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- 第Ⅲ部 第2章 第1節 米国
第2章 各国戦略
第1節 米国
1.日米首脳会談・要人往来等
緊密な日米関係を反映し、2019年度は計5回(4・5・6・8・9月)日米首脳会談が行われ、2020年1月の日米貿易協定の発効や、「自由で開かれたインド太平洋」の促進に向けた経済的協力の強化など、経済面でも大きな成果があった。
(1)日米貿易交渉に関する閣僚会合(第1回)(4月15日~16日)
第1回となる日米貿易交渉に関する閣僚会合が、茂木内閣府特命担当大臣(経済再生大臣)とライトハイザー通商代表の間で4月15日から16日の日程で、ワシントンDCにおいて行われた。
両閣僚は、日米貿易に関する協議を、2018年9月の日米共同声明に沿って進めることを再度確認した。
今回、農産品、自動車を含む物品貿易の議論を開始し、お互いの立場等に関して率直な意見交換を行い、良いスタートとなった。
米側からは、米国の対日貿易赤字について言及があった。
次回以降、早期の成果に向けて、農産品、自動車を含む物品貿易の議論を加速するとともに、デジタル貿易の取扱いについても適切な時期に議論を行うこととした。
(2)日米貿易交渉に関する閣僚会合(4月25日)
日米貿易交渉に関する閣僚会合が、翌26日の日米首脳会談に先だって、茂木内閣府特命担当大臣(経済再生大臣)とライトハイザー通商代表の間で4月25日、ワシントンDCにおいて行われた。
両者は、4月15日から16日の日程で行った第1回日米貿易交渉に関する閣僚会合の内容を確認するとともに、両首脳が求める、日米Win-Winとなる良い成果をいかに早期に実現するかという観点から率直な議論を行った。
(3)日米首脳会談(4月26日)
安倍総理は4月22日から29日の日程で欧米各国を歴訪し、26日には2019年度初回となる日米首脳会談がワシントンDCにおいて行われた。
2018年11月のG20ブエノスアイレス・サミット以来の本会談において、安倍総理は、日系企業の対米投資の拡大と米国からのエネルギーなどの購入の拡大についてアップデートを説明した上で、日米双方にとって利益となる方策が日米経済関係ひいては世界経済の発展につながる旨述べた。
両首脳は、日米貿易交渉について、茂木内閣府特命担当大臣(経済再生大臣)とライトハイザー通商代表との間で2018年9月の日米共同声明に沿って、物品貿易について議論が進んでいることを歓迎した。
また、安倍総理からデジタル貿易の取扱いについても、この分野を日米が主導すべく前向きな議論が行われることを期待する旨述べた。
その上で、両首脳は、日米貿易交渉での早期の成果達成に向けて、今後も日米の信頼関係に基づき議論をさらに加速させることで一致した。
さらに、両首脳は、自由で開かれたインド太平洋を促進するための公正なルールに基づく経済発展を歓迎しつつ、G20大阪サミットの成功に向けて、貿易、デジタル経済、海洋プラスチックごみ、インフラ投資、女性のエンパワーメントを始め、主要論点の合意形成に日米で緊密に連携していくことを確認した。
(4)日米貿易交渉に関する閣僚会合(5月25日)
日米貿易交渉に関する閣僚会合が、27日の日米首脳会談に先だって、茂木内閣府特命担当大臣(経済再生大臣)とライトハイザー通商代表の間で5月25日に、東京において行われた。
両閣僚は21日の事務レベルでの協議を踏まえて、率直な意見交換を実施し、両閣僚は、日米双方の立場や考え方に対する理解をさらに深めた。
その上で、両閣僚は、それぞれの立場のギャップを埋めるべく、実務者協議の可能性を含めて日米双方で努力することで一致した。
(5)日米首脳会談(5月27日)
トランプ大統領は5月25日から28日までの日程で、国賓として訪日し、前回2017年11月に公式実務訪問賓客として訪日して以降2回目の訪日となった。2019年度2回目となる日米首脳会談は、同大統領の訪日中、27日に、東京において行われた。
トランプ大統領から、米国の対中関税引き上げ措置に関する説明があり、安倍総理から、問題解決のため米中交渉が継続していることを支持しつつ、建設的な形で問題解決が図られることに期待している旨を述べた。両首脳は、経済分野を含め中国政府と建設的な対話を継続することの重要性を確認した。
