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- 概要 Ⅰ 世界経済編
Ⅰ 世界経済編
第1章 世界経済動向
- 2016年の世界の実質GDP成長率は、前年比で+3.1%と緩やかな回復を維持したが、2008年の世界経済危機以降の8年間で2番目に低い伸び率となるなど、世界経済は全体として回復基調にあるが、回復のペースは緩慢なものとなっている。
- 2017年の世界経済は、2016年後半以降の持ち直しのモメンタムは維持されるものの、国際通貨基金(IMF)は、世界のGDP成長率を2017年+3.5%、2018年+3.6%と予測している。世界経済の見通しのリスクは中期的には下振れ方向に偏っている。主要国の潜在成長率の低下や世界貿易・投資の停滞、所得格差の拡大等の構造的問題により下振れ圧力が強く、加えて、保護主義圧力の高まりや、予想より急激な世界金融環境の引締めによる新興国への影響、中東やアジア等の地政学上の緊張等のリスクにも一層の注視が必要となっている。
- 2016年の世界の財貿易額は31兆9,128億ドルで前年比▲3.8%と2年連続で減少した。2012年に世界の貿易量の伸び率が実質GDP伸び率を下回って以降、その状態が5年間継続しており、IMF、WTO等の国際機関では「スロー・トレード」と呼んでいる。世界貿易額の伸び率鈍化の要因として、①世界的な成長率の鈍化、②2011年以降の原油価格の下落、③新興国の中間財国内生産化が挙げられる。
- 財・サービス収支名目GDP比と名目GDP成長率の関係について、大幅な財・サービス貿易赤字額を計上している国が、必ずしも低成長に陥るとは限らない。また、財・サービス収支黒字国であっても低成長になっている国もある一方で財・サービス収支赤字国であっても中成長となっている国が存在し、財・サービス収支が黒字か赤字かと経済成長率がどう決まるかは別の問題である。他方、経済成長率との関係では、収支額より貿易額の増加が比較的高い相関性を持つと考えられる。
第2章 欧米経済動向
- 米国は7年以上にわたる景気回復期にあり、労働市場は力強く推移し、経済活動は緩やかに拡大している。新政権が打ち出すインフラ投資、税制改正等の財政政策は経済成長を押し上げる可能性がある一方で、今後明らかになる具体的な内容次第では経済の下振れ要因となるリスクもある。新政権の各種政策が今後どのように具体化されていくのか、またそれらが内外に及ぼす影響が注目されている。
- また、金融政策においてはFF金利の引上げ、バランスシート縮小などが見込まれているが、これらの動きが為替、株価、内外景気等に影響を与える可能性もある。
- 米国の2015年の実質家計所得(中央値)は前年比5.2%増となり、前回の景気後退以降の最高値を記録したものの、階層別に見ていくと高所得層ほど所得の伸び率が高く、格差拡大が進んでおり、景気回復の実感に乏しい人々が一部に残されていることが考えられる。
- 業種別職種別で賃金水準と雇用規模についてみると、高賃金業種・職種ほど賃金水準の伸び率は高いが、雇用の増加幅は小さく、反対に低賃金業種(娯楽・ホスピタリティ等)・職種は相対的に賃金水準の伸びが小さいが、雇用の吸収力は高いという所得と雇用の二極化の動きがみられる。
- 製造業の雇用は減少しつつも付加価値額は増加を続けていることから、米国の製造業が生産性を高め続けていることが分かるが、そのシェアは低下傾向にあり、製造業を除く米国経済の成長ペースはより速いといえる。伝統的に製造業が集積している五大湖地域にあっても、雇用及び付加価値額については全国と同様の動きが見られる。
- 2016年6月に国民投票でEU離脱が決定された英国経済は、投票直後にはポンドと株価が大きく下落したものの、英国銀行による事前・事後の対応が奏功したこともあり、金融市場及び実体経済への影響は抑制された。欧州委員会の見通しによれば、2017年から2018年にかけて、ポンド下落により輸出は好調なものの、個人消費の伸びの減速と不透明感による設備投資の伸び悩みを背景として、実質GDP成長率はやや鈍化すると見られている。
