経済産業省
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第1部 ものづくり基盤技術の現状と課題
第1章 我が国ものづくり産業が直面する課題と展望
第3節 価値創出に向けた Connected Industries の推進

4.分野ごとの事例

(2)移動する

「移動する」ことを担う中心的な産業である自動車産業においては、今日、CASEといわれる「Connectivity(つながる)」 「Autonomous(自動化)」「Sharedy & Service(利活用)」「Electric(電動化)」が大きな潮流となっており、これらへの対応に向けて業種の垣根を越えて、様々な“つながり”による取組が見られる。

このうち、自動走行実現に向けては、政府目標として、①移動サービス:2020年に限定地域で無人自動走行(レベル4相当)の事業化、②自家用車:2020年に高速道路レベル3の商品化、③隊列走行:早ければ2022年に高速道路での後続無人隊列走行、を掲げており、①~③の実現に向け、全国20か所で公道実証事業を推進している。

また、電動化に向けては、中国が2019年からNEV(New Energy Vehicle)規制の下で全生産量のうち一定比率の新エネ車(EV・PHV・FCV)生産を求めるほか、英国が2040年までにガソリン・ディーゼル車販売禁止を、フランスが2040年までに温室効果ガスを排出する自動車の販売終了を公表している。さらに、インドも2030年までにすべての販売車両の電動化を打ち出すなど、電動化に向けた動きが加速している。

さらに、モビリティサービス化の潮流も一層顕在化しており、ICTの進化・社会実装化を背景に、個々人のライフスタイルや地域の課題に根ざしたサービスへの期待が高まっている。これまでの車ありきの車起点のアプローチから、生活者/社会課題起点のアプローチに重点を変えていく必要性が増している。その際、生活者/社会課題起点でニーズに対応した多様なサービスを提供するには、これまでと違った業種の専門家とうまく“つながり”、協力関係を構築することが鍵を握る。さらに、将来的には航空機とドローンの間に“空飛ぶクルマ”が登場し、空・陸・海の移動がシームレスにつながり、顧客ニーズに応じた多様なサービスが生まれることも期待される。

そうした中、Connected Industriesの概念による取組が進むことによりあらゆるデータが連携されることで、人に対する乗り物の位置付けは大きく変容することが予想される。

現在の主な課題としては、例えば、個人で所有する車に関して言えば、人が運転するため事故が多い、メンテナンス費用や運転に要する時間が掛かるなど、個人(人)に対する負担が大きいことが挙げられる。また、公共交通手段に関して言えば、事業者同士の情報が分断していることから連携が限定的で、利用者にとって異なる交通手段やサービスを活用する際の手間や費用が掛かるなどが考えられる。このような状況に対して、Connected Industries を推進することにより事業者間でのデータ連携を活発に行うことを通じ、将来、シームレスな利用者体験を提供するサービスが実現し、利用者の移動における負担が最小化する社会が期待される。具体的には、車の操作に関して言えば、完全自動運転の実現によりドライバーが操作から解放されることによって「自ら運転する」という体験から、「車内環境を楽しむ」という体験に求める価値が移行することが予想される。また、車の所有に関して言えば、「車は所有するもの」という考え方が薄まり、「必要なときに呼び出すとやってきて、目的地まで自動的に運んでくれ、目的地に着いたら別の利用者のところに自動的に向かうもの」という考え方に移行していき、業者が保有する車のカーシェアリングやライドシェアリング、オンデマンド配車サービスなどが増加することも予想される。

このような完全自動運転カーシェア社会の実現に向けては、様々な技術が必要であり、例えば、図134-3のような世界が想定される。

図134-3 「完全自動運転カーシェア社会」のイメージ

資料:経済産業省作成

以下ではこのような社会に向けた先進的な事例を紹介する。

<三菱電機(株)>

「自動走行」

【準天頂衛星×高精度測位端末×高精度3次元地図】

・同社では、ビルの多い都市部や山間部でも安定的に測位信号を受信できる準天頂衛星システムを活用するとともに、高精度な測位端末及び高精度3次元地図を用いることで、センチメートル単位での位置情報の取得を目指す。これにより、安全運転支援・自動走行分野を始め、無人・自走による効率的な農作業、土木機器の作業や走行を制御するなど、社会の様々なシーンに新たな価値をもたらすことを目指している。

<NTTグループ、SAP、東レ(株)>

「交通事故未然防止」

【繊維センサー×生体情報×運行情報】

・NTTグループとSAPはお互いの技術を活用し、安全運転を支援するIoTソリューションの開発に取り組んでいる。NTTが東レ(株)と共同開発した「hitoe(ヒトエ)」によってドライバーの心拍数などの生体情報を取得し、それをもとにNTTグループが疲労度や緊張度を分析する。ドライバーから得られたデータと、スマートフォンや運行データを記録する装置などから収集した車両位置や加速度などのデータを、SAPが持つ分析アプリケーションで総合的に分析することで事故を未然に防ぐことを狙ったもの。

<CARTIVATOR>

「空飛ぶクルマ」

【新たなモビリティ×人の移動】

・日本の自動車や航空機の業界などの若手メンバーを中心に、空飛ぶクルマ「SkyDrive」の技術開発と事業開発に取り組む有志団体。2012年に発足し、現在は2020年のデモンストレーションを目標にプロトタイプの開発を行う。将来的には「2050年までに誰もがいつでも空を飛べる時代を創る」ことを目指す。

●海外事例

<MaaS Global、HSL/HRT、Sixt>

「カーシェアリング」「ライドシェアリング」「MaaS(Mobility-as-a-Service)」

【ITサービス×公共機関×レンタカー】

・2016年よりフィンランド・ヘルシンキにて、電車・バス・タクシーなど複数の交通手段をワンストップで提供するMaaS型サービス「Whim」を提供。月額89ユーロ(約11,000円)からの固定料金で、ヘルシンキ地域交通局(HSL/HRT)が運営するトラム、地下鉄、バス、フェリーや市内タクシー、Sixtが提供するレンタカーを無制限で利用可能としている。「Whim」スマートフォンアプリで目的地を指定すると、複数の交通手段を組み合わせた最適な移動ルートを自動で検索でき、電子チケットが発券される仕組み。利用者にとって、そのときのニーズやシチュエーションに合わせて、最も効率的な移動手段を選択可能。

<EHang>

「空飛ぶクルマ」

【ドローン×人の移動】

・中国広東省に本拠地を構える同社は、有人ドローン「EHang184」を開発。100kgの積載物を25分間、巡航速度時速100kmで輸送する能力を有するとしている。既にドバイで実証実験を進めており、新たな空の交通インフラとして期待されている。今後、災害時の人命救助や物資支援などへの活用、離島や山間部への移動手段としての活用、渋滞緩和に向けた都市部での活用などが期待される。

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