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 本書で検証した「輸出する力」「呼び込む力」「外で稼ぐ力」を支えるため、経済連携交渉、戦略的な海外市場の獲得及び対内直接投資の促進等、国際展開戦略を着実に進めていくことが必要である。同時に、我が国の優れた社会課題解決力を活用し、地球規模の「共通善」の実現に貢献していくため、こうした社会課題解決力が適切に評価されるための国際的なルール形成に積極的に参画することが必要である。加えて、世界で稼ぐための国内の競争力強化としては、我が国のプラットフォーム力強化と企業のグローバル経営力向上の双方が求められる。すなわち、グローバル企業、ヒト、情報、リスクマネーが日本に集まり、イノベーションが起こり続ける環境整備等を進めると共に、「攻め」のコーポレート・ガバナンス体制の強化、企業と投資家の対話促進等によって、我が国企業が攻めの経営を自律的に展開し、高い収益を上げていく必要がある。

 以下では、国際的なルール形成に向けた取組も含め、国際展開戦略の実施状況について紹介していく。

第1章 世界に広げる「経済連携の網」と多角的自由貿易体制等の構築

第1節 世界経済との連結性を強化する経済連携(EPA/FTA)

1.経済連携(EPA/FTA)の効果1

 経済連携の推進は、国内に立地する輸出企業にとっては、関税削減等を通じた輸出競争力の維持又は強化の面で意義があり、他方で、外国に投資財産を有する企業やサービスを提供する企業にとっては、海外で事業を展開しやすい環境が整備されるという点で意義がある。

 輸出の面では、関税削減によって日本からの輸出品の競争力を高められる。メキシコでは乗用車に20%、マレーシアではエアコンに30%、インドネシアではブルドーザーに10%の関税が課されているが、EPAを利用した場合、これらの関税がゼロになる。また、複数国・地域間で結ばれる広域のEPAでは、EPAごとにバラバラに決められている要件・手続を統一し、企業が地域内でのEPAをより使いやすくするメリットがある。例えば、EPAを利用して関税削減の恩恵を受けるために必要な要件・手続(原産地規則と呼ばれる)を地域内で統一することは、企業の事務コストを削減し、EPAの活用対象国を広げやすくする効果がある。このほかにも、広域のEPAのメリットとして、地域内の複数国で生産された製品に対してEPAを使いやすくなること、地域内の物流拠点(ハブ)に貨物を集約し、物流拠点からの分割輸送が可能となること等が挙げられる。

 海外で事業を行う企業に対しては、投資財産の保護、海外事業で得た利益を日本へ送金することの自由の確保、現地労働者の雇用等を企業へ要求することの制限・禁止、民間企業同士で交わされる技術移転契約の金額及び有効期間への政府の介入の禁止等の約束を政府同士で行うことにより、海外投資の法的安定性を高めている。

 また、外国でのサービス業の展開に関しては、外資の出資制限や拠点設置要求等の禁止、パブリックコメント等による手続の透明性確保等、日本企業が海外で安心して事業を行なうためのルールを定めている。

 この他にも、我が国のEPAでは、締約国のビジネス環境を改善するための枠組みとして、「ビジネス環境の整備に関する委員会2」の設置に係る規定を設けている。「ビジネス環境の整備に関する委員会」では、政府代表者に加え、民間企業代表者も参加して、外国に進出している日本企業が抱えるビジネス上の様々な問題点について、相手国政府関係者と直接議論することができる。これまでの「ビジネス環境の整備に関する委員会」の成果として、メキシコとは模倣品取り締りのためのホットライン設置に合意し、マレーシアとは治安向上のためパトロールの強化や監視カメラの増設等を実現してきている。

 EPA(経済連携協定)/FTA(自由貿易協定)とは、物品関税の削減・撤廃、サービス貿易の自由化、投資環境の整備、ビジネス環境の向上に関する協議の場の設置等を規定し、幅広い経済関係の強化を目的とする二国間または多国間の国際協定をいう。
近年のFTAの中には投資環境整備等のEPAの要素を含むものもあり(例:韓・米FTA)、EPAとFTAの区別は厳密なものではない。また、EUは旧植民地とのFTAをEPAと称しており、日本とは少し意味合いの異なる用語法となっている。

