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第3章 目指すべき社会を実現するための世界と我が国の方向性

グローバリゼーションは、人・物・資金・アイデアが国境を越えて移動・流通(交流)することにより、技術革新、新興国の成長、中間層の拡大、貧困の削減といった付加価値を生み出し、世界経済の発展の大きな原動力となってきた(第Ⅱ-3-0-1図)。

第Ⅱ-3-0-1図 2000年代の国境を越えた貿易、投資、人の移動の伸び

その一方で、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大の中で、サプライチェーンの途絶や人の移動の停滞が見られたように、グローバリゼーションの進展に伴って拡大してきた様々な交流の停滞が見られている。

この新型コロナウイルスの感染拡大は第3のアンバンドリング・デジタル化の渦中に発生した。新型コロナウイルスの感染拡大に伴って、世界ではデジタル技術の革新や社会実装が急速に進んでいる。物理的な移動への制約によって人同士の対面でのコミュニケーションに制約がかかり、物の移動も停滞する中で、国境を越えた交流による付加価値の追求は、デジタル分野に重心を移動していくことが想定される。

第Ⅱ-3-0-2図 直近の推移と今後の予測

そこで、この危機の教訓を踏まえ、危機の収束や、危機により顕在化したリスクや経済社会の変化の方向性を見定めながら、現下の危機を克服しつつ、あるべき経済社会システムへの進化を目指すべきである。その教訓は以下の3点である。

第一に、世界規模の課題の発生とその対応に対する遠心力である。世界規模で感染が拡大するパンデミックは自国の対策のみでは収束しないものであり、世界規模での対応が求められるものである。しかし、その対応に当たっては、従前から存在する多国間の枠組への不信が増大する中で、緊急時における自国優先策も見られている。この遠心力に対して、国際協調への求心力を高め、世界規模の課題を解決するため、グローバリゼーションのアップグレードが求められる状況にある。

第二に、経済性・効率性と集中に伴うリスクである。サプライチェーンについては生産活動がグローバル化する中で経済性・効率性による生産拠点の集中が進み、それが緊急時においては供給途絶リスクとして現れた。同様に、デジタル経済についてはプラットフォーマーへの集中が進んでいる。これらは、経済性・効率性にとどまらない、レジリエントなサプライチェーンや経済構造の重要性を示している。

第三に、感染と経済の相互作用である。感染の拡大を抑制するためには対面の活動を制限せざるを得ず、その結果、世界経済は大幅な景気後退に陥ることとなった。その対面のコミュニケーションの制約を乗り越えるため、デジタルの技術開発と社会実装が急速に加速している。そこで、この危機の中で、人の交流のあり方を進化させ、環境整備も含めた経済社会のデジタル化に取り組むことがますます重要な課題として現れている。

これらの教訓を踏まえて、変化の方向性を見定めながら現下の危機を克服しつつ、危機に柔軟に対応でき、持続可能な発展を可能とする強靱な経済社会システムへの進化を実現することが求められている。その実現に向けて、世界の協調行動やレジリエントなサプライチェーンの構築、人の交流のあり方の進化、世界を持続可能なものとするための社会的な投資、そして、世界のデジタル化の加速における新興国との共創を通じた新事業の創出に注目し、世界と我が国の進むべき方向性を提示する。

第1節 グローバリゼーションのアップグレード

1.グローバル・ガバナンスの枠組

世界規模の課題の解決については世界での協調行動が重要である。グローバリゼーションの歴史で見たように、戦後のブレトンウッズ体制の構築や世界大での協力の枠組、地域協力・経済統合の推進、貿易など分野別の協力枠組など、様々な国際協力の枠組が構築されてきた。この枠組はグローバル・ガバナンスとも呼ばれる。

(1)グローバル・ガバナンスの現状

20世紀に構築が進められたグローバル・ガバナンスの基本的な枠組は、両世界大戦の反省、特に第一次大戦後に第二次世界大戦を阻止できなかった反省に基づき、実効性のある紛争防止・調停メカニズムを確立すべく構築されている。

その代表的なものとして、紛争解決手段としての交渉の場を提供し、必要であれば国連軍による武力介入も行う国際連合がある。さらに国際的な金融面での混乱を避けるよう意図された国際通貨基金や国の困窮が新たな紛争につながるという認識から生まれたマーシャルプランやヨーロッパ復興を発端とする開発援助機関としての世界銀行、世界各国の経済的相互依存を確立することで、国家同士の紛争を困難にするための通商貿易ルール構築手段としてGATT、およびその発展形としてのWTOも存在している。

