経済産業省
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第1部 ものづくり基盤技術の現状と課題
第1章 我が国ものづくり産業が直面する課題と展望
第3節 価値創出に向けた Connected Industries の推進

4.分野ごとの事例

(1)生み出す、手に入れる〈4〉

①スマートに生み出す、スマートに手を入れる(スマート製造など)

●海外事例

<Optimal Plus>

「(サプライチェーン上のデータ連携による)品質担保」「テスト工程の最適化」

【産業(デバイス)の知見×データ分析力】

※コラム参照

コラム:サプライチェーンにおける企業間データ連携の実現に向けたサードパーティの取組・・・Optimal Plus(イスラエル)

イスラエルにサプライチェーン上における複数企業間でのデータ連携の実現を目指す企業がある。電子機器・半導体産業に特化しビッグデータの解析を行うソフトウェア会社、Optimal Plusである。同社は、Fortune500に選出されるような優良企業を多く顧客に抱えており、直近では、Forbesによる「15 Technology Companies To Watch In 2018」や、Gartnerが発表している「Cool Vender in IoT Analytics in 2017」に選出されている新進気鋭の企業である。

同社は、産業界において既存のビジネスモデルの限界を感じたメンバーが、新しいビジョンを掲げ集結した組織である。既存のサイロ型モデル(生産プロセスが縦割りで進行するため、企業間の情報共有や連携を欠いており、各企業が独自に業務を遂行し孤立している状態)から脱却し、次世代のサプライチェーンの在り方として各企業が緊密に連携するエコシステムを構想している。

同社の強みは何といっても、ビッグデータのアナリティクス技術と半導体・電子機器産業における深い知見である。この二つの掛け合わせにより、市場の中でも独自の地位を築いている。事業を率いるディレクターのYaacov De Russo氏は「アナリティクスができる人材は多数いるが、産業に知見を持ち本当に意味のあるインサイトを生み出せる人材は数少ない。アナリティクスにおいて非常に重要な点は、データを収集し、分析し、現場にフィードバックすること。収集されたデータは、現場の製造ラインにフィードバックされ実行されることで初めて価値を生む。我々のソリューションは、その実行までを含め自動化したオペレーションを運用している」と話す。その信念に沿う形で、同社のソフトウェアは24時間365日、世界中の工場からデータを吸い上げ、分析し、現場に実行指示を自動で出しているという。

このオペレーションを実現するに当たり、同社は従来の「The voice of the machine(製造におけるプロセスデータ)」を収集・分析するモデルに加え、業界では新しい「The voice of the product(製品自体のデータ)」の分析に注力している。各チップやCPUボード、製品がどの工場のどのマシンをいつ通過して、どのような加工がされているのか、機能テストの結果はどうだったかというデータを、異なる工程から収集し、それぞれの製品個体に紐づけ、「プロダクトDNA」として管理している。プロダクトDNAの価値を高めるためには、1社だけのデータでは不十分であり、サプライチェーン上の複数の企業間でのデータ連携が不可欠となる。

Yaacov氏は「我々の顧客は、サプライヤーやTier1(メーカーに直接納入する一次サプライヤー)のOEMであり、彼らが販売しているのは、高い効率性を実現する製造機器ではなく、高品質な製品自体である。だからこそプロダクト自体のデータから価値のあるインサイトを生み出すことが重要である。企業はたった5%の欠陥品のために95%の優良品を危険にさらしてしまう。我々は、プロダクトDNAの分析によりその95%の利益を保護している」という。

同社のソリューションである、QPaaS(Quality Protection as a Service/品質保護サービス)は、これまで有効性が認められつつもデータ連携が進んでこなかった半導体サプライヤーなどとOEM間でのデータ連携を支援するソリューションであり、各市場のアーリーアダプター企業と共同で構築する。部品メーカーや組立企業などのサプライチェーン上の複数企業から品質に関するデータを収集、分析し、各企業に実行可能なインサイトをフィードバックすることで最終製品の品質を向上させるソリューションだ。QPaaSは、サプライチェーン上の企業を仲介する信頼性のおけるサードパーティとしてデータハブを担っている。すでに欧州の自動車業界のTier1企業とその上流のサプライヤー企業とPoC(the Proof of concept、コンセプト検証)を行い、高品質かつ歩留まりの改善を達成している。

