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政策について
白書・報告書
製造基盤白書(ものづくり白書)
2018年版
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第1部第1章第1節
3.グローバル最適地生産の中での製造業の役割
第1部 ものづくり基盤技術の現状と課題
第1章 我が国ものづくり産業が直面する課題と展望第1節 我が国製造業の足下の状況
3.グローバル最適地生産の中での製造業の役割
(1)最適地生産の中でみられる国内回帰の動き
生産地というのは、人件費や為替レートなどの様々な要因に基づいて企業活動の中で決定されるものであるが、最適な生産地を模索することが企業にとっては必要である。以下では、生産拠点の立地国としての日本の現状を分析する。
経済産業省が2017年末に実施したアンケート調査によると、海外生産を行っている企業中、約14%(昨年調査と同水準)が過去1年間で国内に生産を戻しており、国内回帰の動きが一定程度継続して見られる(図113-1)。
図113-1 過去1年間で製品・部材を国内生産に戻したケースがある企業割合

資料:経済産業省調べ(2017年12月)
どこから生産を戻したかを見ると、中国・香港からが全体の2/3近く、続いてタイの順(図113-2)。
図113-2 国内生産に戻した際の元の地域・国

資料:経済産業省調べ(2017年12月)
戻した理由は、人件費、リードタイムの短縮、品質管理上の問題などが上位となっている(図113-3)。
図113-3 製品・部材の生産を国内に戻した理由【累積】(第1位~第5位)

資料:経済産業省調べ(2017年12月)
実際に、中国の一般工職(ワーカー)の賃金水準は高くなっていることが分かる(図113-4)。
図113-4 アジアの一般工職(ワーカー)の賃金(月額)

資料:日本貿易振興機構(ジェトロ)「投資関連コスト比較調査」
また、更なる国内回帰のために改善を期待する国内立地環境要因を聞いたところ、 「工場労働者の確保」「高度技術者・熟練技能者の確保」などの人材関連が多く、立地環境として人材確保が課題として浮き彫りになっている。昨年度調査と比較すると、「工場労働者の確保」「高度技術者・熟練技能者の確保」の割合はいずれも大きく上昇しており、人材不足感の高まりがうかがえる(図113-5)。
図113-5 国内回帰のために最も改善を期待する立地環境要因(昨年度調査との比較、第1位~第6位)

資料:経済産業省調べ(2017年12月)
(2)6重苦解消に向けた取組の進捗
かつて指摘された、いわゆる「六重苦」解消に向けた取組は、一部を除いて着実に進展している(図113-6)。中でも、この1年間で進展があった「法人実効税率の引き下げ」と「TPP11協定などの経済連携協定への対応」について概観する。
図113-6 6重苦解消に向けた取組の進捗(2014年)

資料:経済産業省作成
(ア) 法人実効税率の引き下げ
法人実効税率の引き下げによる国内事業環境の改善も引き続き期待される。2016年度の税制改正に基づき、国・地方を通じた法人実効税率は、2018年度に29.74%まで引き下げられた(図113-7)。
図113-7 国・地方の法人実効税率の推移(2014年)

(※)大法人の場合であり、地方法人特別税を含む。
資料:財務省平成28年度税制改正資料より抜粋
(イ) TPP11協定署名や日EU・EPA交渉妥結などによる経済連携協定の進展
TPPは、アジア太平洋地域において、モノの関税だけでなく、サービス、投資の自由化を進め、さらには知的財産、金融サービス、電子商取引、国有企業の規律など、幅広い分野で21世紀型のルールを構築する経済連携協定である。我が国は、2013年3月にTPP交渉に参加することを表明し、その後2016年2月に12か国がTPP協定に署名した。しかし、2017年1月に米国が離脱宣言をしたため、11か国の閣僚がTPPの早期発効に向けた検討を行うことで合意し、同年11月にベトナムで開催されたTPP閣僚会合において、TPP11協定(環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定:CPTPP)を大筋合意し、2018年3月には、我が国を含めて11か国の閣僚が署名を行った。このようなTPPによる域内の関税の撤廃や税関手続の円滑化などは、製造業にとっても事業コストの内外差が現在よりも縮小する可能性があるため、国内での生産比率を高める動きにつながることが期待される。
また、日EU・EPAについては、2013年5月に交渉を開始して以降、2017年7月に大枠合意、そして同年12月に交渉妥結に至った。双方の利益に資するよう、工業製品や農林水産品の関税撤廃に加えて、透明性・法的安定性のあるサービス・投資の自由化約束、ソースコードの開示要求の禁止など、先進的なルール整備を合意した。TPPと同様に、関税撤廃などによって、国内での生産比率を高める動きにもつながる可能性がある。