経済産業省
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第1部 ものづくり基盤技術の現状と課題
第3章 ものづくりの基盤を支える教育・研究開発
第2節 ものづくり人材を育む教育・文化芸術基盤の充実

1.各学校段階における特色ある取組

(1)小・中・高等学校の各教科における特色ある取組

我が国の競争力を支えているものづくりの次代を担う人材を育成するためには、ものづくりに関する教育を充実させることが重要である。文部科学省では、中央教育審議会の答申(2016年12月)を踏まえ、2017年に小・中学校学習指導要領を、2018年に高等学校学習指導要領を改訂した。小学校の「理科」「図画工作」「家庭」、中学校の「理科」「美術」「技術・家庭」、高等学校の「芸術」の工芸や「家庭」など関係する教科を中心に、それぞれの教科の特質を踏まえ、ものづくりに関する教育を行うこととしている。例えば、小学校の「図画工作」では、造形遊びをする活動や絵や立体、工作に表す活動、鑑賞の活動を通して、生活や社会の中の形や色などと豊かに関わる資質・能力を育成することとしている。その際、技能の習得に当たっては、手や体全体の感覚などを働かせ、材料や用具を使い、表し方などを工夫して、創造的につくったり表したりすることができるようにすることとしている。

中学校の「理科」では、原理や法則の理解を深めるためのものづくりなど、科学的な体験を重視している。中学校の「技術・家庭(技術分野)」では、技術が生活の向上や産業の継承と発展などに貢献していること、緻密なものづくりの技などが我が国の伝統や文化を支えてきたことに気付かせることなどを新たに明記するとともに、ものづくりなどの技術に関する実践的・体験的な活動を通して、技術によってよりよい生活や持続可能な社会を構築する資質・能力を育成することとしている。また、例えば、高等学校の専門教科「工業」では、安全・安心な社会の構築、職業人としての倫理観、環境保全やエネルギーの有効な活用、産業のグローバル競争の激化、情報技術の技術革新の開発が加速化することなどを踏まえ、ものづくりを通して、地域や社会の健全で持続的な発展を担う職業人を育成するため、教科目標に「ものづくり」を明記するとともに、実践的・体験的な学習活動を通じた資質・能力の育成を一層重視するなどの教育内容の充実を図っている。

コラム:特色ある木材を利用した「ものづくり」によって地域の素晴らしさを伝える取組

-山形県上山市立宮川中学校-

山形県上山市立宮川中学校のある地域は、特産物として「干し柿」が有名で、約300年も前から生産されている。柿の木の管理、手入れのために伐採された古木の中には、黒い模様の入った「黒柿」と呼ばれるものがまれに見つかることがあり、同校では「技術・家庭科」や「総合的な学習の時間」などにおいて、この「黒柿」を利用した「ものづくり」に取り組んでいる。 

生徒たちは、長年大切に育ててきたからこそ生まれた美しい「黒柿」で、この地域の素晴らしさを多くの方々に知ってもらおうと、この材料を譲り受け、机の製作に取り組んだ。

古い柿の木はとても堅く、なかなか切断したり削ったりすることが難しい素材であり、また、加工が苦手な生徒もいる中、生徒たちは木材を加工する伝統技法を調べたり、教師や地域の元宮大工の方の助言を受けたりしながら分担・協力し、机を完成させた。製作された机は、全国的な作品展に出品され賞も受賞している。

生徒たちは、このような「ものづくり」に関する学習活動を通して、「黒柿」という材料とそれを加工する技術の素晴らしさを再認識するとともに,自分のアイデアを製品にする難しさや楽しさを感じていた。

写真:生徒が協力して机を製作する様子

写真:完成した机

コラム:(株)日本アイ・ビー・エムと日本工学院八王子専門学校との連携による東京都立町田工業高等学校のIT人材を育成する教育プログラム

東京都立町田工業高等学校は、情報システム(2020年度から情報テクノロジー系列に改編する)など4つの系列を有する総合情報科が設置されており、情報技術に関連した人材を育成している。

2019年度からは、(株)日本アイ・ビー・エム及び日本工学院八王子専門学校と連携協定を結び、産業界が必要とするIT人材の育成を推進することを目的としたパイロット事業を展開している。

パイロット事業では、主に情報システム系列の2学年の生徒を対象に、IT講話、メンタリングセッション及び授業支援など、多岐にわたる教育プログラムを実施している。

IT講話では、(株)日本アイ・ビー・エムの社員によるITの基礎に関する講話、また、同社のCTO(最高技術責任者)によるAIなど最先端の技術と未来に関する講演が行われた。講演後のアンケートでは、生徒のスマートフォンからサイトにアクセスする方法により、生徒も興味深く回答していた。80%以上の生徒は肯定的に回答しており、学習や将来についても興味関心が高まっている。

メンタリングセッションでは、生徒3~4名からなる1グループに社員1名がメンターとして入り、勉強、進路、仕事、ITなどについての質問に答えるメンタリングを年間通して5回実施した。ワークショップや会社訪問などを通じ、生徒も次第に打ち解け活発に伝え合うことができたとともに、生徒の勉強や仕事に対する意識が向上した。

授業支援では、工業科に属する科目である「ソフトウェア技術」「ハードウェア技術」などの授業において、科目に応じた専門性をもつ社員による指導も行われ、授業後のアンケートでは、授業への満足度や授業内容の理解度に対する肯定的な意見が90%を超えており、意欲的、積極的に取り組めている。

本パイロット事業は、生徒の意識の変容や専門性の向上、特に学び続ける意欲の醸成に有効な教育プログラムとして、これからも継続的・計画的に実施される。

東京都立町田工業高等学校では、今後も、(株)日本アイ・ビー・エム及び日本工学院八王子専門学校との連携を深め、専門学校までを見通した教育プログラムを開発することとしている。

写真:IT企業とのワークショップの様子

写真:IT企業による授業支援の様子

※企業に係る記述については2019年度時点

コラム:-子供の学び応援サイト-

文部科学省では、新型コロナウイルスの影響による学校の臨時休業期間における子供たちの学習の支援策として、公的機関などが作成した自宅等で活用できる教材や動画等のリンクを紹介するポータルサイト「子供の学び応援サイト」を2020年3月2日から開設している。

本サイトは、NHKのオンライン動画をはじめ、自治体や教員養成系大学、民間機関等が作成した動画や教材などを掲載しており、4月15日現在、リンク数は約240個を数え、延べ約215万人が同サイトにアクセスし延べ約241万回閲覧されている。

掲載しているコンテンツは、教育・学習に係る様々な分野から構成されており、例えば、小学校の図画工作や家庭科、中学校の美術や技術・家庭科また、科学技術関係「わくわくサイエンスリンク集」など、子供たちがものづくりや科学の魅力に触れ探求することができるものとなっている。

写真:文部科学省ホームページ「子供の学び応援サイト」

URL:https://www.mext.go.jp/a_menu/ikusei/gakusyushien/index_00001.htm

(2)大学の人材育成の現状及び特色ある取組

ものづくりと関連が深い「工学関係学科」では、2019年度現在、38万452人(国立12万3,231人、公立2万1,831人、私立23万5,390人)の学生が在籍している。2018年度の卒業生8万8,732人のうち約60%が就職し、約36%が大学院などに進学している。職業別では、ものづくりと関連が深い機械・電気分野を始めとする専門的・技術的職業従事者となる者が約80%を占めており、産業別では、製造業に就職する者が約28%を占めている(表321-1)。また、工学系の大学院においては、職業別では、専門的・技術的職業従事者となる者が、修士課程(博士課程前期を含む)修了者で就職する者では約92%(表321-2)、博士課程修了者で就職する者では約93%を占めている(表321-3)。産業別では、修士課程修了後に就職するもののうち、製造業に就職する者では約60%、博士課程修了後に製造業に就職する者では約34%を占めている。

表321-1 大学(工学関係学科)の人材育成の状況

資料:文部科学省「学校基本調査」

表321-2 大学院修士課程(工学関係専攻科)の人材育成の状況

資料:文部科学省「学校基本調査」

表321-3 大学院博士課程(工学関係専攻科)の人材育成の状況

資料:文部科学省「学校基本調査」

大学では、その自主性・主体性の下で多様な教育を展開しており、我が国のものづくりを支える高度な技術者などを多数輩出してきたところである。

工学分野については、専門の深い知識と同時に幅広い知識・俯瞰的視野を持つ人材育成を推進するため、2018年6月に学科ごとの縦割り構造の見直しなどを促進するために大学設置基準などを改正したところである。今後、当該制度改正による工学系教育改革の実施などを通じて、工学系人材の育成を戦略的に推進していくところである。

