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第2節 我が国の対外貿易投資の動向

1.財貿易の動向

(1)2017年の財貿易動向の概観

2017年の我が国の財貿易は、輸出入額ともに大きく拡大した年であった。本項では、2017年の我が国の貿易動向を国別、品目別にみていく。

2017年の財輸出入差引額は2兆9,072億円の黒字(輸出超過)であり、その収支額は、前年と比較すれば、▲1兆866億円と黒字幅が縮小した。黒字幅縮小の主な要因は、輸入額が輸出額を上回って拡大したことである。2017年の輸出額は78兆2,865億円、輸入額は75兆3,792億円となり、前年比で輸出額は+11.8%、輸入額+14.1%と二桁台の伸びとなった(第Ⅰ-1-2-1-1図、第Ⅰ-1-2-1-2図)。なお、2016年の財輸出入差引額は、6年ぶりの黒字転化ではあったものの、資源価格下落等による輸入額の減少が輸出額の減少を上回った結果もたらされたものであった。

第Ⅰ-1-2-1-1図 我が国の輸出入額の推移

第Ⅰ-1-2-1-2図 我が国の輸出入額の推移(前年比)

貿易収支額の変化を要因分解すると、2017年の収支増加要因は輸出価格の増加と輸出数量の増加であり、それぞれ4.4兆円、3.6兆円分の増加をもたらした。他方、収支の減少要因となったものは輸入価格の増加であり、7.0兆円分の減少をもたらした。輸入価格の増加理由の一つとして、2014年から大幅に下落を続けていた原油価格が4年ぶりに上昇した点が挙げられる(第Ⅰ-1-2-1-3図)。

第Ⅰ-1-2-1-3図 貿易収支変化の要因分解

(2)輸出の状況

続いて、2017年の我が国の輸出額増加要因に関して、前年と比較しながら国・地域別及び品目別に見ていく。国・地域別で見ると、2017年は中国を始めとするアジア向け輸出が+8.30%の寄与度となった。さらに、品目別では、一般機械が世界全体で前年比+2.96%の寄与度となっており、最も拡大した品目となった。国・地域と品目をクロスさせた場合、2017年の我が国の輸出額拡大に最も寄与したものはアジア向けの一般機械であることがわかり、特に中国向けの寄与が顕著である(第Ⅰ-1-2-1-4表)。

第Ⅰ-1-2-1-4表 国・品目別輸出額の寄与度(2016年→2017年)

2017年の我が国の中国向け輸出額は、14.9兆円と過去最高額となった(第Ⅰ-1-2-1-5図)。全体をけん引した品目は上述した一般機械であるが、その中でも特に半導体等製造装置の輸出拡大が顕著であった。半導体等製造装置の輸出価格は前年比▲1.4%と少々落ち込んだものの、金額では前年比+47.9%、数量では前年比+50.0%と大幅に拡大しており、金額、数量ともに5年連続で増加している(第Ⅰ-1-2-1-6図)。

第Ⅰ-1-2-1-5図 我が国の中国向け輸出金額の推移

第Ⅰ-1-2-1-6図 我が国の中国向け一般機械輸出金額の品目別寄与度と半導体等製造装置の輸出伸び率の推移

2000年代初頭、我が国の中国向け輸出は、一般機械と電気機器がけん引する形で拡大していた。これは2017年でも同様であるものの、それぞれの内訳となる品目は当時と現在で変化が見られる。中国向けの一般機械の輸出を見ると、2000年代前半は原動機や電算機類、金属加工機械など複数の品目によって伸びが支えられていたが、2007年以降になると急速に半導体等製造装置の寄与が拡大し、2017年では最大の寄与を示す品目である。また、中国向けの電気機器の輸出を見ると、2000年代前半は半導体等電子部品が電気機器の輸出拡大に大きく寄与していたものの、2008年の世界経済危機前後から、その伸びは徐々に緩やかになっている(第Ⅰ-1-2-1-7図)。

