経済産業省
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第1部 ものづくり基盤技術の現状と課題
第1章 我が国ものづくり産業が直面する課題と展望
第2節 人手不足が進む中での生産性向上の実現に向け、「現場力」を再構築する「経営力」の重要性

2.「デジタルツールなどの利活用」を通じた生産性向上・人材不足対策の推進

現場の生産性向上・人手不足対策に向け、多くの企業が関心を持っていることの一つがIT、IoT、AI等のデジタルツールやロボットなどの活用だと考えられる。そうした中、本パートでは、図122-1の赤枠で示すように、人手不足の深刻化、デジタル革新が進展する中での生産性向上を実現する「現場力」の再構築に向け、デジタルツールの利活用の果たす役割の重要性について具体的な事例なども交えて論じる。

図122-1 環境変化及び、ものづくり現場が目指す方向性

資料:経済産業省作成

前述でも紹介したとおり、人材確保において最も重視している取組に関して現状と今後の差に着目すると、「自動機やロボットの導入による自動化・省人化」「IT・IoT・ビッグデータ、AIなどの活用などによる生産工程の合理化」の増加が顕著であることが挙げられ((再掲)図114-8)、また、人材確保に課題のある企業ほどこれらの取組を重視する傾向がみられる。

特に、繰り返し単純作業、重労働、危険な場所での作業、データ処理など機械の方がうまく行える作業などに関し、ロボットやIoT、AIなどの先進ツールの積極的な利活用を通じた自動化・省人化が期待される。その際、重要なのは、単なる人による作業の自動化などを図るのではなく、業務全体の在り方も必要に応じて見直すなど、人の潜在能力とツール活用の相乗効果が図れるよう、業務の全体最適化を目指してツールの利活用を図ることである。

(再掲)図114-8 人材確保において最も重視している取組(現状と今後)

資料:経済産業省調べ(2017年12月)

(1)経営主導によるデジタルツール利活用の重要性

このようなデジタルツールの利活用を進めるにあたっては、これまでのIT化の場合と同様に、各部門の現場主導で行う場合も多いと思われる。機動的に開始でき、手探りで最初のステップとしては良いかもしれないが、他の部署との接続に課題が残り、局所最適となり、本来のデジタル化の真価を享受できない可能性があることに留意が必要である。

バリューチェーン内の一部で課題解決のためにデジタル化を推進し、まず成功事例を作り、他工程へと広げていくやり方ももちろん有効であることもあるが、デジタル化を進め、つながることによる価値の最大化を図るには、全体俯瞰して全体最適なグランドデザインを描くことが鍵を握る。このためには、全体俯瞰が行える経営層のコミットメントが重要であり、そうした組織あるいはバリューチェーン全体での全体設計を明確にした上で、各部門の創意工夫を促し、現場の強みをうまく引き出すマネジメントが期待される。

また、このようなことを進めていくためには、経営層がデジタル化の効用や進め方に関する一定のリテラシーを有することが不可欠であり、デジタル担当責任者が経営に参加するなど、組織体制づくりも鍵を握る。

コラム:業務の見える化とIT化で人材が育つ「場」をつくる・・・(株)今野製作所

(株)今野製作所(東京都足立区)は工作機械などの重量物を持ち上げる際に使われるジャッキと呼ばれる油圧機器製品の製造や板金加工などを手がけており、「イーグル爪つきジャッキ」という自社ブランド製品は重量精密装置の搬送・据付業界を主たるユーザーに国内シェア7割を占める。そんな同社も2008年のリーマンショック時には受注が4割以上も落ち込んで定番商品が売れなくなり、落ち込んだ売上を顧客ニーズにカスタマイズした受注設計生産でカバーしてきた。しかし、特注品は定番品より付加価値が高い分、手間も工数もかかる。気づくと「売上はさほど伸びないのに皆で残業している」という状況に陥っており、仕事がうまく回らないという課題を抱えるようになった。

同社は社員数が36名と少数精鋭だが、東京(営業と設計)、大阪(営業)、福島(製造)という3拠点に分かれているため、3つの小規模の会社を束ねて仕事をしているようなもので、他社以上に部門間連携を必要としていた。そこへ特注品が増えたことで、設計部門やベテランに仕事が集中したり、案件ごとの細かな情報が伝達しにくくなったりと、仕事量の均質化や効率化、情報のハンドリングに大きな問題を抱えてしまった。特に、先代の時代から働いている3名のベテランへの依存度が高まり、世代交代と若手へのスキルの継承も大きな課題となっていた。この状況を抜本的に改善しようと、同社は2010年からIT化と人材育成を同時にスタートさせた。

