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政策について
白書・報告書
製造基盤白書(ものづくり白書)
2018年版
モバイル版
第1部第1章第1節
1.我が国製造業の業績動向
第1部 ものづくり基盤技術の現状と課題
第1章 我が国ものづくり産業が直面する課題と展望第1節 我が国製造業の足下の状況
我が国製造業の企業業績は引き続き改善傾向にあり、従業員への利益還元は中小企業においても進展している。
第4次産業革命は、ものづくりの生産現場にプロセス改革を起こすのみならず、ビジネスモデル自身の変革を起こしつつある。一方、第4次産業革命への具体的な対応は、企業規模の小さい企業で、また、ビジネスモデルの変革を伴う分野で、相対的に遅れている。
1.我が国製造業の業績動向
我が国経済は安倍内閣の経済政策(「アベノミクス」)の効果が現れる中で、着実に上向いてきた。製造業企業を中心に収益の改善が見られ、雇用の拡大や賃金の上昇につなげることにより「経済の好循環」が生まれ始めている。一方で、人手不足の深刻化などの課題も浮き彫りになってきている。
アベノミクスでは、「大胆な金融政策」「機動的な財政政策」「民間投資を喚起する成長戦略」という相互に補強し合う関係にある「三本の矢」を一体として推進しており、ここでは、アベノミクスが我が国製造業に及ぼした効果を分析する。
(1)企業業績と金融市場の動向
我が国企業の業績について、法人企業統計によれば、2012年第4四半期(10-12月期)以降、製造業の営業利益の伸び率(前年同期比)は大幅なプラスに転じ、消費税率引上げによる駆け込み需要の反動減を経て、その後持ち直したものの、世界経済の減速などから2015年第3四半期以降大幅に落ち込んだ。その後、2016年秋以降の海外景気の持ち直しなどから営業利益は大きな伸びを見せたが、2017年に入ってからは一進一退の状況となっている(図111-1)。
図111-1 企業業績の推移(営業利益)

備考:金融業、保険業以外の業種(原数値)、資本金1億円以上。
資料:財務省「法人企業統計」
業種別では、2015年から2016年にかけて、特に自動車を中心とする「輸送用機械」などの機械産業で減益となったが、2017年には増益に転じている(図111-2)。
図111-2 企業業績の推移(製造業業種別・営業利益)

備考:資本金1億円以上の企業の四半期の営業利益の合計。
資料:財務省「法人企業統計」
また、ものづくり企業の業績に関連して、経済産業省が2017年12月に実施したアンケート調査によると、1年前と比べた業績は、売上高、営業利益ともに増加傾向にある(図111-3)。
図111-3 業績の動向(売上高、営業利益)

資料:経済産業省調べ(2017年12月)
増加傾向と減少傾向が均衡していた昨年度調査結果と比較すると、売上高・営業利益とも増加傾向が明らかとなっており、全般的には業績が上向く傾向といえる。規模別では、売上高及び営業利益ともに、大企業の方が中小企業よりも業績が増加傾向にある(図111-4、5)。
図111-4 業績の動向(売上高:規模別)

資料:経済産業省調べ(2017年12月)
図111-5 業績の動向(営業利益:規模別)

資料:経済産業省調べ(2017年12月)
なお、営業利益の増減の理由を尋ねたところ、増加・減少のいずれにおいても、「既存取引の増加/減少」が最も多く、既存取引先との関係が営業利益の増減に直結していることが分かるが、営業利益増の理由については第2位が「新規取引の増加」となっており、利益を伸ばしている企業は既存取引先との関係強化に加え、新たな販路開拓に取り組んでいることがうかがえる。一方、営業利益減の理由については、「原材料・調達コストの増加」「人件費の増加」「価格競争の激化」が多く、コストアップ・価格競争といったコスト面が利益減に及ぼす影響が大きいことがうかがえる(図111-6)。
図111-6 業績の増減理由

資料:経済産業省調べ(2017年12月)
さらに、今後3年間の国内外の業績の見通しは、すべての主要業種で増加傾向見通しが減少傾向見通しに比べ相当程度高く、全般的に明るい見通しである(図111-7・8)。昨年度調査結果と比較すると、増加傾向見通しの割合が増加しており、今年度の方がより一層明るい見通しとなっている。
図111-7 今後3年間の見通し(国内、2016年調査との比較含む)

