経済産業省
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第1部 ものづくり基盤技術の現状と課題
第1章 我が国ものづくり産業が直面する課題と展望
第3節 価値創出に向けたConnected Industriesの推進

4.分野ごとの事例

(3)健康を維持する、生涯活躍する

団塊の世代がすべて75歳以上となる「2025年問題」に間に合うよう、技術革新を最大限活用し、個人・患者本位で、最適な健康管理と診療、自立支援に軸足を置いた介護など、新しい健康・医療・介護システムを構築することが必要である。また、個人の状態に合った効果の高いサービス提供による、健康寿命の延伸と高齢者の自立した生活の実現を目指すことも重要となっている。

従来、医師が患者の状況を把握する手段は、対面時の問診や病室などでの検査情報など、病院内での情報が中心であった。しかし、近年、IoT・ビッグデータ分野を中心とした技術革新を背景に、発症前・治療後を含む普段の生活時のデータの収集や大量のデータ解析など、新たなデータが活用可能となりつつある。現に、諸外国においては、患者を中心にケア全体で治療成果向上を目指す方向にシフトする動きが見えつつあり、製薬メーカー・医療機器メーカーなどは、単体の医薬品・医療機器だけでなく、予防・モニタリングを含めたヘルスケアソリューションを提供するビジネスモデルへと転換が進み始めており、AIによる診断補助やアプリの治療への活用など、新たな技術が医療分野でも導入され始めている。我が国においても、関係法令などの遵守を前提に、健康・医療情報を安全かつ効率的に活用しながら、これらの技術革新の成果を最大限に取り入れ、イノベーションを促進するような民間投資を促進することが期待される。

以下では実際にIoT、AIなどの技術革新を医療などの分野に取り入れている事例を紹介する。

<(株)オプティム、佐賀大学医学部付属病院>

「診断支援」

【眼底検査×AI】

・(株)オプティムと佐賀大学医学部附属病院は、IoT・AI(人工知能)といった最新のテクノロジーを活用した研究を行う「メディカルイノベーション研究所」を運営しており、高度医療、地域医療との連携、医療業界の問題の解決を図ることを掲げている。同研究所で注力しているのは、AIを用いた眼底検査の画像診断支援である。AIが眼底写真の中の情報をもとに解析を行い、担当医にその情報を提供することで診断の支援を行う。眼底画像の分析により、眼の病気だけでなく、糖尿病や高血圧症などの生活習慣病をはじめ他の様々な全身疾患の予兆も把握できる場合もある。従来の医師のスキルに加え、AIによる診断支援を付加することでより正確な早期診断を目指している。

<(株)日立システムズ、PST(株)>

「メンタルヘルス対策(心の状態の見える化)」

【クラウドサービス×音声データ分析】

・(株)日立システムズはPST(株)と協業し、声から心の健康状態の傾向を捉える「音声こころ分析サービス」を提供している。スマートフォンや固定電話、携帯電話などから録音した音声データを分析することで、本人も自覚できていない心の健康状態を見える化し、利用者に自分自身の状態の把握や気づきを促す。また、管理者向けの充実した機能によって、心の健康状態に不調が見られる利用者の早期発見を支援し、社会課題となっているメンタルヘルス対策に寄与することが期待される。

●海外事例

<大塚製薬(株)、Proteus Digital Health>

「服薬状況の把握」

【錠剤×センサー】

・大塚製薬(株)は米国製薬・医療機器スタートアップProteus Digital Healthと、医薬品と医療機器を一体化した製品「エビリファイ マイサイト」を世界で初めて開発。抗精神病薬エビリファイの錠剤に極小センサーを組み込んだ製剤を、パッチ型のシグナル検出器及び専用アプリを組み合わせることで、患者の服薬情報を記録し、スマートフォンなどのモバイル端末を通じて医療従事者や介護者と情報共有を可能にする。2017年11月に米食品医薬品局(FDA)から製造販売承認を取得し、2018年に米国で発売予定。

<Pfizer、IBM>

「創薬支援」

【創薬×AI】

・2016年12月、米国大手製薬会社Pfizerは、米国のコンピュータ関連製品及びサービスを提供するIBMと、人工知能Watsonを利用したがん免疫創薬の共同開発に関し提携。一般公開されているがん免疫創薬関連データに、Pfizerが保有する独自のデータを加え、IBM Watsonの機械学習、自然言語処理などの認知推論能力を活用し、研究者の新薬開発を支援。研究者が年間に読める論文は200から300であるのに対して、新たに立ち上げられたクラウドベースの、IBM Watson for Drug Discovery は、2,500万の論文要旨、医学学術論文全文100万本、特許400万件を処理し、更新を定期的に繰り返す。これらの情報から、パターンを見つけ出し、新薬の候補を提示することを目指している。

<Matternet、Swiss Post>

「薬・医療物資の自動配送」

【ドローン×配送】

・・スイスの国営郵便会社Swiss Postは、米国の荷物運搬用ドローンの開発を手掛けるMatternetのドローンを用いて、病院間での医療用サンプルの輸送を2018年より開始予定。これまでの陸路での輸送に比べ輸送時間は短縮される。ドローンでは、最大2kgの荷物を約20km運ぶことができ、空中で異常が発生した場合はパラシュートが自動で開くことで地上への墜落のリスクを軽減する。

<Medtronic、American Well>

「健康管理」

【生体情報×管理サービス×ビッグデータ】

・・アイルランドに本社を置き、医療技術やサービス、ソリューションを提供するMedtronicは、米国のビデオ遠隔医療プラットフォームを提供するスタートアップのAmericanl Wellと協業し、複雑かつ慢性的な疾患を持つ患者のニーズに応える遠隔医療サービス「Medtronic Care Management Services(MCMS)」を開発。複数の疾患を持つ患者が医師の診療を受けようとする際は、それぞれの専門分野の医師との調整が必要であり、時間と手間を要する。同サービスを利用することで、患者のデータは遠隔で診療を行うそれぞれの専門分野の医師へ共有され、画面上で患者と医師をつなぐことで、複数の医療機関に足を運ぶことなく専門医の意見を聞くことが可能になる。

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