第Ⅰ-1-2-1-7図 我が国の中国向け一般機械・電気機器輸出金額の品目別寄与度推移(前年比)

半導体等製造装置と半導体等電子部品の輸出動向を輸出額で見ると、半導体等電子部品の輸出額は2010年からほぼ横ばいでの推移が続いている一方、半導体等製造装置は、2009年以降急激に拡大しており、2012年に一度下落したもののその後半導体等電子部品に迫る勢いで拡大を続けている(第Ⅰ-1-2-1-8図)。電気・電子機器産業において、我が国のグローバル・バリュー・チェーンにおける役割の変化の一端がうかがえる。

第Ⅰ-1-2-1-8図 我が国の中国向け半導体等製造装置、半導体等電子部品の輸出金額の推移

(3)輸入の状況

続いて、2017年の我が国の輸入状況について見ていく。上述したように、2017年の我が国の輸入額は、主に輸入価格の上昇によって前年比14.1%と大幅に回復し、輸出入差引額の減少をもたらした。本項では、前年と比較しながら2017年の輸入額の増加要因を見ていく。

2017年の我が国の輸入を国・品目別で見ると、輸入額の増加に最も寄与したものは前年比+2.55%の寄与度となった中東からの鉱物性燃料である。続いて、前年比+1.86%と寄与度は小さくなるが、アジアからの電気機器の輸入が好調であった(第Ⅰ-1-2-1-9表)。

第Ⅰ-1-2-1-9表 国・品目別輸入額の寄与度(2016年→2017年)

我が国の原油及び粗油の輸入を見ると、輸入額が前年比+29.3%となり4年ぶりに大幅なプラス転化となった。数量は▲4.0%と小幅な減少だったものの、価格が前年比+34.8%と大幅に上昇し、3年ぶりにプラス転化した。この原油価格の上昇が、輸出入差引額を減少させた輸入額上昇の主な要因である(第Ⅰ-1-2-1-10図)。

第Ⅰ-1-2-1-10図 我が国の原油及び粗油の輸入推移

原油価格は大きく回復しており、WTI原油先物価格を見ると、2017年は前年比+16.6%と4年ぶりに価格が上昇した。石油輸出国機構(OPEC)とロシア等の主要産油国が2017年1月から開始した原油の協調減産によって徐々に原油の供給量が減少したことに加え、中東の地政学的リスクの上昇等から世界的に原油価格が上昇した(第Ⅰ-1-2-1-11図)。

第Ⅰ-1-2-1-11図 WTI原油先物価格の前年比伸び率推移

また、我が国の国・地域別輸入額の伸び率への寄与度をみると、中東の寄与が前年比+2.64%と最大であったが、他の国・地域も大幅に回復しており、その中でも寄与が大きかった国・地域がアジア、特にASEAN(+4.51%)と中国(+4.34%)である(第Ⅰ-1-2-1-9表)。

ASEAN、中国ともに、我が国の輸入拡大に最も寄与した品目は電気機器であり、更に細かく電気機器の内訳品目を見ると、双方ともに通信機の寄与が最も大きかった。我が国のASEANからの品目別輸入額シェアを見ると、2000年当初は半導体等電子部品のシェアが40%以上を占めていたものの年々低下傾向にあるのに対し、2007年以降通信機と絶縁電線・絶縁ケーブルのシェアの拡大が著しい(第Ⅰ-1-2-1-12図)。

第Ⅰ-1-2-1-12図 我が国のASEANからの電気機器輸入額の品目別シェアと前年比伸び率寄与度の推移

続いて、我が国の中国からの品目別輸入額シェアを見ると、2000年当初は音響映像機器とその部品、工業用機械を含む重電機器の輸入が全体の半分以上を占めていた。しかし、2007年以降には、通信機のシェア拡大に伴って音響映像機器と重電機器のシェアは急速に縮小していった。2017年では、通信機の輸入額は電気機器全体の輸入額の42.5%、総輸入額の12.6%を占める(第Ⅰ-1-2-1-13図)。