高所得国36ヶ国の組織として活動する経済協力開発機構(OECD)もまた、国際経済についての協議の場として大きな役割を担い、同時に調査研究やデータの提供を通じた政策立案・合意形成に向けた基盤の形成と諮問を行っている。さらに、世界主要国が政治経済的な課題を協議する場として発足したG5会合と、その発展形となるG7、G20といった会合も、国際的な協議の場としての意義を有する。

このような枠組がグローバリゼーションの進展を支えてきた。

(2)地域的な枠組

地域的なレベルでは、欧州連合(EU)、アフリカ連合、米州機構、アラブ連盟、ASEANなどの国際組織がその地域での政治経済的なガバナンスを担う存在として活動を行っている。その権限は様々ではあるものの、いずれも地域的な協議と合意形成の場として重要な役割を果たしている。

EUを除き、このような組織・団体の活動は必ずしも強い拘束力を持たない場合もある一方、立場の異なる諸国が広いテーマを俎上に載せて協議を行うことができる側面もあり、グローバル・ガバナンスの形成において重要な役割を果たしている。

(3)貿易面での枠組

貿易面では、GATT/WTO体制が世界的な枠組として存在する。同時に、地域や二国間における協定が大きな役割を果たしている。

中でもEUは欧州全域における統一市場を創設し、域内の関税や非関税障壁の撤廃、規制の統合を促進し、域内の人の移動を自由化し、ユーロの導入により多くの国において通貨を統一した。それにより、域内の人、物、資金の交流を促し、世界の経済統合の枠組の中でも最も強い地域経済統合を実現している。

その他、西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)や南米南部共同市場(メルコスール)などの関税同盟があり、ECOWAS内の西アフリカ経済通貨連合(UEMOA)のように統一通貨を持つ国々もある。これらはいずれも、各地域の国々をまとめることで大きな統一市場を創設し、貿易面での規模の経済を確立している。同時に、地域内での紛争解決など、単純な関税同盟を超えた広い活動が展開されている。

他の多国間および二国間の自由貿易協定も、貿易面での枠組として重要である。多国間では、北米自由貿易協定(NAFTA)や2020年7月に発効する米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)、環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(TPP11)、大西洋横断貿易投資パートナーシップ協定(TTIP)を代表的なものとして挙げることができる。これはそれぞれ、米国、カナダ、メキシコ間、太平洋を囲む国々及び米国と欧州諸国による多角的な経済連携協定である。関税撤廃または引き下げ、および制度や規制面の統一を通じ、貿易や相互の投資を促進するものである。

また、多くの二国間の経済連携協定(EPA)が締結されている。各国が通商相手との貿易障壁を引き下げ、経済の活性化に貢献している。

(4)技術面での枠組

技術面での枠組としては、デジュール標準を通じた技術等に関する整合性の確保を目指す国際標準化機構(ISO)、電気電子関連の技術的な協議を行う国際電気標準会議(IEC)などが存在する。このような機関による標準化は、個別の分野毎の産業団体や学術団体による様々な取組と併せて世界規模での貿易促進、科学技術・経済面での国際協力推進に寄与している。

また、世界保健機関や国際食料機関(FAO)などに加え、国際エネルギー機関(IEA)なども諮問機関として重要な役割を果たしている。

なお、気候変動分野におけるIPCC、およびそれに伴う京都議定書やパリ協定などの国家間の合意も重要な枠組である。

このようなグローバル・ガバナンスは危機の対応への土台にもなるものであり、世界金融危機時には、2008年11月にG20サミットがワシントンで開催され、世界金融危機への対策として、金融政策による支援、即効的な内需刺激の財政施策を必要に応じて協同して採用することで合意した。さらに、翌2009年4月にロンドンで開催されたG20サミットにおいて、2010年末までに5兆ドルの協調した財政出動を行うこととされた。

2.国際協調の遠心力

このグローバル・ガバナンスは、「遠心力」という課題に近年直面している。その中で、新型コロナウイルスの感染拡大の以前から顕在化していた傾向とも相まって、新型コロナウイルスの感染拡大への対応をめぐり国際協調に「遠心力」が働きがちな状況にある。

(1)貿易制限的措置の増加

第1章第5節に見たように、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大の中で緊急時対応において自国優先策が見られ、米中貿易摩擦においては双方の関税引き上げや報復措置が導入されるなど、貿易制限的措置が増加している。

また、近年、WTO協定等国際ルールに基づく紛争解決手続きによらず、自国のみの判断で制裁措置等の関税引き上げ等の貿易措置を発動する一方的な貿易措置を講ずる動きなどが見られるようになっている。トランプ政権発足後の米国の政策には、いわば一方的措置の利用への回帰ともいえる手法が見られる。

