CONTENTS
1.諸外国における貿易救済措置の発動状況
2.国内セミナーのご報告
3.各国の貿易政策の状況
①米国、太陽光発電関連製品(太陽電池とパネル)の迂回輸出に関するAD/CVD課税を一時停止
―最終規則で備蓄に対する使用期限を明記―
②EUの貿易救済措置が46万人以上の欧州の雇用を保護 ―2021年版年次報告書よりー
③タイ、迂回輸出防止のための措置を強化
4.相談窓口
5.FAQ
1.諸外国における貿易救済措置の発動状況
2022年9月の諸外国における貿易救済措置の発動状況をお伝えします。実施状況詳細
アンチダンピング(AD)
2022年9月は、該当する事案はありませんでした。 補助金相殺関税(CVD)
2022年9月は、該当する事案はありませんでした。2.国内セミナーのご報告<AD申請者による経験共有>
~ 会社を守る”攻め“の一手!アンチダンピング制度活用のすすめ ~ のご報告
経済産業省特殊関税等調査室では、貿易救済措置に係る普及啓発を目的とし、今年度は、申請に向けて有用な情報を提供することに力を入れ、『令和4年度 貿易救済セミナー ~会社を守る”攻め“の一手!アンチダンピング制度活用のすすめ~』を、9月1日(木)14時~16時にオンラインにて開催しました。
本年度は、アンチダンピング措置の制度を実際に利用した企業として、大八化学工業株式会社とAGC株式会社の2社のご担当者にセミナーへご登壇いただきました。
今月号では『AD申請者による経験共有』において、単独でAD申請を行った《大八化学工業株式会社》のコメントを掲載します。
質問1:AD申請に踏み切ったきっかけは何ですか?
▶AD申請を行った2019年当時は米中貿易摩擦の最中であり、そのような状況下では輸入品の更なる攻勢を受ける懸念がありました。▶本制度は以前から知っており、当社でも申請が可能か、経済産業省とも事前に様々な相談をしました。当社は大企業ではないため、AD申請のための(不当廉価輸入品に対抗する)専門部署はありませんでしたが、人的リソース不足を補うための経済産業省からの助言等による支援があることもその相談の中で知り、最終的に申請に踏み切りました。
質問2:AD申請の過程で苦労したことを教えてください。また、それに対して、どのように対応しましたか?
▶今回AD措置の対象となった物品(TCPP)については、当社が国内で唯一の生産者のため同業他社との調整はありませんでした。AD措置申請において、中国産製品を対象とする場合には、中国における販売価格等の代わりに第三国における価格を使える制度となっていますが、TCPPは世界的にも、製造しているサプライヤーが非常に少ない商品のため、第三国における価格というような客観的な指標がなく、正常価格がどの程度なのか、その上でのロジックの組立てに苦労しました。▶申請に向けては、当社には対応できる部署がないことから、営業を中心として市場のデータ収集に4~5名、経理の1名が原価計算や収益に関わるデータを取りまとめ、総務からは法務担当1名が法律事務所の窓口となり対応しました。
▶また、社外においては、経済産業省や仲介に入ってもらった法律事務所、法律事務所内の会計士資格保有者の方などから全面的にサポートを受けながら進めました。法律事務所が経済産業省との間をしっかり取り持つ形で対応してくれて心強かったです。AD申請の実績・経験のある法律事務所であったことが、非常によかったと考えています。
▶いずれにしましても、経済産業省、法律事務所から多くのサポートがあったということが、結果として成果につながったと考えています。
質問3:AD発動後、事業状況にどのような影響がありましたか。結果としてどのようなメリットを実感しましたか?
▶実感したメリットとして、適正な市場価格に戻すことで適切な設備投資が可能になり健全な事業体質に戻れました。また、輸入品の価格上昇により、国内の需要家の皆様からの引き合いも増えました。▶マーケット全体からすると、当時は安価な中国品が輸入量の大半を占めていたため、欧州品は中国品に取って変わっていましたが、AD発動後に適正な価格が顧客に浸透し市況が改善されました。結果的に欧州品も選択できるような市場環境となり仕入先の多様化につながりました。
▶また、顧客の皆様の中で、中国からの輸入品の価格がもともと不当に廉価であり、ある程度の値上げは必須だったのだなとの認識が広がったのではないかと感じます。
▶加えて、申請過程での調査中に、今まで認識しなかった海外メーカーの存在も知ることができ、新たな情報を蓄積することができたこともメリットです。
質問4:AD申請を行うに際して、どのように関係者間での合意をプロセスとして得ましたか?
