CONTENTS
1.諸外国における貿易救済措置の発動状況
2.各国の貿易政策の状況
①米国商務省がAD/CVD課税の運用を通じた貿易救済措置の執行の改善及び強化について規則案を公表
②米国、東南アジア4カ国からの太陽光発電関連製品への関税免除措置を撤廃する議会決議にバイデン大統領が拒否権行使
③WTO補助金データベースページがスプレッドシート形式になり検索性が向上
④補助金の透明性向上に関して4機関(IMF、OECD、世界銀行、WTO)で共同補助金プラットフォームを立ち上げ(通称JSP)
⑤WTOでAD委員会 会合 開催 ―2022年7月~12月期―
⑥「中国-日本産ステンレス製品に対するアンチダンピング措置」(DS601)のパネル報告書
3.相談窓口
4.FAQ
1.諸外国における貿易救済措置の発動状況
2023年3月~5月の諸外国における貿易救済措置の発動状況をお伝えします。実施状況詳細
アンチダンピング(AD)
2023年3月~5月は以下の調査が開始されました。
補助金相殺関税(CVD)
2023年3月~5月は以下の調査が開始されました。
2.各国の貿易政策の状況
①米国商務省がAD/CVD課税の運用を通じた貿易救済措置の執行の改善及び強化について規則案を公表
米国商務省は2023年5月9日、AD/CVD課税の管理を通じて貿易救済措置の執行を強化、改善するための規則案を公表しました1。当規則案は、1930年関税法に基づき、貿易救済措置の改正を提案しています。商務省は今回の規則案において、AD/CVD措置にかかる手順の多くを改訂し、実務の多くの部分を成文化し、非市場経済国や特殊な市場状況における価格とコストの歪みに対処するための方策や分析方法を強化するとしています。規則案の概要としては、以下のような手続きや基準を改正または新設しています。
▷AD/CVDを回避する迂回貿易の防止に向けた調査の手続き強化
▷AD/CVD対象製品の範囲を明確化するスコーピングの手続き改善
▷新たに対象製品を輸出する外国事業者に対する税率審査の証明手続き厳格化
▷越境補助金規則の撤廃(ある外国政府が当該国以外に拠点を置く企業に補助金を供与した場合でも、CVDの対象とすることができるようになる)
▷外国政府の不作為による市場の歪み(政府が規制や要件、義務等の下で徴収すべき手数料や罰金、違約金等を徴収しないことにより、本来支払う側のコスト負担が減ること)の是正
▷輸出国の価格やコストを歪める特殊な市場状況(PMS)の判定のための新規則の提案
商務省は、AD/CVD規則の改定案について、7月10日まで利害関係者からの意見を募集しています。
②米国、東南アジア4カ国からの太陽光発電関連製品への関税免除措置を撤廃する議会決議にバイデン大統領が拒否権行使
2023年5月16日、バイデン大統領は、東南アジア4カ国(カンボジア、マレーシア、タイ、ベトナム)からの太陽光発電関連製品の輸入に対する関税の徴収の免除を無効にする両院共同決議2に拒否権を発動3しました。今回拒否された両院共同決議は、2022年6月にバイデン大統領が大統領布告(米国のエネルギー市場に関する緊急事態を宣言し、商務省に対し、対象輸入品に対する関税の賦課を免除する措置)4で出した東南アジア4カ国からの太陽光発電関連製品の輸入に対する関税の免除を無効にするものでした。
米国商務省では、2022年3月から、中国の太陽光発電関連製品について、米国のAD/CVD課税を回避するために、東南アジアを経由して米国に輸出される、いわゆる迂回輸出が行われていないかの調査を行っており、2022年12月には、東南アジアを迂回して輸入されているとの仮決定を発表していました。
今回のバイデン大統領の拒否権発動の理由としては、太陽光発電関連製品の国内製品での供給がある程度落ち着くまでのつなぎとしての対応であり、供給が逼迫している現時点での東南アジア4カ国からの太陽光発電関連製品の輸入に対する関税の賦課は、米国の企業や太陽光発電産業の労働者に不安を与えることになるからだと説明しています。
これにより東南アジア4カ国への太陽光発電関連製品の関税の免除は継続されます。期限は2024年6月6日、または緊急事態が終了したとみなされた時点のいずれか早い方とされています。
2.https://www.congress.gov/bill/118th-congress/house-joint-resolution/39