感染防止のために重要となるマスク、防護服等の医療関連物資の不足が各地で深刻化し、先進国を含めて各国は国内対応を優先し、輸出制限を講ずる動きも見られた。また、食料品においてもいくつかの国において輸出制限が導入された。このような物資の囲い込みは、危機への世界大での対処を阻害するものであり、特に、途上国に物資が届かないことは感染の長期化や深刻化を招くリスクをもたらすものともなり得る。

(2)過度な市場分断のおそれ80

米国や欧州各国では、情報や技術の流出を念頭に海外からの投資規制を強化する動きが広がってきている。米国は、安全保障上の懸念を有する他国に、軍事利用可能な最先端技術が流出することを恐れ、2018年8月に外国投資リスク審査現代化法(Foreign Investment Risk Review Modernization Act, FIRRMA)と輸出管理改革法(Export Control Reform Act, ECRA)を制定した。

欧州各国でも、産業競争力の要となるような企業が域外から買収されることを防ぐため、各国が足並みを揃えていくといった動きが見られている。例えば、ドイツでは、2017年7月に、外国企業によるドイツ企業買収の審査を強化するため、外国貿易管理令が改正され、審査候補の拡大・審査期間の延長が図られた。加えて、2018年12月には、再度の法改正により、規制対象となる外国投資の出資比率基準が引き下げられ、規制を受ける企業買収の範囲が拡大した。また、英国においても対内投資の審査強化に向けた取組に向けて議論がなされている。

これらの動きは、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて広がりを見せている。EUでは、2020年3月25日に、健康・医療関係企業などを対象とする買収がEU市民の保健衛生環境を妨げないようにすべく、外国投資の受け入れに関する具体的なガイダンスを発表した。健康・医療関係をはじめとする戦略的産業に関する外国企業からの投資について、独自の審査制度を持つ加盟国については、審査時におけるサプライチェーンなどのリスク評価の徹底を、審査プロセスを持たない加盟国には早急な制度導入を可能にするよう協力を求めている。また、EUでは新型コロナウイルスの感染拡大が始まる以前に、域内の安全保障や公益秩序の観点から懸念が生じる買収案件について、加盟国間で情報交換を通じて審査を強化する規則を策定していたところであるが、4月には欧州委員会で通商担当を務めるフィル・ホーガン委員が規則の一部を先行して導入する意向を明らかにした。

また、インドにおいても同様の規制強化として、商工省が4月18日、投資政策の見直しを発表した。従来、業種を問わずインドへの投資に政府の事前許可を要するのはパキスタンとバングラデシュの企業に限定されていたものの、新たに、インドと国境を接する国やその企業、また同国の市民や居住者にまで拡大された。

こうした動きは自国や域内を保護することが可能となる一方、過度に市場を分断するおそれもある。

80 みずほ総合研究所『変容する中国の対外直接投資』2020年3月4日、JETRO『新型コロナウイルス感染症の流行拡大で広がる投資規制厳格化の動き』2020年5月7日、

(3)国際機関の機能や地域統合の綻び

その背景には、多国間の枠組への不信感が存在している。世界の協力の枠組を担保する国際機関を通じた行動ではなく、単独行動が見られるようになっている。貿易面では、WTOの上級委員会を含むWTO改革の要請が行われており、上級委員会は事実上の機能停止に陥っている。

また、気候変動問題について、米国はパリ協定からの離脱を宣言した。国際保健分野では、新型コロナウイルスの感染拡大に際して、米国のトランプ大統領は世界保健機関(WHO)への資金拠出を停止するよう指示したと表明した。

さらに、近年地域統合に対する遠心力も見られるようになっている。2016年には英国のEU離脱の国民投票が行われ、2020年1月に英国はEUから正式に離脱した。

また、新型コロナウイルスの感染拡大の中で、人の自由な移動を認めた地域統合を推進してきたEUにおいても国境を封鎖する動きなどが見られている。

(4)国際協調の「遠心力」に伴うリスク

このように、国際協調に遠心力が働き続ける傾向が継続する場合、足下の危機克服が困難となるだけでなく、中長期的にもリスクが顕在化するおそれが存在する。

まず、新型コロナウイルスの感染の長期化がリスクとなる。一部の国・地域において感染の収束が実現しない場合や、感染が慢性化する場合、あるいは一度収束した後、再度感染が流行するような場合は、新型コロナウイルスの収束が中長期に渡ることとなり、パンデミックの常態化、国境閉鎖・地域分断が継続していく恐れがある。

