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白書・報告書
製造基盤白書(ものづくり白書)
2018年版
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第1部第1章第1節
4.我が国製造業の主要課題①:「強い現場力の維持・向上」(人手不足、品質管理)
第1部 ものづくり基盤技術の現状と課題
第1章 我が国ものづくり産業が直面する課題と展望第1節 我が国製造業の足下の状況
4.我が国製造業の主要課題①:「強い現場力注4の維持・向上」(人手不足、品質管理)
昨年のものづくり白書においても言及・分析したとおり、我が国製造業が直面する主要課題を大別すると、人手不足が深刻化する中での「現場力の維持・強化」と、データ資源を活用したソリューション展開による「付加価値の創出・最大化」との2つが存在する。中でも、足下での人手不足の深刻化が明らかになりつつある中では、「強い現場力」の維持・向上をどのように図っていくかが主要な課題の一つとなってきているのは自明の理である(図114-1)。そこで以下では、我が国製造業を取り巻く人手不足・人材確保の課題や、それを克服するための対応策や、人手不足かつデジタル時代における現場力を維持・向上していく上での強み・課題などを分析する。
注4 「暗黙知や職人技」をも駆使しながら、問題を「発見」し、企業や部門を超えて「連携・協力」しながら課題「解決」のための「道筋を見いだせる」力と仮定。「カイゼン」や「すり合わせ」にも通じる力。これは、昨年の白書における「現場力として重視するもの」に関するアンケート結果などを基に作成。なお、人が介在して活動が行われるすべてが現場になりえ「現場力」は生産現場に限定されないため、企業活動の中で幅広く捉える必要がある。したがって、一義的に定義することは困難であることに留意。
図114-1 我が国製造業が直面する主要課題

資料:2017年版ものづくり白書から抜粋・編集
(1)人材確保の状況と人材確保対策の取組
人材確保は、今は我が国製造業が避けては通れない深刻な課題となっている。まず以下ではその足下の状況を分析する。
2017年末のアンケート調査において人材確保の状況に関して尋ねたところ、2016年末調査と比較して、「特に課題はない」とする回答が約19%から約6%に大幅減少の一方、「大きな課題となっており、ビジネスにも影響が出ている」との回答が約23%から約32%に大幅増加し、人材確保の課題がさらに顕在化、深刻な課題となっている(図114-2)。
図114-2 人材確保の状況

資料:経済産業省調べ(2017年12月)
同様に、国内労働需給の調査結果を見ても、アベノミクス開始以後の景気回復などによって、国内の労働需給は引き締まっており、製造業も含めて労働力の不足感が強まっていることが分かる(図114-3)。
図114-3 労働力の過不足(産業別)



備考:「過不足」=「不足」-「過剰」。
資料:厚生労働省「労働経済動向調査」
また、実際に確保に課題がある人材の種類は、複数回答、最重視項目のいずれにおいても、「技能人材」が突出しており(図114-4)、その中でも中小企業ほど技能人材の確保に苦労している様相がうかがえる。逆に、大企業は、中小企業よりも「デジタル人材」の確保に課題感を抱えている(図114-5)。
図114-4 確保が課題となっている人材(複数回答、最重視項目)

資料:経済産業省調べ(2017年12月)
図114-5 特に確保が課題となっている人材(規模別)

資料:経済産業省調べ(2017年12月)
さらに、主力製品分類別の最重視項目をみると、「技能人材」の割合は、「部品」、「原材料・素材」、「賃加工」で高くなっており、「技能人材」に対するニーズは、川上側でより高い傾向にある(図114-6)。
図114-6 特に確保が課題となっている人材(主力製品別)

資料:経済産業省調べ(2017年12月)
次に、実際に製造業への就業者数の推移を見ると、アベノミクス開始後、景気回復の中で雇用環境が改善したことから全体の就業者数は増えているものの、それは医療、福祉などで多く見られ、一方で、製造業の就業者数は、ほぼ横ばい圏内を推移しており、製造業においては、人材の確保にハードルを抱えていることがうかがえる(図114-7)。
図114-7 就業者数の推移

資料:総務省「労働力調査」
次に、このような人手不足に対応するために現在行っている取組と今後行っていきたい取組について概観する。2017年末に実施したアンケート調査において、現在行っている人材不足対応としては、「新卒採用の強化」に最も力を入れて取り組んでいる企業が多く、若手人材の確保・育成に重点があるといえる。今後最も力を入れていきたい取組としては、現在と同様に、「新卒採用の強化」が特に重視されている一方で、現在から今後の変化に着目すると、「自動機やロボットの導入による自動化・省人化」や「IT・IoT・ビッグデータ・AI等の活用などによる生産工程の合理化」が大幅に増加しており、今後はロボットやIT・IoTなどを活用した省人化・合理化に取組の重点が移ることが見込まれる。また、人事制度の抜本的な見直しや待遇の強化などの項目も現在に比べると今後の増加意欲が顕著であり、賃上げや働き方改革の取組意識が向上している萌芽といえる(図114-8)。
図114-8 人材確保対策において最も重視している取組(現状と今後)