第Ⅰ-1-2-1-13図 我が国の中国からの電気機器輸入額の品目別シェアと前年比伸び率寄与度の推移

2007年以降、中国からを中心に電気機器、特に通信機の輸入が大幅に拡大し、2016年に一時落ち込んだものの、現在もその拡大の速度は衰えていない。近年では、我が国の半導体等電子部品の輸入額の増加基調が一服しているため、中国と同じくアジア域内のASEANからも通信機の輸入シェア拡大が目立つ。半導体等電子部品の輸入額の伸び悩みの一因として、輸入価格の下落が挙げられる。輸入数量は引き続き拡大傾向である一方、輸入価格はどの主要な国・地域においても軒並み下落が著しい。2017年には小幅の価格回復が見られたものの、2000年当初と比べ低水準が続いている(第Ⅰ-1-2-1-14図)。

第Ⅰ-1-2-1-14図 我が国の半導体等電子部品(IC)の国・地域別輸入価格・数量の推移

2.経常収支の動向

(1)2017年の経常収支の概観

本項では、我が国の経常収支の動向を概観していく。

2017年の我が国の経常収支は21兆9,514億円の黒字で、前年差+8,899億円と3年連続で黒字幅が拡大した。2017年の黒字額は、2007年の24兆9,490億円に次いで過去二番目に大きな額である。黒字幅拡大の主な要因は、第一次所得収支が前年差+1兆191億円と大幅に黒字幅が拡大したこと、また、サービス収支が前年差+4,030億円と赤字幅が縮小し過去最少の赤字額となったことである(第Ⅰ-1-2-2-1図、第Ⅰ-1-2-2-2図)。

第Ⅰ-1-2-2-1図 我が国の経常収支の推移

第Ⅰ-1-2-2-2図 我が国の経常収支前年差の推移

続いて、収支項目ごとの特徴を見ていく。

(2)貿易収支の状況

2017年の貿易収支は、4兆9,554億円と2年連続の黒字で、前年差▲5,622億円と黒字幅が縮小した。黒字幅縮小の主な要因は、前述したとおり、輸入価格の上昇を背景とした輸入額の大幅回復である。貿易統計とは統計の取り方が異なるため、前項の値とは多少異なるものの、輸出額は77兆2,855億円と前年比+11.9%、輸入額は72兆3,301億円と前年比+13.8%の伸びとなった(第Ⅰ-1-2-2-3図、第Ⅰ-1-2-2-4図)。

第Ⅰ-1-2-2-3図 我が国の貿易収支の推移

第Ⅰ-1-2-2-4図 我が国の貿易収支の前年差の推移

(3)サービス収支の状況

続いて、サービス収支の詳細を見ていく。2017年の我が国のサービス収支は▲7,257億円の赤字で、前年差+4,031億円と5年連続で赤字幅が縮小し、過去最少の赤字額となった。赤字幅縮小の主な要因は、「旅行」収支と「知的財産権使用料」収支の黒字幅拡大である(第Ⅰ-1-2-2-5図、第Ⅰ-1-2-2-6図)。

第Ⅰ-1-2-2-5図 我が国のサービス収支の推移

第Ⅰ-1-2-2-6図 我が国のサービス収支前年差の推移

2017年の旅行収支は1兆7,809億円の黒字で前年差+4,542億円となり、2015年に収支が黒字化してから3年連続で黒字幅が拡大した。受取・支払別に見ると、2017年の旅行受取の寄与度は+2.5%と6年連続で増加しており、主に訪日外客の支払増加により黒字幅が拡大したことがわかる。また、2017年の知的財産権等使用料の収支は2兆2,905億円の黒字で、前年差+2,206億円と2年ぶりに黒字幅が拡大し、過去最高の黒字額となった。知的財産権等使用料は、2005年よりサービス収支内の最大の黒字項目となっている。黒字幅拡大の主な要因は、受取額の寄与度が+2.2%と増加したことであり、海外において我が国が保有する知的財産権等の利用が増加していることが示唆される(第Ⅰ-1-2-2-7図)。

