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特殊関税等調査室ウェブページコンテンツを活用してダンピング輸入リスクを分析しよう(化学編)

CONTENTS


1.特殊関税等調査室 ウェブページコンテンツの紹介(動画解説付き!)
2.【連載】特殊関税等調査室ウェブページコンテンツを活用したダンピング輸入リスク分析の視点(第2回 化学編)
3.FAQ
-相談窓口(アンチダンピング申請のご相談はこちら)


 

ADニュースレターについて

 特殊関税等調査室では海外からの安値輸入のモニタリングを日々の業務に取り入れていただくことを目的に、皆さまの経営課題の解決のヒントとなる情報を隔月でお届けしております。今年度のニュースレターの連載企画として、WTO加盟国においてAD調査開始件数が多い分野のダンピング輸入に関する分析を掲載しており、6月号では、AD発動件数が最も多い産品分野である(鉄鋼編)のダンピング輸入リスク分析のモデルケースをご紹介しました。2回目となる8月号では、鉄鋼と同様にAD発動件数が最も多い産品分野である化学工業品についてご紹介します。

 
 

1.特殊関税等調査室 ウェブページコンテンツの紹介

 当室では、「輸入モニタリングシステム」、「生産動態統計モニタリングシステム」、「他国発動事例リスト」の3点を毎月更新しています。

 輸入モニタリングシステムは、財務省が毎月公表する貿易統計データを基に、海外からの輸入金額、輸入数量、輸入単価を国別・品目別にグラフ形式で可視化するコンテンツです。調べたい品目や国を選択することで、海外からの輸入状況を把握することができます。

 
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 生産動態統計モニタリングシステムは、経済産業省が毎月公表する生産動態統計データを基に、日本国内の品目別の内需統計をグラフ形式で可視化するコンテンツです。調べたい品目や指標を選択することで、国内動向(生産・販売・在庫状況)を把握することができます。

 

 

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 他国発動事例リストは、品目別、AD措置発動国別、AD措置対象国別の貿易救済措置発動事例を調査するコンテンツです。調べたい品目や国を選択することで、安値輸入が気になる品目や国について他国での発動事例を調べることができます。

 
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 他国でAD措置対象となり行き場を失った産品が日本に流入する場合、他国の発動事例における被対象国からの日本への輸入動向と生産動態統計を見比べてモニタリングすることで日本への輸入量の増加や国内企業への生産・販売量への影響等の大まかな実態を把握することが可能になります。
   
 

2. 【連載】第2回
  特殊関税等調査室ウェブページコンテンツを活用したダンピング輸入リスク分析の視点 化学編

 化学工業製品はWTO加盟国におけるAD調査開始件数のうち、およそ2割を占めます(※WTOによる1995年~2020年のAD調査開始件数の集計結果に基づく)

 図1では、化学工業製品について世界各国の措置対象品目数(HS28~38類)を示しております。オレンジ色が濃いほど、多くの品目がAD調査対象となっている国であることを示しています。

 2011年以降の世界的な傾向として、幅広い品目や国・地域がAD調査対象となっており、日本の近隣諸国である中国や韓国、台湾ほか東南アジア諸国、米国が調査対象となる事例が多いことがうかがえます。


 

図1 世界のAD調査対象化学工業製品 品目数(HS2桁ベース)
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 本号では、AD調査対象国数が多い品目のうち、日本向けの輸出が増加基調を辿る「クエン酸(HSコード:2918類)」を事例として取り上げます。

それでは、実際に当室のモニタリングコンテンツを使ってみましょう。

 
■ 日本への輸入動向を調べる

 輸入モニタリングシステムで、対象製品(HSコード:2918.14、2918.15類)の日本への輸入動向を見ます。2014年以降のグラフを見ると、日本への輸入数量は増加基調であり、主に中国からの輸入が多く、大部分を占めております。また、輸入単価を見ると、オーストラリアやカナダと比べて、中国の単価が半額程度となっております。(図3)

 
図3 輸入モニタリングシステム(HS:2918.14、2918.15類)
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■ 他国のAD調査事例を調べる

 中国からの輸入品が他の輸入元国からの輸入品単価と比較して低価格であることから、日本へのダンピング輸入の可能性を考え、他国発動事例を調査します。
 まず、他国発動事例リストを確認すると、AD調査/措置案件のうち、クエン酸(HSコード:2918.14、2918.15類)を調査対象としている国が多いことがわかります。(図2)
 当室が他国発動事例リストで取り扱っている米国、カナダ、EU、豪州、中国、韓国のうち、米国とオーストラリア、EUが中国に対してAD調査/措置発動を実施しています。