IT化の地ならしとして、まず1年かけて、受注→設計→生産→出荷までの「業務の見える化」の徹底を行った。業務の見える化とは、具体的には「業務プロセス参照モデル」というものに同社の受注業務や調達業務などを階層別にブレイクダウンして当てはめて、仕事の流れがどうなっているかを“見える化”する作業である。自己流かつやみくもに「業務改善」を行った結果、部分最適に陥ったこれまでを反省し、月1回のペースで専門家にも入ってもらい、引き合いから出荷までの仕事の流れ全体を根気よく見直していった。ただし、参照モデルは目標ではなく、あくまでも見える化のツールに過ぎない。この作業を行うことで「ルールがなく属人化していた」「手順に抜けがあった」など、業務上の改善点が見えてくる。

「業務の見える化」を徹底したことで、どこをIT化するかが見えてきた。仕事の流れとは、要するに情報の流れであり、同社は一番ボトルネックになっているところをIT化による情報共有を図ることとし、2011年からはITを活用した情報システムの構築に着手した。ベンダーに依頼して高額なシステムを導入するのではなく、市販の業務アプリ構築クラウドサービスを利用して、まずは簡単な営業案件に関するデータベースを作成した。その結果、営業担当者が引き合い案件を登録すると、様々な情報がこの案件に紐づけられて一覧できるようになった。東京に入った引き合いを地方出張中の社員もリアルタイムで確認できるので、即座に出張先から提案営業に駆けつけることもできるようになり、顧客の満足度も高まり、即決で商談がまとまることもある。何より、データベースとコミュニケーションがセットになったツールであるため、引き合いが入った段階でベテランが助言したり、以前も同じ顧客から引き合いを受けた社員が助言したりと、ベテランをはじめとする社員の知識や経験を共有することが可能になった。

また、IT化への移行に先立ち、約半年間、同社は5名の営業担当者が案件情報をホワイトボードに書き出して営業と設計メンバーでディスカッションする取組を続けた。営業担当者はどうしても情報を抱え込む傾向にある。IT化したからといって、いきなりデータベースに入力させようとしてもうまくはいかない。まずはホワイトボードで情報共有への意識づけを行い、ボードに書くのが面倒なので、いっそデータベースへ入力しよう、と思わせるステップを踏んだのである。IT化を進めるには習慣を変える必要がある。改革を急ぐとはいえ、習慣を変えるにはある程度時間をかけることも必要で、ホワイトボードを使用した半年間は同社にとって必要な時間だったと振り返っている。

改革に着手した2010年当時、同社の特注品の売上高は2,000万円で、それでも仕事がこなしきれない状況だった。しかし、現在は同数の社員で特注品の売上高は9,000万円に達している。2010年当時、年間50件あった設計提案は現在170件に達しており、大幅な業務効率化につながっている。最初はトップダウンで着手した「営業案件管理システム」の開発であったが、その後、業務効率化を実感した社員が自主的にIT化に取り組むようになった。業務プロセス参照モデルを活用した業務改善とITシステムの自社開発は、継続的な活動として定着し、同社ではこれを「ITカイゼン活動」と呼んでいる。業務の見える化とIT化を通じて、人が育つ場をつくることができたと、いま確かな手ごたえを感じている。

図 業務改善に向けた取組

資料:経済産業省 2016年度「攻めのIT経営中小企業百選」事例

コラム:ロボットによる自動化やIoTを駆使し、24時間365日ノンストップ生産体制を実現・・・(株)土屋合成

プラスチック射出成形品加工メーカーの(株)土屋合成(群馬県富岡市)は、筆記用具をはじめ電気通信に不可欠なコネクタ部品、カメラのレンズ部品、ギア部品など幅広いプラスチック製品の量産を手がけている。主力はボールペンを中心とする筆記用具のケースで、ボールペンとはいえ顧客の要求する精度は非常に高く、全数検査を行っている部品も少なくない。

