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第5節 投資関連協定

1.世界の投資関連協定を巡る状況

1980年代以降、世界の海外直接投資は急速に拡大しており、世界経済の成長をけん引する大きな役割を果たしている。

海外直接投資の拡大を踏まえ、世界各国は、投資先国における差別的扱いや収用(国有化も含む)などのリスクから自国の投資家とその投資財産を保護するため、投資協定を締結してきた。投資ルールは、貿易におけるWTO協定のような多国間協定がなく、二国間若しくは地域協定が中心となっている。

世界の投資協定数は大きく増加しており、2018年末時点で2,900件以上に達している(第Ⅲ-1-5-1図)。国別では、ドイツ、中国、スイス、トルコ、英国、フランス、エジプトといった国々が100件以上の投資協定を締結している。

第Ⅲ-1-5-1図 世界の投資協定数の推移

2.投資関連協定の主な規定内容

従来の投資協定は、投資受入国における投資財産の収用や法律の恣意的な運用等のカントリー・リスクから投資家を守り、投資家を保護することを主目的として締結されてきた。こうした内容の協定は「保護型」の投資協定と呼ばれ、投資財産設立後の内国民待遇や最恵国待遇、収用の原則禁止および合法とされる収用の要件と補償額の算定方法、自由な送金、締約国間の紛争処理手続、投資受入国と投資家との間の紛争処理等を主要な内容とする。1990年代に入ると、そのような投資財産保護に加えて、投資設立段階の内国民待遇や最恵国待遇、パフォーマンス要求9の禁止、外資規制強化の禁止や漸進的な自由化の努力義務、透明性確保(法令の公表、相手国からの照会への回答義務等)等を盛り込んだ「自由化型」の投資協定が出てきた(第Ⅲ-1-5-2表)10

第Ⅲ-1-5-2表 投資関連協定の主な内容

9 例えば、投資受入国が一定の現地部材(ローカルコンテンツ)比率を満たすことや、製造したものの総量のうち一定の比率を輸出すること等を投資活動に関する条件として要求すること。

10 代表的なものとして我が国の場合、二国間EPAの投資章や、日韓、日・ベトナム、日・カンボジア、日・ラオス、日・ウズベキスタン、日・ミャンマー投資協定等がこのタイプにあたる。

3.エネルギー憲章条約の主な規定内容

投資関連協定と同じように、国際仲裁への付託を可能とする条約としてエネルギー憲章条約がある。1998年に発効したエネルギー憲章条約は、エネルギー分野における投資の保護及び自由化に関し、一般的な二国間の投資協定と類似の内容(締約国が外国投資家の投資財産に対して内国民待遇(NT)又は最恵国待遇(MFN)のうち有利なものを付与すること、一定の要件を満たさない収用の禁止、送金の自由、紛争解決手続等)について規定している。エネルギー憲章条約の締約国は、2020年2月現在で東欧やEU諸国等50か国及び2国際機関である。なお、ロシア、豪州、ベラルーシ、ノルウェーは署名したものの未批准であり、また、オブザーバー参加にとどまる国及び国際機関等(米国、カナダ、中国、韓国、WTO、OECD、IEA、ASEANなど)も存在する。

4.我が国の投資関連協定を巡る最近の状況

海外に拠点を構える日系企業の数は近年増加しており、2018年10月時点で75,651拠点を数えるに至った11。また、我が国の対外直接投資は2019年に269,740億円となって2000年時点に比べて約5.6倍となった12

このように、我が国から海外への投資が一層進んでいる。同時に、新興国を中心に世界の市場が急速な勢いで拡大を続ける中、日本企業や日系企業は、熾烈な海外市場の獲得競争に晒されている。我が国の経済成長をより強固で安定的なものにしていくためには、貿易投資立国としての発展を目指し、世界のビジネス環境をより一層整備していく必要がある。かかる観点から、投資家やその投資財産の保護、規制の透明性向上、機会の拡大等について規定する投資協定及び投資章を含む経済連携協定(EPA)/自由貿易協定(FTA)(以下、投資関連協定)は、投資支援のツールとしての重要性を一層増しており、日本政府は、他の経済政策と並び、既存協定の改正を含む投資関連協定の締結を一層加速し、投資環境の整備を進めている。