各企業から収集されるデータを統合して分析を行う際には、データハーモナイゼーション(データ同士の調和)が重要となる。データのフォーマットを統一するだけでは不十分であり、産業上の文脈や前後のプロセス、データ内容への深い理解を持ち合わせた上での分析が必要不可欠となる。そのため、同社のビッグデータ技術とエキスパートの経験・知見が最大限に活かされる。今後、遅からずサプライチェーン全体にわたるデータ連携が実現されていくが、多くの企業同士が個別に連携し1対1の関係を構築するのは非効率であり、現実性が低い。そこで多対多のネットワークを構築し全体のエコシステムを形成していく役割を担うサードパーティが重要になってくる。

QPaaSは品質保証の観点からみると、RMA(Return Merchandise Authorization/返品保証)に掛かるコストを約50%削減することができ、さらに、RCA(Root Cause Analytics/欠陥原因の特定分析)に掛かる日数を平均1週間以下に短縮、不要な部品テストの80%を削減することでテスト工程の最適化ができるという。

自社のコア領域のデータを他社と連携することに対して、流出・悪用といった観点から抵抗感がある企業も少なくないだろう。同社は、QPaaSの導入時に、どのデータをデータハブに送信するか、どのようなアルゴリズムによってインサイトを生成するか、誰にそのインサイトを提供するかという内容について各社と事前に合意する。各工場の製造機器から生成された生データは、他社に公開されることはない。このように細部にわたり顧客のコア領域を保護する手法を講じている。

Yaacov氏は日本への展開も積極的に見据えている。「日本において、サプライチェーン上のデータ連携にはポテンシャルがあると考えている。自動車産業を始め、先進的な技術を活用している企業が多く、QPaaSを展開していく素地がある。ただ、自らが積極的に動くような日本企業は少なく、社会が動き出すのを待っているように感じる。これからはいかに早く動くことができるかが重要である。」とYaacov氏は日本の市場に対する見解を述べる。Connected Industriesによるデータ駆動型社会は、もうすぐそこまで来ている。ものづくり企業がいかに早く動くことができるかが、勝負どころとなるものと思われる。

図1 Optimal Plusが提供するQPaaSの連携イメージ
図2 QPaaSを使用した分析のイメージ

出所:Optimal Plusより提供

<Uhlmann Pac-Systeme>

「保守効率化」「ソリューション展開」

【顧客起点×デジタル化×社内教育】

※コラム参照

コラム:AR(Augmented reality/拡張現実)を活用したスマートグラスによる機器メンテナンスで新しいビジネスモデルへ挑戦・・・Uhlmann Pac-systeme(ドイツ)

同社は、1948年に設立されたドイツに拠点を置く医薬品の包装機器製造におけるリーディングカンパニーである。同社は、長年この包装機器の製造と販売を主軸事業としてきたが、近年では、「モノの販売」に加え新技術を活用した「ソリューションの提供」にも力を入れている。全社的に、デジタライゼーションを志向しており、社内に新規デジタルソリューションの企画・開発部門を設置し、先端技術の活用を視野に入れた検討を常日頃から積極的に行っている点が同社の大きな特徴である。定期的にワークショップを行い、展示会などの外部イベントに参加するなど、情報収集やネットワーキング活動にも余念がない。

ドイツ・デュッセルドルフで開催された展示会"Interpack 2017"において、同社は新しいソリューションである、「スマートグラスを活用した遠隔メンテナンスアプリケーション」を発表した。もちろんこのソリューションも、社内のスタッフによるディスカッションから生まれたサービスである。スマートグラスを活用することで、製造機器のメンテナンス作業を誰でも簡単に行えるよう標準化し、作業工程自体も効率化することができる。作業員が、AR技術を用いたスマートグラスをかけて包装機器を見ることで、瞬時に機器の温度や湿度といったメンテナンスに必要な情報を閲覧することができ、メンテナンス方法や機器の詳細情報のドキュメントにもボタン一つでアクセスすることができる。つまり、AR技術を活用し既存世界にデジタル情報を付加することで、製造機器とヒトの間におけるコミュニケーションを実現しているのだ。

デジタライゼーション部門の主任であるKathrin Günther氏は、大きく2つの観点からデジタライゼーションに取り組んできたと話す。1つ目は、経営的視点である。会社としてビジネスを、デジタル環境に適合させていく必要があると認識していた。リーディングカンパニーといえども、急速に変化するグローバル社会の中で勝ち残っていくためには、会社のあり方を変革しなければならないのである。2つ目の視点としては、顧客志向的視点である。顧客企業の業務プロセスのどこに課題や問題があるのかを特定し、作業の効率化や顧客満足度の向上ができないかを検討していた。この2つの視点から、将来の「Human machine interface (人間と機械の間の伝達を行う機器やコンピュータプログラムのインターフェース)」のあるべき姿を具体的にイメージし、マシンが人間にどのように作業を指示することができれば、現場の作業を効率よく、安全に行うことができるかということに日々考えを巡らせていたという。