20年ほど前から海外へ仕事が流れるようになり、国内で量産工場を維持するに当たっての同社の課題は省力化であった。夜間も休日も工場の見回りをしなければならず、人も採れない状況の中、社長自ら工場の見回りをしなければならない状況だった。また、成形された部品はそのまま顧客の生産ラインにセットできるように向きも揃えて箱詰めする必要があり、検査工程だけではなく、箱詰め、梱包にも多数の人手を必要としていた。射出成形業は設備では差異化しにくいこともあり、周辺部にある労働集約的な単純作業を徹底して自動化することが差異化につながり、かつ、利益につながるとの結論に達した。

このような事情もあり、同社では早くからロボットの導入に踏み切るとともに、10年前にはすでに工場内にLANを配備し、タブレットで工場内の設備の稼働状況が一目で分かるシステムをつくりあげた。ネットワークカメラを使って成形機の稼働状況をどこからでも確認できるので、迅速なトラブル対応が可能となっている。

現在、成形後の部品の取り出し、バリ取り、ストッカーなどの箱詰めに至るまでの一連の作業をロボットがこなすようになっている。以前は成形後に人が不良品を全数検査していたが、画像認識ロボットに置き換えることで成形直後に不良品をはじくことができるようになり、箱詰めや梱包までをロボットで完結させることができている。

さらに、生産実績の記録を手書きで残すことを止め、記録はすべてデータとしてサーバーで管理できるよう、バーコードの読み取りと簡単な数値入力機能を併せ持ったハンディターミナルを導入して、生産品目と生産数を製品の梱包箱に貼ることで生産進捗のバーコード管理への切り替えを行っている。

今後は、センサーを活用して成形時の樹脂を流し込む圧力の波形を測定し、正常時の波形からズレが生じたら警告を出すようなシステムとしていく予定である。樹脂は強く挿入するとバリが発生し、ゆっくり挿入すると途中で固まってしまう。扱う材料の変化や金型の劣化といった様々な要因が樹脂の圧力に影響するため、波形をモニタリングすることで、成形後の検査工程ではなく、成形時の作り込みの段階で不良を排除することができる。

また、ベテラン職人のパフォーマンスも自動的に記録することも考えている。機械に不具合が生じた場合、ベテランにどう微調整したかを語らせることは難しいが、不具合時にベテランがどうプログラムを組み直したかという記録をデータとして吸い上げることができれば、そうした経験値を踏まえて、今後は不具合時に自動でプログラムを補正することも可能になってくる。ベテランがノウハウを出し渋ろうとしても、データとして取得していれば隠すことは出来ず、組織に共有されていく。このような仕組みをいち早く構築することで、業績を大きく押し上げていくことを同社は見込んでいる。

図1 稼働状況が見えるタブレット
図2 画像認識ロボット(高速マルチカメラ画像処理システム)

出所:(株)土屋合成から提供

(2)課題解決に向け業務見直しなども含めたデジタルツール利活用の重要性

人手不足などの課題解決のために、デジタルツールの利活用を進める上で、まず始めに行うこととして、自社内で人が行っている作業における「課題を見える化」することなどが重要であると考えられる。例えば、受発注の工程では受注用紙からの情報転記の手入力作業、生産管理の工程においては人の経験や勘に頼ることによる資材調達の過不足の発注や納期の遅延、生産現場の工程においては切削加工などの危険業務、熟練技能者の知に依存した代替不能、検査の工程においては長時間の集中力を必要とするストレスが過大な業務の要員の確保、保守・アフターサービスの工程では生産ラインの夜間見回り要員の確保など、各工程間で様々な人が行っている作業における課題をまず整理することが重要となる(図122-2)。

図122-2 ものづくりの現場が抱える様々な課題例

資料:経済産業省作成

単にツールの利活用により省人化を進めるのではなく、業務そのものを見直すとともに、図122-3に示すように、特定の人への依存度が高い仕事や、人へのストレスが大きい仕事、危険を伴う仕事、ルーティンワークなどデジタルツールを利活用することで、軽減し、人は人にしか出来ない付加価値の高い業務に移行することなどを通じて生産性向上とともに、働きやすい職場環境を構築する観点も重要となる。