第Ⅰ-1-2-2-7図 我が国のサービス収支の受取・支払別伸び率寄与度の推移

2000年代初頭、旅行収支はサービス収支中で最大の赤字項目であったものの、訪日外客数の増加を背景として、その赤字幅は縮小し、2015年についに黒字化を遂げた。その後、2017年まで3年連続で堅調に黒字を計上している。一方、一人当たりの旅行受取額を見ると、2015年の15.3万円/人をピークに2年連続減少しており、今後の旅行収支の動向に影響を与える可能性がある(第Ⅰ-1-2-2-8図)。

第Ⅰ-1-2-2-8図 我が国の訪日外客数と一人当たり旅行受取額の推移

(4)第一次所得収支の状況

次に、我が国の第一次所得収支の詳細を見ていく。2017年の第一次所得収支は19兆8,374億円の黒字で前年差+1兆191億円と2年ぶりに黒字幅が拡大した。黒字幅拡大の主な要因は、直接投資収益の黒字幅拡大であり、直接投資収益内の「配当金配分済・支店収益16」と債券投資収益内の「債権利子」の拡大が顕著であった(第Ⅰ-1-2-2-9図及び第Ⅰ-1-2-2-10図)。

第Ⅰ-1-2-2-9図 我が国の第一次所得収支の推移

第Ⅰ-1-2-2-10図 我が国の第一次所得収支前年差の推移

配当金配分済・支店収益は4兆2,792億円の黒字で、前年差+1兆491億円と2年ぶりに黒字幅が拡大した。黒字幅は拡大したものの、受取・支払別で見れば受取の寄与度は+4.9%、支払は同+3.6%と共に伸びており、我が国企業が海外投資家に配当した金額も拡大した。債券利子は9兆672億円の黒字であり、前年差+4,666億円と、配当金・配分済支店収益と同じく2年ぶりに黒字幅が拡大した。黒字幅は拡大したものの、受取・支払別で見ると、受取の寄与度は+1.8%、支払は同+0.4%となっている(第Ⅰ-1-2-2-11図)。

第Ⅰ-1-2-2-11図 我が国の第一次所得収支の受取・支払別伸び率寄与度の推移

16 直接投資家と直接投資企業の間で受払された利益配当金、及び支店の収益のうち本社に送金されたものを計上する。(日本銀行HPより引用。https://www.boj.or.jp/statistics/outline/exp/data/exbpsm6.pdf

3.対外直接投資の動向

続いて、我が国の対外直接投資の動向についてみていく。2016年末の我が国の対外直接投資残高は、世界全体の対外直接投資残高の5.4%を占めており、EUや米国に次ぐ対外直接投資大国となっている。国・地域別に細かく見れば、我が国は米国、英国、香港に次ぐ対外直接投資残高を有している(第Ⅰ-1-2-3-1図)。

第Ⅰ-1-2-3-1図 世界の国・地域別直接投資残高のシェア(2016年末時点)

我が国の2016年末の対外直接投資残高は153兆6,091億円であり、前年比+3.7%と6年連続で増加した。また、製造業、非製造業の別に残高をみると、製造業が64兆6,649億円、非製造業が88兆9,441億円となっている。2007年までは製造業がより多くの金額を投資していたものの、2008年に非製造業の残高が製造業の残高を上回り、その後差を大きく広げている(第Ⅰ-1-2-3-2図)。

第Ⅰ-1-2-3-2図 我が国の対外直接投資残高の推移(2016年末時点)

