-
- 政策について
- 白書・報告書
- 製造基盤白書(ものづくり白書)
- 2018年版
- モバイル版
- 第2部第1章第1節 ものづくり基盤技術に関する研究開発の推進等
第2部 平成29年度においてものづくり基盤技術の振興に関して講じた施策
第1章 ものづくり基盤技術の研究開発に関する事項第1節 ものづくり基盤技術に関する研究開発の推進等
1.ものづくり基盤技術に関する研究開発の実施及びその普及
(1)研究開発税制等の推進
①研究開発税制
(ア)試験研究費の定義
2017年度から、研究開発税制の支援対象となる試験研究費の範囲について、これまでの製造業による「モノ作り」の研究開発に加えて、ビッグデータ等を活用した第4次産業革命型の「サービス」の開発を新たに追加する措置を講じた。
(イ)試験研究費の総額に係る税額控除制度(総額型)
2017年度から、総額型(税額控除の上限は法人税額の25%を限度)に投資増加インセンティブを組み込み、試験研究費の増減割合に応じて控除率を6~14%とする仕組みを導入するとともに、試験研究費の額が平均売上金額の10%を超える場合には、その割合に応じて、税額控除の上限を最大10%上乗せする措置を講じた(ただし、試験研究費の額が平均売上金額の10%を超える場合の上乗せ措置については、下記(オ)との選択適用。また、控除率10%超の部分及び当該上乗せ措置については、2018年度までの時限措置。)。
(ウ)特別試験研究費税額控除制度(オープンイノベーション型)
2017年度から、特別試験研究費税額控除制度(国の研究機関、大学その他の者との共同研究及び国の研究機関、大学、中小企業者への委託研究等に要する費用について、20%又は30%を控除できる制度(税額控除の上限は法人税額の5%を限度))について、手続要件を企業実務に合わせて緩和する措置等を講じた。
(エ)中小企業技術基盤強化税制
2017年度から、中小企業向け支援を強化するため、従来の控除率12%・税額控除の上限は法人税額の25%を維持した上で、試験研究費が5%超増加した場合には、控除率を最大で17%・税額控除の上限を10%上乗せする措置を講じた(ただし、試験研究費が5%超増加した場合の上乗せ措置については、上記(イ)の上乗せ措置、下記(オ)との選択適用。また、当該上乗せ措置については、2018年度までの時限措置。)。
(オ)試験研究費の額が平均売上金額の10%を超える場合の税額控除制度
試験研究費の額が平均売上金額の10%相当額を超える場合に、その超過額に一定の割合を乗じた額を控除できる制度(税額控除の上限は法人税額の10%を限度)を引き続き講じた(ただし、上記(イ)・(エ)の上乗せ措置との選択適用。また、当該措置については、2018年度までの時限措置。)。
(2)ものづくり基盤技術の開発支援
①AIP:人工知能/ビッグデータ/IoT/サイバーセキュリティ統合プロジェクト(85.6億円)<内閣府、総務省、文科省、厚労省、農水省、経産省、国交省>
理化学研究所に設置した革新知能統合研究センター(AIPセンター)において、革新的な人工知能基盤技術の構築や、再生医療、ものづくりなどの日本が強みを持つ分野をさらに発展させるため、また高齢者ヘルスケア、防災・減災、インフラの保守・管理技術などの我が国固有の社会的課題を解決するための人工知能等の基盤技術を実装した解析システムの研究開発を実施するとともに、科学技術振興機構(JST)において、人工知能等の分野における若手研究者の独創的な発想や、新たなイノベーションを切り開く挑戦的な研究課題に対する支援を一体的に推進している。
②未来開拓研究プロジェクト(95億20百万円)<経産省、文科省>
研究開発プロジェクトが小粒化、近視眼化する傾向にあるなか、技術で勝ってビジネスでも勝てるよう、我が国が強みを持つ技術であり、かつ、我が国経済社会に大きなインパクトを与える、従来技術の延長線上にない開発リスクの高い技術を未来開拓研究に指定し、文部科学省等との緊密な連携の下、研究開発を推進している。
③研究成果展開事業(先端計測分析技術・機器開発プログラム)(国立研究開発法人科学技術振興機構運営費交付金の内数)
独創的な研究開発を支える基盤を整備するため、先端計測分析における革新的な要素技術開発、機器開発の推進及びこれまでの開発成果の活用・普及を促進した。