図122-3 ものづくり現場で人が抱える課題

資料:経済産業省作成

また、デジタル化を進めるにあたっては、その前段階として5S(「整理」「整頓」「清掃」「清潔」「しつけ」)のようなカイゼン活動も着実に進め、無駄の排除や、生産性向上などに向けた社員のモチベーション向上を図ることなども重要である。このような職場における業務の見える化に向けた基盤を整えた上で、目的に即してデジタルツールをうまく利活用することが期待される。

さらに、ターゲットとする課題を明確化し、関係者で取組の方向性をしっかり共有することや、経営層が中心となり、先進事例なども参考にしつつ、スピード感をもって取り組むことも重要である。

具体的な先進ツール利活用という観点からは、中小企業を中心に今後人手不足対策として強化したい取組として多いのがロボットなどの導入による自動化である。単純作業や重労働、危険な作業など、24時間休みなく作業を行えることなどの利点を活かし、作業効率を大幅に向上できる可能性がある。

また、IT・IoTの活用のニーズの高まりも見られる。これらツールの利活用により、工場の現場はもとよりバリューチェーン各所の“見える化”が可能となる。見える化ができると、課題が見えてきて、次に必要となるアクションへの検討が進む。例えば、従来は経験と勘に頼っていた判断を、客観的データに基づいて、より的確に行うことが可能となる。さらに、データの利活用の推進などを通じた新たなビジネスモデル構築の推進も期待できる。

さらに、AIの活用を検討・推進する企業も増加してきている。飛躍的に進歩した情報処理能力や高度な演算処理能力を活用したAIにより、検査や予知保全、自律運用、自律判断などの分野での活用が期待されているほか、技能継承などにおいても高い効果をもたらすことが期待される。このようにAIには大きな期待がなされる一方、良質なデータが不可欠であること、途中過程がみえず、深層学習などを用いた結論に対しての検証が難しいことなども指摘されている。潜在的な効用は大きなものが期待されるが、使い方を間違うと思わぬ結果を招くことも考えられ、人がいかにうまく使いこなすかが重要となる。

ここまで述べたように、生産性向上や新たなビジネスモデルの創出に寄与する具体的な課題解決に向けて、我が国の優良な現場において得られる良質なデータを、デジタルツールなどを活用しつつ価値に転換していくことが期待される。その際、経営層が今日の企業経営におけるデータや先進的なツールの利活用の重要性を認識し、経営層の強いリーダーシップの下で全体最適な仕組みとして、かつ、現場とも十分な意思疎通を図りながら迅速に取組を進めることが重要となる。人材確保の課題がますます顕在化する中で生産性の高い強い現場力を実現するには、デジタルツールなどの利活用は不可欠であり、その取組は多くの職場で待ったなしとなっている。

コラム:生産性向上と品質安定に寄与する次世代コイル自動巻線システムを開発・・・(株)ウエノ

(株)ウエノ(山形県鶴岡市)は1982年の創業以来、家電製品等の誤作動の原因となる電気的なノイズを防ぐ「ノイズ除去コイル」を生産している。このノイズ除去コイルには様々な形状があり、丸形(リング状)のコイルは「トロイダルコイル」と呼ばれ、同社はこのトロイダルコイルの生産では国内トップシェアを誇る。

ノイズ除去コイルはOA機器や家電製品などあらゆる電機製品の電源ノイズの除去に使われ、特にエアコン用のコイルは月産数百万個と数量が出る。それにもかかわらず、コイルの巻き線は人手に依存する典型的な労働集約産業で、どの会社も常に低賃金の地域を求めて生産拠点をシフトさせてきた。量産品であるにもかかわらず自動化が進まなかった理由は、コイルの販売価格が抑えられ、大がかりな設備投資に見合う収益が見込みにくいためであった。手巻きよりも機械巻きの方が品質は安定するが、多額な投資を必要とする機械巻きになるとコストアップが避けられず、品質とコストの妥協の産物として、業界では現在もなお手巻きが続いている。

同社も安い賃金を求めて中国やタイに生産拠点を構えてきたが、常に低賃金を求めて生産拠点を変更することに疑問を感じ、2004年からエンジニアリングメーカーと一緒になって自動巻き線機の開発に取り組んできた。機械化が可能になれば、賃金に関係なく、国内で安定的に生産することが可能になる。その結果、2008年6月から一部のコイルでは機械巻きに成功し、現在までに、このコイルについては機械巻きから絶縁皮膜剥離、ハンダ工程、フォーミング・リードカット、検査までの一連の工程を全自動で行うことが可能となっている。