我が国を含む主要国の対外直接投資の業種別割合を比較してみると、日本は韓国、フランスと並び製造業の割合が高く、その中でも46.5%と最大となっているのが特徴であることがわかる。米国は金融・保険業が70%近くを占めており、次いで製造業が12.5%となっている。英国、ドイツも金融・保険業が最大で、製造業の割合は10%台と高くない。中国は取り上げた国の中では製造業の割合が8.0%と最も低くなっている(第Ⅰ-1-2-3-3図)。

第Ⅰ-1-2-3-3図 主要国の対外直接投資残高と業種別割合

続いて、我が国の対外直接投資を投資先国・地域別にみていく。2017年末時点の直接投資残高の上位国を見ると、米国、英国、中国、オランダの4か国で10兆円を超える残高を有している。また、2017年の我が国の対外直接投資フローでみても、最大の投資先は米国で5兆5,786億円の投資を行い、続いて、英国、オランダ、中国となっている(第Ⅰ-1-2-3-4表)。

第Ⅰ-1-2-3-4表 我が国の対外直接投資フロー、残高の国・地域別上位10か国

コラム1 明治期の日本の貿易及び主要輸出産業

今年は明治維新150周年となることから、通商白書でも明治期の貿易について振り返ってみることとしたい。

明治初期は、江戸時代の長期にわたる鎖国政策から1858年の日米修好通商条約締結により開国をした貿易経済構造の激変期に当たる。

当時の日本の貿易の拡大ペースを世界貿易と比較しながらみてみると、1882~91年を100とした場合、1902~11年には世界輸出入合計の186に対し日本の輸出は418、輸入は488と世界の2倍以上の拡大であった。さらに、1885~1910年にかけての貿易拡大を他国と比較すると、英仏1.9倍、イタリア2.2倍、ロシア米独2.6~2.8倍に対し、日本は13.9倍と大幅に上回っている17

幕末・明治初期の日本の貿易統計には、幕末期と明治初期の統計の接続の問題として、例えば、1868年の明治新政府の成立以降の統計作成基準の変更、金銀混計問題、銀価低落の影響など様々な問題があり、幕末・明治初期に関する日本側の体系的な貿易統計はない。そこで幕末期と明治初期はカバーしていないものの1874年以降をカバーしている「貿易と国際収支」18の貿易データに基づき明治期の日本の貿易について概括する。

17 石井寛治(2000)P. 1-2

18 山澤逸平・山本有造(1980)

1.貿易額及び貿易収支の推移

1874年(明治7年)から1911年(明治44年)までの貿易データを見ると、37年間で輸出額は1,970万円から5億3,460万円と約27倍に増加している。輸入額は同じく3,450万円から5億9,730万円と約17.3倍に増加している(コラム第1-1図)。特に、1890年以降貿易額の伸びが顕著となっている。

コラム第1-1図 明治期の貿易推移

貿易収支は基本的に赤字基調だが、黒字の年も4年あった。赤字額は80万(1882年)から最大で1億8,680万円(1898年)で、平均で2,800万円となる。

2.主要輸出入品目

当時の主な輸出入品目は何であっただろうか。コラム第1-2図は、1874年(明治7年)から1911年(明治44年)までの輸出額を、一次産品(加工食料品、農産物、水産物、林産物及び鉱産物)、繊維品、重化学工業品(機械、金属、化学品)及びその他工業品(窯業品、木製品、雑製品)の4つに分類した品目別シェアの推移をまとめたものである。

コラム第1-2図 輸出額品目別シェア推移

明治初期の頃には、1次産品が占める割合が最も多く6割近くを占めていたが、その後少しずつ減少し、後半には2割程度まで下がっている。代わって繊維品が3割から6割程度まで上昇している。

