千木良ちぎら  洋介ようすけ さん(2年)、 吉開よしかい  泰裕やすひろ さん(2年)
後列左から  大島おおしま  啓吾けいご さん(2年)、 狩野かりの  友博ともひろ さん(2年)、 永野ながの  かん さん(1年) 田中たなか  たくみ さん

(5)産業界と連携した理工系人材の戦略的育成

労働力人口が減少していく我が国は、国際競争力の維持・向上、活力ある地域経済社会の構築、医療・介護サービスの持続的・効率的提供など、重要課題に果敢に取り組みつつ、豊かさを実感できる社会を力強く構築していかなければならない。その実現において、新しい価値の創造や技術革新など、イノベーションが果たす役割は極めて大きい。イノベーションの創出には、高い技術力と共に発想力、経営力などの複合的な力を備え、新たな付加価値を生み出していく人材の育成が必要であり、その際、理工系分野をこれまで以上に強化することは不可欠である。

図311-8 産業界が求める理工系人材

産業界は、理工系人材が、大学教育において、「専門分野の知識」、「論理的思考力や課題解決能力」との両方を身につけることを期待。

理工系人材の基礎研究力を高める面でも、両方の能力を身につけることが重要であると考えられる。

出典:日本経済団体連合会教育問題委員会「産業界の求める人材像と大学教育への期待に関するアンケート結果」(2011年1月)
【調査対象:日本経済団体連合会会員企業、地方別経済団体加盟企業(技術系・理科系580社 、分科系592社)※複数回答】

資料:経済産業省「理工系人材育成に係る現状分析データ等」

「日本再興戦略」(2013年6月14日閣議決定)では、イノベーション機能の抜本強化と理工系人材の育成の観点から、産業界との対話を進め、教育の充実と質保証や理工系人材の確保を内容とする理工系人材育成戦略を作成し、産学官円卓会議を新たに開催して同戦略を推進することが盛り込まれた。

文部科学省では、産学官が協働した理工系人材の戦略的育成の取組を始動すべく、2020年度末までに集中して進めるべき方向性と重点項目を整理した「理工系人材育成戦略」を2015年3月に策定・公表した。

本戦略を踏まえ、文部科学省と経済産業省は、産業界で活躍する理工系人材を戦略的に育成する方策を検討するため、2015年5月に、「理工系人材育成に関する産学官円卓会議」(以下「円卓会議」)を共同で設置し、2016年8月に産学官それぞれに求められる役割や具体的な対応策を「理工系人材育成に関する産学官行動計画」(以下「行動計画」という。)として取りまとめた(図311-9)。

行動計画については、毎年度、その取組の進捗状況をフォローアップし、円卓会議において確認した上で、必要に応じて改訂を行うとともに、産学官において理工系人材育成の取組を推進する方策を検討・実行することとしており、2017年5月に各団体代表者より行動計画に記載された取組の進捗について共有を図ったところである。

図311-9 理工系人材育成に関する産学官行動計画 概要

(6)経済成長を担うグローバル人材の育成

グローバル化した社会で活躍できるものづくり人材を育成するためには、工学系分野を始めとする大学教育の国際競争力を強化するとともに、学生の海外留学を促進すること、また、海外でのインターンシップを通じた実践的な経験により、海外でビジネスができる素養を育むことが重要である。

図311-10 大学等が把握している日本人学生の留学状況

資料:文部科学省「海外の大学との大学間交流協定、海外における拠点に関する調査」
日本学生支援機構「協定等に基づく日本人学生留学状況調査」

文部科学省は、2014年度から、我が国の高等教育の国際通用性と国際競争力の向上を目的に、「スーパーグローバル大学創成支援」において、海外の卓越した大学との連携や大学改革により徹底した国際化を進める大学に対し、重点支援を行っている。また、「大学の世界展開力強化事業」では、海外の工学系高等教育機関との教育交流プログラムの実施等、我が国にとって戦略的に重要な国・地域との間で、質保証を伴った大学間交流の取組を行う大学を支援している。

経済産業省では、グローバルに活躍できる人材育成等を推進していくため、国内の若手人材が新興国の政府機関・企業等において最長で半年間程度のインターンシップを行う機会を提供する「国際化促進インターンシップ事業」を2012年度から実施している。2017年度事業では、(一財)海外産業人材育成協会(AOTS)及び(独)日本貿易振興機構(JETRO)のネットワーク等を活用し、若手人材62名を12か国に派遣している。本事業の特徴は、海外出張や現地駐在ではなく、異文化の現地企業等の一員となることで得られる経験を通じて、国際交渉力の養成や新興国で必要となるビジネススキルの習得等を図ることである。各国による優れた人材の獲得競争が進む中、本事業で成長した日本の若手人材が、今後、我が国及び新興国経済の発展を担っていくことが期待される。

図311-11 新学習指導要領におけるプログラミング教育の充実
図311-12 未来の学びコンソーシアム

(7)小・中・高等学校におけるプログラミング教育

プログラミング教育はものづくりへの関心・素養を高める契機ともなるものであり、その充実を図ることが重要である。新学習指導要領においては、小学校でプログラミング教育を必修とするとともに、中学校の技術・家庭科においてプログラミングに関する内容を充実し、高等学校の情報科においてすべての生徒がプログラミングのほか、ネットワークやデータベース等の基礎について学ぶこととするなど、児童生徒の発達の段階に応じたプログラミング教育の充実を図っている。また、文部科学省では、2018年3月に「小学校プログラミング教育の手引(第一版)」を取りまとめ、各学校における取組を支援している。

また、文部科学省・総務省・経済産業省が連携して、民間企業・団体等とともに学校におけるプログラミング教育を普及・推進するため、2017年3月に「未来の学びコンソーシアム」を設立しており、民間企業・団体による教材開発の促進や学校が外部人材を活用しやすくする人的支援体制の構築に向けた取組を推進している。また、「未来の学びコンソーシアム」においては、学校や教育委員会等の状況把握を行いながら、プログラミング教育の実践事例を発信していくWebサイトを2018年3月に構築し、提供している(図311-13)。

図311-13 「未来の学びコンソーシアム」ポータルサイト

コラム:小学校プログラミング教育の手引(第一版)について

小学校プログラミング教育の円滑な実施のため、文部科学省では、プログラミング教育の基本的な考え方や各教科等の目標や内容を踏まえた指導等についてわかりやすく解説した「小学校プログラミング教育の手引(第一版)」を2018年3月に取りまとめた。この中では、小学校のプログラミング教育の指導例を掲載しており、例えば理科においては、日中に光電池でコンデンサに蓄えた電気を夜間の照明に活用する際に、どのような条件で点灯させれば電気を効率よく使えるかといった問題について、児童の考えを検証するための装置と通電を制御するプログラムとを作成し実験するといった学習活動の例を示している。なお、理科だけでなく、他の教科等の指導例も掲載しており、様々な教科等でプログラミング教育を行う際の参考として活用を図ることを期待している。

写真:小学校6年生理科「電気の利用」の取組の様子

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