例えば、実際の現場での体験授業やグループ作業での演習、発表やディベート、問題解決型学習など教育内容や方法の改善に関する取組が進められているほか、教員の指導力を向上させるための取組などが進められている。また、工学英語プログラムの実施、海外大学との連携による交流プログラムなど、グローバル化に対応した工学系人材の育成に向けた取組が行われている。

図321-4 工学系大学卒業後就職者における産業別の比較(学士課程)

●1990年度から2018年度にかけて、製造業分野への就職者が大幅に減少する中、運輸・通信分野やサービス業分野への就職者が増加している。

資料:2019年度 文部科学省 学校基本調査に基づき作成

コラム:大学(工学系)における取組

-京都工芸繊維大学-

京都工芸繊維大学では、デザインと建築を柱とする領域横断型の教育研究拠点として2014年にKYOTO Design Lab(D-lab)を設立した。

京都の長い歴史や豊かな文化をふまえつつ、未来に向けてさらなる革新を実現していくことがD-labのミッションである。その実現のためにはデザイン・建築のみならず、様々な分野の専門家たちの協働が必要であるとの考えから、D-labは、国籍を超えた様々な分野の研究者や実務家、学生たちが集まる「コラボレーションのためのプラットフォーム」として組織されている。

これまで、スタンフォード大学など様々な海外の有力大学から招聘した研究ユニットや学生、企業の実務家、学内の研究者・学生と、異分野が融合した様々なプロジェクトを展開し、それらをベースとした実践的教育プログラムを実施してきた。

これらのプロジェクトで生み出された成果は、企業による事業化や、世界的な展示イベントへの出展、著名なデザインミュージアムでの成果発表などを通じ、世界に向けて発信しており、国内外のネットワークやプロジェクトの拡大に繋がっている。

写真:未来デザインに関するワークショップに参加する学生
©京都工芸繊維大学 KYOTO Design Lab | photo by Kohei Matsumura

-広島大学-

広島大学では、2018年度内閣府「地方大学・地域産業創生交付金」の採択を受け、『デジタルものづくり教育研究センター』が、2019年2月に設置された。センター内には、技術・研究領域別に「材料モデルベースリサーチ」、「データ駆動型スマートシステム」、及び「スマート検査・モニタリング」の3つの共創コンソーシアムが設けられている。いずれの共創コンソーシアムも産学連携のもと、社会実装に繋げるための研究開発を進める一方で、「材料シミュレーション」、「モデルベース開発」、「スマートセンシング」などの研修プログラムを用意し、デジタルイノベーション人材の創出に向けた教育活動を行っており、これが当該研究センターの大きな特徴となっている。

広島大学では、これらの研修プログラムを整理し、モデルやデータを用いたデジタルものづくり技術を産業に直結させる人材の養成を目指して、大学院に新たな学位プログラムを設置すべく準備を進めているところである。

写真:共創コンソーシアムにおける研修風景

(3)高等専門学校の人材育成の現状及び特色ある取組

高等専門学校は、中学校卒業後の早い年齢から、5年一貫の専門的・実践的な技術者教育を特徴とする高等教育機関として、2019年度現在、57校(国立51校、公立3校、私立3校)が設置されており、5万3,882人(国立4万8,282人、公立3,598人、私立2,002人、専攻科生を除く)の学生が在籍している。

2018年度の卒業生10,009人のうち約6割が就職しており、就職率は毎年100%近く、極めて高い水準を維持している。産業別では、製造業に就職する者が約5割となっており、職業別では、ものづくりと関連が深い機械・電気分野を始めとする専門的・技術的職業従事者となる者が9割を占めている。(表321-5)。

高等専門学校は、実験・実習を中心とする体験重視型の教育に特徴がある。具体的な取組としては、産業界や地域との連携による教育プログラムの開発や、長期インターンシップの実施、学生の創意工夫の成果を発揮するための課外活動を実施しているほか、教員の指導力を向上させる取組として、企業からの教員派遣や企業での教員研修などが実施されている。これらの取組を通じて、高等専門学校は社会から高く評価される実践的・創造的なものづくり人材の育成に成功している。

文部科学省としても、社会的要請が高く、人材不足が深刻化しているサイバーセキュリティ分野の人材育成など、高等専門学校教育の充実に向けた取組を進めている。

また、近年は、工業化による経済発展を進める開発途上国を中心として、高等専門学校教育における15歳という早期からの専門人材育成が高く評価されている。そのため、(独)国立高等専門学校機構において、各国のニーズを踏まえた技術者教育の充実に向けて、教育カリキュラムの開発や教員研修などの支援を進めている。

表321-5 高等専門学校の人材育成の状況

資料:文部科学省「学校基本調査」

コラム:高等専門学校における取組

-アイデア対決・全国高等専門学校ロボットコンテスト-

「アイデア対決・全国高等専門学校ロボットコンテスト」(通称・高専ロボコン)は、高等専門学校の学生がチームを結成し、毎年異なるルールの下、自らの頭で考え、自らの手でロボットを作ることを通じて独創的な発想を実現化し、「ものづくり」を実践する課外活動である。

2019年度の第32回大会は「らん♪ RUN Laundry(らん・ラン・ランドリー)」という競技課題の下、全国から選抜された26チームが2台のロボット(手動・自動各1台)を使用して、フィールドに設置された3本の物干しざおにTシャツ・バスタオル・シーツを美しく干し得点を競った。

2019年11月には国技館にて地区大会を勝ち抜いた全国26チームによる決勝トーナメントが行われた。各高等専門学校の学生の独創的なアイデアに、約6,000人の観客から大きな声援と歓声が送られ、優勝チームには内閣総理大臣賞(賞状・杯)が授与された。

写真:決勝戦の様子 香川高等専門学校
(詫間キャンパス)対小山工業高等専門学校

写真:10年ぶり5回目の優勝となる香川高等専門学校
(詫間キャンパス)

-東京工業高等専門学校-

東京工業高等専門学校では、子どもが学校から持ってくる書類が分からないという視覚障害の保護者の方の声をきっかけとして、印刷された文字を点字に、逆に点字を文字に変換する自動点字相互翻訳システムを開発した。視覚障害者の方からは「これまでワンタッチで印刷物が点字になるシステムは存在しなかったので、すぐに印刷物を確認できるようになり,非常に便利である」といった声が寄せられた。

写真:視覚障害者の方へのヒアリングを行う学生

写真:デモンストレーションの様子

(4)専門高校の人材育成の現状及び特色ある取組

高等学校における産業教育に関する専門学科(農業、工業、商業、水産、家庭、看護、情報、福祉の各学科)を設置する学校(専門高校)は、2019年度現在、1,505校設置されており、57万3,261人の生徒が在籍している。2018年度の卒業生19万825人のうち、約54%が就職している。そのうち、2019年度現在、ものづくりと関連が深い工業に関する学科は525校に設置されており、23万9,204人の生徒が在籍している。2018年度の卒業生7万9,523人のうち約68%が就職しており、2019年3月末現在の就職率(就職を希望する生徒の就職決定率)は99.5%となっている。職業別では、生産工程に従事する者が約59%を占めており、産業別では、製造業に就職する者が約57%を占めている(表321-6)。

表321-6 専門高校(工業に関する学科)の人材育成の状況

資料:文部科学省「学校基本調査」(就職率は「高等学校卒業(予定)者の就職(内定)状況調査」。就職を希望する生徒の就職決定率を表している。)

経済のグローバル化や国際競争の激化、産業構造の変化、IoTやAIをはじめとする技術革新や情報化の進展などから、職業人として必要とされる専門的な知識や技術及び技能はより一層高度化している。また、熟練技能者の高齢化や若年ものづくり人材の不足などが深刻化する中で、ものづくりの将来を担う人材の育成が喫緊の課題となっている。

このような中で、専門高校は、ものづくりに携わる有為な職業人を育成し、職業人として必要となる豊かな人間性、生涯学び続ける力や社会の中で自らのキャリア形成を計画・実行できる力などを身に付けていく教育機関として大きな役割を果たしている。また、地元企業などでの就業体験活動や技術指導など、地域や産業界との連携・交流を通じた実践的な学習活動を行っており、地域産業を担う専門的職業人を育成している。

文部科学省では、2014年度から、社会の変化や産業の動向などに対応した、高度な知識・技能を身に付け、社会の第一線で活躍できる専門的職業人を育成することを目的として、先進的な卓越した取組を行う専門高校(専攻科を含む)を指定して実践研究を行う「スーパー・プロフェッショナル・ハイスクール(SPH)」事業を行っている。

