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令和7年度 産業標準化事業表彰 経済産業大臣表彰 受賞者インタビュー

経済産業大臣表彰(規格開発・認定・認証部門) 佐伯 隆(さえき たかし)氏

国立大学法人山口大学 大学院 創成科学研究科 工学系学域 循環環境工学分野 教授
 
POINT
○A流体に関する2つのJIS(JIS B 8702及びJIS B 8703)を作成し、新市場創造に貢献

○研究者は論文執筆に限らず、技術の社会実装までを視野に入れた活動が求められている

○産学連携では企業の実際の課題を理解し、実用化を見据えた研究アプローチが重要


2つの分野のJISを作成し、新市場創造に貢献

 

 佐伯隆氏は企業から山口大学の助手となって研究キャリアを積み、2014年に同大学院創成科学研究科の教授となった。「化学工学」を専門とし、「開発技術は社会実装されることで価値を発揮することができる」という考えのもと、企業との共同研究に力を注いできた。
 共同研究に取り組む中で、「規格の重要性を実感した」という佐伯氏は、経済産業省の「新市場創造型標準化制度」に提案企業とともに応募し、2つの分野のJIS作成の委員長を務め、新市場の創造と事業拡大に貢献した。
 佐伯氏が規格作成を進めた分野の1つは、JIS B 8702(静的流体混合装置の混合性能測定方法)だ。静的流体混合装置は、流体輸送配管内に設置された挿入物(エレメント)によって複数の流体(液体やガス)を混合する省エネルギー、省スペースな装置であり、食品や化学など様々な業界の工場で使用されている。もう1つが、JIS B 8703(セントラル空調システムの水循環系用抵抗低減剤の性能測定方法)で、ビルの空調の冷暖房の省エネルギー技術として近年注目されている。    

 

 
 佐伯氏は「技術には公平で客観的な土俵が必要」と話す。特に、静的混合装置は様々な製品があり、多くの工場で使用されているものの、ユーザーがその導入効果を理解できていないケースも多い。「標準化は、ユーザーにとっては製品を選定する際に有用で、製品を開発するメーカーにとっても、規格があることで自分たちの製品の優れている点、足りない点を客観的に把握することができます。それがより良い製品開発につながっていきます。」さらに、グローバルな市場に対しては、規格を作ること自体がその業界におけるリーディングカンパニーであることの意思表示になる。


共通の尺度があればユーザーは正しく製品を選べる

 JIS B 8702及びJIS B 8703の作成は、日本規格協会のご支援のもと、提案企業にとって都合の良い規格とならないように、提案企業(メーカー)、コンペティター、ユーザー、中立者との共同作業で進められた。「標準化の重要性においては関係者と目線が合っていたため、一部、タイトなスケジュールの中で進めなければならなかったこと以外は、大きな問題はありませんでした。」と当時を振り返る。
 しかし、JIS B 8703においては、規格作成以前の段階での苦労があった。山口県の水処理会社と共同研究を進め、水循環系用抵抗低減剤を商品化し、その普及にも積極的に参画した。その後、別の企業が類似技術の製品を販売したが、この製品は各所でトラブルが生じたことで、市場から撤退した。結果として、この技術の風評が残り、佐伯氏が携わった商品の販売にも負の影響があったという。「こうした体験があったため、『新市場創造型標準化制度』を活用し、市場での信頼を獲得したいと考えたことが、今回の規格作成の目的の1つでした。」
 このような風評被害を防ぐことは難しいが、共通の尺度があれば、ネームバリューだけで製品を選ぶということは少なくなるだろうと佐伯氏は考えている。「メーカーは客観的な数値を積み上げて、性能を証明していくしかありません。そのためにも、フェアな場で作成されたJISのような標準化は非常に重要です。」


社会とつながり「使える」規格を考える

 標準化の重要性を広く伝えていくため、佐伯氏は学会や講演会などの場で積極的に今回の取組を紹介している。
 「大学教授に課せられる業務は多角化しており、論文を書くだけでなく、研究分野の技術の社会実装までを考える必要があります。独りよがりに自分の理論を展開せず、社会とつながることが大事なのです。今回の受賞はその重要性を共有する良い機会になりました。」

   
 産学連携をうまくマッチングさせるためには、大学の研究者が企業やユーザーの視点を共有する必要がある。「産学共同研究によって、大学の研究者が企業から学ぶことはたくさんあります。」大学側が企業のニーズや価値観を理解できず、一方、企業側は「どうしたら研究者に興味を持ってもらえるのか」と悩んでいることが多い。
 「研究者はまず、自分のテリトリーの知識で課題を解決しようとします。しかし、基礎研究の成果がそのまま企業の現場で使えることはほとんどないでしょう。課題は、基礎研究と社会実装の橋渡しとなる「実用化研究」の必要性にあります。そのためには、企業が何に困っているのか、研究者の話の何が難しいと感じているのかを理解する必要があります。」と指摘する。
 「産学連携でもう一つ重要な点は、対象とする物、もしくは方法の性能を評価するための尺度を共有することで、もしその尺度がない場合は、その尺度を作ることから始めます。このようなアプローチで産学連携を進めていくと、規格の重要性が再認識されます。」佐伯氏は今後も社会実装の視点とともに産学連携を進め、同時に標準化の重要性について発信していくつもりだ。
 「1990年代後半から使われるようになった『知財』という言葉が浸透し、イノベーションの創出という概念も十分理解されるようになったと思います。標準化はその重要な手段の1つですが、どのように進めるのか、にわかには理解が及ばない側面もあります。しかし、一歩踏み出せば、先に紹介した『新市場創造型標準化制度』のほか、『特定新需要開拓事業活動計画認定制度(OCEANプロジェクト)』などの様々な制度があることもわかると思います。これらをうまく活用することで標準化が実現できることを伝えていきたいです。多くの研究者が社会実装を意識しながら多角的に活躍できることを願っています。」

関連資料


【略歴】
1988年4月~1991年2月 新日本製鐵株式会社
1993年4月~2014年9月 山口大学 大学院理工学研究科(工学)助手、助教授、准教授
2014年10月~現在 山口大学 大学院創成科学研究科 教授
2016年4月~2017年3月 JIS B 8702(静的流体混合装置の混合性能測定方法)原案作成委員会 委員長
2022年12月~2025年3月 JIS B 8703(セントラル空調システムの水循環系用抵抗低減剤の性能測定方法)原案作成委員会 委員長

最終更新日:2026年1月8日