 
図2 他国発動事例リスト(HS:2918.14、2918.15類)
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 ここで、主な提訴国である米国の中国製クエン酸へのAD措置発動状況を確認します。米国の調査当局(USITC)のウェブページを確認すると[☆]、中国からの輸入品(HSコード:2918.14、 2918.15類)に対して、2008年にAD調査を開始し、2009年にAD措置を発動したことが分かります。以後、5年置きの措置継続調査(サンセットレビュー)の結果、現在に至るまで措置が継続しています。(表1)

 
表1 米国の中国製クエン酸へのAD措置発動状況 対象企業とダンピングマージン
画像が表示できません
出典:USITC [☆]
注:本件調査対象HSコードは2918.14、2918.15類



米国の輸入量は措置開始後(2009年以降)に急速に減少し、2019年では僅か年間1,000万パウンド(dry pounds)となっています。(図4)

 
図4 米国の中国製クエン酸の輸入数量の推移(単位:1,000 dry pounds)
画像が表示できません
出典:USITC [☆]
注:HSコード:2918.14, 2918.15類


さらに、USITCの調査による中国製クエン酸の輸出統計をみると、2014年から2019年にかけて、輸出先のうち、米国向けの輸出数量が大幅に減少する一方で、日本をはじめとしたアジア諸国や欧州への輸出が大幅に増加しています。(表2)


表2 中国製クエン酸 国別輸出の推移 (単位:1,000 dry punds)
画像が表示できません
出典:USITC [☆]


 先ほど(図3)で確認したとおり、日本では中国製クエン酸の輸入が増加基調を辿っていることから、今後、日本への中国製クエン酸の輸入動向について、他国発動事例及びそれに伴う輸入統計を注視していく必要があると考えられます。
 他国のAD措置発動及び措置延長と日本への輸入量増加の直接的な因果関係は慎重に見定める必要がありますが、安値輸入のモニタリングの観点においては、他国のAD措置発動状況により行き場を失った製品が日本市場に流入する可能性があるという視点を持つことは重要です。




[☆]USITCによる出典は以下のリンクのとおり。
・初回調査結果
https://www.usitc.gov/investigations/701731/2008/citric_acid_and_certain_citrate_salts_canada_and/final.htm
・継続調査結果(1回目)
https://www.usitc.gov/investigations/701731/2014/citric_acid_and_certain_citrate_salts_canada_and/first_review_full.htm
・継続調査結果(2回目)
https://www.usitc.gov/investigations/701731/2020/citric_acid_and_certain_citrate_salts_canada_and/second_review_expedited




■ 日本国内の需給動向

 最後に、生産動態統計モニタリングシステムを用いて、日本国内の製造業産品における内需(国内生産量や販売量、販売金額、在庫等)を把握します。安値輸入品による国内産業への影響の観点において、国内産品の需給動向を見てみましょう。

 貿易統計のHSコード(2918.14、2918.15類)に紐づく品目は、「酸・アルカリ洗浄剤」に含まれます。2016年以降の酸・アルカリ洗浄剤の需給動向を生産動態統計で確認すると、国内企業による生産数量(国内)及び販売数量(国内)が2019年にかけて前年比プラスの基調であること、月末在庫が前年比マイナス基調であることから、当該製品の内需が拡大している様子がうかがえます。(棒グラフの色は対前年同月比のプラス(赤)とマイナス(青)を示します。)

 他方、2020年以降は生産・販売ともにマイナス基調に転じ、月末在庫が前年比を大幅に上回る水準となっております。(図5)

 
図5 生産動態統計モニタリングシステム(酸・アルカリ洗浄剤)
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■ 分析のまとめ

 2009年に米国が中国製クエン酸へのAD措置を発動して以降、米国への輸入は激減(図4)する一方で、日本をはじめとしたアジアや欧州への輸出が増加している(表2)ことが貿易統計からわかりました。これらのアジアへの輸出増加量は、米国への輸出減少量を上回るものであり、米国によるAD措置により米国への輸出が激減しても中国の輸出が増加してきたことがわかります。また、数量はまだ少ないですが、日本向けの輸出も急増傾向(図3)にあります。

 日本国内の生産・販売は増加基調である(図5)ことから、輸入増が国内生産・販売に影響を及ぼしているとは言いがたいですが、COVIID-19等を背景とした需給バランスの変化に伴い在庫水準が高まっている一方で輸入が増加基調を辿るなか、将来的なリスクとして輸入と国内生産・販売の動向を注視していく必要があります。

 当室が月次で更新している他国発動事例リスト輸入モニタリングシステム生産動態統計モニタリングシステムを日々の業務に活用することで、ダンピング輸入による国内産業の衰退及び自社利益への損害リスクを早期に感知することが可能となります。企業の経営戦略における重要なツールとして、ぜひとも当室のコンテンツを積極的にご活用ください。
 

3.FAQ

 以下のURLから、アンチダンピング申請等について、皆様からよく寄せられるご質問及び回答情報をご参照いただけます。ご活用いただけますと幸いです。
  よくある質問

 

最終更新日:2022年9月12日