④ナノテクノロジープラットフォーム(15億84百万円)
ナノテクノロジーに関する最先端の研究設備とその活用のノウハウを有する機関が協力して、全国的な共用体制を構築することにより、産学官の利用者に対し、最先端設備の利用機会と高度な技術支援を提供した。
⑤元素戦略プロジェクト<研究拠点形成型>(19億98百万円)<経産省、文科省>
我が国の産業競争力強化に不可欠である希少元素(レアアース・レアメタル等)の革新的な代替材料を開発するため、物質中の元素機能の理論的解明から新材料の創製、特性評価までを密接な連携・協働の下で一体的に推進した。
⑥小型地球観測衛星の研究開発(1億70百万円)
大型衛星に劣らない機能・低コスト・短期の開発期間を実現する高性能小型衛星を開発し、打上げ及び軌道上実証を行った。
⑦光・量子科学技術研究拠点形成に向けた基盤技術開発(12億89百万円)
量子科学技術(光・量子技術)は、新たな価値創出のコアとなる強みを有し、超スマート社会(Society 5.0)を横断的に支える基盤技術である。そのため、本事業では我が国の光・量子技術分野のポテンシャルと他分野のニーズとをつなげ、産学官の多様な研究者が連携・融合しながら光・量子技術の研究開発を進めるとともに、この分野を将来にわたって支える人材育成を推進した。
(3)国家基幹技術の開発・利用によるものづくり基 盤の強化
①大型放射光施設(SPring-8)の整備・共用(99億9百万円※ 補正:3億34百万円)
大型放射光施設(SPring-8)は光速近くまで加速した電子の進行方向を曲げたときに発生する極めて明るい光である「放射光」を用いて、物質の原子・分子レベルの構造や機能を解析可能な世界最高性能の研究基盤施設であり、環境・エネルギーや創薬など、我が国の経済成長を牽引する様々な分野で革新的な研究開発に貢献している。産業界の利用も含め、2017年度は年間15,000人以上が利用し約2,000件の課題に活用された。
※SPring-8及びSACLAで一体的に運用する経費を含む。
②X線自由電子レーザー施設(SACLA)の整備・共用(70億19百万円※)
X 線自由電子レーザー施設(SACLA)は、レーザーと放射光の特長を併せ持った究極の光を発振し、原子レベルの超微細構造や化学反応の超高速動態・変化を瞬時に計測・分析する世界最先端の研究基盤施設である。本施設を広く研究者等の利用に供することにより、医薬品や燃料電池の開発、光合成のメカニズムの解明など、幅広い研究分野で革新的な成果を生み出すことが期待されている。2017年度は、電子ビームの振り分け運転による2本の硬X線FELビームラインの同時共用が世界で初めて開始されるなど、利用環境の整備も着実に進められた。
※SPring-8及びSACLAで一体的に運用する経費を含む。
③大強度陽子加速器施設(J-PARC)の整備・共用(175億75百万円)
大強度陽子加速器施設(J-PARC)は、世界最高レベルのビーム強度を持つ陽子加速器から生成される中性子やミュオン、ニュートリノ等を利用して、素粒子物理、生命科学、物質・材料科学技術など、様々な基礎研究や産業利用に貢献する施設である。産学官の研究者等に広く利用されており、2017年度は約4,000人を超える利用があり、約400件の課題に活用された。
④革新的ハイパフォーマンス・コンピューティング・インフラ(HPCI)の構築(126億93百万円 補正:4億80百万)
HPCIは、世界最高水準の計算性能を有するスーパーコンピュータ「京」を中核とし、国内の大学等のスーパーコンピュータやストレージを高速ネットワークでつなぎ、多様な利用者のニーズに対応する計算環境を提供するものであり、2012年9月末に共用を開始以降、「ものづくり」を含む様々な分野における研究開発で活用されている。例えば、自動車の開発などで従来行われている風洞実験では実現が難しい、高速走行時に車両が蛇行した際の走行安全性をシミュレーションで実現することで、設計期間の短縮、コスト削減による産業競争力の強化への貢献が期待されている。
⑤ポスト「京」の開発(67億円)
最先端のスーパーコンピュータは、科学技術や産業の発展などで国の競争力を左右するため、各国が開発にしのぎを削っている。文部科学省では、我が国が直面する社会的・科学的課題の解決に貢献するため、2021年から2022年の運用開始を目標に、「京」の後継機であるポスト「京」を開発するプロジェクトを推進している。また、ものづくり・創薬・エネルギー分野等で用いるアプリケーションについても、システムとの協調的な開発に取り組んでいる。
