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第1部 ものづくり基盤技術の現状と課題
第1章 我が国ものづくり産業が直面する課題と展望
第2節 人手不足が進む中での生産性向上の実現に向け、「現場力」を再構築する「経営力」の重要性

3.「人材育成」を通じた生産性向上・人材不足対策の推進

デジタルツールやロボットなどの利活用を通じた自動化により、人はより付加価値の高い仕事へとシフトしていくことが期待される。経営層は、人手不足が顕在化する中、業務全般を改めて見直し、デジタルツールなどを積極活用して自動化を図るべき業務と、人が行うべき付加価値の高い業務を実態に即して整理することが求められる。付加価値を生む存在として、「人材」の重要性はますます増大するものと思われる。また、現場で働く人材に期待されるスキルも、従来のものとは大きく変わることが見込まれる。その際、図123-1の赤枠で示すようなスキル転換が鍵となると考えられる。具体的には、「現場データの収集・分析を基に更なる現場の高度化を企画・実施」、「現場の匠の技や暗黙知のデジタル資産化、さらにソリューション展開」「デジタル資産化された現場の知の更なる向上」などに向けたスキルである。本パートでは、デジタル革新と人手不足が進む中、これまで我が国の強みであった現場について、どのようにして生産性の高いものとできるか、その実現に向けて鍵を握る人材育成(人づくり革命)について論じる。

図123-1 環境変化及び、ものづくり現場が目指す方向性

資料:経済産業省作成

(1)デジタル人材の必要性

第四次産業革命が進む中、また人手不足が顕在化する中で、人がより付加価値の高い仕事にシフトするにはデジタルツールを使いこなせるデジタル人材が鍵を握ると考えられる。第1節において記載している通り、昨年12月に実施したアンケート調査ではデジタル人材を必要と考える企業は全体で約6割であるが、大企業では8割にのぼり多くの企業において必要性を認識していることがうかがえる((再掲)図114-10)。

(再掲)図114-10 デジタル人材の業務上の必要性(規模別含む)

資料:経済産業省調べ(2017年12月)

しかし、(再掲)図114-11に示す通り、質・量ともに必要なデジタル人材を充足できていない状況にある。業種別にみると金属製品、一般機械、電気機械で高く、非鉄金属、化学工業が全体に比べ、やや低い傾向が見てとれる(図123-2)。

(再掲)図114-11 デジタル人材の充足状況

資料:経済産業省調べ(2017年12月)

図123-2 デジタル人材の業務上の必要性(業種別)

資料:経済産業省調べ(2017年12月)

また、デジタル人材が業務上不要である理由を同じく業種別に見比べてみると、第1位の「費用対効果が見込めない」と考えるのは化学工業において割合として高い。一方、第2位の「自社の業務に付加価値をもたらすとは思えない」と考える割合が最も高いのは非鉄金属である(図123-3)。

なお、本アンケート調査では、デジタル人材とはIT・IoT・AIをツールとして様々な場所で使いこなせる人材、あるいは、デジタルデータを使いこなせる人材(データサイエンティストなど)、IT・IoT・AIを使いこなすためのシステム設計などを手掛ける人材を指す。

図123-3 デジタル人材が業務上不要である理由(業種別)

資料:経済産業省調べ(2017年12月)

(2)デジタル人材の確保・育成に向けた取組

デジタル人材についてはほとんどの企業が質・量ともに充足できていない中、デジタル人材の確保・育成に向けた取組について、経済産業省が昨年12月に実施したアンケート調査において尋ねた。その結果、最も力を入れている取組としては、「中途採用による確保」が最多で、「外部の専門家派遣サービスの活用」「社内人材の再教育などによる確保」などが続く。当面は即戦力である中途採用に重きを置きつつ、中長期的には自社人材の専門性の強化を同時に図る意向がうかがえる(図123-4)。

図123-4 デジタル人材の確保・育成に向けた取組

資料:経済産業省調べ(2017年12月)