2019年度現在、20校の指定校においては、育成を目指す人材像を明確にして、大学・高等専門学校・研究機関・企業などと連携した講義の実施、最先端の研究指導、実践的な技術指導なども含め、高度な人材を育成するために開発すべき人材育成プログラムについて実践研究が行われており、事業終了後は、それらの成果の活用及び全国への普及を図ることとしている。

工業科を設置する高等学校の指定校では、我が国のものづくり産業の発展に寄与し、第一線で活躍できる専門的職業人を育成している。産学官の連携を一層図り、工業に関する諸課題を解決するための高いレベルの研究指導や技術指導により、生徒が主体的、協働的に学習し、ものづくりの高度な知識や技術及び技能を身に付けることにつながる人材育成プログラムに取り組んでいる。例えば、防災、減災時や災害発生時において適切な対応や貢献ができる災害にも適切に対応できるエンジニアを育成するため、企業技術者や大学関係者から指導を受けるなど、産学官が協働した実践的な学習活動が行われている。

また、2019年度から、高等学校が自治体、高等教育機関、産業界などと協働してコンソーシアムを構築し、地域課題の解決などを通じた探究的な学びを実現する取組を推進する「地域との協働による高等学校教育改革推進事業」を実施している。職業教育を主とする専門学科では、本事業のプロフェッショナル型において、専門的な知識・技術を身に付け地域を支える専門的職業人を育成するため、地域の産業界などと連携・協働しながら地域課題の解決などに向けた探究的な学びを専門教科・科目を含めた各教科・科目などの中に位置付け、体系的・系統的に学習するカリキュラム開発を実施する。

工業科を設置する高等学校の指定校では、例えば、スマートシティを実現するために必要となる先進的な知識・技術を身に付け、ものづくりを通して地域の課題を解決できる技術者の育成を目指して、地域の産業界や高等教育機関などと協働した実践的な学習活動が行われている。

指定校以外の工業科を設置する高等学校では、企業技術者や高度熟練技能者を招いて、担当教員とティーム・ティーチングでの指導による高度な技術・技能の習得や、身に付けた知識・技術及び技能を踏まえた難関資格取得への挑戦などの取組を行っている。また、産業現場における長期の就業体験活動や、先端的な技術を取り入れた自動車やロボットなどの高度なものづくり、地域の伝統産業を支える技術者・技能者の育成、温暖化防止など環境保全に関する技術の研究など、特色ある様々な取組を産業界や関係諸機関などとの連携を深めながら実施している。さらに、各地域で開催されるものづくりイベントにおいては、生徒がものづくり体験学習の講師を務めたり、地元企業の技術者などと交流したりすることを通じて、地域のものづくり産業が培ってきた技術力の高さや職業人としての誇りを理解させるなど、ものづくりへの興味・関心を高めている。

また、将来、起業や会社経営を目指す生徒はもちろんのこと、それ以外の生徒においても社会の変化に対応したビジネスアイデアを提案して製品化することができるような、アントレプレナーシップの育成を図るため、生徒の日頃の学習成果や高校生の視点で見た気づきを活かした製品の開発に地元企業と連携して取り組み、試作品の製作や製品企画のプレゼンテーションなどを通じて、製品の開発から販売までを体験させる実践的な学習活動も行われている。

工業科以外の農業、水産、家庭などの学科においても、地域産業を活かしたものづくりのスペシャリスト育成に関する教育が展開されている。例えば、農業科においては、規格外農産物などの未利用資源を有効活用した商品開発に向けた研究や、地域の女性起業家と連携したブランド品の共同開発が行われている。水産科においては、未利用資源を貴重な水産資源として有効活用する方法を研究し、地域の特産品を開発するなどの取組や、水産教育と環境教育、起業家教育を融合させた学習活動が行われている。家庭科においては、地場産業の織物技術を活用して、新たな織物やアパレル商品を企画・提案したり、製作したりして地域活性化につながるものづくり教育を進めている。

コラム:「スーパー・プロフェッショナル・ハイスクール」の取組

-熊本県立熊本工業高等学校-

産学官協働による災害対応型エンジニアを育成する教育プログラムの開発

2018年に「スーパー・プロフェッショナル・ハイスクール」に指定された熊本県立熊本工業高等学校では、指定校が設置されている地域の企業などが求めている人材像について「防災、減災時や災害発生時において適切な対応や貢献ができる人材」と設定し、インフラ復旧に貢献できる力(土木科)、耐震建築の構造を理解し復興に寄与できる力(建築科)、居住空間のコミュニティ促進に貢献できる力(インテリア科)を備えた人材の育成に向けた取組を柱とする教育プログラムの開発を行っている。

土木科では、熊本県道路舗装協会の協力による校内のアスファルト舗装、災害現場で活用できる小型無人機ドローンの操縦など、実際の現場を模した学習活動の機会を多く設けている。

地震後、県内では熊本城をはじめ多くの建築物・道路などの復旧復興工事が行われている。そのような中で、建築科では、災害後に建物の耐震構造を把握するために赤外線探知機を用いて鉄筋コンクリート構造の劣化現象を診断する技術を学んだ。また、益城復興支援住宅、桜町再開発ビルの工事現場の視察や被災した阿蘇神社の楼門の耐震技術を学び、その10分の1スケールの模型製作などに取り組んでいる。さらに、熊本県立大学・崇城大学などとの高大連携による学びも深まり、産学官協働体制も整ってきた。生徒が、最先端の技術を学ぶ機会が増え、耐震建築構造の理解も深まっている。

インテリア科では、防災のために地域との連携を深め、被災者の心の痛みを和らげ、避難生活をより快適にするためのアメニティを提供している。教室の壁紙を張り替えた空間づくりや益城町の災害公営住宅の方との交流から被災者やそのコミュニティに触れたり、甚大な被害に遭った東北を訪問し、現地の方から話を聴き、今後熊本でやるべき事について計画した。

地元企業や地域の関係機関などと連携した様々な学習活動を通じて、生徒は地域の産業界で必要とされる技術や専門科目の授業と実社会との関連性をより理解するとともに、学習成果をより深化させようとする主体的な態度を育成することにもつながった。

写真:歴史的建造物の製作
(熊本県立熊本工業高等学校)

写真:ドローンの操作実技講習
(熊本県立熊本工業高等学校)

コラム:「全国産業教育フェア」における「全国高等学校ロボット競技大会」での取組。発想力と創造力を発揮してロボットを製作し、次世代を担う技術者としての資質を向上

2019年10月26日から27日、「第29回全国産業教育フェア新潟大会」において、「第27回全国高等学校ロボット競技大会」が、「集え・競え、次代を担う若き技術者たち!」のサブテーマの下、新潟県で開催された。

本競技大会は、全国産業教育フェアの中でも人気の高いプログラムの一つであり、「全国の専門高校などで学ぶ生徒が、創造力を発揮して新鮮な発想で工夫を凝らし、仲間と協力しながらロボット競技大会用ロボットを製作する。また、その過程を通して高度な技術・技能を習得し、ものづくりへの興味関心を高めさせるとともに、次世代を担う技術者としての資質を向上させる」ことを趣旨として開催された。

第27回大会では、開催地である新潟県の特色を活かしたストーリーと課題の下に競技が行われた。

競技はリモコン型ロボットを巧みに操作して、割薬(籾殻)・芯星をモチーフにしたアイテムなどを指定されたエリアに搬送し、大花火のモチーフを完成させたり、自立型ロボットを使って、指定されたエリアへ搬送された砂金をモチーフにしたアイテムや朱鷺に見立てたアイテムを搬送・射出し、完成度を得点で競うものである。

ロボットを製作し、的確に操作する高度な知識・技術はもちろんのこと、豊かな発想力や創造力、仲間とのチームワークが求められる。

全国各地の厳しい予選を勝ち抜いた128チームが出場し、熱戦が繰り広げられた。(優勝:福岡県立八女工業高等学校)

写真:文部科学大臣賞を受賞したロボット
(福岡県立八女工業高等学校)

写真:技術奨励賞(経済産業大臣賞)を受賞したロボット
(福岡県立八女工業高等学校)

コラム:専門高校の特色ある取組

-埼玉県立大宮工業高等学校ラジオ部の取組-

課題を見いだし、解決策を考え、結果を検証して改善する学習活動

埼玉県立大宮工業高等学校では、2014年度から、モデルロケット国際大会規則に沿って開催されているロケット甲子園に参加している。この大会では、自作モデルロケットに宇宙飛行士に見立てた生卵を搭載し、指定された高度約800ftまで打ち上げ、約45秒で搭載した卵にひび一つなく着地させて回収する競技である。