本プロジェクトには顧客企業のメンバーも参加し、幾度となくディスカッションを繰り返しプロトタイプの改善を図ってきた。「一部の作業員は、新しいテクノロジーを恐れ、スマートグラスをかけながら作業することに違和感を抱いていた。顧客の現場スタッフに受け入れてもらい、安全に使用してもらうため、工場でユースケースを用いてプロセスを説明し、シミュレーションを繰り返した」とKathrin氏は振り返る。新技術に対し内向的な企業には、根気よくサービスのメリットを説明し、実際に使用してもらうことで価値を理解してもらったそうだ。顧客とのディスカッションでは、セキュリティ面についても検討がなされていた。通常、医薬品関連の機器は外部ネットワークと接続されていないため、ネットワークに接続する際には、サイバーセキュリティ上のリスクを考慮する必要があった。顧客企業と詳細に接続要件を話し合い、責任の所在を明確化することでネットワーク上のリスク管理を実現している。

同社は従来の固定価格で製品を販売するビジネスモデルに加え、スマートグラスを活用したメンテナンスサービスを継続的に販売するビジネスモデルを新たに立ち上げた。ソフトウェアの更新料やライセンス契約での課金体系となり、安定的な収入を確保することができる。ビジネスモデルの転換において最も難しいのは、既存スタッフの教育である。現場で求められるスキルや能力が変わっていくなかで、従来の業務から脱却し新しい思考やスキルを短期間で身に着けることは非常に困難なため、チェンジマネジメント(業務や組織に関する様々な変革を推進・加速し、成功に導くためのマネジメント手法)を導入し、現場のスタッフだけでなく経営陣にも教育を提供することで、会社の在り方自体を変革させる必要がある。Kathrin氏は、「ドイツ政府は積極的にIndustry4.0に対して取組を行っている。しかし、Industry4.0の取組は本来、政府が行うものではなく、最終的な実行責任は各企業にある。私たち、企業が動かなければIndustry4.0は意味をなさない」と話す。将来の社会を見据え、自社に何ができるのか、何をしなければならないのかを考え、実際に行動に移してきた事業リーダーとしての、責任感と力強さを感じさせる意見である。

図 AR技術を活用したスマートグラスによる機器メンテナンスのイメージ

出所:Uhlmann Pac-systemeより提供

<YOU MAWO>

「マスカスタマイゼーション」

【3Dプリンター×地域の販売店】

※コラム参照

コラム:世界に一つだけのメガネフレームを届ける(3Dプリンターによる地元メガネ販売店の活性化)・・・YOU MAWO(ドイツ)

ドイツに拠点を置く同社は、1人ひとりの顔の形に応じたメガネフレームのカスタマイゼーションを行うスタートアップである。2015年に設立され、2016年から本格的に事業を展開している。既製品ではなく、それぞれの顧客の顔に合わせカスタマイズされたメガネフレームを3Dプリンターで製造し提供する。カスタマイズされたメガネフレームは、欧州地域の地元のメガネ販売店を通じて顧客に提供されるため、最終顧客と地元のメガネ販売店のつながりを生んでいる。このビジョンが評価され2017年に the SME Award Hidden Champions(知名度が低く規模も比較的小さいものの、世界市場または各地域市場においてシェア上位に位置し世界をリードする企業に対し贈られる賞)のInnovation and Vision部門を受賞した。

メガネ販売店と最終顧客をつなげる仕組みに特徴がある。同社はまず、タブレットで使用可能な3Dフェイススキャン用のアプリケーションをメガネ販売店に提供する。このアプリはWeb上で入手可能となっている。メガネ販売店のスタッフはこのアプリを使い、店頭で来店した顧客の顔をスキャンする。赤外線を使用した3Dスキャナーにより、顔全体の立体データを作成。作成された顔データは、顧客の選んだ色やフレームの形などの情報とともに同社に送信される。その後、顔の3Dデータを元にそれぞれの顔の形・サイズ・ゆがみに応じたメガネフレームを設計し、3Dプリンターで製造する。出来上がった製品は、検品を経てメガネ販売店に配送され、最終顧客の手にわたる。