⑥AI技術とものづくり技術の融合を目指した研究拠点の整備(2016年度第二次補正:195億円)
AI技術と我が国の強みであるものづくり技術の融合を目指し、AI技術の研究開発及び社会実装を加速化するため、国内外の叡智を集めた産学官一体の研究拠点の構築に取り組んでいる。具体的には、東京大学柏キャンパス、産業技術総合研究所臨海副都心センターにセンサー等の試作環境、工場等でのロボット利用の模擬環境、世界最高性能AIサーバ等を整備する。2017年度は企業ニーズを踏まえた詳細設計を実施し、建設工事を実施した。また、AIサーバについて要求仕様を決定し、入札により調達事業者を決定した。
(4)提案公募型の技術開発支援
①中小企業技術革新制度
中小企業等経営強化法(平成11年法律第18号)に基づき、新産業の創出につながる新技術開発のための特定補助金等の指定及び特定補助金等における中小企業者向け支出の目標額の設定、特定補助金等を利用して開発した成果の事業化支援措置等の方針の作成により、国等の研究開発予算の中小企業者への提供拡大及び技術開発成果の事業化を図った。
②戦略的基盤技術高度化支援事業(130.0億円の内数)
我が国経済を牽引していく重要産業分野の競争力を支える特定ものづくり基盤技術の高度化等に向け、中小企業ものづくり高度化法の認定を受けた計画に基づき、中小企業・小規模事業者が産学官連携して行う製品化につながる可能性の高い研究・開発及び販路開拓への取組を支援することとし、2017年度は108件採択した。
③革新的ものづくり・商業・サービス開発支援事業(763.4億円)
国内外のニーズに対応したサービスやものづくりの新事業を創出するため、認定支援機関と連携して、革新的なサービス開発・試作品開発・生産プロセスの改善を行う中小企業・小規模事業者の設備投資等を支援することとし2017年度は6,157件採択した。
④研究開発型スタートアップ支援事業((国研)新エネルギー・産業技術総合開発機構運営費交付金の内数)
海外VCの誘致や国内VC等の育成も含め、VCや事業会社との連携を行う研究開発型スタートアップへの支援施策を行うこと等によって、我が国におけるベンチャー・エコシステムの発展を図るとともに、オープンイノベーション推進に向けた取組を実施した。
(5)オープンイノベーション拠点TIAの取組 <経産省、文科省>
オープンイノベーション型の研究開発を加速させるため、(国研)産業技術総合研究所、(国研)物質・材料研究機構、筑波大学、高エネルギー加速器研究機構(KEK)及び(一社)日本経済団体連合会が連携して産学官連携集中拠点「TIAnano」を推進してきたところ、2016年4月からは、東京大学の参画を受け、名称を「TIA」に改称するとともに、取組の一層の推進を図った。また、民間企業がTIAを活用して、優れた性能を有する半導体の研究開発を行うなど、民間企業や大学等と連携網を広げ、産学官に開かれた研究開発拠点として、オープンイノベーションと人材育成を一体的に推進している。さらにナノテク若手研究人材のキャリアアップと流動性向上を図るために行っている人材育成事業(Nanotech Careerup Alliance:Nanotech CUPAL)では、研究開発の基盤要素技術の習得を目的に多様な実践トレーニングコース等を設置しており、2017年度は延べ2050 名以上が参加した。
2.技術に関する研修及び相談・助言等
(1)(独)中小企業基盤整備機構における窓口相談・専門家派遣、人材・情報提供事業
((独)中小企業基盤整備機構交付金の内数)
(独)中小企業基盤整備機構では、中小企業支援の高度な専門性と知見を有する専門家等が、創業予定者や創業間もない企業、株式公開を目指している中小企業、経営革新や新事業開拓を目指している中小企業、その他経営課題の解決に取り組む中小企業等に対して、窓口相談及び専門家派遣等を通じて成長発展段階に応じたハンズオン支援を実施した。
(2)中小企業・小規模事業者ワンストップ総合支援事業(54億82百万円の内数)
