経済産業省
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第1部 ものづくり基盤技術の現状と課題
第1章 我が国ものづくり産業が直面する課題と展望
第3節 価値創出に向けた Connected Industries の推進

4.分野ごとの事例

(1)生み出す、手に入れる〈5〉

②スマート物流

物流のスマート化に関しては、配送業者同士の連携・情報共有が少なく、また、人手の掛かる業務も依然多いなど、低い生産性を始め様々な課題が存在する。具体的には、倉庫業務・運搬業務の多くが人の手によって行われており、荷量の増加や労働人口の減少に対応しきれておらず、人手不足による倉庫業務の生産性低下やドライバー不足による輸送業務への支障などを引き起こしている。また、配送業者同士の連携・情報共有が少なく、それぞれの配送に使用可能な手段の選択肢が限定的であり、不必要なCO2を排出するとともに、Eコマース市場拡大による荷物の小ロット化・多頻度化などに対応できなくなっている。

このような状況の中、Connected Industriesのコンセプトの下でデータの利活用を積極的に進め、多くの事業者が互いに連携し、取組の可視化を図るとともに配送業務を極力自動化することなどにより、顧客の個別ニーズに対して最大限の対応を図ることが可能となることが期待される。

例えば、全体最適化を図るべく配送の全体的な流れを可視化して統合的な管理を実施することや、倉庫業務のあらゆる過程を自動化することで省人倉庫・無人倉庫を実現することなどが考えられる。さらには、より早く・安く・あらゆる場所に届けるためには、多くの事業者・手段を巻き込んだ配送の実現が重要となる。複数の事業者間でデータ連携を図り、サプライチェーンのデータをリアルタイムで分析することで、最適な配送手段やルートの選択、正確な配送予測などがリアルタイムで行えるスマート物流の実現が期待される(図134-2)。

図134-2 「スマート物流」のイメージ

資料:経済産業省作成

以下ではこのような社会に向けた先進的な事例を紹介する。

<アスクル(株)、(株)MUJIN>

「省人化」

【物流システム×ロボット】

・インターネット通信販売会社であるアスクル(株)は、知能ロボットコントローラを開発する(株)MUJINと協力し、物流センターのピッキング工程に導入するシステムを共同で開発。商品の置かれている状況や大きさ、形状を高速かつ正確に3次元で認識するシステムと、得られた情報を踏まえ、状況に応じて最適なロボットアーム軌道や動作を瞬時に生成するモーションプランニングAI技術により、多品種多様な商品の種類を認識し、その形状や大きさに合わせた商品のピッキングを可能にしている。同システムの導入により、最も多くの人員を必要とする商品のピッキング工程の省人化を進めている。

<Amazon>

「最新ロボットシステムと人との共存」

【可動式商品棚×自動搬送ロボット】

・同社では、ポッドとよばれる可動式の商品棚と、それを運ぶドライブとよばれる自動搬送ロボットからなる「Amazon Robotics」を一部物流拠点に導入している。ドライブが商品棚を作業員の前まで運ぶことで、作業者が移動する必要がなくなり、入荷した商品の棚入れ時間と、顧客の注文商品を取り出す時間の削減につながっている。また、作業者が入荷商品を適切な棚の空きスペースに入れられるようモニター上でガイドし、出荷時も注文商品が棚のどの場所にあるのか商品画像とともにガイドされるため、品揃えスピード向上と在庫保管効率の向上、さらに出荷スピードの向上にも寄与している。最新のテクノロジーと人とが業務を分担することで、間違いがなく正確で、迅速な出荷ができるシステムが構築されている。

