経済産業省
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第1部 ものづくり基盤技術の現状と課題
第1章 我が国ものづくり産業が直面する課題と展望
第2節 不確実性の高まる世界の現状と競争力強化

2.企業変革力(ダイナミック・ケイパビリティ)の強化

(1)不確実な世界における企業の経営戦略

不確実性が著しく高まっている世界で、日本の製造業はどう進むべきか。非常に難しい課題ではあるが、この課題を考えるに当たって注目すべき戦略経営論がある。

それは、ダイナミック・ケイパビリティ論である。「ダイナミック・ケイパビリティ」とは戦略経営論における学術用語であるが、敢えて訳語を当てるならば、「企業変革力」になろう。

ダイナミック・ケイパビリティ論は、カリフォルニア大学バークレー校ハース・ビジネススクール教授のデイヴィッド・J・ティース氏によって提唱され、近年、注目を浴びている戦略経営論である。

ダイナミック・ケイパビリティ論が発展し、注目されるようになった学説史的な経緯は、以下のとおりである。

1980年代にハーバード大学のマイケル・ポーター氏が「競争戦略論」を展開した。これが戦略経営論という研究分野の出発点となったと言われている。

ポーター氏の「競争戦略論」は、産業構造や業界の状況が企業の戦略行動を決定し、更には企業の業績を決定するという議論であった。しかし、その後、多くの実証研究から、同じ産業や同じ業界の内部でも企業の戦略行動や収益率に差異があることが明らかになり、「競争戦略論」の限界が指摘されるようになった。

このような中、企業の戦略行動や業績を決定しているのは産業構造や業界の状況ではなく、企業内部にある固有の資源であるという「資源ベース論」が登場するようになった。資源ベース論は更に、自社の強みである固有の資源を利用する能力(ケイパビリティ)こそが、企業の競争力の源泉であるという見方へとつながっていった。

しかし、そのような企業固有の資源(自社の強み)もまた、環境や状況が変われば不適合なものとなり、企業の硬直性を招き、かえって企業の弱みへと転じかねない。

では、企業は、どのようにすれば、変化する環境や状況の中で、持続的に競争力を維持できるのであろうか。このような問題意識を背景にして提出された戦略経営論のひとつが、「ダイナミック・ケイパビリティ論」である。

ダイナミック・ケイパビリティとは、環境や状況が激しく変化する中で、企業が、その変化に対応して自己を変革する能力のことである。

それゆえ、今日のように、世界の不確実性が急激に高まっている時代において、製造業の在り方を考える上で、このダイナミック・ケイパビリティ論は多くの示唆を与えてくれるだろう。

(2)企業変革力(ダイナミック・ケイパビリティ)とは

ティース氏によると、企業のケイパビリティは、「オーディナリー・ケイパビリティ(通常能力)」と「ダイナミック・ケイパビリティ(企業変革力)」の2つに分けることができる。ダイナミック・ケイパビリティの意義を明確に理解するためには、オーディナリー・ケイパビリティと比較することが有益である。

オーディナリー・ケイパビリティとは、与えられた経営資源をより効率的に利用して、利益を最大化しようとする能力のことである。オーディナリー・ケイパビリティは、労働生産性や在庫回転率のように、特定の作業要件に関して測定でき、ベスト・プラクティスとしてベンチマーク化され得るものである。ティース氏によれば、オーディナリー・ケイパビリティとは「ものごとを正しく行うこと」を意味する。

企業にとってオーディナリー・ケイパビリティを高めることが根本的に重要であることは、論を待たない。しかし、オーディナリー・ケイパビリティだけでは、企業は競争力を維持できない。

なぜならば、第1に、ベンチマーク化されたベスト・プラクティスは他企業が模倣しやすく、特にグローバルな競争が激しい環境下では、急速に拡散する。このため、オーディナリー・ケイパビリティだけでは、持続可能な競争力を獲得することはできない。

第2に、より重要なことであるが、環境や状況に想定外の変化が起きた場合に、どう対応すべきかについて、オーディナリー・ケイパビリティは、何も語らない。それどころか、ベスト・プラクティスが洗練され、精緻化されていればいるほど、それを変えるコストは高くなってしまうので、現状維持の方が短期的には経済合理的になるという罠に陥ってしまうことすらある。オーディナリー・ケイパビリティという自社の強みが、弱みに転じて、企業を危機に陥れることがあるのは、このためである。日本の製造業にとって不確実性が危険である理由も、まさにこの点にある。オーディナリー・ケイパビリティの高い製造業が、環境や状況の想定外の変化によって、一瞬にして、競争力を失うということが起こりうるのである。

