経済産業省
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第1部 ものづくり基盤技術の現状と課題
第1章 我が国ものづくり産業が直面する課題と展望
第3節 価値創出に向けたConnected Industriesの推進

4.分野ごとの事例

(4)暮らす

数多くの社会課題に対してデータの利活用は有効だと考えられるが、生活や生活環境に関するデータの利活用や連携は進んでいない状況にある。具体的な社会課題としては、例えば、経済社会のグローバル化・ボーダレス化や、デジタル化などが進み、変化の速度がますます速くなる中でストレスのたまりやすい生活環境となっていることや、共働き世帯の増加によって、家事や宅配便の受け取りなどが可能な在宅時間が減少していること、さらには、核家族や単身世帯の増加によって人とのつながりが減り、孤立や孤独死が増加していることなどが挙げられる。また、暮らしを通じた地球温暖化の原因であるCO2排出量削減やエネルギー資源の効率的な利用などの課題もある。

このような状況の中、Connected Industriesの推進によりデータの利活用を積極的に行うことにより、よりストレスの少ない生活、家事負担軽減、高齢化社会を踏まえた人々の結びつき強化などの生活の質の向上が期待される。例えば、VR(仮想現実)/AR(拡張現実)などのエンタテインメント空間の創出により住宅内外の状況が可視化されることで一層のくつろぎの実現が可能となったり、家電の遠隔制御・家事の自動化などによる効率化や在宅状況の把握による再配達の削減などが可能となる。また、遠隔地に住む家族・友人とのつながりや高齢者や子供・ペットの見守りが可能となる社会や、エネルギー消費の可視化や制御によりエネルギー消費の最適化が期待される。究極的には、顧客の日々の活動データが様々なデバイスから収集され、そのデータに基づく新しいサービスが顧客起点で提供され、暮らしにおける様々な課題を解決するスマート社会が実現することが想定される(図134-4)。

図134-4 「スマートライフ」のイメージ

資料:経済産業省作成

以下ではこのような社会に向けた先進的な事例を紹介する。

<(株)NTTドコモ、横浜市、and factory(株)>

「スマートホーム」「遠隔見守り」

【家電×IoT】

・2017年6月、横浜市の「I・TOP横浜」内のプロジェクトとして、人工知能(AI)及びIoTを活用し、居住者のリラックス度や活動量などの生活状態を可視化することで気づきを与えることや、快適な室内環境づくりを行うことを検討・推進する「未来の家プロジェクト」を開始。(株)NTTドコモ、横浜市、and factory(株)は、横浜市と「相鉄いずみ野線沿線 環境未来都市」の取組を進める相鉄グループ及び健康アドバイスデバイスの提供を行う富士通コネクテッドテクノロジーズ(株)などとと協力し、IoT家電やセンサーなどをデバイスWebAPI(国際標準)を用いて実装した「IoTスマートホーム」を用いた実証実験を実施。将来的には、家に設置されたセンサーなどにより居住者の生活状態を把握し、AIを通じて居住者の状態に合わせた快適な室内環境へ自動調節する未来の家の実現を目指す。横浜市内の中小企業などと協力し、約2年間にわたり、IoTスマートホームを用いた実証実験を行う予定であり、実際の生活ログを蓄積・解析することで、居住者の生活状態や快適さについて評価・検討を行う予定。

<(株)hapi-robo st、GMOクラウド(株)、ハウステンボス(株)>

「ゴミ収集効率化」

【ゴミ箱×IoT】

※コラム参照

コラム:“ロボットのゼネコン”が複数の企業・地方自治体をつなげ、「スマートゴミ箱」を導入(業務効率化・社会課題×ロボット)・・・(株)hapi-robo st

2016年に日本で創業した(株)hapi-robo stは、クライアント企業から寄せられるロボットに関する依頼に対し、最適なパートナー企業とともにソリューションを提供するゼネラル・ロボティクス・プロバイダー、いわば“ロボットのゼネコン”である。理念として「人の能力を引き出し成長させるロボットで、自分の幸せが他人にもつながる、『人々の生活を幸せで豊かにする』こと」を掲げている。

同社は、様々な企業・自治体を組み合わせて顧客の課題を解決するソリューションをプロデュースする企業であり、IoT普及に向けたエコシステム構築をする上で要となる企業を目指している。体制としては、同社がソリューションの提案・設計を行い、パートナー事業者が開発・製造・サービス提供を行う仕組みであり、パートナーシップを結んでいる企業は、ロボットメーカーからコンポーネントメーカー、メディアまで約120社にわたる。ヒトとロボットの協業を掲げていることからも分かるように、顧客が抱える課題に対し、ロボットや先端テクノロジーを活用しソリューションを提供している。単なる仲介者ではなく、ロボットの設計段階にも携わり実現までしっかりと見届ける。