同校ラジオ部は、2016年のロケット甲子園で大会新記録を収めて優勝し、この結果により2017年フランスで開催されたモデルロケット国際大会(IRC:InternationalRocketry Challenge)に日本代表として出場して、世界第2位を獲得した。2017年のロケット甲子園では2連覇を達成し、2018年のIRCに2年連続出場し世界第3位の成績を収めた。

ロケットを製作する過程では、 精密なボディを製作することが重要となる。ロケットが正確に打ち上がるための条件として、推進方向から受ける空気抵抗を均等にする必要があり、形状的に歪みがなく、表面も凹凸の少ないボディを製作しなくてはならない。ボディは元となる芯材に短冊状にした紙を螺旋状に巻いて接着した後、芯材を抜いて紙管を製作し、それを使用する。この時、巻き付ける短冊紙を隙間なく正確に、かつ、しっかり締め付けながら巻き付けられるかがポイントとなる。生徒は、緻密に滑らかな表面に仕上げる技術を身に付けており、大会主催者からも、他のロケットとは別格の仕上がりであるとの評価であった。

生徒は、実践的・体験的な学習活動を通して身に付けた『ものづくり』の知識及び技術・技能を応用して、どのような素材や製造方法がモデルロケットの製作に適しているかを判断して製作した。高い設計力と技術力が求められ、工業科の授業で身に付けたものづくりの知識及び技術によりボディの構造を創意工夫して、形状的な歪みをなくすことができた。またロケットの打ち上げ場所に制約がある中で生徒は意欲的に取り組んだ。

国際大会では、審査員を前に製作したロケットについて理論的に英語でプレゼンテーションする部門もあり、2年連続で2位の評価を得ている。

2020年1月、第8回ものづくり日本大賞「ものづくりの将来を担う高度な技術・技能」分野のうち「青少年部門」において、ものづくり日本大賞内閣総理大臣賞の表彰を受けた。

写真:2018IRC(イギリス大会)のロケット事前検査の様子

写真:ものづくり日本大賞内閣総理大臣賞表彰式の様子

(5)専修学校の人材育成の現状及び特色ある取組

高等学校卒業者を対象とする専修学校の専門課程(専門学校)では、2019年度現在、工業分野の学科を設置する学校は474校(公立2校、私立472校)となっており、8万9,575人(公立161人、私立8万9,414人)の生徒が在籍している。2017年度の卒業生3万1,431人のうち約83%が就職しており、そのうち関連する職業分野への就職が約94%を占めている(表321-7)。

表321-7 専修学校の工業分野における人材育成の状況 

資料:文部科学省作成

人口減少、少子・高齢化社会を迎える我が国にとって、経済成長を支える専門人材の確保は重要な課題である。専修学校は、職業や実際生活に必要な能力の育成や、教養の向上を図ることを目的としており、柔軟で弾力的な制度の特色を活かして、社会の変化に即応した実践的な職業教育を行う中核的機関として、我が国の産業を支える専門的な職業人材を養成する機関として大きな役割を果たしてきた。ものづくり分野においても、地域の産業界などと連携した実践的な取組を行っており、ものづくり人材の養成はもとより、地域産業の振興にも大きな役割を担っていくことが期待されている。

また、グローバル化や産業構造の変化、技術革新など、社会の高度化・複雑化が進展していくとともに、人生100年時代ともいわれる長寿命社会の到来が予測される中、専修学校においても、その柔軟な制度特性を活かして、キャリアアップやキャリアチェンジに向けた学び直しなど、多様化する社会人の学習ニーズに応えるリカレント教育(学び直し)の充実がますます重要になってきている。

図321-8 社会人の受入人数の推移(私立専修学校)

●私立専修学校における社会人の受入れは、特に専門学校において多く、また、2017年度においては、約20万人の社会人が私立専修学校で学んでいる。

資料:文部科学省 私立高等学校等実態調査 (調査対象:私立の専修学校)

 ※ 「社会人」とは、当該年度の5月1日現在において、職に就いている者、すなわち給料、賃金、報酬、その他の経常的な収入を目的とする仕事に就いている者、企業等を退職した者、又は主婦等をいう。

文部科学省では、専修学校を始めとした教育機関が産業界などと協働して、中長期的な人材育成に向けた協議体制の構築などを進めるとともに、来るべきSociety5.0などの時代に求められる能力、各地域の課題解決などに資する能力を身に付けた人材の養成に向けたモデルカリキュラムの開発などの取組を推進している。

また、企業などとの密接な連携により、最新の実務の知識などを身に付けられるよう教育課程を編成し、より実践的な職業教育の質の確保に組織的に取り組む課程を「職業実践専門課程」として文部科学大臣が認定するとともに(学校数994校、学科数2,986学科(2019年3月5日現在))、2018年度には、社会人などを対象とした短期型の実践的プログラムを「キャリア形成促進プログラム」として文部科学大臣が認定する制度を新たに創設し、リカレント教育の充実を推進している。

さらに、これらの制度は、厚生労働省の教育訓練給付金制度と連携しており、「職業実践専門課程」や「キャリア形成促進プログラム」のうち、厚生労働大臣の指定を受けた講座は、教育訓練給付金の支給対象となる。

私立専修学校における社会人の受入れは、特に専門学校において多く、また、2017年度においては、約20万人の社会人が私立専修学校で学んでいる。

表321-9 職業実践専門課程 認定学校数・学科数

※(  )内の数字は全専門学校数(2,805校)、修業年限2年以上の全学科数(7,501 学科)に占める割合(修 業年限2年未満の学科のみを設置している専門学校数は不明のため全専門学校数に占める認定学科を有 する学校数の割合を記載)。2019 年3月5日現在

コラム:専修学校における取組

-学校法人片柳学園 日本工学院八王子専門学校-

「若きつくりびと」を教育コンセプトに人材育成を行う学校法人片柳学園では、文部科学省から「専修学校による地域産業中核的人材養成事業」の委託を受け、近い将来必須となる先進技術に対応できる人材を育成し、建設産業における慢性的な人材不足の解消に取り組むため、地域の産・官・学が連携した「多摩地域建設産業人材育成協議会」を発足させた。

協議会の具体的な取組みとして、建設に関わる最新技術などを広く知ってもらうための勉強会、BIM(Building Information Modeling)実証講座、インターンシップの体制整備、eラーニングなどを活用した講座の実証などを実施。行政や地域企業などとの協力体制を構築し、学生や社会人の学修機会の創出、女性の職場復帰や社会人のキャリアアップを目的とした「学び直し」の機会の提供に取り組んでいる。

また、このような取組による成果の普及により、地域の学校で学びその地域の企業等に就職をする「地学地就」の流れを生み出し、多摩地域の建設業の活性化や、協議会の基盤固めを推進していく予定である。

写真:多くの社会人が参加したBIM実証講座の様子

(6)キャリア教育

今日、グローバル化や少子高齢化が進展する中で、日本社会の様々な領域において構造的な変化が進行しており、特に、産業や経済の分野においてその変容の度合いが著しく大きく、雇用形態の多様化・流動化に直結している。このような中で現在の若者と呼ばれる世代は、例えば、若年層の完全失業率や非正規雇用率の高さ、無業者や早期離職者の存在などに見られるように「学校から社会・職業への移行」が円滑に行われていないという点において大きな困難に直面していると言われている。

表321-10 若者の「学校から社会・職業への移行」

注)若年無業者:ここでは、15~34歳の非労働人口のうち家事も通学もしていない者

※1 総務省「労働力調査(基本集計)」2019年平均(速報)結果

※2 総務省「労働力調査(詳細集計)」(年平均)長期時系列表10

※3 厚生労働省「新規学卒就職者の学歴別就職後3年以内離職率の推移」(2019年10月)

このような状況に鑑み、若者が将来の生き方や進路に夢や希望を持ち、その実現を目指して、学校での生活や学びに意欲的に取り組めるようになることが必要である。そのためには、「学校から社会・職業への移行」を円滑にし、社会的・職業的自立に向け、必要な基盤となる資質・能力を育てるキャリア教育の果たす役割は重要である。

①初等中等教育におけるキャリア教育の推進

新しい小・中学校学習指導要領(2017年3月告示)並びに高等学校学習指導要領(2018年3月告示)においては、キャリア教育の充実を図ることについて明示された。文部科学省では、キャリア教育を推進するため、児童生徒が自らの学習活動などの学びのプロセスを記述し振り返ることのできる教材「キャリア・パスポート」の導入・活用に向け、文部科学省が作成した例示資料などの都道府県教育委員会などへの周知や、チャレンジ精神や他者と協働しながら新しい価値を創造する力など、これからの時代に求められる資質・能力の育成を目指した「小・中学校等における起業体験推進事業」(図321-13)など、キャリア教育の実践の普及・促進に向けた施策を展開している。

