経済産業省
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第1節 アフリカ

1.アフリカ市場全体の現状

(1)市場の将来性

 アフリカ全体としては、豊富な天然資源を有し、人口10億を抱え、インドと同程度の規模を持つ将来性ある地域である。今後、アジアなどの他の途上国の人口増加が鈍化していく中、アフリカ地域は着実に人口増加が続き、2050年には20億人を突破するとの予測もある(第Ⅱ-4-1-2図)。また、過去5年の経済成長率は約5%で推移(第Ⅱ-4-1-3図)しており、今後、巨大なアフリカ経済圏の形成が期待できる。天然資源については、プラチナ、クロム、銅などの鉱物資源の他(第Ⅱ-4-1-4表)、原油、天然ガスも埋蔵・産出されており、こうした多種多様で豊富な天然資源は、諸外国への輸出が期待されるだけではなく、将来的な産業の立地にも有利に働くことが予想される。

第Ⅱ-4-1-2図 各地域における人口見通し

第Ⅱ-4-1-3図 アフリカの実質GDP成長率推移

第Ⅱ-4-1-4表 アフリカの鉱物資源生産・埋蔵量の世界に占める割合

 このように、アフリカは潜在性あふれる世界最後のフロンティアとして世界各国が注目しており、我が国としても戦略的に市場育成・獲得を考えるべき地域の一つである。

 他方、今後のアフリカの経済発展、我が国との貿易・投資拡大に向けては次のような課題も有しており、それらを考慮しつつ今後の展開を見据えることが重要である。

(2)市場の課題

①市場経済規模の小さい多数の国

 アフリカは全体で54ヵ国の地域であるが、その内、上位5ヵ国(ナイジェリア、南アフリカ、エジプト、アルジェリア、アンゴラ)でGDP(約2.5兆ドル)の約6割を占め、それ以外は市場規模の小さい国が多数集まっている(第Ⅱ-4-1-5図)。また、アフリカには、西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)、東アフリカ共同体(EAC)、南部アフリカ開発共同体(SADC)等の複数の地域経済共同体が存在しており、地域毎の経済統合の動きも進んでいる。

第Ⅱ-4-1-5図 アフリカ域内における主要国の経済規模の割合

 このように、アフリカ地域の市場進出を考える場合、ア)ある程度の経済規模を持つ国に関しては,国単位の目線、イ)一つ一つの小さな国単位ではなく周辺国を含めた地域的な目線、ウ)インドとほぼ同等の人口規模であるアフリカ全体の目線、という各目線で市場を捉えることが重要である。

②産業の多角化

 サブサハラアフリカの産業セクター別のGDP構成比では、製造業の比率は高くなく、1980年代から現在まで減少傾向にある(第Ⅱ-4-1-6図)。製品や中間財の大部分も輸入に頼っているため、価格も高い。また、製造業の人件費水準はアジア諸国と比べて高いケースが多く(第Ⅱ-4-1-7表)、現状では産業拠点としての域外国からの投資を見込むことが難しい。今後、労働力人口が増加する中、雇用を創出することが経済発展のための大きな課題であり、利益を生むが雇用は生まない資源産業などに頼るのではなく、製造業のような労働力を必要とする産業が発展するよう、産業の多角化を図ることが重要である。

第Ⅱ-4-1-6図 サブサハラアフリカの産業セクター別のGDP構成比

第Ⅱ-4-1-7表 アジア・アフリカ主要国の人件費水準(2014年)

③インフラ未整備

 電力・水道・港湾・道路といった都市化・産業発達のための基礎インフラが未整備であり、コスト高を生んでいる。サブサハラアフリカの電力アクセス率、水道普及率は低水準である(第Ⅱ-4-1-8図)。また鉄道輸送が発達しておらず、道路運送についても、道路整備、舗装の遅れといった問題がある。内陸部の資源開発においても物流が課題であり、これらの基礎インフラ整備が急務である。