- EU離脱支持者が残留支持者を上回った理由としては、移民の流入による影響が挙げられる。英国における移民は増加傾向にあり、特にEU域内からの移民が2004年のEU拡大以降伸びている。移民による経済効果としては、高度な技術・技能を有する人材を受け入れることができれば、受入国の経済成長を促進し、自国労働者の社会保障負担を軽減するなどよい影響をもたらすことが多くの研究で確認されている一方、近年では賃金水準が低い東欧出身の労働者の拡大等を背景に英国全体の賃金を押し下げているとの調査結果も出ている。
- 欧州が抱える大きなリスクの1つとしては金融リスクが挙げられる。世界銀行のデータベースによれば、不良債権比率の世界平均は2016年時点で3.91%であるが、欧州の多くの銀行が平均値を超えており、特にイタリアの銀行はモンテパスキ(45.1%)をはじめとして世界の平均を大幅に超えている銀行が多い。
第3章 中国経済動向
- 2016年の実質GDP成長率は、前年より低下して6.7%となった。その寄与度を前年と比較すると、純輸出がマイナス幅を拡大させるなど内需中心の成長であり、内需の中では、投資の寄与が縮小し、消費の寄与が拡大するなど、投資から消費への転換の動きも見られる。
- 中国経済の持続的な発展のためには、様々な構造問題を克服していく必要が指摘されているが、その中でも特にいくつかのリスク要因に高い注目が集まっている。過剰生産能力問題については政府は鉄鋼と石炭に注目し、削減目標を設定して過剰設備の解消に努める方針を公表し、2016年の目標は達成され、2017年の目標が公表されている。しかし、生産能力が削減される一方で実際の生産量は再び拡大する兆しも見え、仮に需要を越えた生産の伸びが加速していけば再び過剰生産が拡大する可能性もある。
- 中国の非金融企業の債務が、我が国のバブル崩壊後のピークを越える水準まで急速に拡大しており、その債務の返済可能性、不良債権問題に懸念が高まっている。中国政府統計による不良債権の数字は必ずしも正確に評価していないとの指摘もあり、さらに政府統計に含まれず高リスク商品が多いといわれているシャドーバンキング部分に係る債務についても急速に拡大している。
- 中国の不動産を巡っては、沿海部大都市等を中心に価格が上昇し、過熱からバブルが懸念されている。その一方で、経済不振地域を中心に住宅の過剰在庫問題も併存している。
第4章 その他新興国経済動向
- インド、フィリピン、ベトナムの3国は、近年高い成長率を示しているが、各国の成長要因を調べると、内需の強さ、サービス業の堅調さ、資源依存度が相対的に低いこと、対米国の貿易黒字と対中国の貿易赤字の拡大、海外労働者送金の大きな役割等、共通点を抽出することができる。
- 中南米経済は、主要な輸出品である一次産品価格の下落や世界経済の減速に伴い、他の新興・途上国と同様に成長が低迷しているが、資源価格の回復等に伴い、今後は緩やかに回復していくと見込まれている。IMFは中南米地域の経済成長率について、2016年の-1.0%から2017年は+1.1%、2018年は2.0%とプラス成長に転じると見込んでいる。
- ロシア経済は、緩やかな回復基調にある。2014 年7月以降のウクライナ危機発生及びクリミア併合に伴う欧米からの経済制裁に加え、2015年以降、原油価格の下落を主因として、ロシア経済はマイナス成長で推移した。しかし、その後の原油価格の上昇を追い風として、2016年10-12月期に前年比+0.3%と8期ぶりにマイナス成長を脱した。IMFの見通しによれば、2017、2018年は引き続きプラス成長で推移することが見込まれている。
- トルコ経済は、2012年から2016年にかけて年率平均5.5%と世界的に見ても高い成長率が長期的に継続している。2016年後半はトルコリラの下落が大きな打撃を与えたものの、中央銀行の利上げや原油価格が比較的低いレンジを推移したため、深刻な事態に陥ることはなく、現在回復基調にあり、徐々に持ち直しつつある。
- サウジアラビアの輸出額の8割が原油である。ひとたび資源価格が下落すると経済も悪化しやすい傾向がある。鉱物資源燃料に依存した経済構造からの脱却と共に、自国内での石油精製設備に加えて石油産業以外の製造業の発展やインフラ整備など、自国産業の育成・多角化を外国資本企業等の協力を得ながら促進させることが課題である。
- アフリカは世界最後のフロンティア市場と呼ばれ、多くの国が投資先として注目している。他方で、格差問題や資源輸出に依存しているため、南アフリカ、ナイジェリアをはじめとしてアフリカの多くの国では資源価格の下落によって財政収支が悪化する傾向があるなどの課題もあり、リスクを抱えている地域である。