また、デジタル人材の確保・育成に向けて最も課題や障害になっていることとしては、「採用や長期雇用に繋がりにくい」「社員が社内外の研修を受講する時間的余裕がない」「社内に、指導できる知見を持った人材がいない」などが挙げられている(図123-5)。

図123-5 デジタル人材の確保・育成に向けた課題

資料:経済産業省調べ(2017年12月)

最重要課題について企業規模別にみると、大企業では「採用や長期雇用に繋がりにくい」が課題として多くを占め、中小企業では「社員の社内外の研修を受講する時間的余裕がない」が大企業と比べて高い傾向にある(図123-6)。

大別すると、外部からデジタル人材をいかに確保するか、既存社員にデジタル分野に関するノウハウをいかに教育するかの2つの課題があり、後者については、教える側の問題(人材確保)及び教えられる側の問題(日常業務の中で教育のために時間をいかに確保するか)などが存在する。このような課題の解決に向けて、大学との戦略的連携や重点的投資を通じて、教える側・教えられる側双方の問題解決を目指す取組の実施などもみられる。

図123-6 デジタル人材の確保・育成に向けた最重要課題(企業規模別)

資料:経済産業省調べ(2017年12月)

また、グローバルにプロフェッショナルサービスを提供しているPwCが実施した、「第21回世界CEO意識調査」において、デジタル人材を獲得・育成するための自社の取組について聞いたところ、日本のCEOはデジタル人材について不足感が強いものの、米国や中国・香港などに比べて人材獲得に向けた取組の実施率が著しく低く、取組がまだまだ消極的なことが分かる(図123-7)。

また、取組の重点にも違いが見られ、日本のCEOの回答は、「他社との協働」(18%)、「職場環境の整備」(11%)、「フレキシブルな働き方の実施」(11%)、「教育機関との協業(11%)」などという回答となっている一方、米国及び中国・香港のCEOの回答は、「職場環境の整備」(米国50%、中国・香港50%)、「フレキシブルな働き方の実施」(米国37%、中国・香港47%)、「他社との協業」(米国23%、中国・香港47%)などとなっている。

図123-7 デジタル人材を獲得・育成するための自社の取組

出所:PwC「第21回世界CEO意識調査」

備考:「取り組んでいる」と回答した企業の割合。

コラム:AIを活用して商品サービスの開発ができる人材を社内大学で育成・・・ダイキン工業(株)

ダイキン工業(株)では、包括連携先の大阪大学の協力を得て、AI活用を推進する中核的な人材を育成する「ダイキン情報技術大学」を2017年12月に開講した。AIを工場革新や新商品・サービスの提供に活用していくに当たり、新卒や中途採用だけでは必要とする人材をまかないきれないため、社員の再教育に踏み切ったもので、2020年までに約1,000人の社員を大学情報学部修士レベルに教育する。

まず、専門分野に関係なく、毎年社員の中から40~50人を選抜し、週1回のペースで約半年間、大阪大学の教授陣によるAIの基礎知識の講義を受けさせる。ただし、AIを実務に応用できるようにするために、業務と直結したプロジェクト演習(PBL:Project Based Learning)を取り入れ、AIを活かしてどう業務改善を図ることができるかを考えさせる。PBLではベンチャー企業の力も借りながら、大阪大学の知識教育+実践教育を展開していく。受講期間を終えた受講生は、所属部門のAI担当のリーダーとして、AI活用を推進した様々な仕組みの構築に取り組むことが期待されている。

さらに、同社は毎年約300人の新卒を採用しているが、2018年4月からは3年間の計画で毎年プラス100人を追加採用し、新卒採用者の中から100名を選抜してダイキン情報技術大学で2年間学ばせ、情報系修士卒レベルに育て上げる。この間は部門へ配属することなく、社内大学のカリキュラムに専念することとしている。

