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- 第3部 第2章 第1節 米国
第2章 各国戦略
第1節 米国
1.日米首脳会談・要人往来等
緊密な日米関係を反映し、2018年は計4回(4・6・9・11月)日米首脳会談が行われ、日米物品貿易協定交渉の開始や、自由で開かれたインド太平洋の維持・促進に向けた協力の強化など、経済面でも大きな成果があった。
(1)日米首脳会談(2018年4月17-18日)
2018年初回となる日米首脳会談は、4月17日から18日の日程で、フロリダ州にあるトランプ大統領の別荘であるマール・ア・ラゴ・クラブで開催された。
前年11月のトランプ大統領訪日以来となる本会談において、両首脳は、インド太平洋地域における自由で公正な交易を守ることが必要であることを確認した。
また、安倍総理から、日本企業による米国への投資と、それを通じた米国の雇用と輸出の拡大への貢献や、日本企業による米国産エネルギー購入額の増大等を説明し、トランプ大統領はこれを歓迎した。
さらに、両首脳は、日米双方の利益となるように、日米間の貿易・投資を更に拡大させ、公正なルールに基づく自由で開かれたインド太平洋地域における経済発展を実現するため、茂木内閣府特命担当大臣(経済財政政策)とライトハイザー通商代表との間で「自由で公正かつ相互的な貿易取引のための協議」を開始し、これを麻生副総理とペンス副大統領の下で行われている日米経済対話に報告させることで一致した。
(2)日米首脳会談(6月7日)
2018年第2回目となる首脳会談は、G7シャルルボア・サミットの直前となる6月7日にワシントンDCで行われた。
安倍総理からトランプ大統領に対し、対日貿易赤字額以上に米国にある日系企業が輸出を行っていることや、日本企業による米国への投資を通じた米国の雇用への貢献、防衛装備品や日本企業による米国産エネルギーの購入額の増大等を説明したのに対し、トランプ大統領からは一定の評価が示された。
両首脳は、今後、「自由で公正かつ相互的な貿易取引のための協議」の場で議論していくこと、第一回会合を茂木大臣とライトハイザー米国通商代表との間で7月に開催する方向で調整していくことを確認した。
(3)世耕経済産業大臣の訪米(7月30日-8月4日)
世耕経済産業大臣は、7月30日から8月4日の日程で、カリフォルニア州、中西部各州(インディアナ、オハイオ、ミシガン)を訪問した。
カリフォルニア州では、サンフランシスコやシリコンバレーで活躍するスタートアップ企業やオピニオンリーダーなどと、第4次産業革命に向けて日米両国が協力すべき分野について意見交換を行うとともに、Connected Industriesを推進する日本の取組について発信した。
中西部各州では、現地に投資する日系自動車メーカーの生産・開発の拠点を視察するとともに、自動車部品サプライヤーも含めた関係者と意見交換を行った。また、ホルコム・インディアナ州知事、日本企業の投資する州の市長ら地元有力者との会談や、JETRO投資セミナーの開催、地元メディアによる取材への積極的な対応などを通じて、日本企業による投資の重要性や雇用を通じた地元経済への貢献について発信した。
(4)米国との新たな通商協議(いわゆるFFR)第一回会合(8月9-10日)
4月と6月の日米首脳会談の結果を踏まえ、茂木大臣とライトハイザー通商代表の間での新たな通商協議(FFR)の第一回会合が8月9・10日の日程でワシントンDCにおいて開催された。
本会合では、両者の間で生産的な議論が行われた。すなわち、日米両国は、自由で開かれた経済発展を実現するために、双方の利益となるように、日米間の貿易を更に拡大させること、国際経済問題での日米意協力を一層進めることの重要性を認識し、今回の協議が行われた。
2日間の協議を通じ、茂木大臣とライトハイザー通商代表は、これまでの貿易・投資についての関心やお互いの意見を率直に交換し、双方の基本的考え方、立場及び共通認識についての理解を深めた。
その上で、双方とも、それぞれの立場の相違を埋め、日米の貿易を促進させるための方策を探求すること及び共通認識に基づき協力分野を拡大していくことで一致した。
また、日米は、信頼関係に基づき引き続き協議を継続し、9月を目途に開催することとした次回会合において、更に議論を深めることでも一致した。
さらに、日本としては、TPP11の早期発効に全力を挙げる旨も伝えた。
(5)米国との新たな通商協議(いわゆるFFR)第二回会合(9月25-26日)
