CONTENTS

1.数量効果について
2.価格効果について
3.輸入モニタリングシステムの使い方
4.成功事例
5.FAQ
- 相談窓口(アンチダンピング申請のご相談はこちら)

 
 前号のニュースレターで予告したとおり、今月号からアンチダンピング(AD)の申請書作成に向けた具体的な解説を行います。
さて、今回は海外からのダンピング輸入による国内産業への損害調査で検討すべき3つの事項のうち、数量効果及び価格効果についてです。これらの効果に関係するデータ・数字は申請書の一部となりますので、当室との相談はここから始まります。分かるようで分からない(?)これらのデータの収集方法についてわかりやすく解説していきます。
なお、当室HPにて提供している輸入モニタリングシステムで産品別の月次のモニタリングが可能です。この機会に是非ご活用ください。
 

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                                                     <国内産業への損害で検討すべき3事項>
国内産業への損害調査で検討すべき事項は以下の3つです。

① 数量効果:
ダンピング輸入の絶対的な増加、国内需要量に対する本邦における生産量又は消費量との関係での相対的な増加の有無を検討

② 価格効果:
輸入品による国産品価格の下回り(Price undercutting)又は価格の押し下げ(Price depression)若しくは価格上昇の抑制(Price suppression)が生じているかを検討

③ 損害15指標:
販売、利潤、生産高、市場占拠率、生産性、投資収益、操業度における現実及び潜在的な低下、資金流出入、在庫、雇用、賃金、成長、資本調達能力若しくは投資に及ぼす現実及び潜在的な悪影響、国内価格に影響を及ぼす要因、ダンピングの価格差等を総合的に検討

これらの事項を基に、ダンピング輸入以外の要因による国内産業に対する損害を分離・峻別しつつ、ダンピング輸入と国内産業に対する損害の因果関係を証明していくこととなります。また、国内産業への損害調査には、最低でも直近3年間分のデータが必要です。これからお示しする申請書への記載例では会計年度ベースで調査をしていますが、暦年ベースで調査をすることも可能です。
 

1.数量効果について

 数量効果では、①世界からの総輸入量、②AD調査対象国からの輸入量、③総輸入量に占めるAD調査対象国からの輸入割合、④国内需要量に占める当該AD調査対象国からの輸入品の市場占拠率を調査します。
調査に必要な情報のうち輸入量(国別、HSコード別、月次)は、財務省が公表している財務省貿易統計から得ることができますが、輸入モニタリングシステムからも簡単にチェックが可能であり、①、②及び③の数字をすぐに調査できます。国内需要量については、業界団体が集計する統計情報や生産動態統計を活用することができます。
 
  <申請書への記載例(申請の手引き(※)より抜粋)>
 当該産品のA国からの輸入量は、2018年度が215千MT、2019年度が263千MT、2020年度が441千MTである。本邦市場における国内需要量は、2018年度が754千MT、2019年度が758千MT、2020年度が765千MTである。この本邦市場に対し②A国からの輸入量の本邦の総輸入量に占める割合(輸入割合)は、2018年度が81.7%、2019年度が85.9%、2020年度が92.3%と著しく増加した。また③国内需要量に占めるA国からの輸入の割合(市場占拠率)は、2018年度が28.5%、2019年度が34.7%、2020年度が57.6%となり、本邦市場において拡大した。
 

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2.価格効果について

  価格効果では、AD調査対象国からの輸入価格が①本邦市場における国産品価格を下回る(Price undercutting※)、又は②価格を押し下げる(Price depression)若しくは③価格上昇を抑制する(Price suppression)ことが生じているかを調査します。調査に必要な情報のうち輸入単価(国別、HSコード別、月次)は、財務省が公表している財務省貿易統計から得ることができますが、輸入モニタリングシステムからも簡単にチェックが可能です。
 
  <申請書への記載例(申請の手引き(※)より抜粋)>
2018年度頃までは平均単価180円程度で推移していた国産品の国内販売価格が、不当廉売されたより安価な貨物の輸入の影響を受けて2019年度頃から急速に値を下げ始めた。2020年度は更に価格差が開くとともに、国産品販売価格は引き続き下落傾向にある。
こうした価格の下落は、産業上の使用者から不当廉売輸入された安価な貨物の価格を引き合いに値下げを要求されたことにより、対応を余儀なくされていたために生じたものである。具体的には、国産品の国内販売価格は、2019年度は175円程度で推移していたところ、取引先から、輸入品の価格が158円であるため同等の価格まで引き下げるよう求められ、生産量を維持するために販売量を確保しようと値下げしたことから、国産品の国内販売価格は2020年度には173円に下落した。
 

