第5節 対内直接投資を呼び込む地域の取組
対内直接投資の拡大は、経営ノウハウや技術、人材などの外国企業の高度な経営資源が流入することにより、生産性の向上や雇用の創出に資するものである。このため、地方自治体が対内直接投資を積極的に呼び込むことで地域経済の活性化につながることが期待される。
本節では、対内直接投資の現状を概観した上で、我が国地方自治体へのアンケート調査結果や海外の先進事例等を用いて、地方自治体による対内直接投資の取組の実態と課題を分析する。
1.我が国の対内直接投資の現状
我が国政府は、対内直接投資残高を2020年には35兆円へと倍増させる158との目標を設定している(第Ⅱ-3-5-1図)。
第Ⅱ-3-5-1図 我が国の対内投資残高及びその対名目GDP比の推移
対内直接投資フローは2015年に164億円の回収となったが、直近3年間の合計では、2010年から12年の6,350億円に対し、2013年から15年は29,580億円と増加している(第Ⅱ-3-5-2図)。
第Ⅱ-3-5-2図 対内直接投資フローの推移
外資系企業国内法人の本社所在地をみると、関東圏(全3,332社中2,768社)が突出しているほか、それ以外でも近畿圏(同296社)・中部圏(同159社)が多い。なかでも東京都に本社を設置する企業が2,284社と全体の68.5%を占めている159(第Ⅱ-3-5-3図)(第Ⅱ-3-5-4表)。
第Ⅱ-3-5-3図 地域別外資系企業(本社)立地数の推移
第Ⅱ-3-5-4表 外資系企業(本社)が多い上位10位の都道府県・政令指定都市
158 日本再興戦略(2013年)
159 経済産業省「平成27年外資系企業動向調査(平成26年度実績)速報」から引用。ここでいう企業とは、企業群(企業グループ、連結企業等)単位の企業ではなく、子会社・関連会社も1企業としている。ただし、事務所、支店、駐在所は含まない。
2.自治体における取組の現状と今後に向けた取組
都道府県及び政令指定都市を対象として実施したアンケート調査160によると、96%の自治体が外国企業の誘致に関心があると回答したものの、約半数となる46%の自治体が国内企業誘致の延長線上での取組であると回答している(第Ⅱ-3-5-5図)。一方、日本への投資を検討している海外企業は、ビジネスパートナーの紹介や日本の規制・法制度や市場環境の情報提供などを期待している(第Ⅱ-3-5-6図)。
第Ⅱ-3-5-5図 誘致への関心度、誘致への取組状況
第Ⅱ-3-5-6図 外国企業の求めるビジネス支援サービス(複数回答あり)
また、外国企業を誘致することのみを目的とした取組を実施している自治体は全体の49%であったが、実際に成果が上がっているとした自治体はその約1/3であった。前述のアンケート調査の結果によると、外資系企業の誘致の際の誘引力として「移動・輸送などの地の利」、「関連企業の存在」、「域内の市場や顧客の存在」を挙げる自治体が多い。交通インフラや産業集積の現状など、自らの自治体の強みや弱みを客観的に把握して、それに見合ったターゲティングを行うことが必要である(第Ⅱ-3-5-7図)。
第Ⅱ-3-5-7図 外資系企業の誘致にあたっての誘引力(上位3項目を回答)
我が国における対日直接投資施策に関連した動きとしては、2016年4月1日に第三回対日直接投資推進会議が開催され、対日直接投資の現状と今後の取組について議論が行われた。外国事業者から改善要望が多く寄せられている規制・行政手続・書類等の合理化やグローバル人材の呼び込み、日常生活の場面での外国語対応の促進について政府として検討を行い、5月中に取りまとめることが決定された。
160 2016年1月に実施。回収率100%。
3.まとめ
我が国の地方自治体に対するアンケート調査の結果や海外の先進事例等を踏まえると、我が国地方自治体における対日直接投資誘致の取組を更に向上させる余地は大きいと言える。また、各自治体のもつ強みなどを把握した上で、誘致のための戦略を立てていくことが重要であると考えられる。