第Ⅱ-4-1-8図 諸外国の下水道普及率

(3)諸外国の対アフリカ投資・貿易

 前述したとおり、アフリカは潜在性あふれる世界最後のフロンティアとして世界各国が注目している。特に投資については、欧州、米国、中国が積極的に対アフリカ投資を増やしており、我が国は大きく水をあけられている。フランス、米国及び英国の直接投資残高は我が国の約5倍である(第Ⅱ-4-1-9図)。特に中国は、道路や鉄道敷設、港湾や工業団地建設等のインフラ投資に積極的に取り組んでおり、アフリカでの認知度も高まっている。これに対して我が国は、アジアなど他地域に比べてアフリカへの進出度合いは未だ成長の余地があり、現状での我が国企業のアフリカ進出拠点数は、我が国企業の全世界進出拠点数の1%未満である(アジア・大洋州への進出拠点数は全体の70%超)(第Ⅱ-4-1-10図)。今後、我が国も競争力のある分野について、M&Aなども活用し大胆に進出することで、アフリカでのプレゼンスを徐々に高めていくことが重要である。

第Ⅱ-4-1-9図 各国の対アフリカ直接投資残高

第Ⅱ-4-1-10図 日本企業拠点数(2014年10月時点)

 貿易については、2000年以降は特に中国の伸びが輸出入ともに顕著である。特に原油や鉱物といった資源輸出に頼る国は、対中国の貿易依存度が高い傾向が見られる。対米国輸出も一時期までは大きく伸びていたが、輸出品目は資源が中心であり、その後、シェールガス革命により一気に減少している。欧州や我が国での対アフリカ貿易は大きく伸びておらず、中でも我が国は欧州勢より貿易額は少ない。

 なお、アフリカでは資源の輸出依存度の高い国が多いが、そうした資源輸出に頼る国では、昨今の資源価格低迷や中国経済の減速により、政府財政が厳しい状況になっている国もあり、今後、資源価格のみならず、中国経済等の動向にも留意する必要がある。

2.アフリカ個別市場の現状

 アフリカは地域ごとに経済情勢が大きく異なっており、それぞれの地域において強みを持っている産業分野なども違っている。例えば、ナイジェリアにおいてはアフリカ第1位のGDPと人口を持っており、住宅の需要が高まっているため、住宅関連の市場機会があるといえる。また南アフリカでは、高い産業水準を持っているため、電力不足に陥っており、それを補うための再生可能エネルギーなどの市場機会もある(第Ⅱ-4-1-11図)。このように、アフリカは地域ごとの特色を踏まえた上で市場としての分析を行う必要がある。

第Ⅱ-4-1-11図 アフリカ主要国の市場機会

(1)四輪・二輪

 四輪について、現在のアフリカ市場規模は160万台(新車・2014年)である。今後の経済発展に伴い、市場拡大が見込まれる。現在、南アフリカ、ナイジェリア、エジプトで日系企業が製造や組立を実施しているが、それ以外の地域への拠点設置は進んでいない。地理的・経済的に親和性のあるインドから南アフリカに輸入しているメーカーもあり、ASEAN、インドとの経済圏も視野に入れた展開が進む。今後は、南アフリカのみならず、潜在性の高い地域への生産拠点構築・市場獲得が重要となる。

 二輪については、現在のアフリカ市場規模は450万台であり、インド(2,000万台)等と比較して限定的規模である。一定の市場があるナイジェリアで日系企業が組立を実施中であるが、インド・中国製の安価な製品も多数存在する状況であり、差別化が必要である。市場拡大が見込まれる今後においては、現地生産を図ることでコストを抑えつつも、耐久性や燃費、積載性等、現地ニーズに合わせた製品開発により海外勢との差別化を図ることが重要である。

(2)消費財・サービス等

 アフリカ市場への進出が成功した消費財・サービス企業は、M&Aや現地法人の設立など、リスクをとった積極的な展開によりシェアを拡大している。消費財は現地に即した事業展開が重要であり、既存のビジネス顧客・流通網などを持つ現地企業との提携模索も必要である。既に確立された経営手法がある場合も多いため、現地の動向を鑑みた上で、M&A等も活用しつつ事業推進(経営・商品開発・販売)を図ることが重要である。

(3)インフラ

 我が国のインフラ技術は品質が高いが、現地で必要とされるインフラに対してオーバースペックとなる傾向がある。特に差別化が図りにくい簡単な設備では、中国等が価格競争力を持つケースがある。

 今後は、我が国企業が比較優位を持つ分野を見極め、投資分野を選択してく必要がある。例えば、地熱発電用タービンの世界シェアの7割を誇る我が国地熱分野には競争力があり、ケニアでは多数の開発が進む他、今後周辺地域での開発も見込まれている。その他、新都市交通システム(ゆりかもめ方式)、海水淡水化等、高度インフラについては、我が国の先端技術を活かして他国との差別化が図れる市場であり、今後の有望な分野となり得る。

