経済産業省
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Ⅱ 分析編

第1章 持続可能なグローバル化に向けた分析

  • 自由貿易は経済のパイを拡大させるのみでなく、消費者にとっては購買力向上、生産者にとっては生産性の向上、というマクロ及びミクロ経済面でのメリットがある。
  • 近年、米国を中心として先進国では格差拡大を背景としてグローバル化への不満が台頭している。「貿易が格差を拡大しているのではないか」との主張に対しては、IMFやOECDの分析を参考に分析を行ったところ「所得格差は技術革新によるところが大きい」こと、また、「貿易は労働政策、教育政策と並び格差縮小に寄与する」との調査結果を得た。
  • 他方、自由貿易が格差の要因でないとしても、現実に不安・不満を抱えている人達の理解を得るためには、格差縮小に寄与すると思われる労働政策、教育政策等を適切に組み合わせていくことで多くの人が貿易のメリットを得ることが可能な仕組みを構築していくことが必要である。
  • 我が国の製造業雇用に対する貿易の影響は、都道府県別労働者一人当たり輸出額変化及び輸入額変化はいずれも製造業雇用の変化に対して統計的に有意なプラスの効果を持っていたことが明らかになった。

第2章 我が国の通商政策の方向性(21世紀型の通商政策)

  • ICTや貿易自由化等によりグローバルバリューチェーン(GVC)の飛躍的発展(製造工程のアンバンドル化とスマイルカーブの変形)、「自由貿易」への疑念の深まりとそれを克服すべきという強い世論の登場、新々貿易理論(政策的支援次第では非輸出企業が輸出企業に転化する可能性を示唆)が示すグローバル活動への参入支援ニーズの高まり等を受けて、21世紀型の通商政策が強く求められている。
  • こうした変化に対応すべく、ヒトモノカネ情報の自由な流通とグローバル経済への参加の裾野を広げる通商政策を推進することが重要。「質の高い通商ルール」に基づいた通商システムを世界に広げていく。
  • 「21世紀型の通商政策」は、①イノベーションを支え、②インクルーシブな成長を志向。

第3章 イノベーションを生み出す新たな産業社会の創造に向けた取り組み

  • 我が国経済の活性化と持続的成長に向けて、グローバル企業の収益力向上を促すことが必要である。日本は欧米と比べ、価格決定力(付加価値デフレータ:製品差別化力やブランド力を示す)の悪化が顕著である。欧米企業に比べ、我が国企業が価格競争力に巻き込まれている可能性がある。
  • 我が国は生産性上昇率が高い産業ほど雇用者数成長率が低くなる傾向にあり、ボーモル効果が生じている。そして、製造業、非製造業を問わず、ほとんどの産業が、生産性は上昇しているが雇用者数は減少しており、生産性と雇用のいずれも伸ばしている産業は機械・装置、輸送機械、不動産、通信及び卸売の5業種しかないのに対し、米国(13業種)や独(18業種)では我が国と比べてはるかに多くの産業が生産性と雇用のいずれも伸ばしていることが見て取れる。
  • 今後、我が国企業の収益力を高め、雇用を拡大し、経済成長を実現するためには、人的資本投資を強化し、イノベーションを実現し、過当競争に巻き込まれない価格決定力の高い差別化された製品、サービスで、国内市場に留まらずグローバルな市場を開拓していくことが重要である。そして、企業収益力の改善を経済成長に結び付けるためには、ボーモル効果の発生を抑制して雇用拡大につながっている研究開発などへの投資や輸出の促進が必要となる。
  • 第4次産業革命という技術革新をきっかけとする革命を、サイバー空間とフィジカル空間が高度に融合し、人々が快適で活力に満ちた質の高い生活を送ることのできる、人間中心の超スマート社会、「Society 5.0」へとつなげていくためには、産業のあり方を変革していく必要がある。我が国はデータ、技術、人、組織等が様々なもの・ことのつながりによって新たな付加価値創出と社会課題解決がもたらされるような産業のあり方である「Connected Industries」を目指す。
  • こうした新たな産業社会に実現に向けて、通商政策の観点からは、3つの課題がある。1つ目は、第4次産業革命の中で個人がより人材として能力・スキルを絶え間なく向上させていくこと、人的投資を個人レベル、企業レベルさらに社会レベルでのシステムを構築していく必要がある。2つ目は個人と個人、企業と企業あるいは産業と産業間の交流を促進してイノベーション創出力を高めるためにオープン・イノベーションに向けた取組が重要となってくる。さらに3つ目として、より高度な知識・経験を持った人材や企業を日本国内に取り組むため、内なる国際化として高度人材の受入や対内直接投資拡大のさらに進めていく必要がある。

第4章 我が国のインクルーシブな成長に向けた取り組みの強化

  • 中堅・中小企業の直接輸出額は、新興国経済の拡大等を背景に2000年代前半に大きく増加した。2008年の世界経済危機により一旦落ち込んだものの、世界経済の回復等を背景に、2014年にかけて再び増加している。
  • 他方、中小企業による輸出は伸びているものの、英独仏と比べて中小企業の輸出割合は低い。引き続き直接輸出の促進を図るとともに、中小企業が海外市場にアクセスする際のハードルを引き下げ、外需から持続的に稼ぐことが期待される。
  • 我が国においては、直接輸出企業は5%と少ないが、間接輸出企業は企業数ベースで日本企業全体の約4割、付加価値の半分を占める。
  • 間接輸出企業についても、直接輸出企業と同様に、多くの企業が売上げだけでなく経常利益に貢献したことがアンケート調査結果で明らかになった。
  • 間接輸出の立ち上げの際の課題としては、海外顧客ニーズの把握と並び、販売力のある仲介企業の確保を挙げる企業が多いが、海外販路に強みを有する企業は、卸事業を行う企業のうち一部に限られる。従って、間接輸出をさらに拡大していくためには、卸企業とのマッチングや地域商社の輸出機能強化が重要である。
  • また、越境eコマースは、海外顧客へのアクセスが容易といったメリットがある一方で、決済システムの信頼性、商品配送に係リスクなどの課題も多い。

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