また、両首脳は、エネルギー、デジタル及びインフラ分野を含め、「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けた日米協力が着実に進展していることを歓迎し、今後とも、日米で手を携え、この日米共通のビジョンの実現に向けた協力を力強く推進していくとの意思を再確認した。
さらに、両首脳は、茂木内閣府特命担当大臣(経済再生大臣)とライトハイザー通商代表との交渉について、2018年9月の共同声明に沿って、議論が進められていることを歓迎し、日米双方にとってウィン・ウィンとなる形での早期成果達成に向けて、日米の信頼関係に基づき、議論を更に加速させることで一致した。
また、両首脳は、不公正な貿易慣行に対処するため日米及び日米欧三極で連携することを再確認した。
さらに、安倍総理からトランプ大統領に対し、トランプ大統領が、6月開催されるG20大阪サミットの際に再び日本を訪問する旨表明したことに謝意を表するとともに、両首脳は、G20大阪サミットの成功に向けてG20大阪サミットの成功に向けて、引き続き日米で緊密に連携していくことを確認した。
(6)日米貿易交渉に関する閣僚会合(6月13日)
日米貿易交渉に関する閣僚会合が、茂木内閣府特命担当大臣(経済再生大臣)とライトハイザー通商代表の間で6月13日に、ワシントンDCにおいて行われた。
両閣僚は、10日、11日に行われた実務者協議(日本側からは内閣官房、外務省、農林水産省及び経済産業省の局長級実務者が参加)を踏まえ、議論を前に進めるため、率直な議論を行った。
また、両閣僚は、閣僚間で議論が必要な論点は明確にはなったものの、まだ引き続き協議が必要であり、いくつかの技術的な論点については、今回のような形で、互いの専門家同士で議論させ、協議を前に進めようということで一致した。
さらに、両閣僚は6月末に予定されているG20大阪サミットの前に協議を行う方向で調整を行うこととした。
(7)日米印首脳会談(6月28日)
G20ブエノスアイレス・サミット以降2回目となる日米印首脳会談が、安倍総理とG20大阪サミット出席のため訪日中のトランプ大統領とモディ・インド首相の間で、6月28日に、大阪において行われた。
3か国首脳は、自由で開かれたインド太平洋の維持・推進における3か国の協力が極めて重要な意義を有することを改めて確認した。
また、3か国首脳は、サイバー空間を含む新たな領域における安全保障、質の高いインフラ投資の推進等を含む様々な分野で協力を推進していくことで一致した。
さらに、3か国首脳は「質の高いインフラ投資に関するG20原則」を歓迎し,この原則を国際社会で推進していくために協力することで一致した。
(8)日米首脳会談(6月28日)
2019年度3回目となる日米首脳会談が、安倍総理とG20大阪サミット出席のため訪日中のトランプ米国大統領の間で、6月28日に大阪において行われた。
両首脳は、G20大阪サミットにおいて、世界経済の持続的成長などへの貢献に向けた力強いメッセージを発出すべく、日米両首脳間で緊密に連携し、サミットを成功させることで一致した。
また、両首脳は,茂木内閣府特命担当大臣(経済再生大臣)とライトハイザー通商代表との間での貿易交渉について、2018年9月の日米共同声明に沿って、日米双方にとってウィン・ウィンとなる形での早期の成果達成に向けて、日米の信頼関係に基づき更に加速させることを確認した。
さらに、安倍総理からは、トランプ大統領に対し、日本企業による米国への投資を通じた米国の雇用と輸出の拡大への貢献等を説明した。これに対し、トランプ大統領から高い評価が示された。
(9)日米貿易交渉に関する閣僚会合(6月28日)
日米貿易交渉に関する閣僚会合が、同日に行われた日米首脳会談も踏まえて、茂木内閣府特命担当大臣(経済再生大臣)とライトハイザー通商代表の間で6月28日に、大阪において行われた。
両閣僚は、閣僚会合に先立って行われた農業品、工業品に関する実務者協議の結果を確認するとともに、閣僚レベルで議論すべき論点について確認を行い、率直な議論を行った。
また、両閣僚は、今回の協議の結果を踏まえ、交渉を前に進めるため、7月早々から、実務者レベル、さらに事務方ハイレベルを含め、事務方による協議を精力的に行うことで一致した。
さらに、両閣僚は、日程は改めて調整するとしつつ、事務方による協議を踏まえて、両閣僚の間で次回の協議を行うこととした。
(10)日米貿易交渉に関する閣僚会合(8月1日~2日)
日米貿易交渉に関する閣僚会合が、茂木内閣府特命担当大臣(経済再生大臣)とライトハイザー通商代表の間で8月1日から2日の日程で、ワシントンDCにおいて行われた。
