経済産業省
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1.力強い経済成長に向けた国際的な議論

 先進国では世界経済危機以降、総需要が不足している状態が継続している。第1部において指摘したとおり、OECD加盟国における2016年の実質GDPは、潜在的な産出量を示す「潜在GDP」を1.2%下回る水準に留まることが予測されている1

 このことから、国際機関の報告書等からは、需要支援と構造改革の組み合わせが求められており、金融政策・財政政策・構造改革の3つのレベルの政策をより積極的に行い、より強固で持続的な成長を促す必要性も指摘されている。

 国際通貨基金(IMF)が2016年1月19日に発表した「世界経済見通し改訂見通し~抑制された需要、低下した見通し~2」によれば、2016年の世界経済成長率を3.4%と前回予測の3.6%から下方修正した上で、「先進国・地域では、産出量ギャップが徐々に縮小するなか、緩やかでばらついた回復が続くだろう。新興市場及び途上国・地域の状況は異なるが多くの場合困難である。」と評価している。

 その上で、優先的な政策課題に関しては、「再度成長の回復見通しがそれまでの予測より弱くリスクバランスが依然として下方に偏っているなか、需要支援と構造改革を組み合わせて行うことで、実際の総産出量と潜在GDPの双方を引上げることが、ますます喫緊の課題となっている」と述べている。その中でも先進国・地域については、「緩和的な金融政策が依然として不可欠である」とした上で、「状況が許すところでは、短期的財政政策は、特に将来の生産資本を強化するような投資を通し回復を一段と支援すべきである。財政の不均衡により財政健全化が必要な場合、これは成長に寄与し公正なものであるべきである」としている。構造改革についても、「構造改革を通し潜在GDPを促進する努力が依然として重要である」と述べているほか、4月に公表した「世界経済見通し3」では、特に先進国における構造改革の可能性について分析しており、「製品・労働市場改革は、中期的に多くの先進国・地域で成長及び雇用を促進する可能性がある」と指摘している。

 続いてOECDが2月18日に公表した「中間経済見通し~世界経済の成長見通しは不透明、早急な政策対応が求められる~4」では、2016年の世界経済成長率を過去5年間で最も低い3.0%に前回予測5から0.3%下方修正した上で、需要を強化するためにより強力な共同の政策対応が求められており、金融政策・財政政策・構造改革の3つのレベルの政策をより積極的に行い、より強固で持続的な成長を喚起することが必要であるとしている。

 具体的には、これまでの経験からすると、金融政策のみに依存することは満足のいく成長をもたらすためには不十分であり、財政政策及び構造改革がより求められているとしている。ただし中国については、財政出動が安定的な消費主導型の成長への移行を促すものでなければならないと述べている。

 また、近年の新興国における債務拡大について、金融市場のボラティリティを高める可能性があるとの指摘もある。4月4日にIMFが公表した「国際金融安定性報告書6」では、「この20年の間、新興市場国の貿易と金融における世界経済と国際金融市場への統合は大きく進んだ。この結果、新興国で生じたショックが先進国や他の新興国の株価や為替レートに強い影響を与えるようになり、今や、これらの市場での価格変動の三分の一以上が新興国でのショックに起因している。」と前置きしつつ、「企業借入と投資信託がショックを増幅させていく重要な経路になっていることから、こうした経路を通じたシステミックなリスクを封じ込めるため、マクロプルーデンスの観点からの監視と政策の強化が重要である」と指摘している。

1 OECDの試算によると、2016年のOECD加盟国の名目GDPは52.9兆ドルとなる予測であることから、潜在的な産出量とのギャップは概ね約6,300億ドルに相当すると考えられる。

2 IMF (2016), World Economic Outlook Update: Subdued Demand, Diminished Prospects, January 2016, International Monetary Fundからの引用。括弧内はIMFが作成した同報告書の日本語版からの引用。