<(株)ウェザーニューズ>

「物流経路や運航の最適化」「安全性向上」

【物流航路×船舶性能情報×気象・海上データ】

・同社は、船舶の安全性に加え経済性、環境性、定時制など多様化するニーズに応えるためのサービス「Optimum Ship Routeing(OSR)」を提供している。海運会社のニーズが多様化する中、同サービスでは、船舶ごとの燃料とスピードのパフォーマンス特性を解析し、航海で要求される到着時間、燃料節減目標を実現するための最適航路、最適エンジン回転数、予測される気象海上状況の情報と他の選択肢の検討とリスク情報を船長、陸上の運航担当者、そして同社が共有することで、航海の最適化を行う。現在、同サービスは、コンテナ船、自動車船、ばら積み船、タンカー船などあらゆる船種に対応し、約4,000隻にサービスを提供しているが、将来的には約10,000隻にサービスを展開する予定。

<豊田通商(株)>

「省人化」「安全性向上」「燃費向上」

【トラック×自動運転】

・同社では、通信及びセンサーなどにより、物理的に牽引することなく、後続車両が先行車両に追従することを可能にする電子連結システムの開発に取り組んでいる。同システムにより、2台目以降の後続車両は無人で隊列走行が可能となる。物流業界のドライバー不足は深刻化しており、同システムの活用により省人化、安全性向上が期待される。また、隊列走行時の空気抵抗は単独走行時より減少し、燃費改善による省エネルギー効果も期待されている。2018年1月、高速道路における後続有人隊列走行の実証実験を実施。

<楽天(株)、(株)ローソン>

「無人配達」

【配送×ドローン】

・2017年10月より半年間、福島県南相馬市で小型無人機「ドローン」を使った商品配送の試験運用を実施。同市内のローソン南相馬小高店が移動販売を行う際、楽天のドローン配送と連携し、移動販売車両に積み込めない温度帯の商品である、店内調理の唐揚げなどを店舗から2.7km先の移動販売先まで運ぶ。同店舗は東京電力福島第1原発事故による避難指示区域の指定が2016年7月に解除された同市小高区内において最初に営業を再開したコンビニエンスストア。専用車両のスタッフがドローン配送を対象とした商品の注文を受けると、連絡を受けた店舗スタッフが商品を専用の箱に詰め込む。楽天ドローンのスタッフは箱を受け取ってドローンに搭載し、移動販売先に向けてドローンを飛ばす。

<KDDI(株)、(株)プロドローン、テラドローン(株)、(株)ゼンリン、(株)ウェザーニューズ>

「モバイル通信を用いた自律飛行ドローン」

【モバイル通信×ドローン×運航管理×空の3次元地図×空の気象情報】

・KDDI(株)、(株)プロドローン、テラドローン(株)、(株)ゼンリン、(株)ウェザーニューズの5社はモバイル通信ネットワークを活用したドローン専用基盤「スマートドローンプラットフォーム」の商品化に向け、業務提携を実施。ドローン機体、運航管理システム、モバイル通信、空の3次元地図、空の気象情報を活用し、ドローンの長距離自律飛行を実現する。このプラットフォームにより、遠隔でのドローンの飛行指示、飛行状況監視、衝突回避に加え、ドローンが取得したビッグデータの蓄積、分析が可能となる。今後、インフラ検査や農業支援、配送、警備、災害救助などのソリューションの提供が見込まれている。

<ヤマト運輸(株)、(株)ディー・エヌ・エー>

「希望の場所・時間帯での荷物の受取」

【自動運転×保管ボックス】

・2017年ラストワンマイル配送の実用実験を実施。自動運転社会を見据えた次世代物流サービスの実現を目指した実験であり、神奈川県藤沢市の一部地区で実験的にサービスを開始。将来の自動運転車(無人)によるオペレーションを見据えている(現在の実験では自動運転車ではなく、ドライバーが運転)。サービス内容としては以下の2つ。①ロボネコデリバリー:対象地区のユーザーに宅急便を届けるサービスで、クロネコメンバーズの会員限定。最寄り駅や会社など、対象エリア内であれば、自宅以外の場所でも受け取りが指定可能で受取時間を10分単位で指定でき、指定可能な時間帯は他の顧客の配達予約状況によってリアルタイムに変化。Webから空いている時間帯を選択し、配送車が到着する3分前には、ユーザーの携帯電話に連絡が入る。車が到着すると、ユーザーは配送車に搭載された保管ボックスに、あらかじめメールで受信した2次元コードをかざすと扉が自動開錠し、ユーザーが自ら荷物を受領する。②ロボネコストア:対象地区の商店の商品を買い物代行するサービスで、ネットの専用ページから注文し、最短40分後に受取が可能。対象地区内で受取ることができれば、地区外から訪れたユーザーでも利用が可能。