さらに、ユーザーからのコイルの小型化、高性能化、低コスト化などの要請を受け、従来とは異なる画期的なデザイン形状の次世代コイル(「ウエノコイル」)を開発し、その自動巻線システムを開発することで、生産性を20倍以上に引き上げた。このウエノコイルは平角銅線を使用して高密度で巻いているためノイズ除去特性に優れ、従来1つの電源に2つのコイルを必要としていたところが「ウエノコイル」1つで代替させることも可能になるなど、ノイズ除去性能も飛躍的に高まった。2013年の量産開始以降、TV・ACアダプタ向けなどに既に1,800万個以上を出荷している。

これまで内職や外注に依存してきた巻き線を完全自動化に切り替えることで、コイルの品質も向上させてきた同社であるが、自動巻線システムは試行錯誤してつくり上げただけに手の込んだ機械となり、償却負担が重いことがネックとなっている。このため、機械化に移行したコイルはまだ生産量の半数にとどまり、残り半数は依然として人手による巻き線の方が費用対効果に見合うものとなっている。今後は試行錯誤してつくり上げた1号機をプロトタイプに、最低限の機能に絞り込んだシンプルな設備をつくり、償却負担の軽減を図っていくこととしている。

図 自社開発した自動巻き線機を用いて国内24時間体制で生産

出所:(株)ウエノより提供

コラム:人×テクノロジー×マネジメントで圧倒的な高品質をめざす・・・(株)東京鋳造所、(株)内外

(株)東京鋳造所(群馬県高崎市)は、溶かしたアルミニウム合金を金型に充填した後、外部から圧力をかけずにアルミ溶湯の自重で製品を成形する鋳造方法であるグラビティ鋳造を用いて燃料噴射ポンプやターボチャージャーといった自動車の重要部品を製造しているメーカーである。同社は、2012年のM&Aにより(株)内外の完全子会社となったが、両社とも1929年に創業した齊藤鋳造所が母体であり、現在は群馬県高崎に拠点工場を集約させている。2013年にはインドのバンガロールに現地企業との合弁会社を設立し、2017年10月から工場を稼働させている。現在は輸出で対応しているが、インドに生産拠点を構えることで、インドでモノをつくり欧州に展開するというビジネスも見えてきた。

2029年に100周年を迎える同社は、100年企業への基盤固めとして2020年の東京オリンピックまでを目標とする経営計画「VISION2020」を進めている。その基本的な考え方として同社は、工程の中で鋳物職人の能力が発揮できるところは人、それ以外はロボットに任せるという仕分けを進め、特に人では危険な切断作業などを中心にロボットを積極的に導入するとしている。その取組は、大きく2つある。

1つ目は、ロボットによる後処理工程の自動化である。現在、鋳造後に堰を切断したり、バリを取ったりする仕上げ工程にロボットを導入し、レーザーマーカーでトレーサビリティのためのQRコードを刻印するところまですべてロボットで対応するフルオートラインが稼働しており、従業員2~3名に相当する仕事が自動化されている。ロボットの導入は人手不足対策だけではなく、破断したアルミをリサイクルする上でもメリットが大きい。アルミは700度で溶かし、500度で固まるが、人手で仕上げる場合は鋳物をさらに冷却する必要があった。ロボットであれば冷却する必要はなく、熱いうちに作業することができるので、アルミの端材を再び溶解して使う際のリサイクルエネルギーを減らすことができる。

なお、日本にはロボットのシステムインテグレーター(SIer)が不足しており、SIerに頼っていては技術が自分達のものにならないと考え、同社は教育用に2台のロボットを購入し、ある程度のロボットのメンテナンスに対応できるように自社の社員の人材育成の取組もスタートさせた。

2つ目は、温度情報を液晶モニターなどへ可視化する「条件監視」から、デジタル化された情報を自動判定して良否判断を行う「条件管理」を実現する高度な工程管理システムの開発・導入である。鋳造は金属を溶かして固めるところにノウハウがあり、金型から鋳物を取り出す瞬間にすでに品質は決まっているので、特に後工程は極力ロボットによる省人化を図っている。