3 IMF (2016), World Economic Outlook, April 2016, IMF

4 OECD (2016), Stronger growth remains elusive: Urgent policy response is needed, Interim Economic Outlook, February 2016, OECDからの引用。括弧内の邦訳はOECDが作成した日本語版プレスリリースから直接引用した部分。

5 OECD (2015), Moving forward in difficult times, OECD Economic Outlook, November 2015, OECD

6 IMF (2016), Global Financial Stability Report: Potential Policies for a Successful Normalization, April 2016, IMF

2.経済成長・構造改革に向けたG7/G20での議論

(1) G7エルマウ・サミット(2015年6月)

 こうした国際的な論調を受けて、G7やG20といった国際場裏においても、世界的な政策協調の必要性について議論されている。2015年6月にドイツ・エルマウで開催されたG7サミットの首脳宣言7では、前回会合時8よりも世界経済の回復は進展しているものの、「強固で持続可能かつ均衡ある成長という我々の目標を達成するため更なる取組が必要である。G7全体としての失業率は、近年大幅に低下しているものの、依然として高すぎる水準にある。また、長期化した低インフレ、弱い投資及び需要、高水準の公的及び民間の債務、内外の不均衡の継続、地政学的緊張並びに金融市場の変動などの課題も残っている。」との認識が示されている。

 その上で、「G7諸国が今後長年にわたり技術の先端領域で活動することを確保するため、我々は、教育及びイノベーションの促進、知的財産権の保護、特に中小企業のための、ビジネスに配慮した環境の整備を通じた民間投資への支援、適切な水準の公共投資の確保、民間部門と協力した効果的な資金の動員によりインフラ不足に対処するための質の高いインフラ投資の促進並びに野心的な構造改革の更なる実施による生産性の向上により成長を促進する」との決意が示されている。

7 Leaders’ Declaration, G7 Summit, 7-8 June 2015

8 2014年のG7サミットは6月にブリュッセルで開催された。

(2) G20アンタルヤ・サミット(2015年11月)

 次いで2015年11月にトルコ・アンタルヤで開催されたG20サミット(金融・世界経済に関する首脳会合)の首脳宣言9においては、「世界的な需要の不足及び構造的な課題は実際の及び潜在的な成長に負荷を与え続けている」とした上で、「需要を支える措置」と「実際の及び潜在的な成長を引上げ、雇用を創出し、包摂性を促進し、及び不平等を減らすための構造改革」が最優先事項であるとの認識が示された。

 この認識の下、G20全体のGDPの水準を2018年までに追加的に2%以上引上げる10ための取組に関し、各国の個別のマクロ経済政策や成長戦略の現状と今後の計画を記載した「アンタルヤ行動計画11」が採択された。本行動計画は「1.我々の包括的な成長戦略の適時かつ完全な実行」「2.世界的な投資の減速を背景とした国別投資戦略の策定」「3.より包摂的な世界経済の成長の促進」の主に3つの要素からなっており、世界経済の課題を克服するという決意が示されている。

9、10 G20 Leaders’ Communiqué, Antalya Summit, 15-16 November 2015

11 Antalya Action Plan, Antalya Summit, 15-16 November 2015

(3) G20財務大臣・中央銀行総裁会議(2016年2月、4月)

 2016年9月に開催予定の杭州G20サミットに先立ち、本年2月および4月にG20財務大臣・中央銀行総裁会議が開催された。

 2月の同会議の声明においては、「我々は全ての政策手段-金融、財政及び構造政策-を個別にまた総合的に用いる」ことや「経済成長を実現することの重要性、及び、生産性と潜在成長を高めるために構造改革」が重要との認識が示され、その上で、「潜在的なリスクへの対応力をより高めるべく、我々は引き続き、成長と安定を支えるためにG20諸国が必要に応じとり得る政策オプションにつき追求する」と表明されている。

 具体的には、2016年においては「国別の改定成長戦略の実施を優先課題とし、特に重点を置く。過去の国別のコミットメントに基づき、我々は、G20諸国が改革に取り組む際に参照するものとしての一連の優先課題と原則の策定や、国ごとの状況の多様性を考慮した上で構造改革の進捗及び構造的課題への取組みの妥当性の評価や監視を更に改善するためのインディケーターシステムの作成を含め、構造改革アジェンダを更に強化する」予定である旨が示されている。

