経済解析室では、毎月初旬に、主要製品の生産計画を調べています。調査対象製品を製造する企業のうち、主要企業を対象に、その月と翌月の生産計画を調査しています。
今回は、9月初旬に調査した9月と10月の生産計画の状況と、9月初旬段階での企業のマインド、つまり生産計画や見込みが強気だったのか、弱気だったのかを紹介します。
9月の生産計画とその補正値
9月の生産計画は、季節調整済指数で前月比0.2%の上昇となる見込みです。この計画どおりに生産されれば、9月の鉱工業生産の実績は、3か月ぶりの前月比上昇となります。
また、10月の生産計画は、この9月の計画から6.8%の上昇が見込まれています。

生産計画は、生産実績よりも上振れする傾向があります。そこで、9月の生産計画について、生産実績との間で生じるであろう「ずれ」を統計的に計算、補正することで、9月の生産実績の見通しを推計しました。
その結果、9月の生産実績の見通しは、前月比マイナス1.3%程度と低下の見込みです。10月は前月比6.8%の上昇が見込まれるものの、10月は、自動車メーカーから減産が発表されており、予測調査の10月計画には、この減産計画が十分反映されていないと考えられるため、10月の生産は計画よりもかなり下振れするリスクがあると考えられます。

生産計画の伸びを当てはめた鉱工業生産のグラフ
生産計画の伸びを10月までの鉱工業生産指数に当てはめてグラフ化すると下のようになります。
8月の鉱工業生産指数実績(確報)は94.6であるため、調査結果の伸び率0.2%をそのまま当てはめれば、9月の指数水準は94.8に上昇する見込みです。
ただし、生産計画と生産実績の間には傾向的なバイアスがありますので、このバイアスを過去の傾向に基づき補正すると、9月の伸び率は最頻値ではマイナス1.3%程度と低下の見込みであり、この場合、9月の指数水準は93.4となります。
なお、10月の生産計画は、前月比6.8%の上昇の見込みですので、仮に9月の生産が計画どおり(前月比0.2%の上昇)であったとすると、10月の指数水準は101.2となり、コロナ前(2020年1月)の水準99.1を超えることとなります。
しかし、実際には、前述のとおり、10月の生産は下振れするリスクが高いことから、計画通りに回復しない可能性が十分に考えられます。

生産計画の強気と弱気
生産計画を、前年同月の実績と比較すると、この生産計画がどのような水準にあるのかを判断する一つの目安となります。
今回、9月の生産計画を原指数で見ると、前年同月実績比5.1%の上昇となり、前年同月実績を上回っています。
前年2020年は、感染症拡大の影響により、生産が大きく低下しているため、単純に比較して判断するには注意が必要ですが、企業の生産計画は、感染症拡大による影響からは回復しつつあることがわかります。

次に、1か月前時点で調べた生産計画が、生産開始直前に調べた生産計画と比べ、どの程度変動したかを示す数値(予測修正率)から、企業の生産マインドを確認します。
9月の予測修正率はマイナス6.3%と、6か月連続の下方修正となっています。2020年7月以降、生産計画は上方修正される傾向が続いていましたが、2021年に入ってからは、下方修正される月が多くなっています。
企業の生産マインドは、これまで強気の傾向で推移してきましたが、予測修正率の状況からは、弱気へと変わりつつあると考えられます。

生産計画を上方修正した企業数の割合から、下方修正した企業数の割合を引いた数値を「アニマルスピリッツ指標」と呼んでいます。この指標は、企業の生産計画の強気、弱気の度合いを推し量るために活用しています。
この指標の推移とこれまでの景気循環を重ねると、月々の上下動をならしたトレンドが、概ねマイナス5を下回ると景気後退局面入りの可能性が高いという傾向がみられます。
生産計画の9月調査結果では、アニマルスピリッツ指標の単月の数値はマイナス15.2、月々の上下動をならしたトレンドはマイナス6.9となっています。単月、トレンド両方の数値がマイナス5を下回っていることから、企業の生産マインドは、弱気に変化しつつあると考えられます。

9月調査では、強気の割合が2.8ポイント低下、弱気の割合が5.7ポイント上昇となったことから、アニマルスピリッツ指標は前月から大きく低下しました。
昨年6月以降、国内外での経済活動の回復が進んできたことにより、企業の生産マインドの改善も進み、企業の生産マインドは強気の傾向で推移してきましたが、アニマルスピリッツは3か月連続でマイナスの数値となり、ここでも弱気に変化しつつある状況がみられるようです。

9月の調査結果では、アニマルスピリッツ指標が単月値、トレンド値ともにマイナスの数値となり、予測修正率も6か月連続の下方修正になるなど、企業の生産マインドは弱気に変化しつつあります。
内外の感染症の動向や半導体不足などサプライチェーンを通じた影響が企業の生産マインドに及んでいる可能性もあるため、10月以降の調査でも注意深くみていきたいと考えます。
なお、次回より本解説は、鉱工業指数速報公表と同時に発表する予定です。
- 結果概要のページ
- https://www.meti.go.jp/statistics/tyo/yosoku/result-1.html
- 予測指数解説集
- https://www.meti.go.jp/statistics/tyo/yosoku/sanko/result-yosoku-sanko-202109.html
- マンガ「ビジネス環境分析にも使える!鉱工業指数(IIP)」
- https://www.meti.go.jp/statistics/toppage/report/minikaisetsu/slide/20170329iip_manga2017.html