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第1部 ものづくり基盤技術の現状と課題
第1章 我が国ものづくり産業が直面する課題と展望
第2節 人手不足が進む中での生産性向上の実現に向け、「現場力」を再構築する「経営力」の重要性

今日、我が国製造業は2つの大きな環境変化に直面している。その第一が「人材不足の深刻化」である。経済産業省が昨年12月に実施したアンケートによると、94%の企業が人材確保に課題があり、さらに3割強の企業においてはビジネス影響が出ていると回答している。もう一つはデジタル技術の進展に伴う「第四次産業革命」である。ロボット、IoT、AIなどの先進ツールの広範な利活用が可能となりつつあり、それに伴い製造業のあり方も大きく変わり得ると考えられる。

そうした人手不足が深刻化する一方で、デジタル革新により先進的ツールの利活用が重要となる中、我が国の強みとされてきた「現場」を、どのようにして生産性が高く強靱なものとできるかは経営の中心的な課題であり、現場任せにせず、経営陣が主導して課題解決にあたるべき、まさに経営力が問われる課題だといえる。

生産性の高い現場を人手不足が進む中で構築するには、一つには「デジタルツールなどの利活用」が鍵を握ると考えられる。今日、高度で高価なツールだけでなく、中小企業などでも使い易い廉価なツールも数多く存在しており、そうしたツールを積極的に活用することが期待される。また、そうしたツールを使いこなし、現場作業の自動化を図りつつ、一方で、人はより付加価値の高い業務に重点化できる職場をつくるべく「人材育成」も重要となる。デジタル革新が進む中、現場の作業者に期待される能力も従来とは異なるものへと変化しており、そうした変化に対応した人材育成の推進が期待される。あわせて、「働き方改革」を進めることも重要となる。多様かつ柔軟な働き方を実現する人材活用制度などの見直し、労働生産人口が減少する中で、一人一人の持つ能力を最大限発揮できる職場環境の整備が期待される。さらに、強靱な現場力の維持・向上の観点からは、災害をはじめとする緊急事態が発生した際に損害を最小限に抑えるための備えも重要な視点である。

上記を踏まえ、本節では、BCPへの取組なども含め、人手不足が進む中での生産性向上の実現に向け、「現場力」を再構築するにはどのような取組が重要となるか、また、その実現にあたっての「経営力」の重要性について論じる。具体的には、図120-1に示すように、ものづくり現場の「生産性向上」及び「人手不足対策」などに向け、「デジタルツールなどの利活用」とともに、付加価値の高い業務へのシフトを進める「人材育成」や、多様な働き手の潜在能力を引き出す「働き方改革」などの取組が重要と考えられるが、このような取組について先進事例の紹介なども交えて論じるとともに、取組の実現にあたって不可欠となる的確な「経営力」発揮の重要性について論じる。

図120-1 環境変化及び、ものづくり現場が目指す方向性

資料:経済産業省作成

1.人手不足、デジタル革新が進む中での「現場力」を再構築する「経営力」の重要性

(1)人材確保の状況と人材確保対策

①人材確保の状況

経済産業省が2017年12月に実施したアンケート調査において、人材確保の状況について調査した。前年調査(2016年12月調査)と比較すると、「特に課題はない」とする回答が19.2%から5.8%に大幅に減少した一方、「大きな課題となっており、ビジネスにも影響が出ている」との回答が22.8%から32.1%に大幅に増加しており、人材確保の状況が大きな課題として更に顕在化、深刻な課題となっていることがうかがえる((再掲)図114-2)。

(再掲)図114-2 人材確保の状況

資料:経済産業省調べ(2017年12月)

そうした中、確保に課題のある人材については、複数回答、最重視項目のいずれにおいても、「技能人材」が突出している((再掲)図114-4)。

(再掲)図114-4 確保が課題となっている人材(複数回答、最重視項目)

資料:経済産業省作成

その内訳をみると、特に確保が課題としている単一回答、最重視項目では59.1%、確保に課題のある人材すべてに回答する複数回答をみても83.8%となっている。また、最重視項目について規模別にみると、中小企業ほど「技能人材」の確保に苦労している様子がうかがえる((再掲)図114-5)。

(再掲)図114-5 特に確保が課題となっている人材(規模別)

資料:経済産業省作成

業種別では全業種において「技能人材」に課題を抱えている点は共通であるが、一般機械で「設計・デザイン人材」、化学工業で「研究開発人材」の確保が他の業種に比べて課題となっている点が特徴的である(図121-1)。