茂木大臣とライトハイザー通商代表による第二回会合は日米首脳会談の直前となる9月25日から26日の日程でニューヨークにおいて開催された。
会合において、日米両国は「日米物品貿易協定」について交渉を開始することに合意した。この協定は、日米双方の利益となることを目指すものであり、両国が交渉を行うに当たっては、日本としては農林水産品について、過去の経済連携協定で約束した市場アクセスの譲許内容が最大限である、との、これまで繰り返し述べてきた立場を、米側も尊重(respect)することが首脳間の日米共同声明に明記された。日本としては、最終的にも、この立場を維持する旨を明確に伝えた。
また、日米は今後信頼関係に基づき議論を行うこととし、交渉が行われている間、本合意の精神に反する行動を取らないことが確認され、交渉中は自動車に関する通商拡大法232条に基づく追加関税を課されることはないとの理解が首脳間及び閣僚間で明確に確認された。
併せて「その他関税関連問題の早期解決に努める」ことも確認され、鉄鋼・アルミに関する追加関税問題についても早期の解決を行うこととした。
当面は、物品貿易に関する協定の交渉を行い、投資等の物品以外の事項についてはその後に交渉することにした。また、早期に結果を生じ得るものについても、並行して交渉を行うことにした。
日米の二国間交渉をスタートするに当たっても、我が国はTPP11の早期発効を目指すという立場に変わりはなく、その点も米国には明確に伝えた。
(6)日米首脳会談(9月26日)
国連総会出席のためニューヨークを訪問中の安倍総理は、9月26日、本年3回目となる日米首脳会談をトランプ大統領と行った。
両首脳は、茂木大臣とライトハイザー通商代表の間の協議を踏まえ、日米両国の経済的な結びつきをより強固なものとすることが、日米の貿易を安定的に拡大させるとともに、自由で開かれた国際経済の発展につながるとの考えの下、「日米物品貿易協定」について交渉を開始することに合意し、共同声明を発出した。また、日米双方の利益となるように、日米間の貿易・投資を更に拡大させ、公正なルールに基づく自由で開かれたインド太平洋地域の経済発展を実現していくことで一致した。
加えて、両首脳は、自由で開かれたインド太平洋の維持・促進に向けた共通のビジョンを推進するために、第三国で実施している具体的な協力を賞賛し、インド太平洋地域における様々な分野での協力を一層強化するとの強い決意を再確認した。
(7)世耕経済産業大臣の訪米(9月25-26日)
第4回日米欧三極貿易大臣会合に出席するため訪米中の世耕経済産業大臣は、ワシントンDCに立ち寄り、ロス商務長官及びハッチ上院財政委員長と面会するとともに、コーブポイントLNG基地を視察した。
ロス商務長官との会談では、日米間の投資促進協力や、インド太平洋地域を念頭においた第三国向けのエネルギー及びインフラ輸出協力を含む日米経済関係の強化について意見交換を行った。また、通商拡大法232条に基づく措置に関して、鉄鋼、アルミに対する追加関税措置からの除外、製品別除外の早急な審査を求めるとともに、自動車及び自動車部品については、追加関税措置を取るべきではない等の考えを伝達した。
ハッチ上院財政委員長との会談では、第三国向けのエネルギー及びインフラ輸出協力を含む日米協力の強化に関して議論したほか、通商拡大法232条に基づく措置に関して日本の投資が米国経済に貢献している実態及び我が国としての懸念を伝達した。
また、米国エネルギー省の幹部とともに、メリーランド州のコーブポイントLNG基地を視察し。日本は、同基地から、今年5月より、初めての長期契約に基づくシェールガス由来の米国産LNGを輸入しており、日米連携を通じたインド太平洋地域等への市場の展開・エネルギー安全保障確保の拠点であることを確認した。
(8)ペンス副大統領訪日(11月12-13日)
11月12日から13日にかけてペンス副大統領が訪日し、安倍総理を表敬した。その際、引き続き、日米が主導して、豪州、インドやASEAN各国等と連携しつつ、「自由で開かれたインド太平洋」というビジョンの実現に向けた協力を強化していくことを確認するとともに、インド太平洋における日米協力が着実に進展していることを歓迎した。
また、両者は、9月に合意した日米共同声明に従い、日米双方の利益となるように、日米間の貿易・投資を更に拡大させ、公正なルールに基づく自由で開かれたインド太平洋地域の経済発展を実現していくことを再確認した。
(9)日米首脳会談(11月30日)
