CONTENTS
1.諸外国における貿易救済措置の発動状況
2.日本のアンチダンピング調査事例
①中華人民共和国産黒鉛電極に対する不当廉売関税の課税を決定
②中華人民共和国産並びに台湾、澎湖諸島、金門及び馬祖から成る独立の関税地域産ニッケル系ステンレス冷延鋼帯及び冷延鋼板に対する
不当廉売関税の課税に関する調査を開始
3.各国の貿易政策の状況
①中国が欧州産ブランデーに対するアンチダンピング措置の最終決定を公表、一部の企業に対する価格約束も実施
②タイがAD・CVD迂回防止措置にかかる要件等を明確化
③WTOの貿易監視報告において、貿易救済措置を含む関税の引上げが世界経済の不安定化・不確実性をもたらしていることが示される
1.諸外国における貿易救済措置の発動状況
2025年5月~6月の諸外国における貿易救済措置の発動状況をお伝えします。実施状況詳細
アンチダンピング(AD)
2025年5月~6月は、以下の調査が開始されました。
補助金相殺関税(CVD)
2025年5月~6月は、以下の調査が開始されました。
2.日本のアンチダンピング調査事例
①中華人民共和国産黒鉛電極に対する不当廉売関税の課税を決定
経済産業省及び財務省は、令和6年4月24日より、不当廉売関税の課税の要否に関する両省合同の調査を実施してまいりました。当該調査で判明した事実等を踏まえ、本年3月29日から、中国(香港地域及びマカオ地域を除く。)産黒鉛電極に対して 95.2%の暫定的な不当廉売関税が課されました。さらに、本年6月20日、関税・外国為替等審議会(関税分科会特殊関税部会)から、その後の調査結果等を踏まえ、中国産黒鉛電極に対し、期間5年間の不当廉売関税を課することが適当である旨の答申が提出されました。その後、本年6月27日、不当廉売関税に関する政令が閣議決定されました。
本年7月2日に政令が交付され、同年7月3日から令和12年7月2日までの間、中国産黒鉛電極に対して、不当廉売関税(暫定税率と同率の95.2%)が課されています。
- 中華人民共和国産黒鉛電極に関する調査の詳細はこちら
②中華人民共和国産並びに台湾、澎湖諸島、金門及び馬祖から成る独立の関税地域産ニッケル系ステンレス冷延鋼帯
及び冷延鋼板に対する不当廉売関税の課税に関する調査を開始
経済産業省及び財務省は、令和7年5月12日に国内の数社から財務大臣に提出された中華人民共和国産並びに台湾、澎湖諸島、金門及び馬祖から成る独立の関税地域産ニッケル系ステンレス冷延鋼帯及び冷延鋼板に対する不当廉売関税の課税申請について、関係法令に基づき検討を行った結果、不当廉売関税の課税の要否に関する調査を行う必要があると認められたことから、両省合同の調査を開始することといたしました。
調査は、原則として1年以内に終了することとされており、今後、利害関係者からの証拠の提出等の機会を設けるとともに、中華人民共和国並びに台湾、澎湖諸島、金門及び馬祖から成る独立の関税地域の企業や本邦の企業に対する実態調査による客観的な証拠の収集を行います。
これらの結果を踏まえ、WTO 協定及び関係国内法令に基づき、不当廉売された貨物の輸入及び当該輸入の本邦の産業に与える実質的な損害等の事実の有無について認定を行った上で、不当廉売関税の課税の要否を政府として判断することとなります。
- 中華人民共和国産並びに台湾、澎湖諸島、金門及び馬祖から成る独立の関税地域産ニッケル系ステンレス冷延鋼帯及び冷延鋼板に関する調査の詳細はこちら
3.各国の貿易政策の状況
①中国が欧州産ブランデーに対するアンチダンピング措置の最終決定を公表、一部の企業に対する価格約束も実施
2025年7月4日、中国商務省は、欧州から中国へ輸入されるブランデー(200リットル未満の容器に入った蒸留酒葡萄酒から製造された蒸留酒)に対するアンチダンピング関税の調査に関する最終決定を発表 1しました。 発表内容によると、当局による調査の結果、ダンピングによる輸入の存在、国内産業の損害の脅威及びダンピングと損害の脅威との間の因果関係が認められ、同年7月5日から5年間、欧州産ブランデーに対し、27.7%から34.9%のアンチダンピング関税を課すこととしています。なお、欧州の関連業界団体や企業が申請し、当局が承認した価格約束も実施することとしており、価格約束を行った企業が約束された価格以上で中国へ輸出する場合には、アンチダンピング関税は課されないとしています。