資料:経済産業省調べ(2017年12月)
また、規模別でみると、現在の取組では、規模を問わず「新卒採用の強化」が最重要視されるが、大企業では、その割合が特に大きく、足下は「新規採用」に固執する傾向がある。また、大企業では、「人材育成方法の見直し・充実化の取組」が多いのが特徴である。他方、中小企業では、「社内のシニア、ベテラン人材の継続確保」「社外のシニア、ベテラン人材の採用強化」などを重視する点が特徴的であり、シニアやベテランといった経験のある即戦力に対する期待が大きい傾向にある。今後の取組では、大企業では、現在の取組と比較して「新卒採用の強化」が大幅に減少し、「IT・IoT・ビッグデータ・AI等の活用などによる生産工程の合理化」及び「多様で柔軟な働き方の導入」が顕著に増加。今後は、IoTやAIなどの積極活用や働き方改革への意欲の向上を志向する傾向が見て取れる。中小企業では「社内のシニア、ベテラン人材の継続確保」が減少、「自動機やロボットの導入による自動化・省人化」の増加が顕著である。中小企業が、今後の取組として、まず自動機やロボットの導入による自動化を目指しているのに対して、大企業は自動化の取組が一服した後の次のステップとして、IT・IoTなどの活用による生産工程の合理化を推し進めようとしている姿が見て取れる。さらに、今後は、企業規模を問わず、人事制度の抜本的見直しや待遇の強化、HRテックなどのテクノロジーを活用した人材マネジメントなども増加幅が大きいところは、企業規模問わず働き方改革の意識の高まりが垣間見ることができ、興味深い(図114-9)。
図114-9 人材確保対策において最も重視している取組(規模別)


資料:経済産業省調べ(2017年12月)
(2)デジタル人材確保の状況
以上のように、大企業を中心に今後の人手確保の取組としてIT・IoTなどの活用による生産工程の合理化などを志向する一方で、これらを実現していくためには、IT・IoTなどのデジタル技術を利用できる人材を確保できていることが大前提となる。また、後述するもう一つの主要課題である、データの利活用を通した付加価値の創出・最大化に向けても、収集したビッグデータを分析したりデータ分析結果を利活用したりすることができる人材が不可欠となってくる。このように、第四次産業革命が進む中での我が国製造業での主要課題が変化するのに合わせて、ものづくり産業で働く人材に期待されるスキルも大きく変質しており、上述の2つの主要課題を解決していくためには双方ともに共通して、デジタル技術を扱うことができる人材が鍵となる。また、システム構築が可能なIT人材や経営戦略の観点から分析できるデータサイエンティストなどのデジタル人材を社内に確保できたとしても、そのような人材に対する組織内での位置づけが的確でないため十分に活用できていないケースが存在する。組織全体として最適に人材が活用できる仕組みの構築が求められる。そこで、以下において、デジタル人材の必要性やその充足状況などデジタル人材確保の状況に関して分析を試みる。
昨年末の経済産業省が実施したアンケート調査において、デジタル人材の業務上の必要性を尋ねたところ、デジタル人材が必要と考える企業は全体の約6割程度であったが、規模別でみると大企業・中小企業で約25%の開きがあることが分かる(図114-10)。
図114-10 デジタル人材の業務上の必要性(規模別含む)


資料:経済産業省調べ(2017年12月)
次に、デジタル人材の充足状況は、「質・量とも充足できていない」が全体の3/4を占める一方で、「質・量とも充足できている」企業はわずか5%程度であり、大企業を中心にデジタル人材を求める企業において、質・量両面から不足感が強い傾向にある(図114-11)。
図114-11 デジタル人材の充足状況

資料:経済産業省調べ(2017年12月)
なお、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が実施した調査によると、IT企業のIT人材についても「量」と「質」に対する不足感が顕著であり、製造業に限らず、日本全体でデジタル人材が不足している現状が見て取れる(図114-12)。
図114-12 IT企業の IT人材の「量」と「質」に対する過不足感
「量」に対する過不足感

「質」に対する過不足感

資料:独立行政法人情報処理推進機構「IT人材白書」
一方で、昨年末の経済産業省調査においてデジタル人材が不要と考えた企業にその理由を尋ねたところ、「費用対効果が見込めない」「自社の業務に付加価値をもたらすとは思えない」という回答が大半を占め、自社にとってプラス効果につながらないと感じている傾向が強い。デジタル人材の確保・利用により享受するメリットの理解促進を図ることが重要である。なお、規模別にみると、中小企業は「自社の業務に付加価値をもたらすとは思えない」と回答する企業の割合が大企業より多い一方で、大企業は、「すべて外注先に委託している」という回答が比較的多い(図114-13)。
図114-13 デジタル人材が業務上不要である理由(規模別含む)


資料:経済産業省調べ(2017年12月)
さらに、組織としてITやデジタル人材を活用できる仕組みを整える一つの対応策として、デジタル・IT関連部門責任者が経営参画しているか否か(デジタル・IT関連部門に大きな権限を持たせているか否か)を尋ねたところ、頻繁に経営参画している割合が半数を割っており、デジタル人材活用に向けた経営層のコミットが課題である。なお、規模別にみると、デジタル・IT関連部門の責任者の経営に対する参画度合いは大企業の方が高い(図114-14)。
図114-14 デジタル・IT関連部門責任者の経営参画の有無(規模別含む)