より細かい品目分類で見ると、輸出品では、生糸、茶、石炭及び銅の4品目が輸出総額の60~70%を占め、これらが外貨獲得のための戦略品目だったと言われている19。生糸は1880年代半ばまではフランス、それ以降はアメリカが主要輸出市場だった。茶は主にアメリカに輸出され、石炭は船舶燃料として主に中国、香港、シンガポールへ輸出され、銅は中国、香港を始めヨーロッパに輸出された。

コラム第1-3図では、輸入品を一次産品(加工食料品、農産物、水産物、林産物及び鉱産物)、繊維品、化学品、金属品、機械、その他工業品(窯業品、木製品、雑製品)の6つに分類している。明治初期の頃に最もシェアが高かったのは繊維品だったものの、1897年(明治30年)以降には1割程度まで減少していたのに対し、明治初期には15%程度だった一次産品の輸入シェアが1897年(明治30年)以降には約半分を占めるまで拡大している。明治の殖産興業期に必要不可欠であった西欧からの機械輸入については、明治期を通して10%程度で推移しており、それほど大きなシェアとなっていない。

コラム第1-3図 輸入額品目別シェア推移

より細かい品目分類で見ると、主要輸入品は、綿糸、綿織物、毛織物などの繊維製品と砂糖で、輸入総額の40~60%にのぼる。1870年代には綿糸・綿織物が35%、毛織物が20%、砂糖が10%を占めた。その後、1880年代半ば以降の綿紡績業の発展による輸入代替化の進展に伴って綿製品輸入が減少し、代わってインドからの原料綿花の輸入が増加した。輸入における工業品のシェアは漸減したが、国内で自給できなかった機械類や金属製品などの輸入依存度は高く、石油の輸入も重要になった20

19 杉山伸也(2012)P. 156

20 杉山伸也(2012)P. 156

3.主要輸出入先

コラム第1-4図は、輸出額の地域別シェアの推移を示したものである。生糸及び茶の主要輸出先であるアメリカが、1880年代以降輸出総額の30~40%を占めている。明治初期はヨーロッパ向け輸出が約半分と最も多かったが、生糸の輸出市場がフランスからアメリカに転換するにつれて輸出市場としてのシェアが減少し、2割程度まで低下している。東アジアは順調に増加し、2割から4割程度まで増加している。

コラム第1-4図 輸出額地域別シェア推移

コラム第1-5図は、輸入額の地域別シェアの推移を示したものである。綿糸・綿織物や毛織物、鉄類、金属・金属製品、機械類の主要輸入先がイギリスであったので、ヨーロッパからの輸入が最も多いシェアを占めている。一時期8割近くまで増えたものの、その後の日本の産業化の進展とともに、輸入先としての重要性は低下した。アメリカは当初1桁台のシェアだったが、少しずつ増加し、1割程度を占めるまでに増加した。アジアは当初中国を含む東アジアしかなかったが、東南アジアやその他アジアが増加し、アジア全体では約半分までシェアを伸ばしている。

コラム第1-5図 輸入額地域別シェア推移

幕末に見られた、生糸や茶などの一次産品を欧米市場に輸出し、綿織物・毛織物などの軽工業品や機械類などの工業品をヨーロッパから輸入するという貿易構造は、1890年代半ば以降一次産品輸出から綿糸・綿織物などの軽工業品の輸出に急速にシフトし、工業品の比率は80年代の12%から99年には38%まで増加した。1890年代以降は欧米貿易のシェアに大きな変化はなく、日本の生糸と綿製品の2つを主力輸出品とする貿易構造は、1890年代末には既に確立した。同時にアジア貿易とヨーロッパ貿易の入超を対米貿易の出超でカバーするという貿易収支の構造が確立し、日本の貿易にとってアメリカ市場とアジア市場が更に重要な意味を持つようになった(コラム第1-6表)21

コラム第1-6表 地域別貿易収支 1876~1910年(5か年累計額)