 日・メキシコEPAでは「ビジネス環境の整備に関する委員会」、日・スイスEPAでは「経済関係の緊密化に関する小委員会」、日・ペルーEPAでは「ビジネス環境の整備に関する小委員会」等、規定されるEPA毎に呼称が異なる。本白書では総称として、「ビジネス環境の整備に関する委員会」と表記する。

2.経済連携(EPA/FTA)を巡る全般的な動向

 1990年代以降、国際経済環境や各国の開発戦略の変化により地域統合の動きが加速し、EPA/FTAの締結数が年々増加してきている。その背景としては、①欧米諸国が経済的関係の深い近隣諸国との間で貿易・投資の自由化・円滑化等による経済連携を図る動きを活発化させたこと(例:米国がNAFTA(1994年発効)、EC(1993年にEUへ発展)が単一市場の構築への取組を加速させる等)、②NIEsやASEANがいち早く経済開放を推し進めることにより高成長を果たす中、チリ・メキシコ・ペルー等の新興国が貿易・投資の自由化や市場メカニズムの導入へと経済政策を転換させ、その中でEPA/FTAを活用する戦略を採ったこと、さらに、③2000年代後半以降、WTOドーハ・ラウンド交渉が停滞する中、世界の主要国が貿易・投資の拡大のために積極的にEPA/FTAを結ぶようになったこと等が挙げられる。GATT第24条等に基づく地域貿易協定(RTA)3の通報件数は、1990年には27件に満たなかったが、2015年4月7日時点で612件まで増加している4

 地域貿易協定(Regional Trade Agreement):EPA/FTAや関税同盟を含む特定の国・地域の間での貿易の自由化等を約束する協定の総称。

 WTOウェブサイト(http://www.wto.org/english/tratop_e/region_e/region_e.htm外部リンク)参照。

3.アジア太平洋地域の経済統合と世界のFTA動向

 東アジア・アジア太平洋地域では、2002年に日本がシンガポールとのEPAを発効させたことを受けて、FTAを結ぶ動きが活発化した。2000年代後半にかけてシンガポール、マレーシア、韓国、中国等が東アジア地域内外の国・地域との間で多くのFTAを発効させた。

 ASEANにおいては、2010年、ASEAN原加盟国6か国(インドネシア、シンガポール、タイ、フィリピン、マレーシア、ブルネイ)の間で関税が原則撤廃されるとともに、物品分野については全ての「ASEAN+1」のFTAが発効し、東アジア地域のFTAが新しい段階に進んだと言われる。「ASEAN+1」のFTAとは、ASEANと周辺6か国(日本、中国、韓国、インド、豪州、ニュージーランド)が個別に結んだFTAであり、ASEANをハブとして東アジアにFTA網が張り巡らされた形となった。

 こうしたFTA網の整備も手伝って、東アジア地域、あるいは最終消費地も加えてアジア太平洋地域では、工程間分業、生産拠点の集約化及び最適配置は相応に進展してきている(第Ⅲ-1-1-3-1図)が、広域経済連携によって更に統一的なスケジュールで関税を削減し、ビジネス活動に関する様々なルールを共通化することができれば、企業がこの地域全体にまたがるサプライチェーンの高度化に取り組むことを一層後押しすることとなる。

第Ⅲ-1-1-3-1図 東アジア地域におけるサプライチェーンの実態

 特に、アジア太平洋地域では、APEC参加国・地域の間で、アジア太平洋自由貿易圏(FTAAP:エフタープ)の実現が目指されており、そのための道筋として、TPP(環太平洋パートナーシップ)、RCEP(東アジア地域包括的経済連携)、日中韓FTA等の広域経済連携の取組が同時に進行している(第Ⅲ-1-1-3-2図)。

第Ⅲ-1-1-3-2図 FTAAPへの道筋

 2013年3月には日中韓FTA、2013年5月にはRCEPについてそれぞれ交渉が開始され、米国とEUとの間でも2013年7月に環大西洋貿易投資パートナーシップ(TTIP)協定交渉が開始した。2014年5月現在、北米、欧州、アジア太平洋の各地域をつなぐ様々な経済連携の取組が同時並行で進行している(第Ⅲ-1-1-3-3図)。これらの取組が相互に刺激し合うことで高い相乗効果を生み、先進国間でも高いレベルのEPA/FTAの締結が進むことで世界全体の貿易投資に関するルール作りが進むことが期待されている。