欧州、北米、アジア地域に展開する大手メガネメーカーは、社内でメガネフレームをデザインし、イタリアや中国を中心としたサプライヤーに生産を委託するため、製品の注文から納品まで約3~6か月を要する。在庫切れの場合、再納品に3~6か月掛かるため、欠品を起こさないよう大量の在庫を抱える傾向にある。また、大量生産方式であるためカスタマイズはほぼ行われていない。一方、同社のビジネスモデルでは、最終顧客のニーズに応じたカスタマイズ製造を実現しているほか、オーダーが入ってから製造するため、在庫量を少なくすることが可能。

同社のソリューションは、地元のメガネ販売店にとって、オンラインショップや大型チェーン店などの競合企業との差別化を可能にしている。同社の事業ターゲットは、大型チェーン店やオンラインショップではなく、欧州市場の約2割を占める独立系の高級志向のメガネ販売店である。メガネ1点あたり400~800ユーロ(1ユーロ=130円換算で約5~10万円)の層を狙っているという。これらの層は、安価な商品に比べ、カスタマイズに対する顧客ニーズも高い。

同社の共同創立者たちは、2004年頃から既に3Dプリンターでカスタマイズされたメガネフレームを製造する事業構想を考え始めていた。共同創立者の1人であるDaniel Szabo氏は、「メガネフレームは比較的小さく、カスタマイズに向いている製品であるため、3Dプリンターでの製造には適していた。しかし2004年当時の3Dプリンターはコストも高く品質も良くなかった。そのため、ビジネスモデルをじっくり検討し、適切なパートナー企業を探すことに時間をかけてきた。」と当時を振り返る。近年、ようやく3Dプリンターも安価になり、品質も向上してきたため満を持して事業に乗り出した。同社は2年間で売り上げを実に10倍に伸ばしている。

同社の急激な成長を支えているのは、創立前から一緒にビジネスを作り上げてきた3Dプリンターやカスタマイゼーションに知見を持つパートナー企業たちである。同社の社員数は35名であるが、協業関係にあるスタートアップのメンバーを合わせると、60~70名程度になるという。

「我々のビジネスの本質は、様々なテクノロジーのピースを組み合わせ、顧客が抱えている課題を解決するソリューションを生み出すこと。世界には、AI・ビッグデータ・3Dプリンター・IoTなどの先端テクノロジーとそれらを使いこなす人材が多数存在する。ビジネス領域では、それらの技術や人材を組み合わせ、ソリューション化し、顧客に価値を提供できる役割が必要だ。我々は、実現しようとするソリューションを構築する上で、足りないピースを埋めてくれるような企業がいないかどうか、常にアンテナを張って探している。」とDaniel氏は述べる。

急激にビジネス環境が変化する時代において、一社のみで事業を展開しようとすると技術的な困難に直面し、多くの顧客の個別の希望に最適なソリューションを提供するには時間がかかり過ぎる事態を招く。事業展開にこれまで以上にスピードが求められる今日、自らのビジネスに必要なパートナー企業を見つけ、関係性を構築することがいかに重要かということが同社の成功からもいえるのではないだろうか。

図1 3Dプリンターにより製造されたメガネフレーム
図2 タブレットを使用し顔の3Dデータを撮影している様子

出所:YOU MAWOより提供

<Adidas、Carbon>

「マスカスタマイゼーション」「短納期」

【3Dプリンター×革新技術】

・Adidasはシリコンバレーに拠点を置く3Dプリント企業Carbonと協力し、従来の3Dプリンター技術を上回る技術を用い、3Dプリントスニーカーを製造。これまでの3Dプリンターのように上から素材のレイヤーを重ねていく積層造形法でなく、印刷面から上に向かって連続的にプリントしていくDigital Light Synthesis(デジタルライト合成)と呼ばれる手法により、既存のものと比べて10倍以上の速さでの製造を可能にしている。短納期化以外にも、3Dプリンターで作成するので、格子構造の配列を決定しているデータを少し変えるだけで、最適なミッドソールが作成できる。2018年中に10万足以上の生産を予定している。

<LAP Laser Applikationen>

「新たなソリューション展開」

【コア技術×他用途展開】

・ドイツで主に製造・建築・医療関連の業種へレーザー出力機器の製造・販売を行う同社は、レーザーを「測定」以外にも応用し、レーザーによる組立アシスタントシステム「Assembly Assistance System ASSEMBLY PRO」を提供している。同システムは、製品の組み立てに必要な作業情報データと顧客からの注文データをリアルタイムに紐づけることで、より効率的な組立指示をレーザーで投影し、組立作業をサポートする仕組みである。クライアントの様々な製品からデータを収集し指示するため、カスタマイズ製造に向いている。組み立て作業をする企業であれば規模の小さな工場でも比較的安価で導入可能であり、中小企業を含む新たな業種の顧客獲得に成功している。

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