また、職場体験やインターンシップ(就業体験)は、生徒が教員や保護者以外の大人と接する貴重な機会となり、1.異世代とのコミュニケーション能力の向上が期待されること、2.生徒が自己の職業適性や将来設計について考える機会となり主体的な職業選択の能力や高い職業意識の育成が促進されること、3.学校における学習と職業との関係についての生徒の理解を促進し学習意欲を喚起すること、4.職業の現場における実際的な知識や技術・技能に触れることが可能となることなど、極めて高い教育効果が期待される。このため、文部科学省においては、キャリア教育の中核的な取組の一つとして、学校現場における職場体験、インターンシップの普及・促進に努めている。

職場体験やインターンシップを一過性の行事として終わらせることのないよう、学校における事前指導や事後指導の実践に当たっては、日常の教育活動と関連付けて職場体験の狙いや効果を高めることを目的としたものにするなど更なる工夫が求められる。

表321-11 2018年度における職場体験・インターンシップ実施率

資料:国立教育政策研究所生徒指導・進路指導研究センターの資料を基に文部科学省作成

※1 公立高等学校については、全日制における実施率。

※2 3年間を通して1回でも体験した3年生の数を体験者数とし、3年生全体に占める割合。

※3 中学校は、原則全員参加のためデータが存在しない。

その他、(一社)未来の大人応援プロジェクトでは、地域における次代の担い手となる高校生などの若者が、ソーシャルビジネス注5の手法を通じて社会を学ぶことにより、周囲の大人と共に地域課題の解決に取り組む活動である「Social Business Project(ソーシャルビジネスプロジェクト:略称SBP)」の普及に取り組んでいる。また、毎年8月には、三重県伊勢市において、この活動に取り組む各地の高校生が集い、実践発表や開発した商品の紹介・販売などを行う「全国高校生SBP交流フェア」を行っている(図321-12)。

注5 様々な社会的課題(高齢化問題、環境問題、子育て・教育問題など)を市場として捉え、その解決を目的とする事業。「社会性」「事業性」「革新性」の3つを要件とする。推進の結果として、経済の活性化や新しい雇用の創出に寄与する効果が期待される。(出典:経済産業省「ソーシャルビジネス推進研究会報告書」平成23年3月)

図321-12 ソーシャルビジネスプロジェクト

加えて、文部科学省、厚生労働省、経済産業省の3省は、学校、地域、産業界が一体となって社会全体でキャリア教育を推進する気運を高めるため、「キャリア教育推進連携シンポジウム」を実施しており、また、文部科学省と経済産業省は、学校関係者や地域社会、産業界といった関係者の連携・協働による取組を表彰する「キャリア教育推進連携表彰」などを実施している。

図321-13 起業体験活動の実践事例

②大学等におけるインターンシップの推進

大学などにおいてキャリア教育の一環として行われるインターンシップは、学生の大学などにおける学修の深化や新たな学習意欲の喚起につながる

とともに、主体的な職業選択や高い職業意識の育成が図られる有益な取組である。

2016年6月から「インターンシップの推進等に関する調査研究協力者会議」を開催し、適正なインターンシップの普及に向けた方策や更なる推進に向けた具体的方策などについて検討を行い、2017年6月に議論の取りまとめを行った。その内容を踏まえ、優れたインターンシップを広く全国に普及させるための「届出・表彰制度」を2018年に創設し、2019年度は新潟大学が最優秀賞を受賞したほか4件の取組を表彰した。加えて、(独)日本学生支援機構と連携しながら、教育的効果の高いプログラムを構築・運営する専門人材の育成・配置などに取り組んでいる。

図321-14 「大学等におけるインターンシップ表彰」受賞大学一覧(2020年3月)

2.人生100年時代の到来に向けた社会人の学び直し及びスポーツの推進

人工知能などの技術の進展に伴う産業構造の変化や、人生100年時代とも言われる長寿命化社会の到来など、これからの我が国は大きな変化に直面することとなる。このような時代に対応するためには、学校を卒業して社会人となった後も、キャリアチェンジやキャリアアップのために大学などで学び直し、新たな知識や技能、教養を身に付けることができる環境の整備による社会人の学び直しの抜本的拡充や、社会教育施設などにおける生涯学習の推進、さらには中途採用拡大の体制構築及びスポーツを通じた健康増進などにより、生涯現役社会の実現に取り組む必要がある。

(1)社会人の学び直しのための実践的な教育プログラムの充実・学習環境の整備

①実践的なリカレントプログラムの充実

社会人が大学などで学び直しを行うにあたっては、土日祝日や夜間などの開講時間の配慮や、学費の負担に対する経済的な支援の問題などがあること、社会人のニーズにあった実践的なプログラムが少ないことなどが挙げられており、大学などにおける社会人の学びは進んでいない状況である。

図322-1 社会人が考える大学などで学習しやすくなるために必要な取組(複数回答)

学び直す際の課題は、時間や情報

資料:平成30年度「生涯学習に関する世論調査」より文部科学省作成

このことを踏まえ、文部科学省では、多様なニーズに対応する教育機会の拡充を図り、社会人の学びを推進するために、大学・専修学校における実践的なプログラムの開発・拡充に取り組んでいる。

具体的には、大学において、IT技術者を主な対象とした短期の実践的な学び直しプログラムの開発・実施に取り組んでいるほか、2019年度より、実践的なプログラムを実施するために不可欠な実務家教員育成の質・量の充実を図るため、実務家教員育成に関するプログラムの開発・実施など、産学共同による人材育成システムを構築する取組を実施している。

また、放送大学においては、社会的に関心の高いテーマの番組放送や、キャリアアップに資する実践的な公開講座のインターネット配信・認証を行い、「リカレント教育」の拠点として、一層高度で効果的な学びの機会を全国へ提供できるよう取組を進めている。

さらに、専修学校におけるリカレント教育機能の強化に向けて、短期的な学びを中心とする分野横断型のリカレント教育プログラムの開発や、eラーニングを活用した講座の開催手法の実証、リカレント教育の実施運営体制の検証に取り組んでいるほか、2020年度からは新たに非正規雇用者などのキャリアアップを目的とした産学連携によるプログラムの開発・実証を行うなど、リカレント教育の実践モデルの形成に取り組むこととしている。

加えて2020年度からは新たに、大学などにおいて産学官が連携し地域が求める人材を養成するための教育改革を実行するとともに、出口(就職先)と一体となった教育プログラムを開発・実施することとしている。

そのほか、多様なニーズに対応する教育機会の拡充を進めるため、大学などにおける社会人や企業のニーズに応じた実践的かつ専門的なプログラムを「職業実践力育成プログラム((BP))」として文部科学大臣が認定している(2019年10月現在で261課程を認定)。同様に、専修学校においても社会人が受講しやすい工夫や企業などとの連携がされた実践的・専門的なプログラムを「キャリア形成促進プログラム」として文部科学大臣が認定している((2020年3月現在で15校、19課程を認定)。さらに、短期間で修了できるプログラムに対する社会人のニーズが高いことを踏まえ、大学などが行う履修証明制度の最低時間数が「120時間以上」から「60時間以上」に見直されたことにより、これらの文部科学大臣認定制度についても認定対象となるプログラムが拡大されるなど、更なる社会人向け短期プログラムの開発を促進している。

コラム:職業実践力育成プログラム

-光産業創成大学院大学-

本学のプログラム「レーザーによるものづくり中核人材育成講座(プラス実習コース)」はものづくり企業の中堅技術者を対象とし、各企業が培ってきた技術とレーザー加工などの光技術を融合させて新たな製品・技術開発ができる人材の育成を目的としている。

2008年に本学を中心とする静岡県西部地域の産・学・官のコミュニティが連携して立ち上げ、その後国内の主要なレーザー加工に関する多くの機関の協力を得て、レーザープロセシング(レーザー加工)に関する体系立った教育プログラムを確立した。

講座の主催機関である本学は、静岡県浜松市にある光技術を用いた新しい産業創成を担う人材育成を目指して設立された博士課程のみの大学であり、起業家や事業開発を行う人材を育成している。プログラムの特徴は、単にレーザー加工技術だけでなく、光学、光計測、安全対策、品質管理、事業化検討に加えて、機械学習、IoT技術の要素を組み入れた座学、これに連動した数十時間に及ぶ実習、会社見学、グループディスカッションにて構成されているところにある。