第Ⅲ-1-1-3-3図 世界のFTA動向

4.日本のEPA取組状況

 我が国はこれまで、14の国・地域との間でEPAを発効させてきた。2015年1月15日にはこれまでの2国間EPAパートナーで最大の貿易相手国となる豪州との間でEPAが発効し、2015年2月10日には日・モンゴルEPAが署名に至った。また、現在8つの交渉(TPP、日EU・EPA、RCEP、日中韓FTA、AJCEP(サービス貿易章・投資章)、日・カナダEPA、日・コロンビアEPA、日・トルコEPA)が進行中である(第Ⅲ-1-1-4-1図、第Ⅲ-1-1-4-2図)。

第Ⅲ-1-1-4-1図 日本のEPA交渉の歴史

第Ⅲ-1-1-4-2図 日本の経済連携の推進状況

 自由貿易の拡大、経済連携の推進は、日本の通商政策の柱であり、特にこれからは、TPP、RCEP、日中韓FTA、日EU・EPA等の広域的EPAを推進し、世界に「経済連携の網」を張り巡らせることで、アジア太平洋地域の成長や大市場を取り込んでいくことが、日本の成長にとって不可欠といえる。

 「『日本再興戦略』改訂2014―未来への挑戦―(平成26年6月24日閣議決定)」においても、経済連携交渉については「国益を最大化する形でのTPP交渉の早期妥結に向けて引き続き取り組むとともに、世界全体の貿易・投資ルールづくりの前進を通じて我が国の対外経済関係の発展及び国内の構造改革の推進を図るべく、RCEP、日中韓FTA、日EU・EPAなどの経済連携交渉を同時並行で戦略的かつスピード感を持って推進していく。また、締結された協定の活用を促進し、企業の積極的な海外展開を促す」こととしている。また、目標として「2018年までに、FTA比率70%(2012年:18.9%)を目指す」ことを決定しており、引き続き交渉を進めているところである。(第Ⅲ-​1-1-4-3図)

第Ⅲ-1-1-4-3図 各国のFTAカバー率比較

 以下、現在の我が国の経済連携の取組状況について、(1)大市場国・地域との経済連携、(2)その他の経済連携の取組に分けて紹介する。

(1)大市場国・地域との経済連携

【TPP(環太平洋パートナーシップ)】(交渉中)

 2005年、シンガポール、ニュージーランド、チリ、ブルネイの4か国は環太平洋戦略的経済連携協定(Trans-Pacific Strategic Economic Partnership Agreement、通称P4協定)に署名し、2006年に発効した。2010年3月、上記4か国に米国、豪州、ペルー、ベトナムを加えた8か国で環太平洋パートナーシップ(Trans-Pacific Partnership)協定交渉が開始した。

 その後さらにマレーシア(2010年10月)、メキシコ(2012年10月)、カナダ(2012年10月)が交渉に参加し、日本は2013年7月に交渉に参加した。2015年4月現在、計12か国が交渉に参加している。

 2014年においては、2月と5月にシンガポールで、10月に豪州で閣僚会合が開催されるなど、交渉の早期妥結に向け継続的に議論が行われた。11月に中国・北京で開催されたAPEC首脳会議の際にはTPP閣僚会合及び首脳会合も開催され、交渉の終局が明確になりつつあることを受けて、TPP協定の妥結を最優先とすることを閣僚及び交渉官に対し指示したとの首脳声明が発出された(第Ⅲ-1-1-4-4図)。

第Ⅲ-1-1-4-4図 環太平洋パートナーシップ首脳声明(仮訳)

 これを受け、その後も複数回の首席交渉官会合が開催されるなど、早期妥結に向けて交渉が進められている。

【東アジア地域包括的経済連携(RCEP(アールセップ):Regional Comprehensive Economic Partnership)】(交渉中)

 RCEPは、世界全体の人口の約半分、GDPの約3割を占める広域経済圏を創設するものであり、最終的にはFTAAP(アジア太平洋自由貿易圏)の実現に寄与する重要な地域的取組の一つである。