両閣僚は、2日間にわたる同協議で、日米双方にとって良い成果を早期に実現させるための議論をかなり前に進めることができた。
また、両閣僚は同協議を通じ、多くの論点について方向性を日米双方で共有した。その結果を踏まえ、以降、実務者及び次官級を含めた事務レベルの協議を精力的に行うことで一致した。
さらに、両閣僚は、事務レベルの協議の結果も踏まえ、8月中に両閣僚の間で次回の協議を行う方向で、今後日程等を調整することとした。
(11)日米貿易交渉に関する閣僚会合(8月21日~23日)
日米貿易交渉に関する閣僚会合が、事務レベルの協議を挟みつつ、茂木内閣府特命担当大臣(経済再生大臣)とライトハイザー通商代表の間で8月21日から23日の日程で、ワシントンDCにおいて行われた。
両閣僚は、3日間にわたり協議を行い、大きな進展をみることができた。
(12)日米首脳会談(8月25日)
2019年度4回目となる日米首脳会談が、G7ビアリッツサミット出席のためフランス訪問した安倍総理とトランプ大統領との間で、8月25日にビアリッツにおいて行われた。
安倍総理からトランプ大統領に対し、G20大阪サミットでの協力に改めて感謝し、両首脳はG7ビアリッツ・サミットで議論された諸課題への対応に当たり、日米両首脳間で緊密に連携していくことで一致した。
また、両首脳は、日米貿易交渉について、2018年9月26日の日米共同声明に沿って、茂木内閣府特命担当大臣(経済再生大臣)とライトハイザー通商代表との間で交渉が進められ、農産品、工業品の主要項目について日米双方で意見の一致を見たことを歓迎し、9月末の協定の署名を目指して,残された作業を加速させることで一致した。
(13)日米貿易交渉に関する閣僚会談(9月23日)
日米貿易交渉に関する閣僚級会談が、ライトハイザー通商代表と国連総会出席のため訪米した茂木外務大臣の間で9月23日に、ニューヨークにおいて行われた。
両閣僚は、日米貿易交渉に関し、8月末における農産品、工業品、デジタル貿易の主要項目についての意見の一致を受け、その後日米間で行われてきた作業の進展を踏まえ、交渉が全て終了したことを確認した。
また、両閣僚は、日米双方にとってウィン・ウィンとなるような協定の早期発効を目指して、引き続き連携していくことを確認した。
(14)日米共同声明署名式及び日米首脳会談(9月25日)
国連総会出席のため訪米した安倍総理は、9月25日、ニューヨークにおいてトランプ大統領と日米貿易協定及び日米デジタル貿易協定が最終合意に達したことを確認し、日米共同声明を発出するとともに、2019年度5回目となる日米首脳会談を行った。
会談の場で、安倍総理からは、トランプ大統領に対し、トランプ政権発足後、これまで累計で257億ドルにのぼる日本の対米投資が発表され、雇用創出数は5万人を超え、日本が対米ナンバー1の投資国になったことなど日本企業による米国への投資を通じた米国の雇用への貢献を説明した。これに対し、トランプ大統領から高い評価が示された。
(15)梶山経済産業大臣の訪米(1月13日~14日)
第7回三極貿易大臣会合出席のため1月13日から14日の日程で、ワシントンDCを訪問した梶山大臣は、ライトハイザー通商代表と会談を行った。両者は、三極貿易大臣会合の事前調整を行うとともに、WTO改革やデジタル分野をはじめ、国際貿易の諸課題と日米協力のあり方について意見交換を行った。
2.日米貿易協定及び日米デジタル貿易協定
<日米貿易協定の成立経緯>
2018年9月の日米首脳会談における日米共同声明において、我が国と米国との間で貿易協定の締結に向けた交渉を開始することについて一致したことを受け、2019年4月から両国間で交渉を行った。その結果、2019年9月の日米首脳会談における日米共同声明において、協定が誠実に履行されている間は協定の精神に反する行動を取らないこと等を確認するとともに協定案文について最終合意を確認した。これを受け、同年10月7日にこの協定の署名が行われた。
<日米デジタル貿易協定の成立経緯>
2018年9月の日米首脳会談における日米共同声明を踏まえ、我が国及び米国は、2019年4月に行われた第1回閣僚協議において、デジタル貿易協定の締結に向けた交渉を開始することについて一致した。これを受け、両国間で交渉を行った結果、協定案文について最終的合意をみるに至ったので、2019年10月7日にこの協定の署名が行われた。
<日米貿易協定の概要>