工程管理では金型に8本の熱電対を取り付け、センサーで温度を測定した状態で管理幅を変更したデータを取得しながら鋳物を切り刻んで徹底的に品質をチェックし、最も高品質な製品が安定的に生産できるチャンピオンデータを取得するなど、様々な閾値を設定している。良品の骨格となる温度バランスやポイントを設定した解析ソフトをつくり、金型や設備も日本からインドへ送ることで、インドでも同一条件で鋳造することができ、日本とオンラインでデータがつながることで、インドの工場で作られた鋳物の良品判定も自動化できている。

同社は「人(昔ながらの職人のマインドを持った鋳物職人)」と「テクノロジー(鋳物職人たちの技研鑽から生まれたアルミ鋳造の技術)」と「マネジメント(品質を高めるために必要な管理、検査、改善の取組)」の相乗効果が圧倒的品質を生み出すと考えており、「次世代職人」として人が力を発揮できるようにするためにも、現場情報のデータ化、最新設備の導入など先進的な現場の構築を進めている。

図1 ロボットによる後工程処理の自動化
図2 温度データは5秒ごとに保管される

出所:(株)東京鋳造所より提供

コラム:微生物の高度化・進化に対応するためにデジタル技術を活用・・・味の素(株)

味の素(株)は、ドイツの「インダストリー4.0」のコンセプトを参考にした「マニュファクチャリング4.0」の構想を掲げ、生産を含めたバリューチェーン全体の改革・革新を目指している。新製品の工業化を図る「1.0」、各工程の効率化・最適化を図る「2.0」を経て、現在はオペレーションの自動化を基にした工場全体の効率化を図る「3.0」に取り組んでいる。

その中の一つとして、アミノ酸生産における微生物の発酵効率の最適化と工場全体のエネルギー消費量の削減などに取り組んでいる。同社では、微生物を用いた発酵プロセスによってアミノ酸を生産しており、これまでは熟練工が過去の経験で培った知見やノウハウに基づき、微生物が効率的に活動するように温度、pH、酸素濃度などの発酵条件を調整してきた。しかし、近年、微生物の性能改良技術が発達し、より高い精度で発酵条件を制御することが求められる、活性の高い微生物を用いたアミノ酸生産にシフトしてきており、熟練工の過去の知見やノウハウに頼るだけでは、その性能を十分に発揮させることが難しくなってきている。また、次世代人材の育成の観点からも、過去の経験に頼った人材育成だけでは、生産技術を維持できないのではないかといった懸念がでてきている。

そこで同社は、これまでオペレーターが個々に読み取っていた計器やセンサーをネットワーク化し、ビッグデータ解析を行うことによって、微生物の発酵状態を推定する実証実験を開始した。その結果、これまで熟練工のノウハウとしていた各パラメーターの関係を可視化することができた。現在は更に踏み込んで、発酵状態を直接計測するセンサーの開発を進めており、新たな知見を導き出すことを目指している。

また、冷凍食品生産ラインにおいては、ロボットによる自動化や人工知能(AI)の活用の検討を進めている。例えば、冷凍食品の安心・安全の保証の根幹に関わる異物検査の工程は、これまでは人が目視によって行っていた。しかし、この作業には長時間に渡って集中力を継続することが求められるため、労働人口の減少が進む昨今の状況を踏まえると、人海戦術に頼り続けることは、より難しくなっていると考えている。そこで、近年著しく向上した人工知能を組み合わせた画像解析技術によって、これらの作業を完全自動化できると考え、新たに構築する生産ラインを中心に、人工知能を搭載したロボット導入の検討を進めている。今後も製品品質の向上、労働環境の整備、生産性向上を目的に、ICT技術の活用と自動化を進めて行く意向である。

このような工場全体の最適化の先に、事業活動全体を最適化する「マニュファクチャリング4.0」のステージを構想している。販売データ、配送のリードタイム、在庫状況から、最も無駄のない生産計画を見出し、それに合わせた調達発注なども自動化し、サプライチェーンを含めた広範囲での最適化を目指している。同社では、これらの取組みを進めることが、データ活用社会における「売れるものを作る時代」に適応することだと考えている。

図 アミノ酸発酵工場の計器室

出所:味の素(株)より提供

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