 東アジア地域では、既に高度なサプライチェーンが構築されているが、この地域内における更なる貿易・投資の自由化は、地域経済統合の深化に重要な役割を果たす。

 この地域全体を覆う広域EPAが実現すれば、企業は最適な生産配分・立地戦略を実現した生産ネットワークを構築することが可能となり、東アジア地域における産業の国際競争力の強化につながることが期待される。また、ルールの統一化や手続の簡素化によってEPAを活用する企業の負担軽減が図られる(第Ⅲ-​1-1-4-5図)。

第Ⅲ-1-1-4-5図 RCEP参加の意義

 2012年11月のASEAN関連首脳会議において、「RCEP交渉の基本方針及び目的」が16か国(ASEAN10か国及び日本、中国、韓国、インド、豪州、ニュージーランド)の首脳によって承認され、RCEPの交渉立ち上げが宣言された。

 基本方針には、物品・サービス・投資以外に、知的財産・競争・経済技術協力・紛争解決を交渉分野とすること、2015年末までの妥結を目指すことが盛り込まれている。第1回RCEP交渉会合は、2013年5月にブルネイで開催され、高級実務者による全体会合に加えて物品貿易、サービス貿易および投資に関する各作業部会が開催された。

 第1回交渉会合が開催されて以降、2015年2月までに7回の交渉会合と2回の閣僚会合が開催されている。2014年8月にミャンマーで開催された第2回閣僚会合では、物品貿易に関するイニシャル・オファーの進め方やサービス・投資の自由化方式について議論が行われた。現在、貿易交渉委員会(Trade negotiating Committee)に加え、物品貿易、サービス貿易、投資、知的財産、競争、経済技術協力、法的制度的事項、STRACAP(貿易の技術的障害)、SPS(衛生植物検疫措置)、原産地規則、貿易円滑化・税関手続といった幅広い分野について交渉が行われている。

【日中韓FTA】(交渉中)

 日中韓3か国は、世界における主要な経済プレイヤーであり、3か国のGDP及び貿易額は、世界全体のGDP及び貿易額の約2割を占める。日中韓FTAは、3か国間の貿易・投資を促進するのみならず、FTAAP(アジア太平洋自由貿易圏)の実現にも寄与する重要な地域的取組の一つである。

 2013年3月に交渉を開始して以降、計6回の首席代表による交渉会合を実施し、物品貿易、原産地規則、税関手続、貿易救済、物品ルール、サービス貿易、投資、競争、知的財産、SPS(衛生植物検疫)、TBT(貿易の技術的障害)、法的事項、電子商取引、環境、協力等の広範な分野について議論を行ってきた。2015年1月に行われた第6回交渉会合(首席代表会合)においては、主に物品貿易、サービス貿易、投資等の分野について集中的な議論が行われた。

 また、2015年3月、3年ぶりにソウルにて日中韓外相会議が開催され、3か国の外相間で「日中韓FTA交渉の加速化に向け継続的努力を払う」ということで一致している。

【日EU・EPA】(交渉中)

 アジア太平洋地域以外の主要国・地域との取組として、EUとのEPA交渉が挙げられる。日本とEUは、世界人口の1割、貿易額の2割、GDPの3割を占める重要な経済的パートナーであり、日EU・EPAは、日EU間の貿易投資を拡大し、我が国の経済成長をもたらすとともに、世界の貿易・投資のルール作りの先頭役を果たすものといえる。

 EUは、近隣諸国や旧植民地国を中心としてFTAを締結してきたが、2000年代に入り、韓国等の潜在的市場規模や貿易障壁のある国とのFTAを重視するようになった。さらに、米国とも2013年7月から環大西洋貿易投資パートナーシップ(TTIP:the Transatlantic Trade and Investment Partnership)協定の交渉を行っており、2014年9月には先進国であるカナダとの包括的経済・貿易協定(CETA:the Comprehensive Trade and Economic Agreement)交渉が妥結するなど、先進国とも通商関係強化に向けた動きをみせている。