11月30日、G20サミットに合わせて行われた日米首脳会談では、9月に合意した日米共同声明に従い、日米双方の利益となるように、日米間の貿易・投資を更に拡大させ、公正なルールに基づく自由で開かれたインド太平洋地域の経済発展を実現していくことを再確認した。
(10)世耕経済産業大臣の訪米(2019年1月7-9日)
世耕経済産業大臣は、2019年1月7日から1月8日にかけて、米国ラスベガスに出張し、コンシューマー・エレクトロニクス・ショー(CES)に出展するJ-Startup企業を含むスタートアップを激励するとともに、世界最先端の技術による製品・サービスが一堂に会する展示を経済産業大臣として初めて視察。
また、1月9日には、米国ワシントンDCにおいて、ライトハイザー米国通商代表及びマルムストローム欧州委員(貿易担当)と第5回三極貿易大臣会合を開催した。
(11)第1回日米物品貿易協定交渉(4月15-16日)
2018年9月の首脳会談において発出された日米共同声明に基づき、4月15日から16日にかけて、ワシントンDCにおいて第1回日米物品貿易協定交渉が茂木大臣とライトハイザー通商代表との間で行われた。
同協議では、今後の日米貿易に関する協議を、昨年9月の日米共同声明に沿って進めることが再度確認されたほか、農産品・自動車を含む物品貿易の議論が開始され、お互いの立場等について率直な意見交換がなされた。また、米側からは対日貿易赤字についての議論があった。
次回以降、早期の成果に向け、農産品・自動車を含む物品貿易の議論を加速することとし、また、デジタル貿易の取扱いについても、適切な時期に議論を行うこととされた。
2.米国通商拡大法第232条への対応
(1)鉄鋼・アルミニウム
2018年3月8日、米国は、鉄鋼とアルミニウムの輸入が米国の国家安全保障上の脅威であると判断し、1962 年通商拡大法 232 条に基づき、鉄鋼及びアルミニウムの輸入に対し、それぞれ 25%、10%の追加関税賦課を課す旨決定し、同23日から関税徴収を開始した。
その際、米国は、カナダ、メキシコ、EUを始めとする7か国に対して、鉄鋼輸入による安全保障上の障害のおそれに対処する満足のいく代替的な方法を協議中であるとして暫定的に関税賦課を除外した。その後、韓国、ブラジル、アルゼンチンは、数量規制を受け入れることで関税の対象から除外されたが、カナダ、メキシコ、EUに関しては、6月1日から追加関税の対象となった。日本は、関税賦課の決定がなされた3月9日と5月1日に経済産業大臣談話を発表し、米国が鉄鋼及びアルミニウムの輸入に対して追加関税を課すことを決定したことに対し遺憾の意を表明している。
また、5月18日、日本は、WTOセーフガード協定に基づき、米国の措置を実質的に同価値となるよう貿易上の権利義務を調整するための措置、いわゆるリバランス措置の権利を留保する旨をWTOに通報した。
米国商務省は、3月18日、232条に基づく鉄鋼・アルミへの追加関税からの製品別除外の手続きを発表した。これは、国内生産困難な品目等について、米国内ユーザーからの申請に基づき、製品毎の追加関税からの除外を認めるものである。
日本から輸入される鉄鋼製品については、既に、2017年の日本からの輸入実績174万トンと同程度の数量について除外が認められている(3月15日時点)。
アルミ製品については、これまで件数ベースで約8割の認可が出されているが、数量ベースでは、2017年の日本からの輸出量の2倍に相当する除外が認められている(3月15日時点)。
(2)自動車、自動車部品
米国商務省は、2018年5月23日、自動車及び自動車部品の輸入について、米国通商拡大法第232条に基づく調査を開始すると発表した。
自動車、自動車部品については、仮に広範な貿易制限措置が発動されるとすれば、世界市場を混乱させ、WTOルールに基づく多角的貿易体制にも悪影響を及ぼしかねないものである。自動車及び同部品の輸入に対する232条措置に関しては、各国の政府や産業界のみならず、自動車産業を始め、米国内からも反対の声があげられている。
日本政府は、6月29日に提出したパブリックコメント及び7月19日に行われた公聴会において、①日系自動車及び自動車部品メーカーなどによる米国経済への多大な貢献、②貿易制限措置が仮に発動された場合の米国経済ひいては世界経済への悪影響、③いかなる貿易上の措置もWTO協定と整合的であるべき、といった立場を説明した。また、こうした日本の立場について、米国政府に対して様々な機会を通じて働きかけを行った。