中小企業・小規模事業者が抱える様々な経営課題に対応するワンストップ相談窓口として、各都道府県に「よろず支援拠点」を配置し、一歩踏み込んだ専門的な助言を行うとともに、特に高度・専門的な経営課題に対応するために専門家派遣を実施した。
3.知的財産の取得・活用に関する支援
(1)模倣品・海賊版対策について
①政府模倣品・海賊版対策総合窓口による対応
2004年8月に経済産業省に設置された一元的相談窓口において、権利者等からの模倣品・海賊版に関する相談や情報提供を受け付け、関係省庁と連携して解決への対応を行うとともに、必要に応じて外国政府等への働きかけを実施した。
また、外国政府の制度・運用等の対応に問題があることにより、知的財産権に関し利益が適切に保護されていない事案がある場合、本窓口に対する申立に基づき日本政府が調査を行い、必要があれば、二国間協議等を実施する「知的財産権の海外における侵害状況調査制度」の運用を行っている。
②知的財産保護官民合同訪中代表団の派遣
産業界との連携の下、2016年11月には北京、2017年2月には広州に、官民合同訪中代表団(実務レベル)を派遣し、中国政府の知的財産保護担当部局に対して、法制度・運用の改善、地方レベルでの摘発強化等について要請を行い、情報共有等の両国間の連携を継続していくことを確認した。
(2)知的資産経営の推進
我が国企業における自主的な知的資産経営報告書の作成による無形資産の「見える化」の促進に資するため、「知的資産経営WEEK2016」の開催を支援し、各セミナー等において講演を通じ情報提供を行うことで知的資産経営の更なる普及・啓発を図った。
(3)営業秘密管理に関する普及啓発
2015年に改正された不正競争防止法の施行を受けた営業秘密保護強化の一環として、都道府県警察の営業秘密保護対策官との連携、営業秘密侵害事犯の被害相談の指導、企業への周知活動を継続した。2017年度は、各地で警察庁・都道府県警察と共同の講演会を行う等、普及啓発においても連携を進めた。
また、官民の実務者間において企業情報の漏えいに関する最新の手口やその対応策に関する情報交換を緊密に行う場である「営業秘密官民フォーラム」の参加団体向けに、判例分析や逮捕情報等に関する情報を掲載した営業秘密に関するメールマガジン「営業秘密のツボ」を毎月配信している。
さらに、秘密情報の漏えいを未然に防止するための様々な対策をとりまとめた「秘密情報の保護ハンドブック~企業価値向上に向けて~」(2016年2月8日公表)やその簡易版となる小冊子「秘密情報の保護ハンドブックのてびき~情報管理も企業力~」(2016年12月公表)の周知活動をHPや講演等で引き続き行った。
(4)知財権情報の活用・出願手続等に関する支援
①特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)((独)工業所有権情報・研修館運営費交付金の内数)
特許情報を活用した効率的な先行技術調査及び技術開発等を促進するため、国内外で発行された約1億件以上の特許・実用新案、意匠及び商標に関する公報類及び審査・審判に関する経過の関連情報を特許情報プラットフォーム(Japan Platform for Patent Information、略称:J-PlatPat)よりインターネットを通じて無料で提供している。審査関連情報については、「ワン・ポータル・ドシエ(OPD)照会」を通じて、世界各国の特許出願に関する情報を一括把握することが可能である。
2018年3月には、特許・実用新案検索機能において、外国公報(米国・欧州・国際出願)の英語テキスト検索や、分類とキーワードを掛け合わせた検索等の機能を追加した。
②特許出願技術動向調査
企業や大学、公的研究機関における研究開発活動の検討や効果的な出願戦略の構築のための資料、行政機関の科学技術政策等の策定のための基礎資料を提供することを目的として、特許出願技術動向の調査を行っている。2017年度は、12の技術テーマについて調査を実施した。
(5)権利化に対する支援
①円滑な権利化に対する支援
中小企業の円滑な特許権取得を促進するため、特許法、産業技術力強化法及び中小企業のものづくり基盤技術の高度化に関する法律(中小ものづくり高度化法)に基づき、一定の要件を満たす中小企業を対象として、特許料(第1年分から第10年分)及び審査請求料の半額軽減措置を講じている。