商務省は記者会見に際して、「中国の国内企業は価格約束のアプローチを支持しており、欧州の業界も価格約束を歓迎している。また、調査当局が価格約束を受け入れたことは、対話と協議を通じて貿易摩擦を解決する中国の姿勢を改めて示している」2と話しています。
2. https://www.mofcom.gov.cn/xwfb/sjfzrfb/art/2025/art_2ddff5fb7d6b4db68f4e98a8a467e269.html
②タイがAD・CVD迂回防止措置にかかる要件等を明確化
タイ商務省外国貿易局(DFT)は、アンチダンピング(AD)および補助金相殺関税(CVD)の迂回防止(Anti-Circumvention: AC)措置に関する指針を発表3しました。当該指針によると、AD・CVD迂回防止措置の適用対象となる要件には、①貿易パターンの変化②2019年アンチダンピング・相殺法(No.2)4で定義されている迂回行為(軽微な変更・積替・流通経路の変更・完成加工・組立)のいずれかの存在③経済的正当性の欠如④AD・CVD措置の効果の損失⑤ダンピングまたは補助金の証拠が含まれるとしています。
迂回に関する調査は、申請により迂回行為の存在を裏付ける十分な証拠があると認められた場合に開始され、申請で迂回行為を指摘された企業を対象に、最大9か月間(必要に応じて3か月延長可能)実施されます。当該調査の結果、迂回行為が認められた場合には、元の措置の最高税率を超えない範囲でAD・CVD措置が拡大適用されます。
3. https://thaitr.dft.go.th/en/measure_info/ac/info
4. https://thaitr.dft.go.th/storage/measure_info/UEGwRC6b56QOahu9ISVlZv6KiopaF3JJf4W9dMx2.pdf
③WTOの貿易監視報告において、貿易救済措置を含む関税の引上げが世界経済の不安定化・不確実性をもたらしてい
ることが示される
2025年7月3日に公表されたWTO貿易監視に関する中間報告書では、2024年10月中旬から2025年5月中旬にかけての貿易措置の動向が詳述されています5。
報告書によると、当該期間中に記録された貿易措置は合計644件で、そのうち296件はアンチダンピング等の貿易救済措置に関するもの(223件の調査開始、73件の終了)としています。なお、新規の調査が影響を与えた貿易額は639億米ドル(世界の商品輸入額の0.26%)と限定的でした。一方、関税引上げなどの輸出入貿易に関連する措置の影響額は2兆7,327億米ドルと推定され、世界貿易の19.4%に影響を及ぼしているとしています。
調査期間において、貿易措置の活発化と主要貿易相手国間における緊張の高まりといった動向が認められ、関税の急激な引上げ、貿易政策の不確実性の増大、地域紛争、地政学的緊張が、不安定で予測不可能な状況をもたらしているとしています。
5. https://www.wto.org/english/news_e/news25_e/trdev_03jul25_e.htm
4.相談窓口
経済産業省では、皆様からのアンチダンピング調査に関する個別相談を常時承っております。アンチダンピング措置は、海外からの不要な安値輸出を是正するためWTOルールにおいて認められた制度です。公平な国際競争環境が担保された中で、日本企業の皆様が事業活動を展開できるようにするためにも、アンチダンピングを事業戦略の一つとして捉えていただき、積極的に御活用いただきたいと考えております。申請に向けた検討をどのように進めればよいのか、複数の事業者による共同申請はどのようにすればよいのかなど、相談したい事項がございましたら、まずは気兼ねなく経済産業省特殊関税等調査室まで御連絡ください。
また、「日本企業がアンチダンピング調査の調査対象となった場合」の御相談は、経済産業省国際経済紛争対策室まで御連絡ください。
経済産業省 貿易経済安全保障局 貿易管理部 特殊関税等調査室
TEL:03-3501-1511(内線3256)
E-mail:bzl-qqfcbk@meti.go.jp
経済産業省 通商政策局 国際経済部 国際経済紛争対策室
TEL:03-3501-1511(内線 3056)
E-mail:bzl-wto-soudan@meti.go.jp
5.FAQ

最終更新日:2025年7月29日