本講座は2017年12月に「職業実践力育成プログラム(BP)に認可された。2008年の開講より10年間に渡って開催し、170社から330名の受講生を受入れ、先の目的にそった人材を輩出してきた。全国的にも認知されており、受講生は開催地の静岡県、近郊の愛知県のみならず、北海道、青森、東京、広島、福岡、沖縄など遠方からも参加している。修了生の受講後の事業展開においても、大型予算の獲得、各社におけるレーザー関連部署の設立や起業に始まり、新光源を用いたレーザー加工機開発や、レーザー関連事業部署の設立と異分野への展開、海外展開の促進に至っており、国内における光産業の発展に寄与している。

今後も時代の要請に合わせた要素を組み入れながら継続して開催していく予定である。

写真:レーザー加工技術に関する座学とレーザー(フェムト秒レーザー)を用いた実習

コラム:「IT実践リテラシー教育」を推進する取組 「情報学ビジネス実践講座 ITリテラシー実践コース、ビジネス経営ITコース、イノベーション先端ITコース」

-京都大学-

京都大学は、ANAシステムズ、東京海上日動火災保険、NEC、NTTデータ、DMG森精機、日本総合研究所の6社とともに、情報学ビジネス実践講座(産学共同講座)を2018年度に設置し、学部向け、大学院向け、社会人向けの教育プログラムを開発提供している。

今後のデジタル社会において、数理・データサイエンス・AIを日常の生活、仕事等の場で使いこなすことが求められており、現在、そのための基礎的素養を主体的に身に付けることなどを学修目標として位置づけた教育プログラムの提供が全国の大学ですすめられようとしている。しかし、ビジネスの現場においては、基本的なITの知見ととともに、これに基づく実践的な課題解決力を習得することなども求められており、「IT実践リテラシー教育」(仮称)をプログラムの中に位置づける必要があるというのが、本講座の考え方である。

このような考えにもとづいて、2019年度からは、産学連携により学部向け「ITリテラシー実践コース」、大学院向け「ビジネス経営ITコース」「イノベーション先端ITコース」の3コースを設定し、実践的に学ぶ機会を提供している。

また、これらのプログラム内容をもとに社会人向けプログラムとして、レベルX(企業経営におけるITが果たす役割を学ぶ、2018年度試行実施)、レベルY(IT投資や開発等に関するケース教材を開発し、これを使用してIT開発・運用の意思決定を学ぶ、2019年度試行実施)、レベルZ(経営幹部を対象にITガバナンスについて学び合う、実施予定)の3種類の短期プログラムを開発提供している。

このような教育プログラムが展開できるのは、産学共同、企業と大学の教育研修に関する共同実践あってこそである。

図:京都大学情報学ビジネス実践講座(http://www.pib.i.kyoto-u.ac.jp)

※企業に係る記述については2019年度時点

コラム:専修学校において取組まれているリカレント教育・社会人の学び直しに対する取組や事例

学校法人三幸学園東京こども専門学校では、文部科学省から「専修学校リカレント教育総合推進プロジェクト」の委託を受け、保育士の長期就労支援を目的としたeラーニング教材の開発、実証を進めている。

具体的には、保育現場におけるICTの効果的な活用による環境改善に向けた学習プログラムや、風通しのよい組織形成に資するエンゲージメント向上に向けた学習カリキュラムを開発し、現役の保育士や保育士を目指す専門学校生を対象に当該学習プログラムの実証講座を行っている。

写真:開発したeラーニング教材の実証の様子

②社会人の学び直しのための学習環境の整備

社会人が学び直しを行うに当たっては、開講時間の配慮が大きな課題の一つとして挙げられており(図322-1)、誰もが時間や場所を選ばずにリカレント教育(学び直し)を受けられる機会を整備することが重要である。

文部科学省においては、女性がリカレント教育を活用して復職・再就職しやすい環境を整備するため、大学、地方公共団体、男女共同参画センターなどの関係機関が連携し、地域の中で女性の学びとキャリア形成・再就職支援を一体的に行うモデル事業などを実施した。2020年度からは、多様な年代の女性の社会参画を推進するため、関係機関との連携の下、キャリアアップやキャリアチェンジなどに向けた意識醸成や相談体制の充実を含め、学習プログラムの開発など、女性の多様なチャレンジを総合的に支援するモデルの開発などを行うこととしている。

このほか、「学習に関する情報を得る機会の不足」という課題に対応するため(図322-1)、社会人が各大学・専修学校などにおける社会人向けプログラムの開設状況や、学びを支援する各種制度に関する情報に効果的・効率的にアクセスできるよう、情報発信ポータルサイトの整備に取り組んでいる。

コラム:「学び直しを通じたオーダーメイド型キャリア形成支援」

-富山大学-

職業訓練やリカレント教育などの教育機会を有機的につなぎ、離職・休職中の女性受講者のニーズに沿った段階的な学びのコースを提供する富山型地域連携モデル構築を実証的に行った。

富山大学が富山県、富山県女性財団、ハローワーク、産業界などの関係機関の取りまとめ役を担い、ワンストップで学びのプラン作成から保育先の情報提供までを案内し、女性の学びとキャリア形成・再就職支援を一体的に実施した。2019年度のキャリアUP支援講座では、新聞記事を読み解く講義により社会情勢を的確に把握する感性を磨き、自己理解、コミュニケーション能力開発を目指す意識啓発・スキルアップセミナーを提供した。また、コーディネーターによる就職・キャリア相談を同時開催することで、最適な学びの環境を提供し、学習意欲の向上につながった。

コラム:マナパス-社会人の学びの情報アクセス改善に向けた実証研究-

文部科学省では、社会人や企業などの学び直しニーズを整理し、各大学・専修学校などが開設する社会人向けのプログラムや社会人の学びを応援する各種制度の情報に効果的・効率的にアクセスすることができる機会の創出に向けて、民間・大学などと連携体制を構築し、実践的な調査研究事業を2018年度から実施しており、2019年4月から「マナパス-社会人の大学等での学びを応援するサイト-」を試行的に公開している。

本年度はコンテンツの充実を図るため、約4,500の大学・専門学校等におけるリカレント講座の情報を掲載し、多様な講座の検索を可能とした。また、実際に学び直しを行った社会人をロールモデルとして紹介し、大学等での学びやその成果のイメージを具体的に持ってもらうよう、修了生インタビューの掲載数を増加した。さらに、今後の社会において必要となる知識やスキルなどをテーマごとに取り上げ、対応するリカレント講座を紹介するための特集ページを新たに開設したところである。今後も、引き続き本ポータルサイトの利便性向上や内容の充実に向けた改善を進め、社会人の学びの意欲を喚起し、学びへと誘導することができるよう取組を進めていく。

写真:「マナパス‐社会人の大学等での学びを応援するサイト‐」(イメージ)

(2)ものづくりの理解を深めるための生涯学習

①ものづくりに関する科学技術の理解の促進

(国研)科学技術振興機構が運営する「日本科学未来館」では、先端の科学技術を分かりやすく紹介する展示の制作や解説、講演、イベントの企画・実施などを通して、研究者と国民の交流を図っている。常設展示「未来をつくる」では、“情報社会”をテーマにした「アナグラのうた」、理想の地球を実現していくために必要な科学技術やライフスタイルをバックキャストの視点で考える「未来逆算思考」などの展示を通じ、持続可能な社会システムや人間の豊かさを実現する未来について考える機会を提供している。

また、制作した展示や得られた成果を全国の科学館に展開することで、全国的な科学技術コミュニケーション活動の活性化に寄与している。日本科学未来館が提供する実験教室は、第一線の研究者と科学コミュニケーターが一緒に作り上げている。「導電性プラスチックを作ろう~導電性プラスチックELへの応用」などのプログラムでは、実験と対話を通じて、先端科学技術への理解を深めるとともに、子供にものづくりの面白さを伝えるなどの取組を実施している。

図322-2 日本科学未来館の入館者数推移

資料:(国研)科学技術振興機構日本科学未来館作成

②公民館・図書館・博物館などにおける取組

地域の人々にとって最も身近な学習や交流の場である公民館や博物館などの社会教育施設では、ものづくりに関する取組を一層充実することが期待されている。

公民館では、地域の自然素材などを活用した親子参加型の工作教室や、高齢者と子供が一緒にものづくりを行うなどの講座が開催されている。このような機会を通じて子供たちがものを作る楽しさの過程を学ぶことにより、ものづくりへの意欲を高めるとともに、地域の子供や住民同士の交流を深めることができ、地域の活性化にも資する取組となっている。

図書館では、技術や企業情報、伝統工芸、地域産業に関する資料など、ものづくりに関する情報を含む様々な資料の収集や保存、貸出、利用者の求めに応じた資料提供や紹介、情報の提示などを行うレファレンスサービスなどの充実を図っており、「地域の知の拠点」として住民にとって利用しやすく、身近な施設となるための環境整備やサービスの充実に努めている。