同社は「AI技術開発人材」「システム開発人材」「AI活用人材」という3種類のAI人材の育成を目指しているが、選抜された社員の大半はAIを活用してプログラムを書ける「AI技術開発人材」コースを受講する。再教育したAI人材を活用できるよう、その上長となる課長クラスや役員などの管理職に対して啓蒙・教育を行うのが「AI活用人材」のコースとなる。

エアコンからは、温度、湿度、電流、電圧、フロン冷媒の圧力など様々なデータを取得でき、これらのデータをモニタリングすれば故障予知や省エネ制御ができる。さらに、バイタルセンシングで人の健康・快適面でのサービス開拓にもつなげていくことができる。快適な室温は一人ひとり異なるので、各人の知的生産性を高めるパーソナル空調を実現することもできる。同社にはこれまで「空調機」の技術者しかいなかったが、これからは「空気調和」そのものをテーマに付加価値の高い製品やサービスを創出できる人材の育成を目指しており、そのためにはAI人材の育成確保が必要不可欠と考えている。

図 ダイキン工業が育成する3種類のAI人材

資料:ダイキン工業(株)プレスリリース資料より作成

コラム:製造現場を経験する独自のデジタル人材育成・・・武州工業(株)

東京都青梅市にある中小金属加工部品メーカーである武州工業(株)は、BIMMS Busyu Intelligent Manufacturing Management System)というシステムを自社で抱える人材で作り上げた。BIMMSは、出退勤、生産指示、生産実績管理、倉庫在庫管理、品質管理、工程不良管理、状況分析など、デジタルツールを活用し各工程のデータをつなぎ、見える化し、気づきを促進させ、生産性向上や働き方改革に役立てられる点が特徴である。例えば、発注や生産などに関する膨大なデータを収集・分析し、発注や生産の流れを通年で予測、納期調整が行えるようにしている。繁忙期を予測し、年間を通して仕事を分散化させることによって社内就業規則である1か月の勤務時間(8時間×20日)で業務を終了し、なるべく残業などを行わないように工夫されている。

このようなシステムの開発においては、ユニークな人材育成の取組が行われている。同社は、プログラム開発ができる人材を雇用するものの、本人の了解の上で現場研修期間は、現場作業に没頭させ、何をシステム化したら工場の役に立つかが考えられるまで一切のプログラムの仕事をさせない。プログラマーであっても、現場のものづくりを十分に熟知させ、仕事の流れをしっかり把握させる。この期間を通じて、プログラマーは製造現場で様々な課題を見つけ、その後にプログラム開発に入ることで、俯瞰的で俊敏(アジャイル)な開発を進め、現場のニーズに合ったシステム設計ができるという。その成果がBIMMSである。また、このように、プログラマーに生産現場での経験を実際に積ませる育成方法は、経営者の意図の具体化の際に役立つだけではなく、現場との風通しのよい環境づくりにもつながり、現場ニーズや経営者の意図を的確に踏まえたシステムの開発に貢献する。

図1 デジタル人材が開発したアプリ画面

出所:武州工業(株)より提供

備考:作業停止理由画面

同社の林社長は「システム開発はその会社の経営スタイルの根幹の具現化であり、開発者がそこを理解して進められるようになるためには、社内に取締役になるようなデジタル人材も必要」と訴えている。同社は1996年にインターネットプロバイダー事業を行った経験を有しており、従前より林社長自身もデジタル化に関する知識や情熱を持っており、そうした社長の姿勢もプログラマーの背中を後押しする源泉となっている。

図2 デジタル人材が開発した生産管理システム

出所:武州工業(株)より提供

備考:図1に連動したシステム開発による生産管理の見える化画面

コラム:徹底した社員教育への投資で事業モデルを刷新・・・水上印刷(株)

デジタル化やIT化が進展する中、従来の印刷業のイメージを払拭し、売上高と利益率を伸ばす成長企業が水上印刷(株)(東京都新宿区)である。利益率は11%を超え、6期連続で最高売上高を更新中である。