次に、自国優先傾向の固定化のリスクである。現在緊急措置として見られている輸出制限、投資誘導措置、国境閉鎖が固定化することで、事態の収束後においても輸入制限措置が残存し、外国人の国境を越えた移動に制約が継続し、裁量的国家介入の継続といったリスクが存在する。

さらに、地球規模の新たな危機や気候変動のようなリスク要因に対しては世界規模での対応が求められるが、そのような世界の課題への対応に十分に行うことができないリスクが存在する。

3.世界での協調行動に向けた「求心力」

国際協調により取り組むべき課題は新型コロナウイルスの感染拡大以前から数多く存在してきた。その中で、新型コロナウイルスの感染拡大は、世界は協調行動への備えが十分ではなかったことを示すものであった。

国や地域によって新型コロナウイルスの感染状況や対処能力に大きな差が存在しており、各国が協調して世界全体で収束させなければ、結果として自国の収束にも結びつかない。そこで、各国連携して効率的なリスク体制を強化し、次の危機に備えることが求められる。また、危機収束後には、危機時の緊急措置を解除し、緊急措置を平時に戻った際も残存させないことが必要である。グローバル・ガバナンスと反する動きが見られる中で、パンデミックは世界が共同で行動することの重要性を明らかにするものであった。

このように、世界で課題を共有し、自国の課題、世界の課題の解決に向けた協調行動を起こすことが求められている。世界における公共財のような真にグローバルな課題については、グローバル・ガバナンスを通じた対応が重要なものとなる。

その中で、我が国も参画する形で、G7やG20、ASEAN+3からも首脳声明が発出されるなど、首脳・閣僚レベルで、国際協調の求心力維持に向けた動きもなされている。

BOX <主要な首脳・閣僚声明の抜粋>

G7首脳声明(2020年3月16日、抜粋)

「我々、G7首脳は、新型コロナウイルス(COVID-19)のパンデミックが、人道的な悲劇かつ世界的な衛生上の危機であり、世界経済にも大きなリスクを与えることを認識する。我々は、より緊密な協力と強固な連携を通じ、強いグローバルな対応を確保するために必要なことは全て行うことを コミットする。現下の情勢は、国家的な緊急措置を必要とするかもしれないが、我々は国際経済の安定に引き続きコミットしている。我々は、新型コロナウイルスのパンデミックに関連する現下の困難への対処のため、科学と根拠に基づき、かつ、我々の民主的な価値観及び民間企業と整合的な、国際的に連携されたアプローチを取ることが必要であるとの確信を表明する。」

G20首脳声明(2020年3月26日、抜粋)

<国際貿易の混乱に対応する>

「我々の市民のニーズに沿って、我々は、国境を越える不可欠な医療物資及び重要な農産品その他の物品並びにサービスの流通の確保に取り組み、また、全ての人々の健康及び福祉を支えるため、国際的なサプライチェーンの混乱を解決するために取り組む。」

「我々は、国際的な交通及び貿易に対する不必要な介入を避ける形で国際貿易を円滑化し、対応を調整するために引き続き協働することにコミットする。健康保護を目的とする緊急措置は、的を絞った、均衡がとれた、透明性のあるかつ一時的なものとなる。我々は、貿易大臣に対し、このパンデミックの貿易に対する影響を評価するよう指示する。」

「我々は、自由で、公正で、無差別的で、透明性のある、予見可能でかつ安定した貿易及び投資環境を実現し、開かれた市場を維持するという目標を再確認する。」

G20貿易・投資担当大臣臨時テレビ会議閣僚声明(2020年3月30日、抜粋)

「我々は、新型コロナウイルスに対処するための緊急措置は、必要と認められる場合には、的を絞り、目的に照らし相応かつ透明性があり、一時的なものでなければならず、貿易に対する不必要な障壁又はグローバル・サプライチェーンへの混乱を生じさせず、また、世界貿易機関(WTO)のルールと整合的であるべきであることに合意する。」

「我々は、グローバル・サプライチェーンの背骨たる物流ネットワークが円滑に引き続き機能することを確保する。我々は、ウイルスの拡散を防ぐ努力を阻害することなく、空、海及び陸を通じた物流ネットワークを引き続き開放されたものとし、保健関係者及びビジネス関係者の不可欠な越境移動を容易にする方法を模索する。」

「我々は、貿易に対するパンデミックの影響を引き続き監視し、評価していく。我々は、国際機関に対し、新型コロナウイルスが国際貿易・投資及びグローバル・バリューチェーンに及ぼす影響について、詳細な分析を提供することを求める。我々は、調整されたアプローチを確立し、不可欠な物品及びサービスの流通を容易にする良き慣行(グッドプラクティス)を収集し共有するため、国際機関と共に引き続き取り組んでいく。」