同社はもともとエイチ・アイ・エス グループのロボット事業部門として設立され、現在はハウステンボス(株)の子会社に位置する。グループ各社の資産を活用し、ハウステンボスやH.I.Sの店舗などで実証実験を行い、長崎ハウステンボスの「変なホテル」「変なバー」「変なレストラン」の接客ロボットや、インテル製のドローンを用いた「ドローン・ライトショー」のプロデュースも手掛けてきた。

現在、同社は、誰にとっても身近なものである「ゴミ箱」に着目し、パートナー企業を巻きこみ、国内で先進的にIoTに取り組んでいる。具体的には、GMOクラウド(株)、ハウステンボス(株)と共同で、IoT技術の活用によりリモートでゴミの量を把握できる「スマートゴミ箱(仮称)」について、ハウステンボス内で2017年12月に実証実験を行った。ハウステンボス内のアムステルダムシティ全域に「スマートゴミ箱」を設置し、内蔵されているセンサーにより一つ一つのゴミ箱とスマートフォンやタブレットのアプリケーションがつながる。アプリケーションではリアルタイムにゴミの量を確認することができ、一定量のゴミが溜まったらハウステンボス内のスタッフにメールや音声で通知し、スタッフがゴミ収集を行う。これにより、ハウステンボス内で働くスタッフのゴミ収集業務の効率化を図る。

技術面について、同社の担当者は「発電やバッテリーについて改善の余地がある」と語る。実証実験では太陽光発電により稼動していたが、内蔵センサーはわずかな電力でデータ送信することができるため、ゴミ箱のふたを開ける時の運動エネルギーやゴミ箱の前に発電床(人が歩行したり、車が走行したりする際に発生する振動のエネルギーを電気エネルギーに変換する発電機)を設置して発電するなど、改善の余地は十分存在する。また、「スマートゴミ箱」を含めIoT化の普及についてもバッテリーの小型化や改良が不可欠である。

今後は、大型リゾート施設やショッピングモールへの導入を検討しているほか、地方自治体との協業も視野に入れており、ハウステンボス内で導入を進めているスマートゴミ箱を道路や公園に設置されている公共のゴミ箱にも応用することを検討している。また、近年、高齢者を中心にゴミ出しが億劫になり自宅がゴミ屋敷化し、地域から孤立してしまう事例が増えており、ソーシャルワーカーが、住民に代わってゴミ出しをしている地域もある。

そうした中、「スマートゴミ箱」に使用しているセンサーを地域のゴミ収集場所に応用することで、継続的にゴミ出ししていない住民の存在を検知し、住民の異常を周囲の住民やソーシャルワーカーが気づけるような仕組み化も考えられている。「スマートゴミ箱」が「地域の見守り役」を担うというアイデアである。地域におけるゴミ収集は広域にわたる日常的な運用を伴うため、地方自治体への展開は一朝一夕にはいかないことが想定されるが、長い時間軸で考えると社会課題解決にも貢献し得るソリューションといえる。

このように、日本企業がIoT化するためのヒントとして、同社の担当者は「IoTとは小さなことの積み重ねである。『IoTでこんなことが実現できる』という気づきを与えることで、企業が見逃していたIoTの活用点を見出すことが可能となる」と語る。第四次産業革命やIoTと聞くと、壮大なことを連想してしまいがちであるが、まずは、自分自身や自社の身近なことについて、「どのようなことをIoT化できそうか」「その結果、誰に、どのような利便性を提供できるか」を考え、小さなことから始めてみることが重要であると考えられる。

図1 「スマートゴミ箱」の外観
図2 「スマートゴミ箱」管理画面イメージ

資料:(株)hapi-robo stより提供

<グンゼ(株)、日本電気(株)>

「健康関連のサービス提供」

【繊維センサー×生体情報】

・グンゼ(株)は日本電気(株)(以下NEC)と共同で、ウエアラブルシステム「美姿勢チェック」を開発。導電性繊維を編み込んだインナーにより姿勢・心拍・消費カロリーのデータを計測し、クラウドサービスを利用して姿勢改善や肩こり予防のためのサービスプログラムを顧客に提供。NECはウェアラブル端末・クラウドサービスを開発。さらに、グンゼ(株)はウエアラブルシステム「筋電WEAR」を開発。