図121-1 確保の課題のある人材(規模別)

資料:経済産業省調べ(2017年12月)

また、デジタル革新が進む中、デジタル技術などの先進的ツールの利活用を通じて人手不足対策を進めることも期待される。このため、このような人材確保の状況と工場内でのデータ収集の有無との相関をとってみると、人材確保に大きな課題を抱えている企業ほど、工場内のデータ収集を実施している傾向が見られる(図121-2)。人材確保が課題となっている企業ほど、人手不足対策の一環として、IoTをはじめとする先端ツールの利活用も含め合理化を進めていることが考えられる。

図121-2 人材確保の状況とデータ収集の有無との関係

資料:経済産業省調べ(2017年12月)

②人材確保対策

このように企業規模や業種を問わず、年々、人手不足は相当深刻な課題となっており、その対策の実施は待ったなしの状況と言える。このような状況を踏まえ、人材確保対策に関し、「現在取り組んでいること」及び「現在は取り組んでいないが、今後取り組んでいきたいこと」について調査を実施した。((再掲)図114-8)に示すとおり、人材確保に向けて最重視している取組は、現在・今後のいずれにおいても「新卒採用の強化」となっており、若手人材の確保・育成に重点が置かれている。一方、現在から今後の変化に着目すると「自動機やロボットの導入による自動化・省人化や「IT・IoT・ビッグデータ・AIなどによる生産工程の合理化」などが大幅に増えており、今後の人手不足対策としてロボットやIoTなどのデジタルツール活用が期待されていることが分かる。また、人事評価の抜本的見直しや待遇の強化などの項目も大きく増加しており、人事制度の見直しに力を入れる姿勢がうかがわれる。

(再掲)図114-8 人材確保において最も重視している取組(現状と今後)

資料:経済産業省調べ(2017年12月)

また、企業規模別で現在取り組んでいることをみると、企業規模を問わず、「新卒採用」が最重要視されるが、大企業ではその割合が特に大きく、新卒採用に固執する傾向がみてとれる。また、「人材育成方法の見直し・充実化の取組」が多いことなどが特徴的である。一方、中小企業では、「社内のシニア、ベテラン人材の継続確保」、「社外のシニア、ベテラン人材の採用強化」などを重視する傾向にあり、シニア、ベテランといった経験のある即戦力に対する期待が大きい傾向にある((再掲)図114-9)。

(再掲)図114-9 人材確保対策において最も重視している取組(規模別)

資料:経済産業省調べ(2017年12月)

さらに、今後取り組んでいきたいことを企業規模別に比較すると、大企業では、「新卒採用の強化」が大幅に減少し、「IT・IoT・ビッグデータ・AI等の活用などによる生産工程の合理化」及び、「多様で柔軟な働き方の導入」が顕著に増加している。足元では新卒採用を最重要視しているものの、人材確保対策に向け、今後はIoTやAIなどの積極活用や働き方改革への意欲の向上を志向していることが分かる。一方、中小企業の今後の取組としては、「社内のシニア、ベテラン人材の継続確保」が減少し、「自動機やロボットによる自動化・省人化」の増加が顕著となっており、現在シニアやベテランに依存しているところを自動化していく傾向がみてとれる。さらに、企業規模を問わず、「人事評価、昇進・異動などの人事制度の抜本的な見直し」や「賃上げや福利厚生の充実化など待遇の強化」など、人事制度の抜本的な見直しや待遇の強化などを図る動きも見られる。

(2)人手不足、デジタル革新下での現場力の再構築

上記のとおり、ものづくりの現場では人手不足が深刻な課題となる一方、デジタル技術革新に伴う第四次産業革命が進む中、ロボットやIoT、AIなどの先進的ツールの利活用への期待が高まっている。そうした人手不足の中で、生産性の高い現場の実現を図るには、自動化などを積極的に進める「デジタルツールなどの利活用」に加え、付加価値の高い業務へのシフトを進める「人材育成」、多様な働き手の潜在能力を引き出す「働き方改革」などを強力に推進することが期待される。

また、このような人手不足やデジタル革新といった大きな環境変化が進展する中、日本の強みとして考えられてきた「現場力」についても、変化を踏まえた再構築が必要となっている。