創業72年を迎える同社は、創業以来、パッケージなどの資材印刷を中心に行っていた。メインとなるものが、カメラのフィルムパッケージとDPEなどの写真関連の印刷であり、それらは最盛期には売上高の3割を占めていた。しかし、2006年頃にカメラのデジタル化が急速に進展し、アナログカメラの市場が消滅してしまった。生き残りに強い危機感を覚えた同社は、思い切ったビジネスモデルの転換に踏み切った。それは、印刷をコアにしつつ、お客様の「面倒くさいこと」をすべて引き受け、「ワンストップ」で「360度フルサービス」を行う企業への転身であり、製造業から課題解決業への変革でもあった。

ただし、印刷業からフルサービス業へ転身するには、社員がより多様なスキルや能力を獲得する必要があった。そのため同社は教育投資が必須であると考え、就労時間の10%、年間200時間を教育にあてる「日本一勉強する会社」を目標に掲げ、それを実践してきた。

現在、同社の人材育成を取り仕切るのは「ひとづくり事務局」である。2016年に開校した「MICアカデミー」という社内研修機構では、専門的な知識を持ち指導力があると認定された社員が講師(マスタートレーナー)となり、財務、マーケティング、クリエイティブ、ICT、印刷、物流、マネジメント、人材開発、など130もの多岐にわたる講座を設けている。例えば財務研修では、社長自ら自社の決算書を解説し、「営業が新しい仕事を受注する、それには設備投資が必要だ。では、その仕事の値決めはどう考えれば良いのか?」ということを償却費、人件費、地代・家賃、経費などから導き出す考え方を教える。原価の積み上げだけでは見落としてしまう盲点を伝えることで、社員一人一人が経営者目線を持てるようになる。経営内容を理解することで、自分たちの会社を自分たちで大きくしている実感が持て、他人事でなく、自分事として考えられるようになる。

同社ではこのほかにも、海外研修の実施、MBAの取得、東京大学のものづくりインストラクター養成スクールの受講、TOC理論に基づく生産性向上活動、部門を超えた多能工化など多様な取組を行っている。

同社がこれほどまでに教育こだわるのは、企業の活性化の原点は「人」でしかない、と考えるからである。社員一人一人の成長がすなわち企業の成長であり、社員が成長できない状態では、企業も成長できない。事業モデルを刷新し「変わる」ことで時代の変化の波を切り抜けてきた同社は、「変わらないこと(現状維持)」こそが最大のリスクと認識している。「変わる」ことを当たり前とする「教育」こそが企業の競争力の源泉であるというのが同社の揺るぎない信念となっている。

図 社内研修風景

出所:水上印刷(株)より提供

コラム:IoT時代に対応した人材育成により、技術力の向上と技能継承を実現・・・しのはらプレスサービス(株)

しのはらプレスサービス(株)(千葉県船橋市)は、プレス機械に対して、独自に修理や改造技術、周辺装置の開発を行っているプレス機械の総合メンテナンスエンジニアリング企業である。

プレス機械本体の改造から周辺装置の開発、修理方法のパッケージ化など、その業務はプレスに関わるすべての領域に及び、プレスの自動加工ラインに市販の多関節ロボットを活用したソリューションや究極の安全装置など50機種以上の独自技術、商品を生み出してきた。また、近年は、「緩やかな連携」のハブになることを目指し、顧客とともに新しい加工方法の共同研究も積極的に推進している。その背景にあるコンセプトが、「トータルソリューション・エンジニアリング」であり、点検から集められたプレス機4,000機種以上のデータからの情報をベースに、技術力・開発力・提案力を通じて、顧客のパートナーとして問題解決をしている。

