第5節 内なるグローバル化の推進
この節では内なるグローバル化を促進させていくために我が国が行っている施策の中でも、対内直接投資に関して説明していく。
1.対内直接投資の意義
対内直接投資の拡大は、経営ノウハウや技術、人材などの外国企業の高度な経営資源が流入することにより、我が国における生産性の向上や雇用や新規産業の創出に資するものである。
また、外国化粧品メーカーと我が国中堅・中小企業が提携して化粧品用顔料を共同開発し、グローバル市場に展開した例があるなど、外国企業と提携することによって、我が国中堅・中小企業の海外販路拡大等にも資する。
加えて、北海道ニセコへの豪州企業の投資に伴う外国人観光客の急増等、対内直接投資は、地域経済の活性化、地方創生の観点からも重要である。
2.対内直接投資の現状
我が国の対内直接投資残高は諸外国に比べて著しく低い水準にとどまっている。「対内直接投資残高の対GDP比」という指標で見ると、日本は世界198ヶ国・地域中189位であり、下位に並んでいるのはネパール、ブルンジ、イエメン、北朝鮮、パレスチナといった国のみである。最近では、2016年末時点で27.8兆円、対GDP比でも5.2%と上昇傾向にあるが、依然として低い水準にある(第Ⅲ-4-5-1図、第Ⅲ-4-5-2図)。
第Ⅲ-4-5-1図 対内直接投資残高対GDP比率(2015年末)
第Ⅲ-4-5-2図 対日直接投資残高と対GDP比率の推移
また、経済産業省の調査では、外資系企業の本社は約7割が東京都に、それ以外も大多数が三大都市圏に立地している。生産拠点や研究開発拠点については地方への立地も少なくないことから、今後、既に我が国に進出済みの外資系企業の拡大投資に大きな可能性があると考えられる。
我が国における対内投資促進の中核機関である独立行政法人日本貿易振興機構(以下、「JETRO」という)の2016年度の対日投資事業は1,775件に対する支援、174件(うち大型件数21件)の誘致を達成している。2014年度実績は支援856件、誘致109件、2015年度実績は支援1,617件、誘致160件であり、確実に上昇している(第Ⅲ-4-5-3図)。
第Ⅲ-4-5-3図 JETRO対日投資事業実績の推移
3.政府目標
「日本再興戦略」(平成25年6月14日閣議決定)において、「2020年における対内直接投資残高を35兆円へ倍増(2012年末時点17.8兆円)することを目指す」との政府目標を決定した。2016年末時点で、我が国の対内直接投資残高は27.8兆円と上昇しているが、政府目標達成には更なる対日直接投資を促進していく必要がある。
JETROは、国内外ネットワークを活用して、オープンイノベーションの推進や地域経済の活性化に資する対内直接投資促進に向けた取組を一層強化・推進していくため、2015年度から2018年度の中期目標として、誘致成功件数470件以上(うち大型等特定誘致案件60件以上)の達成を目指すこととしている。
4.具体的な取組
2014年より、対内直接投資を推進するため、投資案件の発掘・誘致活動の司令塔機能を担うとともに、必要な制度改革等の実現に向けた関係大臣や関係会議の取組に資することを目的として、閣僚級の対日直接投資推進会議が開催されている。
2016年5月20日には、外国企業が日本でビジネスを行う際の障害となっている課題の解決に向けて、我が国の強みを活かして外国企業を呼び込む方策及び外国企業進出の障害となっている課題の解決方策を盛り込んだ「グローバル・ハブを目指した対日直接投資促進のための政策パッケージ」が対日直接投資推進会議で決定された。規制・行政手続の見直しや英語化対応の促進、高度外国人材を呼び込むための在留資格制度の見直しや、生活環境の整備、日本人への英語教育の強化等が盛り込まれている。また、こうした取組は「日本再興戦略2016」(2016年6月2日閣議決定)においても、対内直接投資の更なる促進として位置付けられている。
こうした方針を受け、具体的に以下のような対内直接投資の推進に向けた取組を実施している。
2016年5月、外国企業が日本で投資を行うに際して課題となる規制・行政手続の簡素化について具体的に検討し、関係府省庁等と調整することを目的として、対日直接投資推進会議の下に、規制・行政手続見直しワーキング・グループが設置された。外国企業や外国企業を支援している専門家等から指摘された規制や行政手続に関する課題や見直し策について議論を進め、2017年4月24日に「規制・行政手続見直しワーキング・グループとりまとめ」を取りまとめた。2017年5月10日に開催された対日直接投資推進会議においては、外国企業のビジネス上の課題等の継続的な解決に向けて、今後も取り組んでいくことなどが議論された。
また、外国企業が日本でビジネスを行うにあたっては、グローバル人材の確保が難しいことが課題とされる。高度な技術、知識を持った外国人材を我が国に惹きつけ、長期にわたり活躍してもらうためには、諸外国以上に魅力的な入国・在留管理制度を整備することが重要である。このため、2017年4月に、高度外国人材の永住許可申請に必要な在留期間を従来の5年から最短1年に大幅に短縮する「日本版高度外国人材グリーンカード」を創設するなど、入国・在留制度の見直しが実施されている。
2015年度のアジア地域への投資関心度調査において、日本はビジネス拠点タイプ別の投資魅力度で、「R&D拠点」と「販売拠点」について前回(2013年度)に続き1位を獲得した。こうした中、R&D拠点の設立に強みを持つ日本の特性を活かした研究開発部門の呼び込み支援を行うため、経済産業省にて、外資系企業を対象とした「グローバルイノベーション拠点設立等支援事業」(平成27年度補正予算)を実施した。この事業では、我が国企業や大学等と外資系企業が提携した先進的な取組を支援し、外国企業の研究開発による我が国企業等への技術移転や地域経済への裨益を促進した(第Ⅲ-4-5-4表)。
第Ⅲ-4-5-4表 欧米アジアの外国企業の対日投資関心度調査
外国企業の日本への誘致促進のため、ビジネス環境整備も引き続き実施している。例えば、安倍政権発足以降の3年間で、法人実効税率の7%超引き下げが実現し、20%台(29.97%)となった。今後、2018年度にはドイツ並みの水準になる見通しである。
外国企業への積極的な情報発信も実施している。安倍総理自らトップセールスを行い、「外国からの投資を歓迎している日本」とのポジティブなメッセージを発信している。2016年は、5月にブリュッセル、9月にニューヨークにおいて対日直接投資セミナー等を開催し、総理自ら日本への投資を呼び掛けた。
個別の外国企業への誘致活動も強化している。「外国企業の日本への誘致に向けた5つの約束」(2015年3月17日対日直接投資推進会議決定)に基づき、外国企業からの相談への対応を強化するために、副大臣を外国企業の相談相手とする「企業担当制」を実施している。我が国に重要な投資をした外国企業を公募し、9社を対象企業として選定した上で、担当副大臣との面談を実施している。
また、我が国における対内投資促進の中核機関であるJETROの誘致体制も抜本的に強化している。JETRO本部に新たに「外資系企業支援課」と「国別デスク」を設置するとともに、産業スペシャリストとして外部専門家を登用することで、海外での営業機能を強化している。また、対日直接投資の促進に関心を持つ地方公共団体に対して、JETROが、外国企業誘致戦略の策定、プロモーション、地方公共団体職員向けの研修事業等を実施し、地方公共団体による外国企業誘致に向けた取組を促進している。