▶社内での合意プロセスにおいては、アンチダンピング対象の商品だけではなく当社で生産している他商品も購入いただいている顧客が多いことから、特に経営層から他商品の販売への影響を懸念する声も存在しました。ただ、原料にさかのぼった資源価格の不均衡な状態という点が輸入品との価格差の背景として元々あったため、AD申請を制度として活用することで、顧客にも当該事実を認識してもらうべきだと訴え最終的に説得ができました。質問5:外部の顧客との関係において、どのように理解を得られましたか?
▶顧客の反応は、当初は不当な価格ということも、まだ十分理解されておらず、非常にネガティブな反応が多かったです。▶顧客に対して、当社は国内で唯一の生産者であり、輸入品全てを排除することが目的ではなく、あくまでも事業継続のために適正な価格で販売したいという趣旨を丁寧に説明しました。また、その適正な価格とは何なのかについても、本制度を活用したことで理解を深めていただけたと考えています。
来月号では、AD申請の過程で特に重要だったと感じている外部からの支援や連携体制について《AGC株式会社》のコメントを掲載する予定です。
■貿易救済セミナーまとめ
https://www.meti.go.jp/policy/external_economy/trade_control/boekikanri/trade-remedy/seminar/index.html
■問い合わせ先
qqfcbk@meti.go.jp (経済産業省 特殊関税等調査室)
3.各国の貿易政策の状況
①米国、太陽光発電関連製品(太陽電池とパネル等)の迂回輸出に関するAD/CVD課税を一時免除 ―最終規則で備蓄に対する使用期限を明記―
バイデン大統領は2022年6月6日、太陽光発電関連製品(太陽電池とパネル等)の供給不足に関して緊急事態1を宣言し、カンボジア、マレーシア、タイ、ベトナムの4カ国2からの太陽光発電関連製品輸入に対して、2年間の関税の一時免除などの措置を講ずるよう大統領布告を発表していました。また同日、バイデン政権は、国内におけるクリーンエネルギー関連の製造力強化のための施策をまとめたファクトシート3を発表しており、太陽光発電関連製品輸入への関税の一時免除はその中の一つと位置付けられています。このたび、バイデン政権は上記の施策に関する最終規則を発表4し(2022年9月16日)、当初提案された規則から一部変更が加えられました。最も重要な変更点は、2年間の関税の一時免除の間に輸入した太陽光発電関連製品が、備蓄される懸念に対応するために条件を課したことです。この条件とは、関税の一時免除を受けられるのは、規則終了日から180日以内に米国内で「使用または設置」される太陽光発電関連製品に限定する等の形で盛り込まれました。
1.https://www.whitehouse.gov/briefing-room/statements-releases/2022/06/06/declaration-of-emergency-and-authorization-for-temporary-extensions-of-time-and-duty-free-importation-of-solar-cells-and-modules-from-southeast-asia/
2.商務省はカンボジア、マレーシア、タイ、ベトナムに対して、迂回輸出の疑いがあるとして調査を継続しています。
3.https://www.whitehouse.gov/briefing-room/statements-releases/2022/06/06/fact-sheet-president-biden-takes-bold-executive-action-to-spur-domestic-clean-energy-manufacturing/
4.https://www.govinfo.gov/content/pkg/FR-2022-09-16/pdf/2022-19953.pdf
②EUの貿易救済措置が46万人以上の欧州の雇用を保護 ―2021年版年次報告書よりー
2022年9月20日、欧州委員会は、2021年のEUの貿易救済措置に関する年次報告書を公表5しました。当該報告書は、2021年に行われたEUの貿易救済措置によって、アルミニウム、鉄鋼、セラミック、グリーンテクノロジーといったEUの主要産業分野において、46万2,000人のEUの雇用が直接保護されたと結論付けています。欧州委員会は、EUの措置が、不公正な国際貿易慣行からEUの産業界を守る上で有効であることを示している6としています。また、風力発電塔の部品や光ファイバーなど、再生可能エネルギーやデジタル・バリューチェーンに不可欠な製品の不公正な輸入に対抗することにより、EUの貿易救済措置は、欧州におけるこれらの産業の供給、成長、雇用の安定、収益の維持に不可欠な先進的な製造方法と研究開発への投資を促進しており、さらに、欧州グリーン・ディール7や欧州デジタル・アジェンダ8にも資していると述べています。