2016年5月に策定された「投資関連協定の締結促進等投資環境整備に向けたアクションプラン」では、2020年までに、100の国・地域を対象に投資関連協定を署名・発効することを目指し、交渉相手国の選定に当たっては、我が国から相手国・地域への投資実績と投資拡大の見通し、我が国産業界の要望、外交方針との整合性、相手国・地域のニーズ等を総合的に勘案することとしている。また、投資市場への新規参入段階から無差別待遇を要求する「自由化型」の協定を念頭に、高いレベルの質を確保するとともに、近年の経済・社会状況の変化も踏まえ、サービスや電子商取引等の新たな分野を含めることも検討するなどして、新たな企業活動にも対応した投資環境を作り上げることを目指している。

我が国は、1978年、エジプトとの間での初の投資協定の発効以降、これまで重要な経済関係を有するアジア地域の国々を中心に、投資関連協定を締結してきた。特に、最近の状況としては、2016年5月のアクションプランの策定以降、11件の投資関連協定に署名、10件が発効しており、現在、合計で51件(78の国・地域)に署名、うち44件が発効しているほか、21件につき交渉を継続しており、交渉中のものが発効することになれば94の国・地域をカバーすることになる。(2020年3月現在)(第Ⅲ-1-5-3表)。特に、日本企業の海外投資活動がより広範囲なものになる中、TPP11、日EU経済連協定、日ASEAN経済連携協定、更に、現在交渉中のRCEP投資章など、複数国間での投資関連協定の交渉・締結にも積極的に取り組んでいる。

第Ⅲ-1-5-3表 我が国の投資関連協定締結状況(署名済みの国)

今後も、産業界のニーズや相手国の事情に応じながら、新規協定の締結及び既存協定の改正に向けた交渉を一層積極的に進めていく必要がある。

11 外務省「海外在留邦人数調査統計」(令和元(2019)年版)参照

12 財務省「対外・対内直接投資の推移」参照

5.今後の課題

多くの投資関連協定では、「投資家対国家(投資受入国)」の紛争解決手続(ISDS)を設けている。これは、投資受入国が協定の規定に反する行為を行ったことにより投資家が損害を被った場合、投資家が投資受入国との紛争をICSID13仲裁規則やUNCITRAL14仲裁規則に基づく国際仲裁に付託することを認めるものである。

近年、このISDSを投資関連協定に含めることを好まない国が増加している。これらの国は、ISDSに投資家寄りの制度的なバイアスが存在すると主張し、国家主権や柔軟な政策幅を確保する必要があることを根拠として挙げている。

例えば、ブラジルは、ISDSは憲法に反するとして、これまでISDSを含む投資関連協定を締結していない他、南アフリカ、ベネズエラ、ボリビア、エクアドル、インドネシア等は、ISDSを含む投資関連協定を破棄する動きを見せている。なお、ベネズエラ、ボリビア、エクアドルは近年ICSIDを脱退している。

また、ISDSを投資関連協定に含めること自体は否定しないものの、インドやナイジェリア等、ISDSに国内裁判所への訴えを要件とすることを自国の新たなモデル投資協定に規定する国もある。

このような状況の中、UNCITRALでは2017年からISDS改革について議論が行われる等多国間の枠組での検討も進められている。

このような傾向はISDSが投資家救済の観点から一定の成果をあげたことの裏返しでもあるが、将来におけるISDS活用の余地が狭められることに繋がる懸念もあることから、国際的な動向を注視しつつ、必要な対応を検討していく必要がある。

13 International Centre for Settlement of Investment Disputes(投資紛争解決センター):世界銀行グループの1機関である常設の仲裁機関。所在地はワシントンD.C.。

14 United Nations Commission on International Trade Law(国際連合国際商取引法委員会):所在地はオーストリア(ウィーン)。

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