このような同社の強みを支えているのが、IoT時代に適応した情報活用による人材育成の仕組みである。

一般的にプレス機械の修理やメンテナンスは、ノウハウの塊であり、熟練の技能・スキルやキャリアが必要とされる。しかし、同社は新卒入社がほとんどで、平均年齢も20代でありながら、熟練の技能者以上のサービスを実現している。エンジニアであれば誰もがエキスパートとして同じ品質のサービスを顧客に提供するために、プレス機械に関するデータをデータベースに蓄積した上で、社内の知識・ノウハウの共有化と形式知化を推進している。さらに、積極的なOJTと手厚い研修制度により、IoT時代に対応できる「技術力」の底上げを図るとともに、マイスターだけが有してきたどうしてもデジタル化できないノウハウなどの技能継承を実現している。

同社の人材育成に欠かせないツールが、独自に整備されたマニュアルである。各部署・仕事ごとに社員が作成した手づくりのマニュアルは、見積などともリンクをさせるなど、知恵を皆で分け合うためのきめ細かな工夫がされている。また、経営情報などもすべて開示され、オープンな情報共有を良しとする社風があり、研修手帳として、仕事を通じて学んだことを書き込んだり、しのはらプレスサービスニュースによる情報発信など、社員の自発的な取組も浸透している。

このような経営ビジョンや人材育成の仕組みや社員の努力の積み重ねにより、同社はプレス機のメンテナンス事業を経験と勘が頼りの職人技から、標準化が可能な「知識集約型ビジネス」へと進化させることで、これまでの業界の常識を覆す存在となっている。

図1 ビジョン・ビジネスモデル「緩やかな連携」のハブ的存在
図2 職場風景 若手人材の活躍

出所:しのはらプレスサービス(株)より提供

コラム:中小製造業のスマートものづくり支援に向けた取組・・・IVI、スマートものづくり応援隊、地方版IoT推進ラボ

中小製造業にとって、人手不足が深刻な課題になりつつある。従来のカイゼン活動に加え、IoTなどのデジタル技術を活用した生産性向上の取組や、それらを指導できる生産現場とデジタル技術の双方を理解した人材育成に対するニーズが高まっている。このような状況下において、地域におけるスマートものづくり支援の取組が全国に広がっている。

一般社団法人IVI(インダストリアル・バリューチェーン・イニシアティブ)は、IoTなどの活用に積極的な地域の中小製造業を対象に、自分で組み立てて動かす10万円IoTキットの提案を行った。また、これを活用し、中小製造業の実務担当者が自らITの具体的方策を立てることを支援するグループワーク形式の講座を設け、2017年度は全国8拠点でセミナーを開催した。

また、経済産業省では、生産現場やITに関して知見がある人材に、それぞれ、デジタル技術や生産現場のカイゼンなどの知見を講座などを通じて身に着けてもらい、スマートものづくりの指導ができる指導者を育成する取組を支援している。地域の中小製造業に「伴走型」で「身の丈IoT」を提案することを目指しており、「スマートものづくり応援隊」拠点として2017年度には25拠点を整備した。

拠点の一つである一般社団法人日本電子回路工業会は、2017年度は28名の指導者を輩出。指導者が支援した板橋精機(株)(茨城県笠間市)はプリント配線板設計、開発、製造を行っており、車載・家電・通信・アミューズ業界など、多品種少量生産による幅広い業界への対応が求められていた。そこで、国内2工場の既存設備から生産情報や条件などを自動計測・一括管理するデータ収集システムを構築し、携帯電話などの端末機で見やすいシステムを開発。さらに、それらのデータを活用してシミュレーションソフトによるレイアウト変更案を作成することや新規設備導入などによる改善効果を短期間で定量的に予測することが可能となった。将来的には国内2工場で培った事業効果を海外拠点にも展開し、「世界同時生産同品質」を目指している。

図1 データ収集システム

出所:一般社団法人日本電子回路工業会より提供

また、公益財団法人ソフトピアジャパン(岐阜県大垣市)では、2017年度は19名の指導者を輩出。9社へ派遣を行った。派遣先の1社である若林煎餅(株)(岐阜県加茂郡、従業員13名)は複数の自動焼成の機械を利用しており、タンクとノズルで鉄の型に水を点滴する同機械に外付けされている装置の水量が安定せず、自動焼成の機械とのタイミングが合わないなどにより不良品が発生する課題を抱えていた。また、作業者が不定期に水量を調整しているが、作業者により、品質にばらつきが出ていた。そこで、スマートものづくり応援隊に相談し、市販の装置に加え、センサーとリレースイッチを活用して点滴のタイミングを合わせる方法を提案。2018年度の導入を予定している。不良率の削減や省力化、品質の安定化などの効果が見込まれる。