資料:経済産業省調べ(2017年12月)
なお、グローバル規模でプロフェッショナルサービスを提供しているPwCが実施した、「第21回世界CEO意識調査(2017年8月から11月にかけて全世界にて実施。85か国1,293名のCEOから回答。そのうち、日本企業のCEO123名の回答を主に分析。)」において、「経営層」及び「従業員」それぞれの層においてデジタル関連で高度な能力を持つデジタル人材の獲得の困難さについて聞いたところ、「非常に困難」と回答した日本のCEOは、「経営層」については33%、「従業員」については25%であった。世界全体では「経営層」23%、「従業員」22%、米国は「経営層」13%、「従業」19%、中国・香港は「経営層」46%、「従業員」33%という結果となっており、世界と比較すると、日本と中国・香港などのアジア地域のCEOは、デジタル人材の獲得に対して強い懸念を有していることが分かる(図114-15)。
図114-15 デジタルスキルを兼ね備えた人材獲得の現状について(※獲得が「非常に困難」と回答した割合(%))

資料:PwC「第21回世界CEO意識調査」
(3)現場力を維持・向上していく上での強み・課題
(1)で述べたとおり、技能人材を中心とした人材確保の課題が顕在化する中でも、現場力の維持・向上を図り、デジタル時代の中で多様化する顧客ニーズに応じた製品やサービスを展開していくことが求められている。現場力を維持・向上していく際には、従来の我が国製造業の強みをさらに伸ばしていくことや、弱み・課題を克服していくことなど、様々な組み合わせによる対応があると考えられるが、まず始めに、我が国製造業における現場の強み・課題について、当事者である製造企業における意識調査の結果を概観する。
2017年末に経済産業省が実施したアンケート調査において、製造の現場力の強みと製造の現場力の維持・向上に関する課題に関して尋ねたところ、製造の現場力の強みであるという回答が多かった項目は、第1位項目、上位3つの累積結果のいずれでも、「ニーズ対応力」、「試作・小ロット生産」、「品質管理」、「短納期生産」などであった。一方で、製造業の現場力の維持・向上に関する課題と考えられている項目としては、「熟練技能者の技能(継承)」が抜きん出ている。また項目ごとの「課題」と「強み」との差に着目すると、「ロボットやIT、IoTの導入・活用力」や「ロボットやIT、IoT以外の先端技術の導入・活用力」の差が特に大きく、今後、課題克服に向けた取組が特に期待されると考えられる。このように日本の現場力の強みは、「ニーズ対応力」、「試作・小ロット生産」、「短納期生産」などの組み合わせを通じ、どんな仕様でもスピーディーに対応できるような仕組みをつくることで顧客との信頼を勝ち取ってきたと考えられる。これらの項目は強みの値が高く、課題の値が低くなっており、既にある程度対応がとれているものと考えられ、今後の取組の強化はあまり必要としていないことが読み取れる。
他方で、「コスト対応力」に関しては、強みより課題としての値が大きく、強化が必要だと認識しているが強みに転換できていない点が浮き彫りになっている。さらに、「熟練技能者の技能(継承)」が最も大きな課題となっており、長年の経験と勘に頼った細かな仕様の対応や技能工による微細な加工調整など、それぞれの現場力の強みを支えているノウハウが属人化している一方、適切な後継者が育っておらず、また組織的な知にできていないことが課題となっているものと思われる。熟練技能者のノウハウを人から人へ継承することに加え、暗黙知の形式知化及びデータとして蓄積し、それを活かすことが期待される。また、暗黙知を形式知化し、さらにシステム化することで、多くの従業員が一定の教育・訓練を受けることを通じて、長年経験した熟練者と近いレベルでのものづくりを短期間で習得できるような仕組みの構築が期待できる。さらには、こうしたことを通じ、様々な仕事に対応できる社員を増やすこともでき、仕事の分配や働き方改革にも活かされることが期待できる。
このように、熟練技能者の技能継承の解決をはじめ様々な課題に対し、ロボットやIoT・AIなどのデジタル機器の導入・活用で解決したいが手探り状況であり、依然課題であることが読み取れる。
また、「品質管理」については、一連の個社の不祥事の続出にもかかわらず、現場力の強みとして上位の回答となっている。一方で、現場力の維持・向上に関する課題とする回答も上位になっており、また前回調査の類似の問の回答と比べると課題とする回答が相当程度増加しており、昨年10月以降に品質管理関連の不祥事案件が続いた中、課題感が顕在化している結果といえる。人手不足・デジタル革新が進む中、これら環境変化に対応した新たな品質管理の仕組みの確立が求められていると考えられる(図114-16・17)。
図114-16 製造の現場力の強み

図114-17 製造の現場力の維持・向上に関する課題

資料:経済産業省調べ(2017年12月)