「現場力」は、生産現場に限定されず、人が介在して活動が行われているすべてが現場になりえ、企業活動の中で幅広く捉える必要がある。したがって、一義的に定義することは難しいが、経済産業省が2016年12月に実施したアンケートにおける「現場力として重視するもの」の回答が現場力を形成する主要な要因であると仮定すると、「問題や課題を発見」し、「部門(部署)を超えて連携・協力」しながら、「問題解決のための道筋を見いだせる」などとなり、我が国の強みとされてきた「カイゼン」や「すり合わせ」にも通じる力が「現場力」として捉えられていると考えられる。

そうした中、この現場力を支えてきた技能人材などの人手不足が顕在化し、さらにデジタル技術革新を特徴とする第四次産業革命の波が広がり、IoTやAI活用への期待が高まる中、現場力についても、このような環境変化を踏まえた変革が求められている。具体的には、技能人材不足が大きな課題となる中、属人的に有していた知見を組織の共有知として利活用できる仕組みづくりが今後の現場力、さらには競争力に重要となると考えられる。また、このような技能人材の属人的な知をデジタル化・体系化して組織として資産化することが技術的に可能となりつつある。今後は、専門性の高い製造データを取捨選択した上で資産化する能力や、職人技をデジタルデータとして資産化する能力などが新たに重要となると考えられ、そうした能力が発揮できる新たな現場力を再構築することが期待される(図121-3)。

図121-3 現場力の再定義

資料:経済産業省作成

備考:※昨年の白書における「現場力として重視するもの」に関するアンケート結果等を基に作成。なお、人が介在して活動が行われる全てが現場になりえ「現場力」は生産現場に限定されないため、企業活動の中で幅広く捉える必要がある。従って、一義的に定義することは困難であることに留意。

このような環境変化への対応は、我が国ものづくり企業にとって待ったなしの課題であるといえるが、同時に、良質な現場を持つ日本のものづくり企業にとって大きなチャンスともなり得る。データが経営資産として極めて重要となる中、日本が持つ質の高い現場データは、今後、貴重な資産となりえ、経営戦略上の重要な武器となることが期待できる。このような良質な現場を持つことに伴う潜在的な価値を、実際の価値に変換していくには、現場に蓄積されてきたノウハウの見える化や、組織的な知への転換を積極的に進めて行くことが必要となる。

その際、鍵を握るのは「経営力」である。人手不足・デジタル革新が進む中で「現場力」を再構築するには経営力の発揮が不可欠となる。現場力の再構築を重要な経営課題と捉えて経営層が積極的にコミットし、個別の現場が主導する部分最適ではない、バリューチェーン全体で全体最適化を図った現場力の再構築が重要となる。つまり、「現場力」の再構築を「現場」に丸投げしてはならず、経営層主導により、現場と緊密な連携の下で進めることが鍵となる。

これまで我が国製造業は、主に現場でのすり合わせやカイゼン活動などを通じて現場力を高めてきており、ボトムアップでの課題解決を得意としてきた。そうした現場主導での改善を積み上げ、極限まで効率を高めてきた現場が数多くあることも事実であるが、一方、現場主導では部分最適にとどまってしまいがちであることは否めない。デジタル革新の時代において、デジタル技術の利活用による効果の最大化を図るには、工程ごとや工場内だけの取組ではなく、全体を俯瞰したバリューチェーン全体で考え、一貫した仕組みとして全体最適を目指した取組を進めることが重要となる。その実現には会社全体、バリューチェーン全体を真に俯瞰できる、経営層による経営力の発揮が不可欠である。

そうした経営層主導の取組により、人手不足・デジタル革新が進む中で組織が目指す変革の方向性を明確にし、ビジョンを共有した上で、具体的な全体最適なシステムに仕上げることが重要であり、また、これらに加えて、我が国の強みである現場で働く作業者の高い能力を組み合わせることが、他国には真似のできない強い現場力の再構築につながるのではないだろうか。

現場の問題を現場任せにせず、経営層が積極的に関与し、現場変革の具体的な方向性を熟考して決め、現場とも十分に意思疎通を図りながらスピーディーに変革を推進する実行力が、今日のものづくり企業、特に経営層には求められている。人手不足やデジタル革新により岐路に立たされる現場力を再構築するには、正に経営層による経営力の発揮が鍵となる。

また、大企業のみならず中小企業においても、このような取組が期待される。今日、センサーやタブレットなどデジタル機器が安価な価格で手に入り、工夫して組み合わせることで各工程のデータを獲得することができる。各工程のデータを収集、分析して活かすことで、製造ラインの「停止」の原因究明、故障予知、繁忙期の人員最適配置などに活かすことができ、生産性向上や人手不足対策に繋げることが可能となる中、このような取組の実施を決め、推進するのも経営者の重要な仕事である。