 こうした中、日EU・EPAについては、2009年5月の日EU定期首脳協議において、日EU経済の統合の強化に協力する意図が表明され、翌2010年4月の日EU定期首脳協議では、「合同ハイレベル・グループ」を設置し、日EU経済関係の包括的な強化・統合に向けた「共同検討作業」を開始することに合意した。合同ハイレベル・グループにおける幅広い分野での作業の結果を踏まえ、2011年5月の日EU定期首脳協議において、交渉のためのプロセスの開始についての合意がなされ、日本政府と欧州委員会との間で、交渉の大枠(交渉の「範囲(scope)」及び「野心のレベル(level of ambition)」を定める「スコーピング作業」を実施することとなった。

 翌2012年にかけて実施したスコーピング作業の終了を受け、同年11月のEU外務理事会において、欧州委員会が加盟国より交渉権限(マンデート)を取得した。これを受けて、2013年3月に行われた日EU電話首脳会談において、日EU間のEPA及び政治協定(現在の戦略的パートナーシップ(SPA))の交渉開始に合意した。2013年4月の交渉開始以降、2015年3月末現在までの間、9回の交渉会合が開催されている。

 2014年5月から6月にかけて、EU側の内部プロセスとして、欧州委員会が交渉開始1年後の「見直し(レビュー)」を行い、交渉の継続が決定した。2015年5月に安倍総理が欧州を訪問し、2015年中の大筋合意を目指したいとの考え方を様々な機会に伝え、欧州各国及びEUの首脳との間で早期締結の重要性につき一致。同年11月に行われた日EUの首脳会談において、安倍総理とユンカー新欧州委員長は、日EU・EPAに関し、2015年中の大筋合意を目指して交渉を加速化させていくことで一致した。

 2015年2月23日~27日に行われた第9回交渉会合では、関税、非関税措置、投資・サービス、政府調達等の広範な分野で議論が実施され、一定の進展があった。引き続き、2015年中の大筋合意という目標を目指し、交渉を更に加速していく。

参考 日EU 首脳会談プレスリリース(2014 年11月)

 日EU関係について、安倍総理から、日EU・EPA の2015年中の大筋合意を目指し、共にリーダーシップを発揮し、交渉を加速させたい、日EU・SPA の早期妥結に向けても引き続き努力していきたい旨述べました。これに対し、ユンカー委員長から、日EU は当然のパートナーであり、日EU・EPA 交渉を加速化させたい、2015年中にEPAとSPAの2つの交渉がまとまることを期待しており、この目標を目指し、貴総理と共に努力していきたい旨述べました。

資料:日EU 首脳会談プレスリリース。
出典:外務省ホームページ。

(2)その他の経済連携の取組

【日・豪EPA】(2015年1月15日発効)

 2003年7月、首脳会談において署名された「日豪貿易経済枠組み」に基づき、貿易・投資自由化の得失に関する政府間共同研究が実施され、本共同研究は2005年4月に終了した。その後、同年4月の首脳会談において、EPA/FTAのメリット・デメリットを含め、先進国間に相応しい経済関係の在り方について政府間で研究することに合意し、同年11月から2006年9月の間に、5回の共同研究会合が開催された。同共同研究会の最終報告書を受け、2006年12月、首脳間でEPA交渉開始が合意された。2007年4月から2012年6月までに16回の交渉会合を開催するとともに、非公式の実務者レベルの協議を行い、日豪両国の主張の隔たりを埋めるべく議論がなされた。

 2014年4月の首脳会談において、7年越しとなった日・豪EPA交渉が大筋合意に至り、同年7月の首脳会談で署名、2015年1月15日に発効した。

 豪州は我が国にとって中国、米国、韓国に次ぐ4番目の貿易相手国であり、これまでに締結した二国間EPAのパートナーとしては最大である。我が国から豪州への輸出額の3割未満であった無税品目の割合が、本協定発効時に直ちに8割を超える水準になり、残りの有税品目も8年目までにはほぼ全てが関税撤廃される。特に、我が国からの輸出の約半分を占める自動車分野(MFN税率5%)では、豪州への完成車輸出額の約75%が即時に関税撤廃される。残る完成車も、3年目には関税が全て撤廃される。

 関税以外でも、天然ガス・石炭など資源・エネルギーの安定供給確保、小麦・大麦・牛肉・乳製品・砂糖といった重要な食料の安定供給確保、投資・サービスの自由化、電子商取引・政府調達のルール整備、知的財産の保護など、幅広い分野で高い水準の合意を実現している。

【日・モンゴルEPA】(2015年2月10日署名)