そこで、環境や状況の変化に応じて、企業内外の資源を再構成して、自己を変革するダイナミック・ケイパビリティを高めることが必要となる。

もちろん、オーディナリー・ケイパビリティが企業の基本的な能力であることは、先述のとおりである。しかし、重要なのは、現状の企業行動が、環境や状況の変化に適合しなくなったかどうかを常に批判的に感知し、適合しなくなったと判断したならば、適合するように企業を変革することである。その変革に成功すれば、企業は、新たに構築されたオーディナリー・ケイパビリティの下で、再び効率性を追求することができる。

ティース氏の卓抜した表現を借りるならば、オーディナリー・ケイパビリティとは「ものごとを正しく行うこと」であるが、ダイナミック・ケイパビリティは「正しいことを行うこと」である。

ティース氏は、「正しいことを行う」能力であるダイナミック・ケイパビリティを、更に次の3つの能力に分類している。

感知(センシング):脅威や危機を感知する能力

捕捉(シージング):機会を捉え、既存の資産・知識・技術を再構成して競争力を獲得する能力

変容(トランスフォーミング):競争力を持続的なものにするために、組織全体を刷新し、変容する能力

このダイナミック・ケイパビリティの中でも中核となるのは、資産を再構成(オーケストレーション)する企業家的な能力である。そのような能力は模倣することが難しいものであり、したがって、外から購入するよりは、企業内部で構築しなければならない。逆に言えば、このような能力は、企業の長年の学習によって構築された文化・遺産の産物であるがゆえに、他企業には模倣困難なものとなり、かつ長期にわたって維持されるものである。

ティース氏は、次のように述べている。

「強いダイナミック・ケイパビリティによって、企業とそのトップマネジメントは、消費者の好み、ビジネス上の問題、そして技術発展の進化について推測を展開でき-その推測の正しさを確かめたり、それを微調整したりできる-、それから、継続的なイノベーションや継続的な変化を可能にするための資産や活動を再構成することによって、その推測に基づいて行動できるようになる。首尾よく強いダイナミック・ケイパビリティを構築した企業が戦いを挑むことができるのは、いま自社が所有している資源に溺れ、顧客ニーズの変化を無視し(またはそれを知らず)、現状を大事にし、企業家たちに権限を与えることに失敗し、エージェントを変えることに失敗し、そしてイノベーションよりも効率性を優先するような競争相手である。」注15

注15 D・J・ティース『ダイナミック・ケイパビリティの企業理論』(中央経済社、2019年), p133.

オーディナリー・ケイパビリティとダイナミック・ケイパビリティの相違点注16

注16 D・J・ティース『ダイナミック・ケイパビリティの企業理論』(中央経済社、2019年)図表5-1を一部改変。

コラム:「VUCA(ブーカ)」時代とダイナミック・ケイパビリティ論・・・慶應義塾大学 商学部 菊澤研宗 教授

今日、世界はインターネットで結ばれ、どこかで変化が起こると、瞬時にその変化が広がるVUCA(ブーカ)と呼ばれる不確実な時代である。VUCAとは、Volatility(変動性・不安定さ)、Uncertainty(不確実性・不確定さ)、 Complexity(複雑性)、 Ambiguity(曖昧性・不明確さ)の略語である。

このような不確実な時代に、1)環境変化を感知し(sensing)、2)そこに機会を捕捉し(seizing)、3)既存の資源を再構成して自己変容(transforming)する能力のことを、ダイナミック・ケイパビリティ(企業変革力あるいは変化対応的な自己変革力)と呼び、このような能力が現代企業に求められていると主張したのは、カリフォルニア大学バークレー校教授デイヴィット・J・ティース氏である。

ティース氏によると、企業が保有するケイパビリティ(能力)には、オーディナリーとダイナミックの2種類ある。オーディナリー・ケイパビリティ(通常能力)とは、既存のビジネスモデルのもとにコストを削減して効率性を高める「技能適合力」のことである。一方、その通常能力が生み出す定常状態と環境とが乖離していないかどうかを常に批判的に考察し、環境と現状とを適合させるより高次の能力がダイナミック・ケイパビリティであり、「進化適合力」と呼ばれる。

これら2つの能力の間には階層関係があり、それゆえより低次のオーディナリー・ケイパビリティが存在するからといってより高次のダイナミック・ケイパビリティが存在するとは限らない。しかし、高次のダイナミック・ケイパビリティが存在すれば必然的に低次のオーディナリー・ケイパビリティも存在していることになる。