 また、4月の同会議の声明においては、2月の会合に引き続き「全ての政策手段-金融、財政及び構造政策-を個別にまたは総合的に用いる」ことを再確認するとともに、「政策に関する不確実性を軽減し、負の波及効果を最小化し、透明性を向上させるために、マクロ経済及び構造問題に関する我々の政策行動を注意深く測定し、明確にコミュニケーションを行う」こととする。

(4) G7伊勢志摩サミット(2016年5月)

 2016年5月のG7伊勢志摩サミットでは、不透明さを増す現下の世界経済情勢を踏まえ、「強固で、持続可能な、かつ、均衡ある成長の達成に貢献するための対応」として、「G7伊勢志摩経済イニシアティブ」に合意した。その中においては、世界経済、移民及び難民、貿易、インフラ、保健、女性、サイバー、腐敗対策、気候、エネルギーといった分野における具体的な行動について、G7各国のコミットメントが取りまとめられた。

 世界経済については、首脳宣言において、「強固で、持続可能な、かつ、均衡ある成長を達成するための、我々の取組を強化することに対する3本の矢のアプローチ、すなわち相互補完的な財政、金融及び構造政策の重要な役割」が再確認された。また、「財政戦略を機動的に実施し、及び構造政策を果断に進めることに関し、G7が協力して取組を強化することの重要性」について合意がなされた。加えて、「適切な水準の公共投資を確保することを意図するとともに、民間部門との連携による資源の効果的な動員によることを含め、不足に対処するための質の高いインフラ投資を促進する」とともに、「環境、エネルギー、デジタル・エコノミー、人材育成、教育、科学及び技術など、経済成長に資する分野への更なる投資にコミットする」として、G7としての具体的な投資分野例の明示がなされた。

 鉄鋼等の過剰供給能力問題については、首脳宣言において、「特に鉄鋼の世界規模での過剰生産能力が、我々の経済、貿易及び労働者に与える負の影響を認識する。特に、我々は、海外へ生産能力を拡大するために与えられる支援を含め、市場を歪曲し、世界規模の過剰生産能力を助長する、政府及び政府によって支援された機関による補助金その他の支援について懸念している」と明記された。その上で、「このような補助金等の支援を特定し、その排除を求める協調的な行動によることを含め、市場機能を向上させること及び調整を奨励することによってこの問題に対処する措置をとるにあたり、速やかに行動することにコミットしている。この点に関し、我々はOECDその他のフォーラムなどの場を活用しつつ、他の主要な生産国と協議するとともに、必要に応じ、かつWTOルールの規則及び規律と整合的な形で、我々の権利を行使するための広範な貿易政策上の措置及び行動を検討する用意がある。」と表明がなされた。

 サイバーについては、首脳宣言において、「プライバシー及びデータの保護やサイバーセキュリティを尊重しつつ、インターネットの開放性、透明性及び自由を確保するため、情報の自由な流通及びデジタル・エコノミーの全ての主体によるサイバー空間への公平かつ平等なアクセスを促進することにコミットする」として、不当なデータ・ローカライゼーション要求やソースコードへのアクセス又はその移転を求める一般的に適用される政策に反対する旨を含む、「サイバーに関するG7の原則と行動」が支持された。

 このほかにも、首脳宣言で、「質の高いインフラ投資の推進のためのG7伊勢志摩原則」に支持がなされるとともに、さらに、「国際開発金融機関(MDBs)を含む関連するステークホルダーに対し、それら機関のインフラ投資及び支援を同原則に沿ったものにすることの奨励」がなされた。また、「現在のエネルギー価格水準によって増大する不確実性に直面し、エネルギー投資、特に質の高いエネルギー・インフラ及び継続的な上流開発における投資の促進において、主導的役割を果たすことにコミットする」とされた。

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