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- 第Ⅱ部 第2章 第2節 グローバリゼーションによる世界経済の発展
第2節 グローバリゼーションによる世界経済の発展
1.グローバリゼーションと世界経済の発展
次に、グローバリゼーションによる世界経済の発展として、産業革命以降の世界経済の発展をデータで見てみよう。
1820年頃に英国で発生した産業革命による大幅な輸送コスト削減、第1のアンバンドリングが実現して以後、飛躍的な技術進歩と貿易の拡大によって、世界経済は大きく発展を遂げてきた。世界全体のGDPは、2019年時点で85.9兆ドルと1960年と比較すると約60倍の規模へと成長している(第Ⅱ-2-2-1図)。
第Ⅱ-2-2-1図 世界GDPの推移
紀元後の世界GDPの推移をみると、産業革命以後に急速に世界経済が成長を遂げた(第Ⅱ-2-2-2図)。そこで、本節においては、特に世界の経済発展が進んだ20世紀後半、第2次世界大戦以降からの今日までのグローバリゼーションを2つのフェーズに分けて、その経緯に焦点を置き、グローバリゼーションの現状を多角的に分析していく。
第Ⅱ-2-2-2図 紀元後の世界GDPの推移
第2次世界大戦以降から1990年頃までのグローバリゼーションについては、物の貿易や人の移動を中心に進展した。先進国と途上国ともに総じて経済発展を実現したものの、先進国の経済成長率が途上国の経済成長率を上回っていた。1960年から1990年までの経済成長率を見ると、ドイツ以外のG7諸国の平均が26.8%であったのに対し、その他の国々の伸び率は、13.4%であった(第Ⅱ-2-2-3図)。
第Ⅱ-2-2-3図 1960年から1990年までの経済成長率の比較
この時期のグローバリゼーションの進展に大きな役割を果たした物の貿易について見てみよう。世界貿易額の推移を見てみると、1990年時点で約10兆ドルであり、1960年と比較して大幅に増加していることが見て取れる。世界のGDPに対する貿易の比率については、約30%まで上昇している。
その後も貿易は拡大を続け、2019年時点における世界の貿易額は38.8兆ドルであった。また、世界のGDPに対する貿易の比率についても、2019年は45.2%となっており、堅調に推移している。企業活動のグローバル化、サプライチェーンの広がりに伴う中間財の輸出入の増加やWTOや関税条約・自由貿易協定といった貿易円滑化への環境整備が進んだことなどが背景である(第Ⅱ-2-2-4図)。
第Ⅱ-2-2-4図 世界の貿易額とGDPに占める割合の推移
このような物の移動、つまり貿易には、マクロ経済面とミクロ経済面に分けた上で、前者の便益として経済の規模拡大、輸入による購買力向上、国レベルでの全要素生産性の上昇や格差縮小への寄与といった便益が存在しており、後者については企業レベルでの生産性の向上がある。このような貿易による便益を理論的・実証的に説明する経済学も発展してきた(第Ⅱ-2-2-5表)。
第Ⅱ-2-2-5表 貿易理論の発展
伝統的な貿易理論では貿易の利益として経済規模の拡大を説明する。リカードによると、二国間で異なる財を生産・取引することで規模の経済が働き、効率的な生産を行うことができ、また、それにより消費者としても消費できる財を増加させることが可能となる。これが比較優位の便益である。
その後、ポール・クルーグマンは規模の経済性に着目し、先進国間であっても貿易が生じることを明らかにした。この時の貿易利益としては、生産量が多いほど平均費用が低下して生産が効率化することと、消費者が国内で生産される製品だけでなく、輸入品が国内市場に入ってくることにより、多くの種類の製品を購入する選択肢を持つことができる点としている。これは、新貿易理論として知られる。
マーク・メリッツは同一産業内であっても輸出する企業と輸出しない企業が生じるのは、生産性の高い企業のみが輸出できるからだとする新々貿易理論を構築した。貿易の自由化により競争が高まり、資源の再配分が生じて、生産性の低い企業から高い企業へと労働者が移動し、生産量も同様にシフトしていくことで産業全体としての生産性が向上するという貿易利益が生じると説明している。
この貿易による利益は国によって影響も異なり、小国にとっては市場の拡大や比較優位を含めて貿易の利益は大きくなると指摘されている64。
次に人の移動を見よう。第1章第4節で見たように、過去、移民は継続的に増加を続けてきたが、近年では特に高所得国からの移民が増加している。この移民のストックは世界人口の約3%を占めるものである(第Ⅱ-2-2-6図)。
第Ⅱ-2-2-6図 世界の移民数(ストック)
また、国際的な人の交流という観点では旅行客も増加を続けている。特に、アジアからの旅行客の増加が見られており、欧米の旅行客数は安定している。この国際的な人の移動は、ビジネスの交流や観光を含むものであり、宿泊などの関連産業も含めて世界経済の活性化に貢献をしてきた(第Ⅱ-2-2-7図)。
第Ⅱ-2-2-7図 地域別の海外旅行者数
