経済産業省
文字サイズ変更

第7節 ロシア

1.今後の方針

ロシア・CIS地域は、石油・石炭・天然ガスをはじめ、ウラン、レアメタル、レアアース等の鉱物・エネルギー資源が豊富である。一方、旧ソ連時代に建設されたインフラは老朽化が進んでおり、インフラ設備等の新規建設及び更新プロジェクトが多数存在し、このようなビジネスに参入もしくは関心を寄せる我が国企業から、ビジネス環境及び投資環境の改善ニーズが高まっている。

大統領や政府高官に権限が集中している国が多いことから、要人往来の機会を捉えたトップセールスが重要である。特に、ロシアにおいては、2016年5月に安倍総理大臣がプーチン大統領に提案した8項目の「協力プラン」15について、緊密な首脳外交の下、経済産業大臣兼ロシア経済分野協力担当大臣がロシア経済発展大臣とともに、その具体化と充実に取り組み、これまでに200件以上の民間プロジェクトを創出した。「協力プラン」は、2020年1月にロシアで発足した新内閣が重視する「国家プロジェクト」16とも軌を一にしており、日本の技術と経験を活かしながら、日本企業のロシア市場におけるビジネスチャンスを拡大するとともに、ロシアの国家的課題の解決に貢献し得る互恵的な取組である。今後も、梶山経済産業大臣兼ロシア経済分野協力担当大臣を中心に、この協力の幅を広げ、深みを持たせる取り組みを加速し、日露経済関係のさらなる深化を進める。

15 (1)健康寿命の伸長、(2)快適・清潔で住みやすく、活動しやすい都市作り、(3)中小企業交流・協力の抜本的拡大、(4)エネルギー、(5)ロシアの産業多様化・生産性向上、(6)極東の産業振興・輸出基地化、(7)先端技術協力、(8)人的交流の抜本的拡大

16 国家プロジェクトとは、2019年2月に公表された13分野にわたる国家事業。この国家事業は、2018年5月にプーチン大統領が発表した「2024年までの国家目標と戦略的課題に関する大統領令」で掲げられた9つの目標を具体化したもの。

2.主な進捗

2019年6月上旬、世耕ロシア経済分野協力担当大臣は、訪日中のオレシュキン経済発展大臣及びノスコフ・デジタル発展・通信マスコミ大臣と会談を行い、8項目の「協力プラン」の下で創出された数多くのプロジェクトの進捗について議論するとともに、今後の更なる発展に向けて、デジタル経済分野や労働生産性向上の協力を含む「協力プラン」をさらに深化・拡大するため、引き続き協議を加速することで一致した。

同月下旬に大阪で行われた日露首脳会談では、両首脳は、北極LNG2への日本企業の参画やハバロフスクの「予防医療診断センター」の設立に向けた投資の意思決定を含め、8項目の「協力プラン」の具体化が進展していることを歓迎した。また、「ロシアにおける日本年」、「日本におけるロシア年」が成功裡に行われたことを歓迎するとともに、2020年から2021年にかけて日露地域・姉妹都市交流年を実施することで一致した。

日露首脳会談の前日には、世耕ロシア経済分野協力担当大臣は、オレシュキン経済発展大臣、ノヴァク・エネルギー大臣とそれぞれ会談を実施した。オレシュキン経済発展大臣とは、翌日の日露首脳会談に向け、8項目の「協力プラン」の成果の確認を行うとともに、『8項目の「協力プラン」の具体化に関する作業計画の改訂に関する共同声明』、『デジタル経済に関する協力に係る共同行動計画』及び『気候変動及びエネルギー効率の向上に係る相互理解に関する覚書』に署名した。また、世耕ロシア経済分野協力担当大臣は、日露ビジネス会合に出席し、日露の経済関係と8項目の「協力プラン」の進展について強調。当該会合では、日露双方の企業の代表による意見交換が行われた。

同年9月、安倍総理と世耕ロシア経済分野協力担当大臣らは、ウラジオストクで行われた東方経済フォーラムに出席。日露首脳会談では、両首脳は、8項目の「協力プラン」の具体的成果について確認し、特に、北極LNG2の最終投資決定や、トヨタのサンクトペテルブルクでの特別投資契約の締結を歓迎した。世耕ロシア経済分野協力担当大臣は、日露首脳会談、日露ビジネスラウンドテーブルや北極LNG2最終投資決定セレモニーへ出席したほか、オレシュキン経済発展大臣、ノヴァク・エネルギー大臣、ニコラエフ・サハ共和国首長との会談を行った。オレシュキン経済発展大臣とは、同日に行われた日露首脳会談を前に、8項目の「協力プラン」の進捗を確認すると共に、個別プロジェクトが直面する課題等について議論した。また、両大臣が同日に署名した「第四次産業革命関連ハイテク分野における協力に関する覚書」及び「ロシアにおける生産性向上モデル工場創設のための相互理解に関する覚書」の交換を行うとともに、両大臣立ち会いの下、西部ガス株式会社とノヴァテク社が署名した「合弁会社設立に向けて協議を開始するための基本合意書」の交換が行われた。ニコラエフ・サハ共和国首長とは、サハ共和国において進展中のエネルギー、インフラ、農業関係等のプロジェクトについて意見を交わすとともに、日本とサハ共和国との更なる経済関係強化に向けて連携していくことを確認した。