世界のGDPの約3割(25.5兆ドル)を占める、日米両国(人口約4.5億人)の物品貿易に関する協定。関税撤廃率は、日本側が84%、米国側が92%(2018年の貿易額ベース)。
・工業品関連合意の概要
米国側:
(1)自動車・自動車部品:自動車・自動車部品については、米国附属書に「関税の撤廃に関して更に交渉」と明記。(自動車・自動車部品に係る具体的な関税撤廃期間や原産地規則は本協定で規定せず。)
※通商拡大法232条の扱いについては、「両国は、両協定の誠実な履行がなされている間、両協定及び本共同声明の精神に反する行動を取らない」旨を日米首脳共同声明で確認。数量制限、輸出自主規制等の措置を課すことはない旨は閣僚間で確認。
(2)その他の工業品:日本企業の輸出関心が高く貿易量も多い品目を中心に、工業品(産業機械、化学品、鉄鋼製品等)の関税を撤廃、削減。
日本側:
有税工業品は譲許せず。
・農林水産品関連合意の概要
米国側:
米国向けの牛肉について、現行の日本枠200tと複数国枠を合体し複数国枠65,005tへのアクセスを確保。また、日本からの輸出関心が高い42品目の関税を撤廃・削減(醤油、ながいも、柿、メロン、切り花、盆栽等)。
日本側:
農林水産品に係る日本側の関税について、TPPの範囲内に抑制。具体的には、コメは調製品を含め完全に除外。TPPにおいてTPPワイドの関税割当枠数量が設定されている33品目(脱脂粉乳・バター等)について、新たな米国枠は設けない。また、TPPで関税削減・撤廃した木材や水産品についても全て除外。
<日米デジタル貿易協定の概要>
日本と米国との間で、円滑で信頼性の高い自由なデジタル貿易を促進するための法的基盤を確立するとともに、デジタル貿易の分野に関するハイレベルなルールを示すもの。
具体的には、電子的な送信に対して関税を賦課しないこと、デジタル・プロダクトの無差別待遇、コンピュータ関連設備の自国内設置要求禁止、ソースコード及びアルゴリズム開示要求の禁止、特定暗号の強制的使用及び暗号開示要求の禁止等が規定されている。
3.米国通商拡大法第232条への対応
(1)鉄鋼・アルミニウム
米国は、2017年4月、輸入鉄鋼および輸入アルミについて、232条調査を開始した。 2018年1月、ロス商務長官は、大統領に各調査の報告書を提出し、輸入鉄鋼・アルミについて追加関税、数量割当、またはその組み合わせを輸入制限措置としてとるよう勧告した(2月公表)。
その後、2018年3月23日、米国は、鉄鋼、アルミに対する追加関税賦課を開始した。ただし、豪州(鉄鋼・アルミ)、数量制限を受け入れた韓国(鉄鋼 、ブラジル(鉄鋼)及びアルゼンチン(鉄鋼・アルミ)は関税措置から除外した。 また、米国内で十分に生産出来ない製品、安全保障上の考慮を要する製品については、建設業・製造業・消費者への鉄鋼・アルミ製品の供給等の業務を米国内で行う個人・組織の申請に基づき商務省が措置からの除外を判断している(製品別除外)。
同盟国である日本の鉄鋼やアルミの輸入は、米国の安全保障上の脅威となることはないとして、我が国は、米国に対し、累次にわたり懸念を伝えている。同時に、製品別除外プロセスの迅速化、簡素化を図るよう、産業への影響を極力回避するよう多様なレベルで働きかけを行っている。また、他の輸出国と同様、米国の措置は実質的にセーフガード措置に該当するとして、今後リバランス措置をとる権利を留保する旨のWTO通報を行っている(2018年5月)。さらに、我が国はシステミックな関心を有するとして米国の232条措置、対米リバランス措置のパネル審理にそれぞれ第三国参加を行っている。
なお、2020年1月、上記に加え、鉄鋼・アルミそれぞれの派生製品(鉄鋼の釘、アルミのケーブルなど)についても、追加関税を賦課する大統領令が署名され、同年2月より鉄鋼の派生製品に25%、アルミの派生製品に10%の追加関税が賦課されている。背景理由として、鉄鋼・アルミ製品に対する232条措置を発動しているにもかかわらず、川下製品に加工してからの輸入が増え、232条措置で目的とした、米国内での生産稼働率80%が実現できていないことが挙げられた。
(2)自動車、自動車部品
米国は、2018年5月、輸入自動車及び自動車部品について、232条調査を開始した。商務長官は、2019年2月17日、調査報告書を大統領に提出した(非公表)。同年5月17日、米国は自動車及び自動車部品の輸入が安全保障上の脅威と認定。判断を180日延期し、EUや日本などと、脅威に対応するための交渉を指示。同年11月13日に当該判断期限が到来するも、措置決定はされていない。