博物館では、実物、模型、図表、映像などの資料の収集・保管・展示を行っており、日本の伝統的なものづくりを後世に伝える役割も担っている。また、ものづくりを支える人材の育成に資するため、子供たちに対して、博物館資料に関係した工作教室などの「ものづくり教室」を開催し、その楽しさを体験し、身近に感じることができるような取組も積極的に行われている。

コラム:安城市文化センター「Fab(ものづくり)講座」(愛知県)

愛知県安城市は自動車産業をはじめとする工業集積地となっており、「ものづくり」に関わる人材、知恵が地域の財産となっている。そのため、第3次安城市生涯学習推進計画では、「ものづくり文化の創造と次世代育成につながる生涯学習」を推進テーマの一つに掲げ、安城市の地域資源を活用した学習機会を提供している。

上記計画を踏まえ、安城市文化センターでは、センター内に設置されたレーザー加工機や3Dプリンターなどの工作機械を自由な発想で市民が使えるスペース「Fab Space Anjo」を活用し、地元企業及び技術者の協力を得て子供から大人まで楽しめる「Fab(ものづくり)講座」を開講している。この講座では、レーザー加工機でスタンプやキーホルダーを作る講座や、3Dプリンターでネームプレートなどを作る講座、3DCADを使ってモデリングをする講座などを年10回以上開催しており、受講生からは「普段なかなか使えない機械を使うことができて楽しい。」「もっとものづくりをしたい。」と毎回抽選になるほどの人気がある。また、受講後は市民が独自に工作機械を使用することができるため、個人のみならず夫婦、親子、友だち同士でなど、講座終了後もたくさんの人がものづくりを楽しんでいる。

写真:3Dプリンター講座の様子

(3)スポーツを通じた健康増進

人生100年時代を迎えると言われる中、生涯現役社会の実現のためには、自分自身の健康状態を把握し、主体的に健康の保持増進を図っていく必要がある。また、雇用延長などにより、これまでよりも高齢の従業員が増加する企業も多くなることから、従業員の体力の維持(転倒事故の防止など)への取組の必要性も高まっている。

スポーツ庁では、スポーツを通じて心身の健康増進を図ることを促進するため、国民全体のスポーツへの参画を促進するとともに、国民の誰もが、いつでも、どこでも、いつまでもスポーツに親しむことのできる環境整備に取り組んでいる。

具体的には、仕事などで忙しいビジネスパーソンを主な対象として通勤時間や休憩時間などの隙間時間を活用して「歩く」ことを促進する「FUN+WALK PROJECT」、スポーツを通じて従業員の健康増進に積極的な取組をしている企業の社会的評価を向上させるための「スポーツエールカンパニー」認定制度などに取リ組み、日常生活におけるスポーツの習慣化を促している。

コラム:“歩く”をもっと“楽しく”「FUN+WALK PROJECT」

スポーツ庁では、運動不足を感じつつも、忙しくて、スポーツをする時間の取れないビジネスパーソンが、普段の生活において気軽に取り入れることのできる「歩く」に着目し、「歩く」に「楽しい」を組み合わせることで、自然と「歩く」習慣が身に付くプロジェクトとして「FUN+WALKン PROJECT」に取り組んでいる。

このプロジェクトでは、普段の歩数にプラス1,000歩(約10分)することで、1日当たり8,000歩を目標歩数としている。ビジネスパーソンが通勤時間や休憩時間などの隙間時間を活用して意識的に歩いてもらうことを目的に、“歩きやすい服装”での通勤などを推奨している。

「歩く」機運醸成を図る強化期間として10月を「FUN+WALK月間」とし、全国各地の企業や自治体などと連携して「歩く」取組を一層促進するとともに、2019年度には東京都内で“楽しく歩いて通勤する朝習慣をつくる”をテーマに「FUN+WALK MORNING」キャンペーンを展開し、「朝食」と「歩く」を掛け合わせ“脳と体の活性化”を促すイベントも実施。3日間で述べ約3,000人が参加した。

写真:鈴木長官、アンバサダー、スペシャルゲストが登壇したPRイベントの様子2019年10月14日(火)

写真:朝の通勤時間帯にひと駅歩くウォーキングイベントの実施風景。

3.ものづくりにおける女性の活躍促進

(1)女性研究者への支援

女性研究者の活躍を促し、その能力を発揮させていくことは、我が国の経済社会の再生・活発化や男女共同参画社会の推進に寄与するものである。しかし、我が国の女性研究者の割合は年々増加傾向にあるものの、2019年3月現在で16.6%であり、先進諸国と比較すると依然として低い水準にある(図323-1、図323-2)。

図323-1 日本の女性研究者数及び全研究者数に占める割合の推移

資料:総務省「科学技術研究調査」を基に文部科学省作成

図323-2 女性研究者数の割合の国際比較

資料:「科学技術研究調査報告」(日本: 2019年時点)

「OECD “Main Science and Technology Indicators ”」

(ドイツ、韓国:2017年、英国:2016年、フランス:2015年時点)

「NSF Science and Engineering Indicators 2018」 (米国:2015年時点)

「第4次男女共同参画基本計画」(2015年12月25日閣議決定)及び「第5期科学技術基本計画」(2016年1月22日閣議決定)においては、研究者の採用に占める女性の割合は、2020年までに自然科学系全体で30%(理学系20%、工学系15%、農学系30%、医学・歯学・薬学系合わせて30%)という成果目標が掲げられている。

文部科学省では、「ダイバーシティ研究環境実現イニシアティブ」により、研究者の研究と出産・育児などとの両立や女性研究者の研究力向上を通じたリーダー育成を一体的に推進するなど、女性研究者の活躍促進を通じた研究環境のダイバーシティ実現に関する取組を実施する大学などを重点支援するとともに、「特別研究員(RPD)事業」として出産・育児による研究活動の中断後の復帰を支援する取組を拡充するなど、女性研究者への支援の更なる強化に取り組んでいく。

(2)理系女子支援の取組

内閣府は、ウェブサイト「理工チャレンジ(リコチャレ)~女子中高校生・女子学生の理工系分野への選択~」において、理工系分野での女性の活躍を推進している大学や企業など「リコチャレ応援団体」の取組やイベント、理工系分野で活躍する女性からのメッセージなどを情報提供している。また、女子生徒などの理工系分野への進路選択を支援するため、2019年7月~8月に、文部科学省・(一社)日本経済団体連合会との共催で、夏休み期間中に各大学・企業などで実施している、主に女子中学生・高校生などを対象とした、理工系の職場見学、仕事体験、施設見学など多彩なイベントを取りまとめた「夏のリコチャレ2019 ~理工系のお仕事体感しよう!~」を開催した。

また、(国研)科学技術振興機構では、「女子中高生の理系進路選択支援プログラム」を実施している。これは、科学技術分野で活躍する女性研究者・技術者、女子学生などと女子中高生の交流機会の提供や実験教室、出前授業の実施などを通して女子中高生の理系分野に対する興味・関心を喚起し、理系進路選択の支援を行うプログラムである。

図323-3 進路選択に影響を与えた人物

●進路選択にあたっては、文・理を問わず、両親の影響が大きい。高校教師及び先輩・友人からの影響が続く。

●男性は父親、女性は母親の影響が大きい。特に理系選択に関しては、男性に対しては父親、女性に対しては 母親及び父親の影響が大きい。

資料:経済産業省 2015年度 産業技術調査事業「産業界の人材ニーズに応じた理工系人材育成のための実態調査」

コラム:女子中高生の理系進路選択支援プログラムによる大学の取組

-同志社大学「科学するガールズ」養成プログラム-

同志社大学では、物理を基礎とした理工系学部を目指す女子中高生が少ない状況を踏まえ、将来の日本のテクノロジーや科学を支える女性エンジニア・研究者の育成を目指し、女子中高生が機械・電気電子・情報・環境・数学系などの分野に触れ、理系の将来を描ける「科学するガールズ」養成プログラムを提供している。

このプログラムでは、実験体験や研究発表のほか、ものづくりの現場で最先端の技術に触れ、企業の女性エンジニア達との交流などの取組を行うガールズサイエンスキャンプと、大学で自主的に科学実験を楽しむガールズラボが核となり、女性研究者・エンジニア・女子大学(院)生と女子中高生が主体的に学ぶ機会を設けている。また、外国人女子留学生と一緒に英語で科学を学ぶ機会や、海外の女性エンジニアとインターネットでリアルタイムに懇談する機会を設けるなど、グローバル社会での科学の重要性が認識できるプログラムとなっている。