また、2014年4月1日から、産業競争力強化法に基づき、中小ベンチャー企業、小規模企業等を対象として、特許料(第1年分から第10年分)及び審査請求料、PCT国際出願に係る調査手数料及び送付手数料等を3分の1に軽減する措置を講じている注1。なお、中小企業による2017年度の軽減措置の利用件数は35,743件であった。
注1 2014年4月1日から2018年3月31日までに特許の審査請求をした場合又はPCT国際出願が受理された場合に限られる。
②早期権利化に対する支援
これまでの特許制度を巡る情勢変化や新たな課題を踏まえ、2023年度までに特許の「権利化までの期間注2」と「一次審査通知までの期間」をそれぞれ、平均14か月以内、平均10か月以内とするなど、「世界最速・最高品質の特許審査」の実現を目指している。また、研究開発成果の早期活用、グローバルな経済活動等に対する支援を目的として、特許出願に対する早期審査・早期審理を継続して実施した。加えて、地震により被災した企業の企業活動に必要な技術を早期に保護し、活用可能とするため、災害救助法(昭和22年法律第118号)の適用される地域(東京都を除く。)に住所又は居所を有する被災した企業、個人等が簡便な手続で早期審査・早期審理を受けられる「震災復興支援早期審査・早期審理」を実施している。
注2 審査請求から一次審査又は一回目の拒絶理由通知に対する出願人の応答(意見・補正)に対する二次審査で審査が終了するまでの平均期間を対象とする。なお、出願人が補正等をすることに起因して特許庁から再度の応答等を出願人に求めるような場合や、特許庁に応答期間の延長や早期の審査を求める場合等の、出願人に認められている手続を利用した場合を除く。
③世界で通用する安定した権利の設定に向けたインフラ整備
企業活動のグローバル化や事業形態の多様化に伴い、企業の知的財産戦略も事業を起点としたものに移りつつある。そこで、事業で活用される知的財産の包括的な取得を支援するために、2013年4月から事業戦略対応まとめ審査を開始した。事業戦略対応まとめ審査は、新規な事業や国際展開を見据えた事業に係る製品・サービスを構成する複数の知的財産(特許・意匠・商標)を対象として、事業説明を受けたうえで、分野横断的に一括して審査を行うものである。これにより、企業の望むタイミングで、企業の事業展開を支える知財網の形成が可能となる。
また、IoT関連技術やAI等の新たな技術の台頭に伴い、ソフトウエア関連発明が多くの技術分野で創出されるようになり、様々な技術分野の審査官やユーザーがソフトウエア関連発明に係る審査基準等について十分理解する必要性が高まってきた。このような状況を踏まえ、2018年3月にソフトウエア関連発明に係る審査基準等について、基本的な考え方を変更せずに発明該当性や進歩性に関する明確化を図った。
加えて、IoTを活用したビジネスが増加する中、2016年11月、IoT関連技術を網羅的に抽出可能な日本独自の特許分類ZITを世界に先駆けて新設し、付与を開始した。さらに、2017年4 月には、ユーザーの要望を受けて、ZITを細展開し、ヘルスケア用、製造業用等といった形で用途別に分類する新たな分類項目を設立することで、用途別のIoT関連技術の抽出が可能となった。
(6)知的財産の戦略的な活用に対する支援
①知的財産に関するワンストップ相談窓口「知財総合支援窓口」((独)工業所有権情報・研修館運営費交付金の内数)
「知的財産は敷居が高く相談に行きにくい」「どこへ相談に行けばいいか分からない」という中小企業の声を踏まえ、2011年度から、知的財産に関する悩みや課題に関する相談を一元的に受け入れる「知財総合支援窓口」を47都道府県すべてに設置し、様々な専門家のほか、自治体や商工会・商工会議所、よろず支援拠点等の支援機関等とも連携して知的財産のワンストップサービスを提供している。2016年度からは、事業の実施主体を(独)工業所有権情報・研修館(INPIT)とすることで、同館の営業秘密・知財戦略相談窓口や海外展開知財支援窓口との連携強化を図るほか、職務発明規程に関する支援を行う専門家の更なる拡充、標準化に関するアドバイスを提供する日本規格協会(JSA)との連携、地理的表示保護制度等の農林水産業に係る知的財産の相談にも対応するなど、支援内容の一層の拡充を図るとともに、支援対象を中堅企業まで拡大することにより支援体制を強化した。2017年度の相談件数は95,257件であった。