我が国は、2018年9月の日米首脳会談で、日米共同声明に基づく協議が行われている間は、本合意の精神に反する行動をとらないこと、すなわち、日本の自動車に対して、232条に基づく追加関税が課されることはないことを確認した。また、2019年9月の日米首脳会談においては、日米貿易協定及び日米デジタル貿易協定が合意に至ったことを踏まえ、「両協定の誠実な履行がなされている間は、両協定及び本共同声明の精神に反する行動を取らない」旨を日米首脳共同声明で確認し、これは我が国の自動車・自動車部品に対しては、232条に基づく追加関税は課されない趣旨であることを首脳間で確認した。
同盟国である日本からの自動車及び自動車部品の輸入は、米国の安全保障上の脅威となることはない。むしろ、米国産業・雇用に多大な貢献をしている。また、我が国としては、自由で公正な貿易を歪曲する管理貿易につながりかねない措置については反対であり、いかなる貿易上の措置もWTO協定に整合的であるべきと考えている。我が国は、米国に対し、上記の立場に基づき、様々な機会を通じ働きかけを行っている。
(3)スポンジチタン
米国は、2019年2月、スポンジチタンについて232条調査を開始し、2019年11月、商務省が、スポンジチタンの安全保障上の脅威を認定し、輸入調整以外の措置をとるよう大統領に勧告した。同報告を受け、大統領は、2020年2月27日、上記認定(スポンジチタンの輸入による安保上の脅威の存在)に同意したが、輸入調整(追加関税等)は行わないことを決定した。ただし、国防省、商務省に対し、作業部会(ワーキンググループ)を立ち上げ、輸入の約94%を占める日本との間で協議を実施し、米国の緊急事態に国防・重要産業にスポンジチタンを用いることができるよう、製品へのアクセス確保のための措置に合意するよう指示している。
米国が輸入するスポンジチタンの大半が日本からの輸入品であるが、同盟国である日本の製品が、米国の安全保障上の脅威となることはない。むしろ日本から輸出されるスポンジチタンは、品質管理が行き届いた信頼性の高いものであり、米国国内の供給不足を日本からの輸出が充足し、まさに米国の安全保障を支える素材となっている。今後の協議で合意される措置もWTO協定整合的であるべきである。
4.日米貿易投資関係の更なる発展に向けた取組
過去半世紀にわたり、日米両国の製造業は国境を超えるサプライチェーンの深化を通じて競争力を涵養してきた。日本からの対米直接投資残高は年々増加し、2018年末では日本の対外直接投資残高全体の31%に相当する55.6兆円に達した。在米日系企業による米国内の雇用者数は88.5万人(世界2位)であり、このうち製造業の雇用者数は41.9万人(世界1位)である(2017年)。また、日系自動車メーカーによる雇用者数は、経済的な波及効果も含めると、約160万人となっている(2017年)。
日系企業は、西海岸のみならず、全米各地で研究開発分野への投資を活発に行い、イノベーションの源泉としてきた。日系企業による米国内での研究開発費は年間80億ドルを超えており、これは、スイスに次ぐ世界第2位である(2017年)。
こうした日系企業の活動を後押しするため、経済産業省としては、ジェトロを通じて、①地方都市での「ロードショウ」開催、②州知事等への個別アプローチ、③対米投資促進のためのセミナー開催、④両国企業の現地でのマッチングイベント開催などに取り組んでいるところである。
また、米国商務省が主催する投資イベントであるセレクトUSAなどを活用し、日米間の貿易投資を通じたつながりが両国経済に利益をもたらすことを、積極的にPRしている。
5.自由で開かれたインド太平洋の維持・促進に向けた日米協力
日米両国は、「自由で開かれたインド太平洋」というビジョンの実現に向け、日米が主導して、豪州、インドやASEAN各国等と連携しつつ協力を強化しているところ。
2019年5月のトランプ大統領訪日の際には、「『自由で開かれたインド太平洋』の実現に向けたエネルギー・デジタル・インフラ分野における最近の日米の取組」を発出し、エネルギー、デジタル及びインフラ分野を含め、「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けた日米協力が着実に進展していることを両政府は歓迎し、引き続き、同ビジョンの実現に向けた協力を力強く推進していくとの意思を再確認した。