21 杉山伸也(2012)P. 159-160

4.輸出産業の発展

前述のとおり、鉱工業の中で、開国を機に外貨獲得の戦略産業として日本の産業化を軌道に乗せたのは、生糸、茶、石炭、銅などの一次産品を中心とする輸出産業であったと言われている。日本は、近代産業の導入に当たって機械設備や資材などを欧米諸国からの輸入に依存しなければならなかったため、輸出産業による外貨獲得が重要な意味を持っていた。

ここでは、明治期における4つの主要輸出産業について簡単に紹介したい。

(1)製糸業

製糸業は、海外市場における生糸の需要拡大と価格上昇により、最大の輸出産業に発展した。1864年の江戸糸問屋の調査によると、生糸生産量は開国前の2万個(1個=9貫目)から開国後には4万個に増加し、そのうち3万個が輸出向けだった。生糸生産量の増加とともに製糸技術も変化し、従来の手繰・胴繰に代わって座繰製糸が普及し始めた。更に欧州における蚕病の流行や太平天国の乱による中国糸の供給減少により、欧州市場で中国糸などアジア産の糸に比べて相対的に良質であった日本糸の需要は増加した。しかし、生糸価格の高騰につれて「粗製濫造」による日本糸の品質低下が顕著となり、1860年代末までに日本糸の輸出は行き詰まった。

こうした状況に直面して、明治政府は近代国家設立のため、殖産興業政策に基づき西欧の先進技術を導入し、高品質な生糸を大量生産できる技術を国内に広めるために富岡製糸場を設立した。同製糸場ではフランス式製糸技術が導入され、これらの製糸器機には技術改良が加えられるとともに、全国から伝習工女を募り、全国に技術を広める役割を果たしていた。

1876~1900年における生糸生産高の年平均成長率は8.8%で、輸出率は1880~1900年代まで平均して4割、1910年代は7割を超えていた(コラム第1-7表)。製糸業が輸出産業として発展できた最大の要因として、1870年以降のアメリカにおける絹織物業の急速な発展で、ヨーロッパ市場で行き詰まっていた日本糸は、アメリカ市場に販売先を転換できたことが挙げられている22

コラム第1-7表 製糸生産量、輸出量及び輸出率推移

22 杉山伸也(2012)P. 224

(2)製茶業

開国に伴う海外市場での日本茶需要の増大は、国内の製茶生産を刺激し、製茶業は1890年代には8割を超える輸出率を誇る輸出産業となった(コラム第1-8表)。輸出先はアメリカで、中国茶と競合したが、1870年代半ばでは日本茶は相対的に低価格であったために一定の市場を確保することができた。

コラム第1-8表 製茶・製銅・石炭の生産量、輸出量及び輸出率推移

(3)石炭業

石炭は、木材と並び国内に存在する資源で、外貨獲得の輸出産業であるだけでなく、基幹エネルギー産業でもあった。石炭は江戸時代には製塩業に使用されたが、中国及び日本の開国と1869年のスエズ運河開通による東アジア貿易の拡大に伴って、蒸気船の燃料としての需要が拡大した。石炭産出量は1870年代末以降西洋式採鉱技術の導入により着実に増加し、1886年には高島炭鉱、三池炭鉱、筑豊炭田で国内生産量の62.5%を産出した。日本からの輸出炭もほぼこの三炭に限定され、1870~80年代まで3割を超える輸出率だったが、90~1900年代には4割まで輸出率が上昇した(コラム第1-8表)。日本炭は、地理的に近接する上海、香港、シンガポール市場で優位となった。

(4)産銅業

日本からの銅輸出は、欧米諸国における電信・電気機器関連産業の発展に伴う銅需要の拡大を背景に拡大し、1870~80年代は3割を超える程度の輸出率だったが、その後急速に輸出率が高まり7~8割の輸出率を維持した(コラム第1-8表)。当初は中国市場向けが多かったが、90年代以降イギリスなど欧州向け輸出が増加した。

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