 ※申請の手引きはこちら



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※Price undercuttingとは
  当該輸入貨物と本邦産同種の貨物の国内取引価格を比較した結果、調査対象期間における輸入価格が本邦産価格を下回る場合を示します。なお、AD協定上、Price undercuttingの程度が著しいかどうかを考慮することとされていますが、その判断は、個別の事案の状況に応じて行われることとなります。今回は一番分かりやすい例として、調査対象期間を通じて国産品の価格が下落し続け、輸入品との価格差が拡大する例をお示ししましたが、必ずしも国産品の価格が下落し続けなければいけない訳ではありません。国産品の価格が維持又は回復する時期があったとしても、調査対象期間を通じた国産品の価格のトレンドを見て、著しいPrice undercuttingが認められるかどうか判断していくこととなります。


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  いかがでしたか?
  なお、今回は一番分かりやすい例として、輸入品の価格が国産品の価格を下回る①price undercuttingの事例をご説明しましたが、輸入品の価格が国産品の価格より高い場合でも、②価格の押し下げ(Price depression)や③価格上昇の抑制(Price suppression)を説明できれば、価格効果を示すことができます。

3.輸入モニタリングシステムの使い方

  輸入モニタリングシステムでは、自社の関連産品が日本にどの程度輸入されているかをチェックするために統計品目コード別の輸入動向を簡単にグラフ形式で確認できます。こちらを活用して定期的に海外からの輸入動向をモニタリングすることをお勧めします。

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  システム画面右側のSTEP1(輸入通関コードの設定)とSTEP2(表示期間の設定)、STEP3(単価の範囲の設定)により、お調べになりたい製品について海外からの輸入総額、輸入量、輸入単価をお調べいただくことができます。

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4.成功事例

  本号では、平成30年(2018年)3月に課税決定となった大韓民国及び中華人民共和国産の炭素鋼製突合せ溶接式継手の申請者の一者である株式会社ベンカン機工の社長室室長でいらっしゃる若松様より、AD措置制度の活用により自社の生産量の増加や収支改善につなげることができた事例について寄稿いただきました。
 安値輸入品でお困りの際はお気軽に当室までご相談ください。

<韓民国及び中華人民共和国産の炭素鋼製突合せ溶接式継手の調査経緯>

  当社は共同申請者の1社として、平成29年3月、大韓民国産及び中華人民共和国産(以下、両国合わせて「対象国」とします。)の炭素鋼製突合せ溶接式継手に対する不当廉売関税の課税申請を行い、平成30年3月不当廉売関税を課すことが日本政府によって決定されました。
   財務省貿易統計から、対象国産の輸入が年々増加していること、同時に本邦生産者の販売量が減少していること、当社の知りうる範囲で対象国の本邦への輸出価格が正常価格より相当低いことから、対象国の不当廉売により損害を受けている事実を認識し申請に至りました。
  申請にあたり、経験ある弁護士事務所に相談するとともに、共同申請者との各種データについても、弁護士事務所を通してやりとりすることで、独禁法に牴触する疑義が生じることのないように進めました。
  申請後は、財務省及び経産省から申請者に対する、生産量・販売量・収支の状況等種々の質問に対して回答する必要がありますが、販売量の減少・収支の悪化は事実ですので、事実をそのまま回答することで、当局の理解を得られたと考えております。
  不当廉売関税を課すことが決定された後は、対象国からの輸入量は1/3程度まで激減し、本邦での使用量に変化無いと仮定しても2/3程度は本邦生産者が受注していると考えられ、正常価格での取引となり、本邦生産者の生産量の増加、収支改善に大きく寄与しています。
  安値輸入品で事業が悪化しているのではないかと思われる方は経済産業省に相談されることをおすすめします。

5.FAQ

  以下のURLから、アンチダンピング申請等について、皆様からよく寄せられるご質問及び回答情報をご参照いただけます。ご活用いただけますと幸いです。

https://www.meti.go.jp/policy/external_economy/trade_control/boekikanri/trade-remedy/faq/index.html

 

最終更新日:2022年9月12日