<(株)ZMP、日本郵便(株)>

「自動走行宅配ロボット」

【自動走行×配送】

・自動運転の実用化で、安全で楽しく便利なライフスタイルの創造を目指す(株)ZMPは日本郵便(株)と連携し、自動走行宅配ロボット「CarriRo® Delivery」を用いた実証実験を福島県南相馬市で実施。CarriRo Deliveryは宅配ボックスを搭載し、カメラやレーザーセンサーで周囲環境を360度認識しながら最大時速6kmで自動走行する。郵便局やコンビニエンスストア、住宅などの拠点に荷物を配達し、遠隔監視・遠隔操作も可能。

●海外事例

<Pirelli、Schrader Electronics>

「フリートマネジメント(業務用車両監視・管理)」

【タイヤ×センサー×ソリューション展開】

・イタリアのタイヤメーカーであるPirelliと英国の部品メーカーのSchrader Electronicsは、内部に空気圧や温度を検知するセンサーを設置したタイヤを開発。センサーから得られたデータを活用し、タイヤの保守サービスに加え、フリートマネジメント(業務用車両監視・管理)サービスを提供している。フリートマネジメントサービスにおいては、車両管理者・ドライバーにモバイルアプリを通じた走行データなどをリアルタイムで提供するとともに、Pirelli内にて技術者やマーケティング担当者がリアルタイムで異常情報や予測情報を監視する。リアルタイム監視による安全性の向上、車両の稼働率向上(ダウンタイムの削減)、TCO(総保有コスト)の最適化、タイヤメンテナンスコストの削減、燃料コスト・CO2排出量の低下など幅広い価値を実現している。

<Google X、Virginia Tech>

「無人配達」

【ドローン×配送】

・2017年6月ドローンを使った無人配達のプロジェクト「Project Wing」が、無人航空機システム(Unmanned Aircraft Systems, UAS)の航行管理に関するFAAとNASAが制定した一連のテスト(人間の操縦者のいない機が、荷物やそのほかの品物を大規模に自動化されているネットワークの一部として配達できるために欠かせない要件)を完了した。Project× Wingとは、Google Xやそのほかの企業が、数千機から成るドローンの編隊を運用し、荷物の配達などを実施するドローン宅配便計画。バージニア工科大学のテストサイトにて、1人の地上操縦士が3台のWingドローンを同時にコントロールし、それぞれのドローンが、別々の集荷と配達を行った。

<DHL、Polygon>

「無人自動配達」

【配送×ドローン】

・ドイツの輸送物流大手のDHLはドイツの設計エンジニアリング企業のPolygonの協力を得て、2016年5月、山岳地帯での3か月にわたる配達ドローンの実地試験を完了。自動配送ステーションを開設し、車では30分掛かる場所へ8分以内に荷物を届けた。標高1,200mの高山地帯にあるライト・イム・ヴィンクル地域とアルムという2か所に「スカイポート」を設置。スカイポートとは、同社が開発した「ドローン用の自動宅配ステーション」で、荷物を挿入すると、配送システムが起動し、ドローンが離陸。8km離れた他のスカイポートへと向かう仕組み。これらの地域に住む個人顧客は、ここで荷物を受け取ったり、ここから荷物を送ったりすることが可能となる。同様の実験をスイスポストやフランスのGEOポストも実施。

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