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- 第1部第1章第2節
- 3.「人材育成」を通じた生産性向上・人材不足対策の推進
第1部 ものづくり基盤技術の現状と課題
第1章 我が国ものづくり産業が直面する課題と展望第2節 人手不足が進む中での生産性向上の実現に向け、「現場力」を再構築する「経営力」の重要性
3.「人材育成」を通じた生産性向上・人材不足対策の推進
デジタルツールやロボットなどの利活用を通じた自動化により、人はより付加価値の高い仕事へとシフトしていくことが期待される。経営層は、人手不足が顕在化する中、業務全般を改めて見直し、デジタルツールなどを積極活用して自動化を図るべき業務と、人が行うべき付加価値の高い業務を実態に即して整理することが求められる。付加価値を生む存在として、「人材」の重要性はますます増大するものと思われる。また、現場で働く人材に期待されるスキルも、従来のものとは大きく変わることが見込まれる。その際、図123-1の赤枠で示すようなスキル転換が鍵となると考えられる。具体的には、「現場データの収集・分析を基に更なる現場の高度化を企画・実施」、「現場の匠の技や暗黙知のデジタル資産化、さらにソリューション展開」「デジタル資産化された現場の知の更なる向上」などに向けたスキルである。本パートでは、デジタル革新と人手不足が進む中、これまで我が国の強みであった現場について、どのようにして生産性の高いものとできるか、その実現に向けて鍵を握る人材育成(人づくり革命)について論じる。
図123-1 環境変化及び、ものづくり現場が目指す方向性

資料:経済産業省作成
(1)デジタル人材の必要性
第四次産業革命が進む中、また人手不足が顕在化する中で、人がより付加価値の高い仕事にシフトするにはデジタルツールを使いこなせるデジタル人材が鍵を握ると考えられる。第1節において記載している通り、昨年12月に実施したアンケート調査ではデジタル人材を必要と考える企業は全体で約6割であるが、大企業では8割にのぼり多くの企業において必要性を認識していることがうかがえる((再掲)図114-10)。
(再掲)図114-10 デジタル人材の業務上の必要性(規模別含む)

資料:経済産業省調べ(2017年12月)
しかし、(再掲)図114-11に示す通り、質・量ともに必要なデジタル人材を充足できていない状況にある。業種別にみると金属製品、一般機械、電気機械で高く、非鉄金属、化学工業が全体に比べ、やや低い傾向が見てとれる(図123-2)。
(再掲)図114-11 デジタル人材の充足状況

資料:経済産業省調べ(2017年12月)
図123-2 デジタル人材の業務上の必要性(業種別)

資料:経済産業省調べ(2017年12月)
また、デジタル人材が業務上不要である理由を同じく業種別に見比べてみると、第1位の「費用対効果が見込めない」と考えるのは化学工業において割合として高い。一方、第2位の「自社の業務に付加価値をもたらすとは思えない」と考える割合が最も高いのは非鉄金属である(図123-3)。
なお、本アンケート調査では、デジタル人材とはIT・IoT・AIをツールとして様々な場所で使いこなせる人材、あるいは、デジタルデータを使いこなせる人材(データサイエンティストなど)、IT・IoT・AIを使いこなすためのシステム設計などを手掛ける人材を指す。
図123-3 デジタル人材が業務上不要である理由(業種別)

資料:経済産業省調べ(2017年12月)
(2)デジタル人材の確保・育成に向けた取組
デジタル人材についてはほとんどの企業が質・量ともに充足できていない中、デジタル人材の確保・育成に向けた取組について、経済産業省が昨年12月に実施したアンケート調査において尋ねた。その結果、最も力を入れている取組としては、「中途採用による確保」が最多で、「外部の専門家派遣サービスの活用」「社内人材の再教育などによる確保」などが続く。当面は即戦力である中途採用に重きを置きつつ、中長期的には自社人材の専門性の強化を同時に図る意向がうかがえる(図123-4)。
図123-4 デジタル人材の確保・育成に向けた取組

