経済解析室では、毎月初旬に、主要製品の生産計画を調べています。調査対象製品を製造する企業のうち、主要企業を対象に、その月と翌月の生産計画を調査しています。
今回は、7月初旬に調査した7月と8月の生産計画の状況と、7月初旬段階での企業のマインド、つまり生産計画や見込みが強気だったのか、弱気だったのかを紹介します。
7月の生産計画とその補正値
7月の生産計画は、季節調整済指数で前月比マイナス1.1%と低下になる見込みです。この計画どおりに生産されれば、7月の鉱工業生産の実績は、2か月ぶりの前月比低下となります。
また、8月の生産計画は、この7月の計画から1.7%の上昇が見込まれています。

生産計画は、生産実績よりも上振れする傾向があります。そこで、7月の生産計画について、生産実績との間で生じるであろう「ずれ」を統計的に計算、補正することで、7月の生産実績の見通しを推計しました。
その結果、7月の生産実績の見通しは、前月比マイナス2.2%程度と低下が見込まれます。8月は1.7%の上昇が見込まれるものの、7月の低下幅を回復するまでの上昇ではないことから、5月以降の動きも踏まえると、上昇、低下を繰り返しながら、低下傾向で推移することも懸念されます。

生産計画の伸びを当てはめた鉱工業生産のグラフ
生産計画の伸びを8月までの鉱工業生産指数に当てはめてグラフ化すると下のようになります。
6月の鉱工業生産指数実績(確報)は99.6であるため、調査結果の伸び率マイナス1.1%をそのまま当てはめれば、7月の指数水準は98.5に低下する見込みです。
ただし、生産計画と生産実績の間には傾向的なバイアスがありますので、このバイアスを過去の傾向に基づき補正すると、7月の伸び率は最頻値ではマイナス2.2%程度となり、この場合、7月の指数水準は97.4となります。
なお、8月の生産計画は、前月比1.7%の上昇の見込みですので、仮に7月の生産が計画どおり(前月比マイナス1.1%)であったとすると、8月の指数水準は100.2となり、コロナ前(2020年1月)の水準99.1を超えることとなります。

生産計画の強気と弱気
生産計画を、前年同月の実績と比較すると、この生産計画がどの程度、強気なのか弱気なのかを判断する一つの目安となります。ただし、前年の実績が例年よりも大幅に増加又は減少している場合には、その点を考慮して判断する必要があります。
今回、7月の生産計画を原指数で見ると、前年同月実績比16.1%の上昇となり、8か月連続で前年同月実績を上回りました。
ただし、前年2020年の7月生産実績は、感染症拡大の影響により、前年同月比でマイナス16.9%と大きく低下していることから、生産が大幅に減少した2020年と今回の数値を単純に比較して判断するには注意が必要です。
感染症拡大の影響を受けていない前々年2019年7月の生産実績と比較すると、今回7月の生産計画はマイナス3.5%となり、例年と比べると、必ずしも高い水準ではないことが分かります。
企業の生産計画は、感染症拡大による影響からは回復しつつありますが、例年の水準と比べると、強気というほどではないと考えられます。

次に、1か月前時点で調べた生産計画が、生産開始直前に調べた生産計画と比べ、どの程度変動したかを示す数値が予測修正率となります。
7月の予測修正率はマイナス1.3%と、4か月連続の下方修正となっています。2020年7月以降、生産計画は上方修正される傾向が続いていましたが、2021年に入ってからは、下方修正される月が多くなっています。
企業の生産マインドは、これまで強気の傾向で推移してきましたが、予測修正率の状況からは、強気の傾向に陰りがみられると考えられます。

生産計画を上方修正した企業数の割合から、下方修正した企業数の割合を引いた数値を「アニマルスピリッツ指標」と呼んでいます。この指標は、企業の生産計画の強気、弱気の度合いを推し量るために活用しています。
この指標の推移とこれまでの景気循環を重ねると、概ねマイナス5を下回ると景気後退局面入りしている可能性が高いという傾向がみられています。
生産計画の7月調査結果では、アニマルスピリッツ指標はマイナス1.4と12か月ぶりにマイナスの数値となりました。月々の上下動をならしたトレンドはプラスの数値で推移しているものの、トレンドも低下傾向に入っています。アニマルスピリッツ指標の動きからも強気の傾向に陰りがみられます。

7月調査では、強気の割合が1.5ポイント低下、弱気の割合が5.1ポイント上昇となったことから、アニマルスピリッツ指標は前月から大きく低下しました。
昨年6月以降、国内外での経済活動の回復が進んできたことにより、企業の生産マインドの改善も進み、企業の生産マインドは強気の傾向で推移してきましたが、アニマルスピリッツは12か月ぶりにマイナスの数値となり、ここでも強気の傾向に陰りがみられるようです。

7月の調査結果では、アニマルスピリッツ指標が12か月ぶりにマイナスの数値となり、予測修正率も4か月連続の下方修正になるなど、これまでの強気傾向に陰りがみられます。
感染症の動向が内外経済に与える影響や半導体不足による影響などサプライチェーンの状況が企業のマインドに影響を及ぼしている可能性もあり、8月以降の調査でも注意深くみていきたいと考えます。
- 結果概要のページ
- https://www.meti.go.jp/statistics/tyo/yosoku/result-1.html
- 予測指数解説集
- https://www.meti.go.jp/statistics/tyo/yosoku/sanko/result-yosoku-sanko-202107.html
- マンガ「ビジネス環境分析にも使える!鉱工業指数(IIP)」
- https://www.meti.go.jp/statistics/toppage/report/minikaisetsu/slide/20170329iip_manga2017.html