備考:2016年の「研究開発投資」は、国内に限定していない点に留意
資料:経済産業省調べ(2017年12月)
図111-8 今後3年間の見通し(海外、2016年調査との比較含む))

資料:経済産業省調べ(2017年12月)
アベノミクスを通じた企業業績の回復に対する期待感などを背景に、日経平均株価は、2015年8月にかけて大幅に上昇したが、中国株下落などの海外要因をきっかけに反落し、2016 年初以降は中国景気の先行き不透明感や欧州金融機関の経営不安なども相まって下げ幅を拡大した。その後、株価は軟調に推移したものの、2016年11月の米国大統領選後から2017年初にかけて上昇に転じ、2018年1月には24,000円を突破した。ただし、足下では1月を頭打ちに下落傾向に転じている(図111-9)。
図111-9 株価の推移

資料:日本経済新聞社
業種別の株価指数を見ると、「電機・精密」が他の業種を上回るパフォーマンスで推移している(図111-10)。
図111-10 株価の騰落率の推移(東証株価指数、業種別株価指数)

備考:2012年12月28日を基準とする騰落率の推移。
資料:Bloombergより経済産業省作成
また、為替(ドル円相場)は、2016年初の中国景気の先行き不透明感や英国のEU離脱などの影響で円高方向に推移したが、米大統領選後は円安方向に逆振れするなど、1年間を通して大きく変動した。2017年は総じて安定的に推移した後、2018年第1四半期には、円高方向に推移している(図111-11)。
図111-11 2016年、2017年、2018年の為替(ドル円相場)の推移

資料:Bloombergから経済産業省作成
堅調な株価を背景に、企業の株式による資金調達も活発化しており、企業の資金調達額は2012年を底として2015年にかけて増加した。しかし、2016年には低金利などの環境を活用した社債発行による資金調達の動きが広がる一方、株式による資金調達が減少したが、2017年には再び持ち直している(図111-12)。
図111-12 資本調達の推移

備考:「国内」における「株券」による資金調達。
資料:日本証券業協会
(2)実体経済への波及と「好循環」へ向けた動き
企業業績の改善が進む中で、これを設備投資の拡大や雇用・所得の増加へと結びつけることが「経済の好循環」を持続する上で重要となる。以下では、設備投資と雇用・所得の動向について確認する。
①設備投資の動向
我が国の経済は、2014年4月の消費税率引き上げ後の弱さが見られたものの、緩やかな回復基調が続いてきた(図111-13)。
図111-13 実質GDPの推移

資料:内閣府「2017年10-12月期四半期別GDP速報(2次速報値)」(2018年3月8日公表)
企業の全般的な業況を示す日本銀行の全国企業短期経済観測調査(日銀短観)の業況判断DIは、2013年半ばから回復して以降おおむね横ばいで推移しており、大企業の製造業は、2013年半ば以降プラス圏を推移し、中小企業の製造業においても、回復基調にある(図111-14)。
図111-14 日銀短観・業況判断DIの推移(企業規模別)

備考:「業況判断DI」は、回答企業の収益を中心とした業況についての全般的な判断を示すものであり、「良い」という回答比率から「悪い」という回答比率を引いて算出。
資料:日本銀行「全国企業短期経済観測調査」
また、鉱工業生産活動の全体的な水準を示す鉱工業生産指数は2015年半ばから2016年にかけていったん低下した後、2016年半ば以降、上昇基調にある(図111-15)。さらに、製造業における設備の稼働率も生産の動きに合わせて、上昇傾向にある(図111-16)。
図111-15 鉱工業生産指数の推移

資料:経済産業省「鉱工業指数」
図111-16 稼働率指数の推移

資料:経済産業省「製造工業生産能力指数・稼働率指数」
このような環境下において、民間企業設備投資は、2017年は前年比3.6%増加と増加に転じている(図111-17)。2017年には研究開発投資を含めた設備投資がリーマンショック前の水準を超えており、投資が活発化している(図111-18)。
図111-17 設備投資の推移