写真:2019年度「ガールズサイエンスキャンプ」での実験体験の様子

コラム:ダイバーシティ研究環境実現イニシアティブによる大学の取組

-大分大学- 地域と協働したダイバーシティの推進

大分大学は、共同実施機関の大分工業高等専門学校、三和酒類(株)、フンドーキン醤油(株)、三井住友建設(株)、並びに協力機関の9社とともに、全14機関で意識改革・研究力向上・環境整備を中心とした様々な取組を展開している。

ものづくり企業との共同研究やスキルアップセミナーなどを通じて、女性研究者・技術者の上位職登用やこれまで女性が少ない現場への採用につなげている。また、男女ともに地域全体での意識改革や、異業種交流会などにより多様な組織文化の交流や人材育成を行い、地域創生につながる新しい価値を生み出す産学連携型ダイバーシティ推進を協働している。

図:地域と協働したダイバーシティの推進

写真:異業種交流会の様子

※企業に係る記述については2019年度時点

4.文化芸術資源から生み出される新たな価値と継承

(1)文化財の保存・活用

過疎化や少子高齢化などを背景に文化財の担い手が減少し,その確実な継承が危機に瀕していることを受け、2017年5月に文部科学大臣から文化審議会に対して諮問がなされ,同年12月に「文化財の確実な継承に向けたこれからの時代にふさわしい保存と活用の在り方について」(第一次答申)が答申された。これを踏まえ、「文化財保護法及び地方教育行政の組織及び運営に関する法律の一部を改正する法律」(以下「改正法」という。)が国会での審議を経て、2018年に公布され、2019年4月に施行された。

地域の文化財の確実な継承を図るには、今まで文化財の保存・活用を主に担ってきた所有者、管理団体、地方自治体の文化財保護行政担当者に加えて、地域住民や地域で活動する多様な民間団体、観光やまちづくり、教育などの行政の他部局など、地域の様々な主体が一体となって、文化財の保存・活用に参画し、取り組んでいくことが大変効果的である。

地域の活動主体の取組を促進するため、市町村が、地域において文化財保存・活用の事業や調査研究を行ったりする民間団体を「文化財保存活用支援団体」として指定できる仕組みが創設された。

さらに、文化財の所有者を支援する体制を充実させるため、現在、「特別な事情があるとき」に選任することができることとされている管理責任者について、文化財の「適切な管理のため必要があるとき」に選任できるよう要件が拡大された。

(2)重要無形文化財の伝承者養成

 

文化財保護法に基づき、工芸技術などの優れた「わざ」を重要無形文化財として指定し、その「わざ」を高度に体得している個人や団体を「保持者」「保持団体」として認定している。

文化庁では、重要無形文化財の記録の作成や、重要無形文化財の公開事業を行うとともに、保持者や保持団体などが行う研修会、講習会や実技指導に対して補助を行うなど、優れた「わざ」を後世に伝えるための取組を実施している。

(3)選定保存技術の保護

 

文化財の保存のために欠くことのできない伝統的な技術又は技能で保存の措置を講ずる必要のあるものを選定保存技術として選定し、その保持者又は保存団体を認定している。

文化庁では、選定保存技術の保護のため、保持者や保存団体が行う技術の錬磨、伝承者養成などの事業に対し必要な補助を行うなど、人材育成に資する取組を進めている。また、選定保存技術の公開事業を行っており、2019年度は沖縄県那覇市において「文化庁日本の技体験フェア」を開催し、2日間で3,526人が来場した。

図324-1 選定保存技術

※保存団体には重複認定があるため、( )内は実団体数を示す。

※同一の選定保存技術について保持者と保存団体を認定しているものがあるため、保持者と保存団体の計が選定保存技術の件数とは一致しない。

コラム:2019年度選定保存技術公開事業「文化庁日本の技体験フェア」

2019年度選定保存技術公開事業「日本の技体験フェア」においては、歌舞伎衣裳製作修理技術保存会などの34の選定保存技術保存団体ごとにブースを設置して、団体の活動や材料などの製作工程を分かりやすく紹介するパネル展示や、伝統的な修理技法に用いられる材料や道具の展示、多色摺り木版画うちわづくり、瓦づくり体験、カンナを使って箸づくり、バンダナの藍染、繭から紡いだ糸でタッセルづくり、歌舞伎衣裳などの体験コーナーを設けた。

多くの来場者が、選定保存技術保存団体の展示・実演・体験コーナーに立ち寄り、特に体験コーナーは子供たちから「どの体験も職人さんと話をしながら体験できるのですごく良かった」、保護者からは「子供が目を輝かせていた」との声が聞かれるなど好評で、熱心に取り組む姿が見られた。

写真:歌舞伎衣裳体験 歌舞伎衣裳製作修理技術保存会

(4)地域における伝統工芸の体験活動

文化庁では、「伝統文化親子教室事業」において、次代を担う子供たちが、伝統文化などを計画的・継続的に体験・修得する機会を提供する取組に対して支援し、我が国の歴史と伝統の中から生まれ、大切に守り伝えられてきた伝統文化などを将来にわたって確実に継承し、発展させることとしている。

2019年度においては、兵庫県三田市において三田焼を地域の子供たちが体験するなど、伝統工芸に関しては34の教室を採択し、人材育成に取り組んでいる。

コラム:伝統文化親子教室事業

-三田焼・青磁体験講座(特定非営利活動法人歴史文化財ネットワークさんだ(兵庫県))-

三田焼・青磁体験講座では、地域に伝わる三田焼の特色である、型を使った茶碗、マグカップ、小皿、鉢の作陶の体験を行っている。

三田焼の伝統を正確に伝えるため、教室の最初に、江戸末期に造られた三輪明神窯(兵庫県指定史跡)の見学と三田焼の歴史について学習し、その後、江戸時代の型のレプリカを用いた作陶などの体験を行っている。

また、教室の最終回には、体験で制作した作品の展示・発表会や、各自が作陶した茶碗を使用して、茶道指導者の指導でお茶会を行い、焼き物と密接なつながりを持つ茶道についても体験している。

写真:三田焼の作品作りに取り組む様子

(5)文化遺産の保護/継承/

世界文化遺産に登録されている「富岡製糸場と絹産業遺産群」は、ものづくりに関する文化遺産といえる。生糸の生産工程を表し、養蚕・製糸の分野における技術交流と技術革新の場として世界的な意義を有する遺産である。また、「明治日本の産業革命遺産製鉄・製鋼、造船、石炭産業」は、日本が19世紀半ば以降に急速な産業化を成し遂げたことの証左であり、西洋から非西洋国家に初めて産業化の伝播が成功したことを物語る遺産である。

また、2014年には「和紙:日本の手漉和紙技術(石州半紙、本美濃紙、細川紙)」がユネスコ無形文化遺産に登録された。現在、社寺や城郭など、我が国の伝統的な木造建造物の保存のために欠くことのできない伝統的な木工、屋根葺き、左官、畳製作などの選定保存技術を一括して「伝統建築工匠の技:木造建造物を受け継ぐための伝統技術」として提案中である(2020年の無形文化遺産保護条約政府間委員会で審議予定)。

(6)文化芸術資源を活かした社会的・経済的価値の創出

文化芸術資源の持つ潜在的な力を一層引き出し、地域住民の理解を深めつつ、地域で協力して総合的にその保存・活用に取り組むなど、多くの人の参画を得ながら社会全体で支えていくためにも、文化芸術資源を活かした社会的・経済的価値の創出が必要である。

このため、例えば、美術工芸品は、経年劣化などにより適切な保存や取扱い及び移動が困難である場合に、実物に代わり公開・活用を図るため、実物と同じ工程により、現状を忠実に再現した模写模造品が製作されている。また、調査研究の成果に基づき、製作当初の姿を復元的に模写模造することも行われている。これらの事業はいずれも、指定文化財の保存とともに、伝統技術の継承や文化財への理解を深めることを目的として実施されている。

加えて、文化財の高精細なレプリカやバーチャルリアリティーなどは、保存状況が良好でなく鑑賞機会の設定が困難な場合や、永続的な保存のため元あった場所からの移動が必要な場合、既に建造物が失われてしまった遺跡などかつての姿を想像しにくい場合などに活用することで、文化財の理解を深め、脆弱な文化財の活用を補完するものである。

これらの取組は、文化財の保存や普及啓発などにも効果があるほか、文化芸術資源を活かした社会的・経済的な価値の創出につながるものである。文化庁では、本物の文化財の保存・活用と並行して、伝統的な技法・描法・材料や先端技術などを活かした文化財のデジタルアーカイブ、模写模造、高精細レプリカ、バーチャルリアリティーなどの取組を進めている。

写真:失われた文化財の仮想復元

「デジタルコンテンツを用いた遺跡の活用―2015年度遺跡整備・活用研究集会報告書―」
(奈良文化財研究所)

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