ASEAN+3の首脳声明(2020年4月14日、抜粋)

「緊急時のニーズに迅速に対応することを可能とする ASEAN+3による必須医療物資の備蓄の立ち上げを検討する。特にASEAN防災人道支援調整センター(AHA センター)が管理する倉庫を含む既存の地域緊急備蓄施設の利用を奨励するとともに、 ASEAN+3緊急米備蓄(APTERR)の利用を更に検討する。」

「貿易及び投資のために市場の開放を維持するとのコミットメントを再確認するとともに、公衆衛生上の緊急対応に必要と考えられる措置が的を絞り、目的に照らし相応かつ透明性があり、一時的なものとなること、及び、こうした措置が貿易に対する不必要な障壁又は地域のサプライチェーンへの混乱を生じさず、世界貿易機関(WTO)のルールと整合的であることを確保しつつ、ASEAN+3緊急米備蓄(APTERR)の活用等により食料安全保障を確保し、物流ネットワークの円滑で継続的なオペレーションを通して、食料、生活必需品、医薬品及び医療物資等の特に必要不可欠な物資のための地域のサプライチェーンの強靭性と持続可能性を強化する観点から、ASEAN+3諸国間の協力を強化する。」

経済強靱性に関する日ASEAN共同イニシアティブ(2020年4月17日、抜粋)

「長年にわたり、日本と ASEAN は、友好関係と相互の信頼に基づき、この地域の自然災害、アジア通貨危機や世界金融危機等の様々な難局において、緊密に連携してきた。閣僚は、日本と ASEAN が継続的かつより緊密に連携して、今回のCOVID-19 がもたらす経済面での課題を乗り越えることを確信する。」

「閣僚は、公衆衛生上の緊急対応のために日本と ASEAN が講じている必要な措置を認識しながら、日 ASEAN 間の貿易や投資の途絶を最小化するよう、零細中小企業を含む産業界のステークホルダーとともに、創造的な解決策を探求する必要性を強調する。こうした取組には、昨今の移動制限や COVID-19 の更なる感染拡大を抑制するために実施した措置による制約を乗り越えるよう、事業活動におけるデジタル技術の活用を促進することも含まれる。」

「更に、閣僚は、日本と ASEAN は、グローバル・サプライチェーン上の枢要な供給者として、市場の安定性の維持に向けて、地域経済のみならず、世界経済への悪影響を緩和するために、世界市場に対し、様々な素材や製品を供給する最大限の努力を尽くし、全ての人々の健康と福祉の維持を支援することを強調する。」

「強靱なサプライチェーンの実現には、多元化、補完性、透明性、冗長性や持続性といった対応力とコスト競争力のより良い均衡の実現を可能とすることを認識する。」

新型コロナウイルスと多角的貿易体制に関するWTO閣僚声明(2020年5月5日、抜粋)

「世界貿易機関(WTO)について責任を負う閣僚である我々は、この保健上の危機の中、生命の維持に不可欠な医療用品とその他の重要な物品及びサービスの国境を越える継続した流通を確保するため、積極的に取り組んでいる。この点において、WTOには果たすべき不可欠な役割がある。我々は、人々の健康の保護を目的とした緊急的な貿易制限措置は、必要と認められる場合には、的を絞り、目的に照らし相応で、透明かつ一時的なものでなければならず、貿易に対する不必要な障壁又はグローバル・サプライチェーンへの混乱を生じさせず、WTOのルールと整合的であるべきということを強調する。我々は、可能な限り早期に、このような措置を撤廃することを約束する。」

「我々は、新型コロナウイルスがもたらした状況に対応するためにWTO加盟国がとる貿易関連措置を監視する上でのWTOの不可欠な役割を支持し、加盟国に対し、引き続きこのような措置を出来るだけ前広にWTOに通報するよう促す。」

「我々は、実施可能な限り早期にWTOのすべての活動を完全に再開することを支持する。我々は、長期の持続可能な経済成長を後押しするため、新たなWTOの規律を作成し、現行のWTOの規律を改善し、そしてWTO上級委員会をめぐる状況に対する永続的な解決を見いだすための努力を強化する。我々は、WTOが可能な限り効果的に機能するよう、WTOを改革するための取組の継続を支持する。」

このように、新型コロナウイルスの感染拡大を契機として国際協調の重要性を再認識し、危機にも耐性が高い、柔軟でバランスある経済社会システムの構築を目指して、国際協調の深化を通じたグローバル・ガバナンスを更に強化していくことが求められている。

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