 2012年3月の日・モンゴル首脳会談において交渉を開始することで一致した日・モンゴルEPA交渉は、2014年7月の日・モンゴル首脳会談において大筋合意が確認された。また、2015年2月の日・モンゴル首脳会談において、両国首脳間で協定への署名が行われた。

 本協定により、我が国からモンゴルへ関税のかからない輸出品目(無税輸出)の割合が、現状、輸出額の1%未満から発効後10年間で約96%まで拡大し、モンゴル市場へのアクセスが格段に改善する。特に、自動車については、主力の4,500cc以下の完成車(製造後0~3年)が発効後直ちに無税となる。関税以外の分野でも、特に、投資分野においては、民間企業のモンゴルの資源・エネルギー分野への参入に際して、投資許可段階からの内国民待遇・最恵国待遇が付与されるほか、ISDS条項(投資家と国家間の紛争解決)の適用が盛り込まれるなど、日本側から見たモンゴル側の投資環境が大きく改善する。豊富な天然資源に恵まれるモンゴルと我が国の関係は極めて緊密かつ重要であり、本協定は、今後の両国間の貿易・投資を促進するための重要な枠組みである。

 また、日・モンゴルEPAはモンゴルにとって初めてのEPA/FTAとなる。両国は、2010年11月の日本・モンゴル共同声明に掲げる「戦略的パートナーシップ」について、2013年3月の首脳会談時には①政治・安全保障分野、②経済分野、③文化・人的交流分野を中心に発展させていくことで一致しており、本協定の締結はその強化に大きく寄与するものである。

【日・ASEAN包括的経済連携(AJCEP)サービス貿易章・投資章】(実質合意)

 ASEAN全加盟国とのEPAである日・ASEAN包括的経済連携(AJCEP)は、2004年11月の首脳間での合意に基づき2005年4月より交渉を開始し、2008年4月14日に各国持ち回りでの署名を完了し、加盟国との間で順次発効している。2010年10月より交渉が行われていたAJCEPのサービス貿易章・投資章については3年にわたる交渉を経てルール部分について実質合意に至り、2013年12月の日・ASEAN特別首脳会議において同成果は各国首脳に歓迎された。今後も引き続き残された技術的論点等の調整を行っていく。

【日・カナダEPA】(交渉中)

 日・カナダEPA交渉については、2011年3月から2012年1月までに4回の共同研究が開催され、共同研究報告書が作成された。共同研究の報告書を受け、2012年3月の日・カナダ首脳会談において、両国の実質的な経済的利益に道を開く二国間EPAの交渉を開始することで一致した。第1回交渉会合は2012年11月に行われ、最近では2014年11月に第7回交渉会合が開催された。

 直近の会合では、サービス貿易、投資、知的財産、鉱物・エネルギー資源・食料等の分野につき有意義な議論が行われた。なお、日本からカナダへの輸出における有税品目は総額の43.6%(2013年)、カナダから日本への輸出における有税品目は29.6%(2013年)となっている。また、カナダへの輸出における主要な有税品目及びその関税率は、乗用車(6.1%)、自動車部品(6~8.5%)、タイヤ(6.5~7%)となっている。

【日・コロンビアEPA】(交渉中)

 コロンビアは、高い成長率(今後5年間で平均4%強)が見込まれる人口4,600万人の市場であり、EPAを通じた貿易・投資環境の改善により輸出入拡大が期待される。コロンビア政府は経済の自由開放政策を掲げるなか、発効済みの中南米諸国・米国・カナダとのFTAに加え、EU、韓国とのFTAに署名済みである。

 2011年9月の日・コロンビア首脳会談において、日・コロンビアEPAの共同研究の立ち上げが合意されたことを受けて共同研究が開始され、2012年7月にあり得べきEPAは両国に多大な利益をもたらすことに資するとの報告書がとりまとめられた。同報告書を踏まえ2012年9月に行われた日・コロンビア首脳会談にて、両国はEPA交渉を開催することで一致し、2012年12月に第1回交渉が開催された。

 その後、2014年7月に行われた日・コロンビア首脳会談において、両首脳は、できる限り早期の合意を目指し交渉を加速化することを確認した。最近では2015年3月に第10回会合が開催され、物品貿易、政府調達、原産地規則、知的財産、電子商取引等の幅広い分野について議論が行われ、進展が見られた。