<倉敷紡績(株)、大阪大学、信州大学、日本気象協会、KDDI(株)、(株)セック、ユニオンツール(株)>

「作業危険度の見える化」

【繊維センサー×生体情報】

・倉敷紡績(株)は、大阪大学、信州大学、日本気象協会と複数の企業から構成される産学共創のプロジェクトを通じて、心拍センサーなどを備え付けた同社のスマート衣料「Smartfit」を使用し、建設現場などでの暑熱環境下での作業リスクに特化した管理システムの開発に取り組んでいる。同システムは、Smartfitにより得られた作業者の生体情報と気象情報などを解析することで得られた独自のアルゴリズムをもとに、暑熱作業リスクをリアルタイムで評価できる仕組み。現場管理者は、パソコンやタブレット画面上で全作業者の暑熱作業リスクを同時かつリアルタイムに遠隔からでも把握・管理ができるため、より早い段階での暑熱環境下での作業リスクへの適切な対策を講じることができる。

(各機関の役割)

倉敷紡績(株):本プロジェクトの統括、Smartfit及びその素材開発、システム及びSmartfitの販売

大阪大学:医学的分析・考察を踏まえたデータ解析評価、アルゴリズム構築

信州大学:Smartfitの着用性向上と高機能化

日本気象協会:気象データの提供・予測モデルの指標作成

KDDI(株):クラウド・通信環境の構築

(株)セック:IoTプラットフォームの実装技術を活かしたシステム構築関連

ユニオンツール(株):心拍センサーの開発

<(株)オカベメンテ>

「無人測量点検」「省人化」

【測量機×ドローン・3Dレーザースキャン】

・同社ではドローンや3Dレーザースキャンを活用した測量技術を活用し、主にコンクリート構造物(橋梁主体)の点検・調査などを実施。大規模な漁港などの測量には、従来3名×10日程度を要していた作業にドローンを活用することで、測量に1日程度、図面化するのに3日間で可能となり、測量効率は向上した。また、高所での確認作業などは足場設置の期間や経費負担、作業員の危険を伴うものでもあったが、同社が活用しているドローン3D測量技術を用いることにより、足場無しでの測量が可能となった。

<(株)英田エンジニアリング>

「稼働状況把握」「運用最適化」

【コインパーキング×ITシステム】

・同社では、無人駐車場管理システム(コインパーキング)、無人駐輪場管理システムを開発・製造・販売する。ITシステムの強化により、利用時間帯、曜日での利用頻度、車室ごとの利用率を確認することにより、利用率、売上向上を目的とした柔軟な料金変更を可能にするとともに、売上対策前後の状況の可視化などにより、付加価値を向上させている。また、ITによる遠隔操作機能の追加、収集すべきデータをきめ細かいものに見直すことにより、精算機からの自動通知機能による迅速なトラブル対応、従業員の現地での情報収集作業ゼロなどの業務効率化を実現。

●海外事例

<Winterhalter Gastronom>

「プロセス最適化」「予知保全」

【食器洗い機×稼働データ収集】

・同社は、ドイツに本社を置く業務用食器・グラス・器具洗浄機器製造業者であり、業務用食器洗い機のソリューション「CONNECTED WASH」を開発。業務用食器洗い機を有線または無線LANで接続し、リアルタイムでマシンデータをサーバーに送信。各デバイスから得られたデータを分析し評価することで、ダウンタイムの抑制、運用コストの削減など、洗浄プロセス全体を最適化できる。また、スマートフォンなどからリアルタイムに稼働状況を確認することができるとともに、得られたデータから故障原因を特定することで、余分な修理費や買い替えを防ぐことが可能。

<AT&T、Intel>

「移動電波塔」

【ドローン×アンテナ】

・米国通信大手のAT&Tは、米国半導体素子メーカーのIntelと提携してLTE機能を装備したドローンを開発。上空に飛ばすことで、LTEによる無線通信範囲を一時的に強化し、その場にいる大勢の人々が同時に利用できる通信環境を提供する。このドローンは災害対策のためにも用いられており、2017年に激しい台風被害のあったプエルトリコでもサービスを提供。

<Okinlab>

「マスカスタマイゼーション」

【顧客×クラフトメーカー】

・ドイツの家具デザイン会社である同社は、顧客と地元のクラフトメーカーをつなげるシステム「form.bar」を開発。同システムは、顧客は好みの形状やサイズの家具をオンライン上でデザインし、注文する仕組み。注文された家具は、巨大な工場で大量生産されるのではなく、地元のクラフトメーカーが顧客からのデザインデータをもとに生産する。

<Walmart、Bossa Nova Robotics>

「生産性向上」

【商品配置×ロボット】

・米国スーパー大手のWalmartは、小売業向けのロボット技術の開発を専門とするBossa Nova Roboticsが開発した陳列棚管理ロボットを全米50以上の店舗に導入。同ロボットは、本体に付属したスキャナー部分で商品棚の在庫状況を読み取り、ビッグデータ化したものを在庫分析やPOS分析に用いる。これまで店員が在庫管理していたものを同ロボットで代替することにより業務の効率化が図れるとともに、売れ筋商品の在庫を強化して販売機会を最大化する。

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