(4)資源開発

 天然資源の豊富なアフリカではあるが、近年の資源価格の下落により、投資回収が困難となるケースが出てきている。また現地政府による法律や制度の改正により不利益を受ける場合もある。その他にも、現地従業員の労働争議、資源開発により直接裨益しない地元住民から反対運動等が発生するケースもある。現地住民と信頼関係を築きながら、現地の雇用創出や技術移転に繋がる取組をあわせて実施することが必要である。

(5)農業

 アフリカでは引き続き人口増加に伴い、食料需要の増大が見込まれるが、農業生産性は高くはなく、現状は食料供給を輸入に頼るケースが多い。一方、我が国の農業の技術力は高く、アフリカが志向する生産性向上を支援する形での参入が検討できる。例えば、アフリカでは農業用肥料も輸入に頼る場合が多いが、我が国企業の中には、アフリカにおける今後の需要拡大を睨み肥料工場を建設する動きもある。肥料の国産化が実現できれば、農業の競争力強化や食料価格の引下げに繋がることも期待でき、こうした生産性における現地の能力向上に繋がる参入が重要である。

(6)医療

 人口増加が期待されるアフリカ諸国において、医療分野は今後大きく伸びていく市場である。他方、現時点においては、感染症対策・母子死亡率低下が課題であり、ビジネスよりもWHO、ODAによる支援と言った側面が強い。我が国企業が得意とするMRIやCTのマーケットがまだ小さく、高度機器を扱える人材が不足している。今後、相手国のニーズに合わせた低価格の製品開発に加え、我が国の強みであるMRI、CT等の検査機器を扱える人材育成支援など、ソフト面とのパッケージ化を含め、関係機関等への訴求を検討していくことが重要である。アフリカ側がODAに頼らず、政府・民間病院が自己資金で医療機器納入を行えるようになればビジネスのさらなる拡大が期待できる。

(7)ICT

 アフリカでは、テロ対策、犯罪対策の観点から、パブリックセーフティ分野でICT技術のニーズが高い。ICT技術による空港、港湾などの高度化は、物流、人の移動の効率化にも資する。他方でアジアに比べるとマーケットが小さく、初期投資がかかる大規模なものは難しい。我が国企業は、顔認証システム、指紋認証システムといったバイオメトリクス認証分野に強みを持ち、アフリカの国民IDシステムへの参入事例もある。

3.アフリカ市場の今後の方向性

 アフリカ市場については、様々な課題が存在するものの、将来性は高く、市場獲得の可能性を十分に秘めている。他方、前述した通り、小規模な市場の国が多いことから、個々の国の市場ではなく、より広域の地域的範囲で捉えていく必要がある。ECOWAS、EACといった地域では、地域レベルでの関税同盟や通貨統合などの経済統合を図る動きが見られており、そうした共同体の動向を留意する必要がある。その上で、我が国としては、将来性を踏まえたアフリカ重点国に対する投資協定の締結加速(締結済みはエジプト、モザンビーク)や、地域経済共同体をベースとしたアフリカ諸国間の通商ルールの整備への支援を検討することが重要である。また、さらに視点を広げ、ASEAN・インドからアフリカへの輸出拡大など、アジアも含めた広域な経済圏構想も見据えた検討も必要である。

 中長期的な視野においては、資源価格の影響を受けない産業多角化が重要であり、都市、物流インフラ整備や人材育成、労働コストの抑制等を通じて、製造業が発達し、資源輸出国などに代表されるようなモノカルチャー経済からの脱却を進めることが重要でなる。また、そのための基盤となる食料・農業分野の生産性改善や、感染症対策などの保健衛生の改善も併せて対応していく必要がある。我が国としては、ODAや政府系金融機関を活用した資源開発投資やインフラ開発、農業発展を図りつつ、産業多角化に向け、ジェトロ事務所等のネットワークを活用した投資促進支援を図ることが重要である。我が国企業の進出に際しては、既にアフリカに進出するインドや欧州系企業も多数あり、そうした第三国企業との連携も視野に入れた展開が期待される。

 TICADなどをはじめとした国際会議の進捗については、第3部第2章第2節にて記載しており、詳細についてはそちらを参照されたい。

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