図2 スマートものづくり応援隊による現場指導

出所:若林煎餅(株)より提供

山田木管工業所(岐阜県山県市、従業員11人)はオリジナルの木工製品が主力商品であるが、その在庫状況がデータ化されていないため、販売、製造、出荷の担当者が実在庫を完成品置場まで行って、確認する作業が発生していた。そこでスマートものづくり応援隊に相談し、スマホと商品バーコード、クラウドサービスを活用した在庫状況のデータ化・共有ツールを導入、在庫数、最低在庫切れ、製造の優先順位などが分かるようにタブレット・モニターなどの表示できるシステムを利用し、試験運用を開始した。これにより、在庫数が見える化され、販売、製造、出荷の担当者の業務の効率化が見込まれることがわかった。さらに今後は、データ管理する対象商品の拡充や、より現場で運用しやすいような機器構成などを検討するとともに、出荷ミスを防止する機能・運用の付加も検討している。

図3 スマートものづくり応援隊による現場指導

出所:山田木管工業所より提供

図4 身の丈IoT在庫管理ツールの画面イメージ

出所:山田木管工業所より提供

備考:画像はテスト運用中のものであり、数量や発注点については、実運用のものではない

同じくスマートものづくり応援隊拠点の一つである、静岡県産業振興財団では、「静岡ものづくり革新インストラクタースクール」を開催し、ものづくりの基礎概念や5S、コミュニケーションの進め方などの生産マネジメント理論の講座と現場実習により指導者を育成すると同時に、「地方版IoT推進ラボ」に選定された「静岡IoT活用研究会」と連携、IoT活用などによる効果をより身近に感じてもらう取組を推進している。具体的事例としては、深穴加工を行うためのガンドリルによる加工を行っている(株)ハイタック(静岡県沼津市)において、約2,000点もの加工用工具がある中、管理簿と現品の差が受注の喪失につながってしまっている課題を解決するため、新品ドリルにRFIDタグを利用して在庫管理を行う実証実験を行い、効果を検証した。

このような政府の支援策などを活用し、地域における中小企業へのカイゼンやIoT活用を進める取組は着実に広がっており、今後も各地におけるスマートものづくりに対する支援体制が拡充されることが期待される。

コラム:ものづくりでのAI活用は日本の強みを活かせる勝ち筋・・・「ものづくり分野における人工知能技術の活用に関する調査報告書」

様々なメディアで「人工知能(Artificial Intelligence; AI)」という単語が日々飛び交うようになり、特にディープラーニング(深層学習)をはじめとする学習型のAIは幅広いビジネスモデルの中に取り込まれつつある。業種や企業規模にかかわらず、ビジネス戦略上AIが重要な役割を担うとするならば、ものづくりの領域ではどのようなことを認識しておくべきだろうか。

このような観点について、経済産業省ではものづくりやAIに関わる企業関係者などを招いて、今後のものづくり分野とAIの関係性について議論を行った(※)。その結果見えてきた論点は、「AIの効果を最大限発揮させるには、AIを適用する現場のノウハウをどれだけ熟知できているかが重要であり、その部分こそ日本の強みが活かせる領域である」というものである。

AIとは、設定した目的を実現するための「道具」である。つまり、目指すべきアウトカム(目的変数)は人が決めるものであり、それに必要な実験と学習をコンピュータ、すなわちAIが実施する。これは「AIで何ができるか」ではなく、実現したいことに対して「AIでどこまでできるか」を考えることが重要だということである。

