経済産業省
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第1節 新産業構造ビジョン

1.第4次産業革命のインパクト

IoT・ビッグデータ・ロボット・人工知能等による変革は、従来にないスピードとインパクトで進行している。この変革の状況にあって、「日本再興戦略」改訂2015(平成27年6月30日閣議決定)においては、民間が時機を失うことなく的確な投資を行い、また、国がそれを促し加速するためのルールの整備・変更を遅滞なく講じていくための、羅針盤となる官民共有の「ビジョン」の必要性が示された。これに基づき、2015年8月、経済産業省は、産業構造審議会に「新産業構造部会」(部会長伊藤元重東京大学教授)を設置し、関係省庁と一体となって、IoT・ビッグデータ・ロボット・人工知能がもたらす変革の姿(産業構造、就業構造、経済社会システムの変革)と、官民が行うべき対応について時間軸を含めて検討を進めている。

2.第4次産業革命に直面する我が国の現状と課題

IoT・ビッグデータ・ロボット・人工知能等による技術革新が、第4次産業革命とも呼ぶべき大変革をもたらしている。第4次産業革命の中で、新たに大量の「データ」を取得し、分析し、それを用いることが可能になっている。「データ」とビジネスが結びつくことで、情報制約や物理制約が克服され、①革新的な製品・サービスの創出(需要面における変革)、②供給効率性の飛躍的向上(供給面における変革)が起きる可能性がある。すなわち、あらゆる産業において、需要・供給の両面から、破壊的なイノベーションを通じた新たな価値が創出される可能性がある。

このように価値の源泉が「データ」にシフトしていくと、「データ」との接点やその利活用を巡って将来にわたる事業拡大期待を形成する競争が激化する。こうした事業拡大期待がグローバルに資金を惹き付けることで、競争の規模とスピードが加速度的に拡大し、こうした動きにいち早く対応した者が勝利する「スピード勝負」の世界に突入する。実際、海外では、GEやシーメンスといった従来型の製造業事業者から、グーグルやアマゾンといったIT系の新興勢力まで、軒並み第4次産業革命分野に積極的に展開しており、待ったなしの状況となっている。

また、「データ」を起点とした新たな価値の創出の結果、従来の業種の壁が崩壊し、広範なプレイヤーを巻き込んだ産業構造及び就業構造の変革が起きると考えられる。さらには、社会、企業、個人の各レベルで、予見が極めて難しいほど急激で大幅な経済社会システム全体の変革へと繋がる可能性がある。

3.日本が抱える社会的・構造的課題

我が国は、潜在成長率の長期低迷、少子高齢化、人口減少、労働供給制約といった様々な社会的・構造的課題に直面している。ロボットや人工知能が労働力不足を補ったり高齢者の生活をサポートしたりする、といった具合に、第4次産業革命は、こうした社会的・構造的課題を解決する可能性を秘めている。その一方で、我が国がこの世界的潮流に乗り遅れれば、グローバル経済における競争力を失うだけでなく、これらの社会的・構造的課題の解決のチャンスを失い、我が国社会の持続可能性自体をも危うくする可能性がある。したがって、我が国は、第4次産業革命において世界をリードし、我が国経済の競争力強化と、社会的構造的課題解決の同時達成を実現させていかなければならない。

これらの状況を踏まえ、我が国が目指す産業の在り方として、「Connected Industries」のコンセプトを世界に向けて発信している。これは、従来ともすると独立あるいは対立関係にあったモノとモノ(IoT)、人と機械・システム、人と技術、異なる産業に属する企業と企業、世代を超えた人と人、製造者と消費者など、様々なものがつながることで、新たな付加価値を創出し、社会課題を解決していくような産業のあり方であり、この実現に向けて具体的な取組を進めていく必要がある。

4.我が国の戦略

我が国が第4次産業革命に的確に対応していくためには、まず、第4次産業革命を我が国企業が勝ち抜くための官民戦略を構築することが必要である。すなわち、第4次産業革命で競争優位を獲得していくためには、「データ」と自らのビジネスの「強み」を戦略的に結び付け、グローバル、スピーディかつ適切なオープン・クローズを明確にしたビジネスモデルを構築することが必要であり、政府もそのための支援を行っていく必要がある。「データ」の中でも、ウェブ(検索等)、SNS等のネット空間での活動から生じる「バーチャルデータ」については、海外のIT系企業が極めて優勢となっている。そのため、今後は、健康情報、走行データ、製品の稼働状況等、個人・企業の実世界での活動についてセンサー等により取得される「リアルデータ」をいかに集め、活用していくかが勝負の鍵となろう。

同時に、第4次産業革命に対応していくためには、急激かつ予見が難しい変革に対して、柔軟に対応可能となるよう経済社会システムの設計思想を大胆に転換し再設計していくことが世界的に必要となる。我が国としては、こうした世界の激動に対して、課題先進国であることをむしろチャンスと捉え、世界を主導しつつ国益を確保するという観点から、先見的にこの経済社会システムの再設計に取り組むことが必要である。この際には、従来の漸進的かつ連続的なイノベーションを前提とする安定を重視した「剛構造」の産業構造・就業構造ではなく、破壊的なイノベーションを前提とする多様なチャレンジが次々と生み出され新陳代謝が活発に行われるような、「柔構造」の産業構造・就業構造を構築することが重要である。

こうした観点から、新産業構造部会では、2016年4月、「中間整理」を行い、第4次産業革命に向けて、データ利活用促進、人材育成、イノベーション・技術開発の加速化、産業構造・就業構造転換の円滑化、横断的な制度・ルールの高度化等について、中長期を見据えた政策の方向性及び当面、直ちに取るべき施策について取りまとめている。その後、2016年9月に議論を再開し、第4次産業革命をリードする戦略分野を特定し、あるべき将来像から逆算した官民のロードマップを策定するとともに、産業構造・就業構造の転換に対応した新たな経済社会システムの在り方についても提示すべく、検討を進めている。

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