コラム:AIを利用した最適加工条件の自動生成及び加工プログラムの汎用化の実現・・・駿河精機(株)

精密位置決めステージと光学計測機器を開発、製造、販売する駿河精機(株)(静岡県静岡市・ミスミグループ)は、2015年から社長自らプロジェクトオーナーとなりスマート工場化を進め、これまでに駿河精機版管理シェルの構築、AIを活用した製品良否判定の自動化と最適加工条件の自動生成の3つに取り組んできた。

駿河精機版管理シェルは、工作機械のメーカーやプログラム言語、機能・性能などの違いを吸収する機能を導入し、同社の様々な工作機械でも同じ加工を実現可能とした。これはIndustrie4.0の技術を参考にしており、各設備に設置している管理シェルを介して、様々なデータがやり取りされている。AIを活用した製品良否判定では、これまでは人の目で行っていた加工製品表面の傷や変形などの検査を、AIによる画像判定自動化の技術開発を進めていることに加えて、常に同じ条件で画像を取得するための撮像システムも合わせて開発している。また、AIによる最適な加工手順・加工条件の自動生成においては、材料と完成品(部品)の画像データを入力すると、加工手順を予測していくシステムを開発した。過去に熟練者が行った加工手順・加工条件や完成品などのデータをAIが学習し、最初から最適な加工手順・加工条件を提供することが可能となる。これは、囲碁でAI同士を繰り返し対戦させて最適な棋譜を算出するプロセスに近いイメージである。

従来は、熟練者の勘と経験によって加工手順・加工条件を検討し、工作機械の機能・性能を踏まえて加工プログラムを都度作成していたが、これらのシステムを使えば熟練者の技能への依存度を軽減することができ、部品加工にかかっていた時間を従来から大幅に削減することに成功している。さらに、熟練者を必要とせず、多種製品を加工できるようになったことで、急な受注に対する備えにもつながっている。このような“熟練知”のデジタルアセット化とその活用は、受注案件増加と熟練技能者不足という経営課題に対して危機感を抱いた同社社長が最初から主導して実施している。

今後も、更なるAIの機能向上や適用範囲の拡大を目指して、引き続きスマート工場プロジェクトを推進していく予定である。

図 金属加工におけるAI活用

出所:駿河精機(株)より提供

コラム:モノだけに留まらず、人をもつなぎデジタル時代の現場力向上を実現・・・(株)ジェイテクト

「自動車部品」や「軸受(ベアリング)」、「工作機械・メカトロ」を主な事業としている(株)ジェイテクトは、モノ(Things)だけをつなぐのではなく「人」などもつなぐ、IoE(Internet of Everything)という独自のコンセプトを背景に、人が中心の独自の生産システムを構築し、デジタル時代に対応した強い現場を生み出している。工場内において新旧入り混じりメーカーも異なるPLC(制御装置)や工作機械やロボットなど様々な設備をつなぐことができる汎用コントローラを開発し、各設備の見える化を実現させた。また、モノからのデータのみを吸い上げるだけではなく、人の作業に関わるデータも収集し、組み合わせることで、付加価値を高めている。

具体的には、匠の技が要求される機械加工工程においては、レーザスキャナを用いて各機械のスペース内で作業する人の滞在時間を取得して、マシンの稼働時間とは別に人の作業時間を把握している。また、基準時間で作業を行う組立工程ではタッチパネルやウェアラブル端末を使用し作業の「開始・中断・完了」を入力して、各作業工程単位で予定と実績の管理を行っている。「人」に関わるデータと「モノ」から出たデータを蓄積し能力データベースを構築することで、それぞれの作業者のスキルも把握して、個々の弱点克服に向けた人材育成へ活かしている。また、人の能力にあった最適な作業指示を与えて、労働生産性を向上する取組も運用している。

このように設備のみならず人のリソースも含めて最大限に活かす仕組みづくりが、新しい現場力の構築の鍵ではないだろうか。同社は、ラインビルダーとしても事業領域を広げ、自社のスマート工場の経験を活かし、他社への生産性向上のためのソリューションビジネスへと活動を広げている。

図1 レーザスキャナによる人からの所得データ
図2 適材配置の作業指示画面

出所:(株)ジェイテクトより提供

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