8項目の「協力プラン」の個別分野では、「(3)中小企業交流・協力の抜本的拡大」に関連し、2016年9月、ウラジオストクで行われた東方経済フォーラムの際、経済産業省とロシア連邦経済発展省が締結した、中堅・中小企業分野における協力のためのプラットフォーム創設に関する覚書に基づき、海外展開支援機関や、自治体、金融機関などからなる日本側プラットフォームを設立。プラットフォームメンバーであるJETROにロシア展開の専門家を配置し、戦略策定から販路開拓、パートナー探し、商談同行、契約締結まで一貫して個別企業支援を行う仕組みを整備し、一体的に支援を行い、一部の日本企業においては、実際にロシア企業との取引が成立するなど成果を得ている。2019年7月には、産業総合見本市イノプロムに参加し、中堅・中小企業を含む全26の企業団体が参加するジャパン・パビリオンを出展した。同年11月には、第五回中堅・中小企業プラットフォーム国内会合を行い、中堅・中小企業がロシアビジネスで直面する課題を集約し、翌12月に開催した第三回中堅・中小企業プラットフォーム議長間会合において、ロシア経済発展省とこれらの課題解決に向けた意見交換を実施した。また、同月には、札幌で第7回中小企業協力に関する日露会合を開催し、日露官民合同対話、商談会を実施した。

「(4)エネルギー」に関しては、2016年11月に世耕経済産業大臣とノヴァク・エネルギー大臣が議長となる「日露エネルギー・イニシアティブ協議会」を設立し、炭化水素・原子力・省エネ再エネの各分野についてワーキング・グループを設置した。2019年6月には第七回会合を開催し、各分野におけるエネルギー協力の進捗について確認するとともに、具体化に向けた議論を行った。

個別プロジェクトの進展として、2019年6月、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)、三井物産、ノヴァテク社が北極LNG2への日本企業参画に関する株式売買契約を締結し、同年9月、最終投資決定が行われた。さらに同月、商船三井、国際協力銀行(JBIC)、ノヴァテク社は、カムチャツカ及びムルマンスクでの浮体式貯蔵設備(FSU)を活用したLNG積替え事業に関する覚書を締結した。

2019年8月、省エネルギーセンターがウラジオストク市の熱供給所における省エネ診断実施に関するLOIを締結した。同年9月、日本で開催された第2回水素閣僚会議に併せて、資源エネルギー庁とロスアトム・オーバーシーズ社は、水素サプライチェーンに関する実現可能性調査を行うことについての協力覚書を締結した。また、同年12月、日露企業は、ウスト・カムチャッカおける商業ベースでの風力発電機の増設契約を締結した。

これらの事業により、我が国のエネルギー供給源多角化・安定供給確保、日本のエネルギー技術の導入及び両国間の経済関係強化につながることが期待される。

「(5)ロシアの産業多様化・生産性向上」については、2016年8月、貿易経済に関する日露政府間委員会のもとに産業分野における協力に関する分科会を設立した。同分科会での議論を踏まえ、①高い技術力や生産性管理技術を備えた日本の専門家によるロシア企業のIT化を含めた生産性診断及び改善指導、②ロシアの裾野産業に従事する役員・ラインマネージャークラスを日本に招聘し、生産工場の現場視察や日本の管理技術・設備、IT化に関する研修等を行うこととなった。①については、2017年から2020年3月末までにロシア企業32社を対象に診断を実施。②については、日露政府間で合意した、2017年から2019年3月末までに計200名のロシア人研修性を受け入れるという目標を達成した。また、2017年から2020年3月末までに累計326名の研修生を受入れた。これら事業により、日本の最先端設備をロシア企業に導入することを目指すとともに、ロシア企業の生産性向上により、ロシアに進出している日系企業のロシア企業からの部品等の調達条件が改善され、ひいては日系企業の市場シェア拡大につながることが期待される。2020年度も同事業を継続していく。

8項目の「協力プラン」における横断的取組としては、2017年9月、世耕ロシア経済分野協力担当大臣とオレシュキン経済発展大臣との間で「労働生産性向上の分野における経験の交換に関する相互理解の覚書」が署名され、ロシアの労働生産性向上を進めていくことが確認された。この覚書に基づき、ロシアでの日本企業によるワークショップを開催するなど、日露の労働生産性向上に向けた協力が進展。さらに、2019年9月に両大臣により署名された「ロシアにおける生産性向上モデル工場創設のための相互理解に関する覚書」に基づき、日本の技術導入等によるロシアにおける生産性向上に係るモデル工場の実現に向けた検討を行う。2020年度もこのような協力を継続していく。

また、2019年6月には、2017年9月に世耕ロシア経済分野協力担当大臣とオレシュキン経済発展大臣との間で署名された「デジタル経済に関する協力に係る共同声明」を改訂し、8項目の「協力プラン」の各項目におけるデジタル経済の実現に向けた協力について再確認した。これに関連し、2019年4月、モスクワ郊外で開催された「スコルコヴォ・ロボティクス・フォーラム」へ初めて日本企業・関係機関が参加。また2019年10月には、千葉で開催された「CEATEC2019」にロシアからスタートアップ11社による初のナショナルパビリオンが出展され、ピッチイベント及びビジネスマッチングが実施された。さらに同月、モスクワ郊外で行われた「スコルコヴォ・オープン・イノベーションフォーラム」に日本代表団を初めて派遣し、日本ブース出展や日露ビジネスセッションを実施した。

<<前の項目に戻る | 目次 | 次の項目に進む>>

経済産業省 〒100-8901 東京都千代田区霞が関1-3-1 代表電話 03-3501-1511
Copyright Ministry of Economy, Trade and Industry. All Rights Reserved.