②中小企業等外国出願支援事業(6億26百万円)
中小企業等による戦略的な外国出願を促進するため、都道府県等中小企業支援センター等及び全国実施機関として(独)日本貿易振興機構(ジェトロ)を通じて、外国への事業展開等を計画している中小企業に対して、外国への出願に要する費用(外国特許庁への出願料、国内・現地代理人費用、翻訳費用等)の一部を助成した。総支援件数は829件であった。
③中小企業等海外侵害対策支援事業(99百万円)
中小企業の海外での適時適切な知的財産権(特許権、実用新案権、意匠権、商標権)の権利行使を支援するため、ジェトロを通じて、模倣品に関する調査から模倣品業者に対する警告・行政摘発手続までに要する費用を補助し、採択件数は16件であった。また、海外で現地企業等から知的財産権侵害で訴えられた場合の弁護士への相談費用や訴訟に要する費用を補助し、採択件数は1件であった。さらに、海外で現地企業等から自社のブランドの商標や地域団体商標を冒認出願された際の異議申立や無効審判請求、取消審判請求等冒認商標を取り消すために要する費用を補助し、採択件数は25件であった。
④海外知的財産プロデューサーによる支援((独)工業所有権 情報・研修館運営費交付金の内数)
海外での事業内容や海外展開先の状況・制度等に応じた知的財産戦略策定等、海外における事業展開を知的財産活用の視点から支援するため、海外での事業展開が期待される技術を有する中小企業等に対して、知的財産マネジメントの専門家(海外知的財産プロデューサー)を派遣している。
2017年度は、6人の海外知的財産プロデューサーにより、254者(2018年3月末現在)の支援を行った。
⑤開放特許情報データベースの提供((独)工業所有権情報・ 研修館運営費交付金の内数)
特許の活用を促進するため、大学・公的研究機関、企業等が保有する知的財産権で、他者にライセンス又は権利譲渡する意思のある特許(開放特許)の情報を、「開放特許情報データベース」において提供している(登録件数:約3万件(2018年3月末時点))。
⑥リサーチツール特許データベースの提供((独)工業所有権 情報・研修館運営費交付金の内数)
ライフサイエンス分野におけるリサーチツール特許の使用を促進するため、大学・公的研究機関、企業等が保有するリサーチツール特許の情報を、「リサーチツール特許データベース」において提供している(登録件数:約400件(2018年3月末時点))。
4.戦略的な標準化・認証の推進
(1)中堅・中小企業等における標準化の戦略的活用の推進
「未来投資戦略2017」(2017年6月9日閣議決定)、「知的財産推進計画2017」(2017年5月16日知財戦略本部会合決定)に基づき、「新市場創造型標準化制度」を活用して中堅・中小企業から規格の提案のあった案件について、2017年度末時点で規格を11件策定した。さらに、自治体・産業振興機関、地域金融機関、大学・公的研究機関(パートナー機関)と一般財団法人日本規格協会が連携し、地域において標準化の戦略的活用に関する情報提供・助言等を行う「標準化活用支援パートナーシップ制度」のパートナー機関数を2017年度末時点で143機関に拡大した。また、同制度の下、中堅・中小企業等向けに、標準化に関する戦略的活用についてのセミナーを実施した(実績は、2017年度末時点で132件)。さらに、独立行政法人日本貿易振興機構による「海外輸出に係る認証取得支援事業」において、欧州、インドネシア、ベトナム、タイに関する情報提供パンフレットを作成するとともに、2017年度末時点でセミナーを6回(国内5回、海外(タイ)1回)開催し、47件(34社)の個別相談に対応した。
(2)戦略的な国際標準化の推進(40億00百万円)
我が国企業が有する優れた技術・製品を国内外に普及させるに当たっては、関連する国際標準を戦略的に策定することが重要である。そのため、先端医療機器、ロボット等の我が国が技術的優位を有する先端分野や、自動走行システム等の経済的波及効果の大きい社会システムに関連する分野において、国際標準原案の開発、当該原案の国際標準化機関への提案等を実施した。また、その過程で得られた知見をもとに普及を見据えた試験・認証基盤の構築等を実施した。
(3)戦略的なJIS化の推進(5億90百万円)
①JISの高機能化の促進