資料:経済産業省調べ(2017年12月)
また、デジタル人材の確保・育成に向けて最も課題や障害になっていることとしては、「採用や長期雇用に繋がりにくい」「社員が社内外の研修を受講する時間的余裕がない」「社内に、指導できる知見を持った人材がいない」などが挙げられている(図123-5)。
図123-5 デジタル人材の確保・育成に向けた課題

資料:経済産業省調べ(2017年12月)
最重要課題について企業規模別にみると、大企業では「採用や長期雇用に繋がりにくい」が課題として多くを占め、中小企業では「社員の社内外の研修を受講する時間的余裕がない」が大企業と比べて高い傾向にある(図123-6)。
大別すると、外部からデジタル人材をいかに確保するか、既存社員にデジタル分野に関するノウハウをいかに教育するかの2つの課題があり、後者については、教える側の問題(人材確保)及び教えられる側の問題(日常業務の中で教育のために時間をいかに確保するか)などが存在する。このような課題の解決に向けて、大学との戦略的連携や重点的投資を通じて、教える側・教えられる側双方の問題解決を目指す取組の実施などもみられる。
図123-6 デジタル人材の確保・育成に向けた最重要課題(企業規模別)

資料:経済産業省調べ(2017年12月)
また、グローバルにプロフェッショナルサービスを提供しているPwCが実施した、「第21回世界CEO意識調査」において、デジタル人材を獲得・育成するための自社の取組について聞いたところ、日本のCEOはデジタル人材について不足感が強いものの、米国や中国・香港などに比べて人材獲得に向けた取組の実施率が著しく低く、取組がまだまだ消極的なことが分かる(図123-7)。
また、取組の重点にも違いが見られ、日本のCEOの回答は、「他社との協働」(18%)、「職場環境の整備」(11%)、「フレキシブルな働き方の実施」(11%)、「教育機関との協業(11%)」などという回答となっている一方、米国及び中国・香港のCEOの回答は、「職場環境の整備」(米国50%、中国・香港50%)、「フレキシブルな働き方の実施」(米国37%、中国・香港47%)、「他社との協業」(米国23%、中国・香港47%)などとなっている。
図123-7 デジタル人材を獲得・育成するための自社の取組

出所:PwC「第21回世界CEO意識調査」
備考:「取り組んでいる」と回答した企業の割合。
(3)デジタル人材の活用
図123-8に示すように、特にデジタル人材を必要としている部門としては、「製造技術・生産管理」が最も多く、全体の約6割を占めている。また、主要製品分類別にみると、「完成品(BtoC)」や「完成品(BtoB)」といった完成品メーカーでは、「商品企画・研究開発・設計」でデジタル人材へのニーズが高いことが特徴的であり、商品の企画・設計段階でデータを利活用しつつ、顧客が真に求める商品を生み出す取組が重要となっていることがうかがえる。
図123-8 特にデジタル人材を必要とする部門

資料:経済産業省調べ(2017年12月)
一方、全般的には、「製造技術・生産管理」部門でデジタル人材へのニーズが特に高く(図123-9)、製造の現場でデジタル技術を活用しつつ生産の合理化などに取り組むことに重点があることが分かる。
デジタル人材にはデータの利活用を先進的ツールを用いつつ進めることが期待されるところ、活用の方向性を大きく分けると、現場での業務の合理化などの取組への活用と、新たなビジネスモデルの構築などの付加価値の創出への活用の2つが期待される。現状では現場の合理化などへの取組に重点がある企業が多いと思われるが、これに加えて付加価値創出の取組にデータの利活用などを進めるには、デジタル人材の活用の重点は「製造技術・生産管理」にとどまらず、「経営戦略」や「商品企画・研究開発・設計」、「販売・保守・営業」に拡がることが期待される。
図123-9 特にデジタル人材を必要とする部門(主要製品分類別)

資料:経済産業省調べ(2017年12月)