3.https://www.whitehouse.gov/briefing-room/presidential-actions/2023/05/16/message-to-the-house-of-representatives-presidents-veto-of-h-j-res-39/
4.https://www.whitehouse.gov/briefing-room/statements-releases/2022/06/06/declaration-of-emergency-and-authorization-for-temporary-extensions-of-time-and-duty-free-importation-of-solar-cells-and-modules-from-southeast-asia/
③WTO補助金データベースページがスプレッドシート形式になり検索性が向上
WTO補助金データベースは、世界貿易機関(WTO)が運営する補助金のオンラインデータベースで、このほど掲載方法が新しくなりました5。WTOに提出する補助金通知6にはフォーマットがあり、加盟国はそれに沿って通知を行います。今回のデータベースは、通知の構成に沿ったスプレッドシート形式になった7ため、これまでのPDFベースの文書データ8より、データベースの検索機能が向上しました。このデータベースにはWTO加盟国が実施している補助金の名称、措置の説明、政策目的、期間、金額、対象産業などの情報が含まれており、このデータベースはWTO加盟国が補助金の透明性を確保し、補助金が貿易に与える影響を評価するために使用されています。
WTO補助金データベースは、WTOのウェブサイトからアクセスすることができます。
5.WTO補助金データベース https://www.wto.org/english/tratop_e/scm_e/subsidy_database_e.htm
6.加盟国は、2年ごとに補助金通知を提出することが義務付けられています。
7. https://www.wto.org/english/tratop_e/scm_e/aa_allmembers_stdwide.xlsx
8.https://docs.wto.org/dol2fe/Pages/FE_Search/FE_S_S005.aspx
④補助金の透明性向上に関して4機関(IMF、OECD、世界銀行、WTO)で共同補助金プラットフォームを立ち上げ(通称JSP)
IMF、OECD、世界銀行、WTOは2023年5月25日、補助金に関する透明性を高めるため、「Joint Subsidy Platform(JSP)9:共同補助金プラットフォーム」を立ち上げることを発表しました。JSPは補助金の適切な使用を促進するため、補助金の性質、規模、経済的影響に関する情報をワンストップで提供することを目的としています。プラットフォームの立ち上げに際し、4者は以下の共同声明を発表しました10。
2022年4月に『補助金、貿易、国際協力に関する共同報告書』を発表して以来、補助金の規模は増大し、その使用に関する懸念も高まっている。それと同時に相次ぐ国際的な緊急事態や気候変動リスクの高まりは、状況によっては補助金が重要な役割を果たす。
市場の失敗に対応するため補助金を使用する場合、これらの措置が透明で貿易ルールに抵触しないよう配慮し、政府は国内産業に競争の優位性を与えるために補助金を使用すべきではなく、貿易相手国に対するコストと歪曲効果を最小にするよう努めなければならない。しかし、これを行うには補助金の適切な使用と設計について各国政府間で共通する情報が必要。
JSPは補助金の透明性を高め継続的に改良を重ねることで、精度の高い分析に活用でき、各国政府間で補助金に関する理解が深まることにより対話を強化し、より良い政策と貿易摩擦の緩和につながる。
9.https://www.subsidydata.org/en/subsidydata/home
10.https://www.wto.org/english/news_e/news23_e/scm_24may23_e.htm
⑤WTOでAD委員会 会合 開催 ―2022年7月~12月期―