備考:季節調整値。
資料:内閣府「2017年10-12月期四半期別GDP速報(2次速報値)」(2018年3月8日公表)、「機械受注統計調査」
図111-18 名目設備投資の推移

備考:季節調整値。
資料:内閣府「2017年10-12月期四半期別GDP速報(2次速報値)」(2018年3月8日公表)
製造業の2018年度の設備投資見通しでは、「増加(10%以上)」又は「やや増加」との回答割合が、大企業で23.6%、中小企業で16.2%と、比較可能な2013年度以降で過去最高となった(図111-19)。
図111-19 来年度(2018年度)の設備投資見通し


備考:1.2017年10ー12月期調査。2.設備投資はソフトウェア投資を含み、土地購入額を除く。
資料:内閣府・財務省「法人企業景気予測調査」
このような環境において、経済の好循環を生み出す上で、中長期的な成長を目指した企業の取組がますます重要になっている。2015年のコーポレートガバナンス改革によって、企業経営者には、機関投資家との対話を通じて、企業の中長期的な成長や企業価値の向上にこれまで以上に取り組むことが求められるようになり、それらを意識して行動するようになっている。
こうした中、企業価値の向上において重要となる収益性を表す指標としては、従来から自己資本利益率(Return On Equity、以下ROEと呼称)が用いられているが、アベノミクス始動後の企業業績の回復によって、ROEは回復傾向にある。2016年度のROEは前年度より増加し、全産業では7.3%(前年度6.7%)、製造業では7.2%(同7.1%)と高水準を維持している(図111-20)。
図111-20 自己資本利益率(ROE)

資料:財務省「法人企業統計」
製造業の企業規模別ROEの推移を見ると、2016年度には中堅企業が9.1%と前年度の5.9%から大幅に増加し、大企業の7.4%を上回る結果となっている。中小企業は5.3%と前年度より若干減少した(図111-21)。また、製造業の業種別に見ると、2010から2016年度において過去に比べてROEが増加している業種が多い(図111-22)。
図111-21 製造業企業規模別自己資本利益率(ROE)

資料:財務省「法人企業統計」
図111-22 業種別の自己資本利益率(ROE)の変化

資料:財務省「法人企業統計」
②雇用・所得の動向
雇用環境は引き続き改善傾向にある。2017年の完全失業率は2.8%と1993年(2.5%)以来24年ぶりの低水準、有効求人倍率は1.50倍と1973年(1.76倍)以来44年ぶりの高水準となるなど、雇用情勢は着実に改善してきた(図111-23)。労働需給の引き締まりを受けて、改善の動きは徐々に賃金へ波及しつつある。
図111-23 雇用環境の動向(完全失業率、有効求人倍率)

備考:いずれも季節調整値。2011年3月から8月までの完全失業率は、補完推計値を用いている。
資料:総務省「労働力調査」、厚生労働省「職業安定業務統計」
2016年半ば以降、企業の設備稼働率が増加傾向を示し、企業の生産活動が回復する(図111-15・16)につれ、残業時間などを表す所定外労働時間も増加する傾向が見られている(図111-24)。
図111-24 製造業の所定外労働時間の動向

備考:1.事業所規模5人以上
2.一般労働者(常用労働者のうち、パートタイム労働者でない労働者)
資料:厚生労働省「毎月勤労統計調査」から作成
製造業における月々の賃金動向を分析すると、2013年の中頃から対前年同月比でプラスへと転じ、2014年は通年を通してプラスを維持した。しかし、2016年の賃金は、前述のように、生産が足踏み状態となったことなどから、ボーナスなどを含む特別に支払われた給与や、残業代などの所定外給与が伸び悩んだ。ただし、その中でも、基本給などからなる所定内給与は2015年に比べると上昇してきている(図111-25)。
図111-25 製造業の所得環境の動向(現金給与総額)

備考:1.事業所規模5人以上。
2.一般労働者(常用労働者のうち、パートタイム労働者でない労働者)。
資料:厚生労働省「毎月勤労統計調査」から作成