このように、国境を越えた人の移動により、人が交流し、定住し、消費や生産などの経済活動を国境を越えて行うことで、様々な便益を生んできた。
資金の面でも世界のつながりは増してきた。世界の対外直接投資残高も堅調に増加し、2018年は、1990年と比べて約14倍に拡大している。これは、国際分業・生産ネットワークの構築の中で、近年急速に直接投資が拡大したことを示している。
世界の投資プロジェクトに対して国外からの直接投資を行うことで新しい事業機会が生まれる。この直接投資については、M&A(合併・買収)とグリーンフィールド投資(企業が外国に子会社を設立する投資)を分けるとそれぞれが経済に与える影響は異なるものである。グリーンフィールド投資は雇用をより生み出すものであり、M&Aは、新技術や経営手法の移転を通じて経済に利益をもたらす可能性がある。このような資金の面でのつながりが増す中で、金融面での統合も進められ、それが各国の金融面での相互関係として経常収支に現れている(第Ⅱ-2-2-8図、第Ⅱ-2-2-9図)。
第Ⅱ-2-2-8図 世界の直接投資残高の推移
第Ⅱ-2-2-9図 各国・各地域の経常収支の対世界GDP比
近年のグローバリゼーションの特徴としてはデータや情報のフローの拡大である。第1節において紹介をしたように、1990年ごろからは、人の移動や貿易の拡大だけでなく、ICTの急速な発展によりデータ・知識の国境を超えた共有が可能になり新しい形でのグローバリゼーション、第2のアンバンドリングが進展した。そして、第1章第6節において紹介したように、デジタル貿易が急速に拡大をしている。
この経済のデジタル化の波を活用した国としては米国を挙げることができる。1990年以降、米国企業は、いち早くインターネット技術を商業化のツールとして活用し、新しい事業を展開してきた。2001年のインターネットバブル崩壊まで民間の総資本形成に占める割合は伸びを続けた(第Ⅱ-2-2-10図)。
第Ⅱ-2-2-10図 米国のGDP総額とICT投資割合の推移
64 Abhijit Banerjee and Esther Duflo. 2019. Good Economics for Hard Times. Public Affairs
2.グローバリゼーションと新興国の伸張
同時期においては、特に中国とインドをはじめとする新興国が急激な成長を遂げ、世界経済を牽引するという新しい現象が生まれている。中国の発展は第1節において紹介した第2のアンバンドリングを活用した東アジアの生産ネットワークの形成の進展があり、インドにおいては先進国からのオフショアリングの進展が見られた。
G7とE765(中国、インド、ブラジル、メキシコ、ロシア、インドネシア、トルコ)のGDPが世界全体に占める割合を比較すると、E7の国々は、1990年では9.6%と全体の1割に満たなかったものの、2018年には26.6%と世界の約3割近くを占めている。なお、E7の内訳は中国が約6割を占めており、中国が特に急速な成長を遂げていることがみえる。他方、E7の成長に圧迫される形で、G7はそのシェアが縮小傾向にあり、2018年の割合は45.3%と1990年時点から20.9%減少した(第Ⅱ-2-2-11図、第Ⅱ-2-2-12図)。
第Ⅱ-2-2-11図 G7、E7のGDPシェア
第Ⅱ-2-2-12図 E7の経済規模の内訳(2018年時点)
世界のGDPに占める上位の10カ国を1990年と2019年で比較すると、2019年には世界第2位の経済大国として中国が、第5位にインドが姿を現している。近年、著しい経済成長を遂げ、現在は世界経済を牽引する有数国の一つへと変化をした(第Ⅱ-2-2-13表)。
第Ⅱ-2-2-13表 世界GDP上位10カ国(1990年、2019年)
さらに、インドネシア、ロシア、メキシコが大幅な経済成長を実現するという予測も見られており、今後も、新興国の更なる成長が見込まれる(第Ⅱ-2-2-14表)66。
第Ⅱ-2-2-14表 世界のGDP上位10カ国(2040年)
このように、途上国が経済成長を実現する中で、国単位でみれば、先進国との経済的な格差が縮小しているものの、その縮小ペースは緩やかなものである。一人当たりGDPを比較すると、世界平均の大幅な伸びには、アジア大洋州地域の経済成長が大きく寄与している。これは、第1節でみた第2のアンバンドリングの活用によるところも大きい。
なお、アフリカにおいても緩やかながらに経済発展をとげており、アジアが牽引する形ではあるが新興国・途上国全体として一人当たりGDPが伸びている。
研究開発費も年々その規模が拡大しているが、中国の存在感が高まっている。同様に、世界の株式時価総額の約半分を米国企業が占めているが、2010年代には中国企業の存在感が増している(第Ⅱ-2-2-15図、第Ⅱ-2-2-16図)。
第Ⅱ-2-2-15図 研究開発費の推移
第Ⅱ-2-2-16図 世界の株式時価総額の推移
65 2006年、プライスウォーターハウスクーパースで経済学者ジョン・ホークスワースとゴードン・クックソンによって造られた主要な新興国のグループ化した用語。
66 PwC, “Our World in 2050”