半年に一度開催されるWTOのAD委員会が2023年5月3日に開催されました11。AD委員会では、新規や改正等をしたAD法規に関する加盟国からの届出と、AD措置に関する報告を審議12しました。この会合には、日本からも特殊関税等調査室等が参加しました。会合では、2022年7月1日から12月31日までの期間を対象とする半期報告に関して、44の加盟国がこの期間に実施したAD措置を委員会に報告し、18の加盟国は同期間に新たなAD措置はなかったことを報告しました。議長、措置の報告書を提出していない加盟国に対し、速やかに提出するよう促しました。また議長は、半期報告書を提出するにあたり、加盟国が新しい貿易救済措置ポータルサイト13を利用していることを歓迎しました。
半期報告書に加え、WTOのAD協定は、加盟国に対し、すべての暫定措置及び確定措置について、アドホックベースで遅滞なく提出することを求めています。今回の会議では、20カ国以上からアドホック通知を受けました。
また、ウクライナと他の10カ国がウクライナでの戦争に反対する意思を表明し、これに対し、ロシア代表は「WTOはこのような性質の議論をするのに適切な場ではない」と発言しました。
次回のAD委員会の会合は、2023年10月23日の週に開催される予定です。
11.https://www.wto.org/english/news_e/news23_e/anti_03may23_e.htm
12.委員会では通常、調査の開始、暫定的及び最終的なAD措置の適用、既存のAD措置の見直しを含めたAD措置に関する半期報告における加盟国の実施状況について審議を行います。
13.貿易救済措置ポータルサイトhttps://trade-remedies.wto.org/en
⑥「中国-日本産ステンレス製品に対するアンチダンピング措置」(DS601)のパネル報告書
6月19日に、日本がWTOで申立てを行っていた中国による日本産ステンレス製品に対するAD措置のパネル報告書が公表されました14。中国は、日本、韓国、インドネシア及びEUから輸入されるステンレス製品のダンピングによって中国の国内産業が損害を受けていると主張し、2019年7月から5年間の予定でAD税を賦課しています。これに対し、日本は、中国による本AD措置は、中国の調査当局の認定や調査手続に瑕疵があり、GATT(関税及び貿易に関する一般協定)及びAD協定に違反すると考え、一貫して措置の撤廃を求めてきました。
日本の要請(2021年8月)により、WTO紛争処理パネル(第1審)が設置され(同年9月)、その後パネルでの審理が行われていました。パネル会合(口頭弁論、2022年6月及び10月に実施)での議論等を踏まえ、6月19日付けで公表されたパネル最終報告書は、本AD措置は、損害・因果関係の認定や手続の透明性に問題があり、AD協定に整合しないとし、中国に対し本AD措置の是正を勧告しました。
パネル判断内容の詳細については、経産省による6月19日付けプレスリリース(「中国による日本製ステンレス製品に対するアンチダンピング措置がWTO協定違反と判断されました」)15、および、パネル最終報告書の概要資料16もご覧ください。
14.https://www.wto.org/english/news_e/news23_e/601r_e.htm
15.https://www.meti.go.jp/press/2023/06/20230619001/20230619001.html
16.https://www.meti.go.jp/press/2023/06/20230619001/20230619001-2.pdf
3.相談窓口
経済産業省では、皆様からのアンチダンピング調査に関する個別相談を常時承っております。アンチダンピング措置は、海外からの不要な安値輸出を是正するためWTOルールにおいて認められた制度です。公平な国際競争環境が担保された中で、日本企業の皆様が事業活動を展開できるようにするためにも、アンチダンピングを事業戦略の一つとして捉えていただき、積極的に御活用いただきたいと考えております。 申請に向けた検討をどのように進めればよいのか、複数の事業者による共同申請はどのようにすればよいのかなど、相談したい事項がございましたら、まずは気兼ねなく経済産業省特殊関税等調査室まで御連絡ください。経済産業省 貿易経済協力局 特殊関税等調査室
TEL:03-3501-1511(内線3256)
E-mail:bzl-qqfcbk@meti.go.jp
4.FAQ
最終更新日:2023年12月8日