我が国の中堅・中小企業が保有する先端技術や我が国が強みをもつ高機能材料や製品について、それらの性能・品質を適切に評価できる試験方法や性能・特性に関する等級等を規定したJISの開発を推進した。具体的には、遮熱性繊維製品等についてJIS原案の作成等を実施した。
②安心・安全など社会ニーズを踏まえたJIS化の推進
消費者保護、高齢者・障害者配慮、環境への配慮など社会ニーズが高く安全・安心な社会形成に資するJISの開発を推進した。具体的には、電気用品の安全性や案内用図記号等についてJIS原案の作成等を実施した。
(4)世界に通用する認証基盤の強化
我が国企業の海外展開の観点から戦略的に重要な分野について、認証又は試験の結果が国際的に認められる認証基盤を国内に整備するため、大型パワーコンディショナ及び大型蓄電池の試験・評価施設の整備を行い、2016年4月より運用を開始した。2017年度においては、大型パワーコンディショナで14件の共同研究/認証実験、大型蓄電池で88件の共同試験を実施した。また、両施設を活用し、我が国の国際競争力強化に資する試験手法及び国際標準開発を行った。
(5)アジア諸国等との協力関係強化
我が国企業のアジア諸国での事業展開及びアジア市場の獲得を促進するため、我が国が強みを持つ製品や技術が適正に評価される性能評価方法等の国際標準化について、アジア諸国の標準化機関と協力してワークショップ・セミナーを開催した。また、国際標準化分野での連携強化のため、ビルの省エネ・再エネ導入を目的にした、Zero Energy Buildingに関するガイドラインや評価方法の普及に資する研修をASEAN向けに実施した。さらに、国際標準化機構(ISO)、国際電気標準会議(IEC)及びASEAN品質標準諮問委員会(ACCSQ)傘下のWGと連携し、アジア地域向けの標準化人材育成ワークショップを開催した。2017年7月には、韓国で北東アジア標準協力フォーラムを開催し、日中韓3か国の標準化機関や関係企業が集まり、国際標準化活動における協力分野について議論を行った。
(6)標準化人材の育成
①標準化資格制度の創設
日本規格協会(JSA)において、標準化や規格開発に関する専門知識を備えた人材を「規格開発エキスパート」として評価して登録する「標準化人材登録制度」を平成29年6月に創設。2017年3月末時点で規格開発エキスパート44名、規格開発エキスパート補5名を登録。
②大学等における標準化教育の推進
非常勤講師としての職員派遣等を通じた支援を実施するとともに、標準化教育のモデルカリキュラム及びファカルティ・ディベロプメント教材を開発し、全国の大学等における標準化講義のさらなる拡充を支援。
③若手育成のための国際標準化人材育成講座の実施
国際標準化実務の遂行能力に加え、グローバルに通用する交渉力及びマネジメント力を兼ね備えた人材を育成するため、日本規格協会(JSA)と連携して、ISO及びIECにおける標準化に携わる若手を対象とした「ISO/IEC国際標準化人材育成講座」(通称ヤンプロ)を実施。2017年度には、2度に分けて同講座を実施し、計56名が受講した。また、このほかに、受講者同士のネットワークの維持、強化を図ることを目的として、同講座の修了者を対象とした合同研修会を開催し、67名が参加した。
5.科学技術イノベーション人材の育成・確保
(1)卓越研究員事業(15億10百万円)
新たな研究領域に挑戦するような優秀な若手研究者に対し、安定かつ自立して研究を推進できるような環境を実現するとともに、全国の産学官の研究機関をフィールドとした新たなキャリアパスを提示する取組を実施した。
(2)次世代アントレプレナー育成事業(EDGE-NEXT)(3億30百万円)
これまで各大学等で実施してきたアントレプレナー育成に係る取組の成果や知見を活用しつつ、人材育成プログラムへの受講生の拡大やロールモデル創出の加速に向けたプログラムの発展に取り組むことで、起業活動率の向上、アントレプレナーシップの醸成を目指し、我が国のベンチャー創出力を強化する取組を実施した。
(3)女性研究者への支援(10億88百万円)
研究と出産・育児・介護等との両立や、国内外で研鑽を積む機会の提供等による女性研究者の研究力向上を通じたリーダー育成を一体的に推進するなど、女性研究者の活躍促進を通じた研究環境のダイバーシティ実現に取り組む大学等を支援した。