【日・トルコEPA】(交渉中)

 トルコは高い成長率(今後5年で平均5%強)が見込まれる人口7,700万人の魅力的な市場を持つ。貿易・投資環境の改善による輸出入拡大が期待され、我が国企業の関心は高い。日・トルコ間の投資・ビジネス環境の改善や、第三国に劣後しない貿易の自由化や規律の策定を目指している。

 トルコと我が国は2012年7月に第1回日・トルコ貿易・投資閣僚会合を開催し、日・トルコEPAの共同研究を立ち上げることにつき合意した。これを受けて、同年11月に第1回、2013年2月に第2回の共同研究が開催され、同年7月に日本・トルコの両政府にEPA交渉開始を提言する共同研究報告書が発表された。

 共同研究報告書を受けて、2014年1月に行われた日・トルコ首脳会談にて、両国はEPA交渉を開始することで一致し、同年12月に第1回交渉会合が開催された。日・トルコEPAによって、欧州企業や韓国企業といった競合相手との競争条件の平等化を早急に図ることを通じ、トルコへの日本企業の輸出を後押しするとともに、周辺国への輸出・新規参入を狙うハブとしての競争力を高めるべくトルコの投資環境関連制度の改善を図ることを目指す。

【日・韓EPA】(交渉中断中)

 韓国とのEPA交渉は2003年12月の交渉開始後、2004年11月の第6回交渉会合を最後に中断しているが、2008年の日韓首脳会談を受け、交渉再開に向けた実務協議が開催されてきた。2011年10月に行われた日韓首脳会談では、交渉再開に必要な実務的作業の本格的実施につき一致し、課長級実務協議が行われるなど、引き続き交渉再開に向けた調整が進められている。

【日GCC・FTA】(交渉延期)

 バーレーン、クウェート、オマーン、カタール、サウジアラビア、アラブ首長国連邦からなるGCC(湾岸協力理事会)諸国とのFTAについては、2006年9月に交渉が開始され、2009年3月までに2回の正式会合と4回の中間会合が実施された。しかし同年7月に、GCC側の要請により交渉が延期されており、現在、我が国は交渉再開に向けて働きかけを行っている。

 この地域は、我が国の原油輸入量全体の約77%(2013年)を占め、また我が国からの総輸出額も約2.3兆円に達する(2013年)。さらに、人口増加に伴う大規模なインフラ整備の需要があり、各国による、官民一体となった売り込みが積極的に展開されている。貿易・投資拡大及び我が国のエネルギー安全保障の観点に加えて、同諸国との間で経済関係を含めた友好的な関係を形成・維持することが重要である。

5.「EPAのライフサイクル」

 以上、現在交渉中、交渉開始に合意したEPA/FTAを紹介したが、グローバルに展開するビジネスの要請に応えるには、このような新たな協定締結に向けた取組に加えて、EPA/FTAの円滑な利用促進、既存EPAの内容の改善(再交渉)も重要である。

 現在、我が国の発効済みEPAにおいては企業による活用も浸透し始め、「活用・運用段階」にあるといえる。

 今後、

 ①政府のみならずJETRO5、日本商工会議所6、業界団体等による積極的なEPAの普及啓蒙・利活用率の向上・着実な執行、

 ②「ビジネス環境の整備に関する委員会」等の場を通じた両国政府・民間企業代表者を交えた協議7

 ③EPAの利活用実態やニーズを踏まえた協定見直し8

等、いわば「EPAのライフサイクル」にわたって、EPAの質を高めていくことが非常に重要であると言える。

 EPA利活用相談(日本企業の方) https://www.jetro.go.jp/services/advice/外部リンク
アドバイザー等海外進出企業の支援サービス(在海外企業の方) https://www.jetro.go.jp/services/advisor/外部リンク

 第一種特定原産地証明書の指定発給機関 http://www.jcci.or.jp/international/certificates-of-origin/外部リンク

 ビジネス環境の整備に関する委員会 http:/www.meti.go.jp/policy/trade_policy/epa/about/business.html外部リンク

 日・シンガポールEPAは2002年発効、2007年改正。日・メキシコEPAは2005年発効、2012年改正。

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