なお、EUにおいては、2021年末時点でアンチダンピング措置を中心として、163件の貿易救済措置がとられており、2021年においては、欧州委員会は、11件のアンチダンピング調査、4件の相殺関税調査を新たに開始しています。
加えて、2021年版年次報告書によると、欧州委員会は特に迂回による関税逃れをする事業者を特定し、制裁するための監視活動を強化したとしており、2021年に発見されたそのような行為に対して欧州委員会は、迂回防止措置等を通じた断固たる対応を行ったとしています。
5.https://ec.europa.eu/commission/presscorner/detail/en/ip_22_5572
6.https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/HTML/?uri=CELEX:52022DC0470&from=EN
7.全ての政策分野において気候と環境に関する課題を機会に変えることで欧州連合(EU)経済を持続可能なものに転換し、その移行を全ての人々にとって公正かつ包摂的なものにするための行程表(https://ec.europa.eu/commission/presscorner/detail/en/IP_19_6691)
8.欧州の成長のために、目標(雇用、R&D、環境、教育、貧困対策など)が設定されており、その実現手段の一つとしてICT分野に対応しているのが「欧州デジタル・アジェンダ」(https://ec.europa.eu/commission/presscorner/detail/en/IP_10_581)
③タイ、迂回輸出防止のための措置を強化
タイ商務省外国貿易局(DFT)は、このごろ迂回輸出防止のための措置の強化を行っています。迂回輸出にはいくつかの類型がありますが、例えば、製品の部品等をタイに輸出後、タイで再度組み立てる方法や、製品にわずかな加工を行った上で輸出するといった手法が例として挙げられます。
DFTは近頃、タイを米国やEU等への再輸出の拠点として使用している外国企業による迂回を懸念しており、措置の強化を図っています。
迂回輸出防止措置としては、DFTは、本年5月23日、外国企業による迂回のおそれのある品目を監視対象品目リストに追加し、42品目に更新9しました。具体的には、米国やEUによる関税引き上げやアンチダンピング措置の対象となっているアルミホイル、電動自転車、鉄鋼製のシームレスパイプ、鉄鋼製の管用継手、木製のキャビネット、家具、ゴム製の管及びホース、電気モーター及び発電機、ガラス繊維製品、冷蔵庫、冷凍庫などが位置付けられています。
上記の措置に続き、本年7月22日にはタイ製品に対する非特恵原産地証明書(C/O)発行時の検査の厳格化10を発表し、8月1日から施行しています。C/Oは、商品がどこで製造されたかを示す国際貿易文書です。
この措置により、監視対象品目リストに掲載されている米国・EU向け輸出品目について、C/Oの取得を希望する場合、以下の追加書類の提出が必要になりました。
・製造業者:工場ライセンス及び生産に使用された原材料リスト(物品の原産性を証明するもの)
・輸出業者:輸出者に販売されたことを示す製造業者からの証明書、生産に使用された原材料リスト(物品の原産性を証明するもの)
9.https://www.dft.go.th/th-th/DetailHotNews/ArticleId/22917/-Form-C-O-1-2-3
10.https://www.dft.go.th/th-th/NewsList/News-DFT/Description-News-DFT/ArticleId/23464/23464
4.相談窓口
経済産業省では、皆様からのアンチダンピング調査に関する個別相談を常時承っております。アンチダンピング措置は、海外からの不要な安値輸出を是正するためWTOルールにおいて認められた制度です。公平な国際競争環境が担保された中で、日本企業の皆様が事業活動を展開できるようにするためにも、アンチダンピングを事業戦略の一つとして捉えていただき、積極的に御活用いただきたいと考えております。 申請に向けた検討をどのように進めればよいのか、複数の事業者による共同申請はどのようにすればよいのかなど、相談したい事項がございましたら、まずは気兼ねなく経済産業省特殊関税等調査室まで御連絡ください。経済産業省 貿易経済協力局 特殊関税等調査室
TEL:03-3501-3462
E-mail:bzl-qqfcbk@meti.go.jp
5.FAQ
最終更新日:2023年12月8日