2018年9月の日米首脳会談において、日米は今後信頼関係に基づき議論を行うこととし、交渉が行われている間、本合意の精神に反する行動を取らないことが確認された。すなわち、交渉中は自動車に関する通商拡大法第232条に基づく制裁関税を課されることはない旨が首脳間で確認された。
米商務省は、2019年2月17日、大統領に対して調査報告書を提出したと発表したが、その内容については、非公表とされている。
(3)スポンジチタン
2019年3月4日、米国商務省は、スポンジチタンの国内製造事業者の申請に基づき、米国通商拡大法232条に基づく調査を開始したことを発表した。
日本政府は、4月22日、米商務省の意見募集に対してパブリックコメントを提出し、①信頼できる同盟国である日本からのスポンジチタンの輸入が米国の国家安全保障を損なうことも、損なうおそれもないこと、②日本のスポンジチタンメーカーと米国企業はともに、航空・宇宙を始めとした米国の関連産業の発展を支えてきたこと、③いかなる貿易上の措置もWTO協定に整合的であるべきことなどから、米通商拡大法232条に基づくスポンジチタンに対するいかなる輸入制限措置にも反対であるとの立場を表明した。
3.日米貿易投資関係の更なる発展に向けた取組
過去半世紀にわたり、日米両国の製造業は国境を超えるサプライチェーンの深化を通じて競争力を涵養してきた。日本からの対米直接投資残高は年々増加し、2017年末では日本の対外直接投資残高全体の32%に相当する54.3兆円に達した。在米日系企業による米国内の雇用者数は86.1万人(世界2位)であり、このうち製造業の雇用者数は39.7万人(世界1位)である(2016年)。また、日系自動車メーカーによる雇用者数は、経済的な波及効果も含めると、約150万人となっている(2017年)。
日本とのサプライチェーンの結びつきが強く(=製造業付加価値に対する日米間の中間財貿易の比率高)、製造業が盛ん(=GDPに占める製造業の割合高)な州としては、特に、インディアナ・ミシガン・オハイオ・ケンタッキー・テネシー・イリノイ・ニューハンプシャー・ウエストバージニア・ノースカロライナ・サウスカロライナが挙げられる。
これらの州は自動車メーカーを始めとする日系企業が集積しており、雇用数も多いことから、まさに、日米両国を結ぶサプライチェーンが両国の製造業の競争力を涵養してきた例と評価できる。
また、日系企業は、西海岸のみならず、全米各地で研究開発分野への投資を活発に行い、イノベーションの源泉としてきた。日系企業による米国内での研究開発費は年間80億ドルを超えており、これは、スイス、イギリスに次ぐ世界第3位である(2016年)。
こうした日系企業の活動を後押しするため、経済産業省としては、ジェトロを通じて、①地方都市での「ロードショウ」開催、②州知事等への個別アプローチ、③対米投資促進のためのセミナー開催、④両国企業の現地でのマッチングイベント開催などに取り組んでいるところである。
また、米国商務省が主催する投資イベントであるセレクトUSAや大臣訪米の機会などを活用し、日米間の貿易投資を通じたつながりが両国経済に利益をもたらすことを、積極的にPRしている。前述のとおり、世耕経済産業大臣は、2018年8月、米国中西部(インディアナ・オハイオ・ミシガン各州)を訪問し、日系自動車工場を視察し、幹部や一般社員と懇談するとともに、州知事等の地元有力者との意見交換も行った。更に、オハイオ州コロンバスにおいては、ジェトロ投資セミナーにおいて、「投資拡大を通じた日米関係の強化」をテーマとした基調講演を行い、日本企業の投資による米国経済への貢献を強調した。
4.自由で開かれたインド太平洋の維持・促進に向けた日米協力
日米両国は、「自由で開かれたインド太平洋」というビジョンの実現に向け、日米が主導して、豪州、インドやASEAN各国等と連携しつつ協力を強化しているところであり、2018年9月の日米首脳会談では、その旨を確認したほか、インド太平洋における日米協力が着実に進展していることを歓迎した。
また、11月のペンス副大統領訪日の際には、日米両政府で「インド太平洋におけるエネルギー・インフラ・デジタル連結性協力を通じた自由で開かれたインド太平洋の促進に関する日米共同声明」を発出し、自由で開かれたインド太平洋を強化する共通の目的を再確認し、同地域におけるエネルギー・インフラ・デジタル連結性を進展させるための両国の共同の取組における具体的進展を歓迎するとともに、両国のパートナーシップを深化させ、拡大することを決意した。