その上で、AIに学習させる「データの質」がAI活用の成否を分ける重要な要素となる。膨大な量のデータからどのデータを選び、AIが処理しやすい形にどのようにデータ整理(クレンジング)してAIに分析させるかということがAI活用の要点であり、この点こそノウハウが求められる部分である。その際に、データは「出てくるもの」ではなく「取り出すもの」という見方も重要で、既にあるデータをAIでどう使うかということだけでなく、データを取得する段階からAIをどう活用するのかということも念頭に置くべきである。

こういった観点を踏まえてものづくり分野に目を向けてみると、現場で何が求められているのかをきちんと理解していないとAIを有効に活用することは難しい。AIのアルゴリズムにデータを入れる前の段階では人の判断が必要であり、現場の要求を満たすために必要なデータは何で、それをどうAIに入れていくか、という前処理の工程は現場の知識がないと容易ではない。すなわち、ものづくりの現場のノウハウを熟知していることはAIを活用するうえで大きな競争優位を持っているとも言え、地道なものづくりの現場に強みを持つ日本だからこそ、「現場を知っているからできる」ことが多く存在しているのではないかということである。これはつまり、ものづくり分野でのAIの活用は、日本の強みを活かす有効な手段であると言えよう。

AIの議論はアルゴリズムの開発に限るものではなく、むしろAIに投入するためのデータをどのように取得し、どのような方法によって質を高めていくか、というチューニング作業を緻密に行えるかどうかが鍵である。すなわち、「雑巾がけ」のような泥臭い作業に対してどれだけ丁寧に、繊細にやり遂げることができるか、という「現場力」が問われてくる世界観の議論としても見ることができるだろう。

このような視点に立ってみると、誰でも活用が容易なインターフェースを持つAIを現場のプロフェッショナルが使える環境を創出することや、先端的なアルゴリズムを開発する研究系の人材だけでなく、AIを社会課題の解決や経営に結びつけられる人材の育成が急務であると言えよう。その他にも、データの協調領域を見定め、戦略的なデータ整備体制を構築していくための議論が求められてくるであろう。

「ものづくり立国」としての日本の勝ち筋は、日本がAIをどのように捉え、どのような戦略を打てるかに懸かっている。

(※)平成29年度ロボット・産業機械分野における人工知能技術の適用可能性と実用化に関する調査
本調査の報告書は経済産業省ホームページの委託調査報告書のページで閲覧できる。

(3)デジタル人材の活用

図123-8に示すように、特にデジタル人材を必要としている部門としては、「製造技術・生産管理」が最も多く、全体の約6割を占めている。また、主要製品分類別にみると、「完成品(BtoC)」や「完成品(BtoB)」といった完成品メーカーでは、「商品企画・研究開発・設計」でデジタル人材へのニーズが高いことが特徴的であり、商品の企画・設計段階でデータを利活用しつつ、顧客が真に求める商品を生み出す取組が重要となっていることがうかがえる。

図123-8 特にデジタル人材を必要とする部門

資料:経済産業省調べ(2017年12月)

一方、全般的には、「製造技術・生産管理」部門でデジタル人材へのニーズが特に高く(図123-9)、製造の現場でデジタル技術を活用しつつ生産の合理化などに取り組むことに重点があることが分かる。

デジタル人材にはデータの利活用を先進的ツールを用いつつ進めることが期待されるところ、活用の方向性を大きく分けると、現場での業務の合理化などの取組への活用と、新たなビジネスモデルの構築などの付加価値の創出への活用の2つが期待される。現状では現場の合理化などへの取組に重点がある企業が多いと思われるが、これに加えて付加価値創出の取組にデータの利活用などを進めるには、デジタル人材の活用の重点は「製造技術・生産管理」にとどまらず、「経営戦略」や「商品企画・研究開発・設計」、「販売・保守・営業」に拡がることが期待される。

図123-9 特にデジタル人材を必要とする部門(主要製品分類別)

資料:経済産業省調べ(2017年12月)

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