また、これら2つの能力は「利益」と「付加価値」の違いにも対応する。オーディナリー・ケイパビリティは利益(=売上―費用)を最大化する能力であり、この能力しかもたない企業は、利益を上げるために、コストを下げる必要があり、それゆえ質の悪い安価な部品を外部から購入し、安価な機械を使って減価償却費を減らし、安い賃金で人を雇用するので、企業は劣化していくことになるだろう。

一方、ダイナミック・ケイパビリティは、付加価値を向上するために売上を伸ばす能力である。付加価値は利益とは異なり、今期の売上から外部から調達した部品費を引いて残った額を意味する。それゆえ、付加価値は、人件費+減価償却費+営業利益から構成される。したがって、付加価値を高めるには、より優れた人材を雇い、より良い機械設備を購入し、イノベーションを起こして売上自体を伸ばす必要がある。

さて、これらオーディナリーとダイナミック・ケイパビリティという階層的な2つの能力を通して、企業はどのようにして進化するのか。環境は常に変化しているので、より低次のオーディナリー・ケイパビリティのもとに企業が定常状態を維持すれば、時間とともに環境との間にズレが生じる。ここで、より高次の能力であるダイナミック・ケイパビリティのもとに、そのズレをできるだけ早く感知し、そこに新しい機会を見出し、そして企業全体を再構成して環境とのズレをなくす。こうして、企業は進化し、発展することになる。

さて、いま環境が変化し、オーディナリー・ケイパビリティによって形成された定常状態と環境との間にズレが生まれ、それをダイナミック・ケイパビリティによって感知したとしよう。このズレをなくすために、企業は既存の資源を再構成、再配置、再利用しなければ、多くの利益機会を失うだろう。そこで、この逸失利益(機会費用)を節約するために、ダイナミック・ケイパビリティによって環境とのズレを埋めるように、既存の資源を再構成して自己変容する必要がある。もちろん、このような変容に対して既得権益者による抵抗があるので、変容には多大なコストを伴う。したがって、それ以上のベネフィットを生み出すような資源の再構成、再配置、再利用が求められる。

ここで、ティース氏は、ダイナミック・ケイパビリティによる既存の資源の再構成(オーケストレーション)原理として、「共特化の原理」を主張する。この原理は、企業内の多くの資源はそれぞれ特殊なので、それ自体では十分なメリットは生み出さないが、相互に結合すると化学反応が起こり、大きなメリットを生み出す資源の組合せあるいは結びつきのことである。この意味で、その原理は「補完性の原理」ともいえる。

例えば、神戸製鋼は電気事業法が改正され、電気小売の自由化を感知し、そこに利益を得る機会を捕捉した。神戸製鋼は、従来から製鉄事業で高炉や転炉から発生する副生ガスを活用して自家発電しており、このノウハウを再利用して本格的に発電事業を展開した。まさに、製鉄事業と発電事業との「共特化」を実現したのである。

このような共特化の原理は、他社の資源や技術との組み合わせや結びつきにも成り立つ。例えば、インバウンドの流れに対応して、顧客を外国人に特化し、ビックカメラとユニクロが相互に共特化して「ビックロ」を形成したのは、その例である。

また、近年、企業が単独で利益を出すのではなく、他社を巻き込んで相互にプラスの利益を生み出すビジネス・エコシステム(事業生態系)の形成も注目されている。これも共特化の1つである。かつて、ソニーがプレイステーションを開発してゲーム業界に参入したとき、ソフト会社などのサードパーティや販売店をも取り込み、まさにビジネス・エコシステムを形成して絶対王者だった任天堂に打ち勝ったのは、この例である。

今日、日本政府は、我が国の産業が目指すべきコンセプトとして、人、モノ、技術、組織等が様々につながることによって新たな価値創出を図るコネクテッド・インダストリーズを提唱している。まさに、共特化の原理は、その形成原理の1つといえるだろう。

日本には、このようなダイナミック・ケイパビリティを潜在的に保有している企業が意外に多い。というのも、これまで日米間には絶えず貿易摩擦問題が発生し、その都度、米国から厳しい条件を押しつけられ、その変化に日本企業は絶えず柔軟に対応してきたからである。そして、これを可能にしていたのは、日本企業独自の柔軟な組織構造にある。各職務があいまいで、多能工が多く、そして契約もあいまいだったため、配置転換が比較的容易で、様々な変化に対応しても柔軟に人的資源を再配置できたのである。このように、日本企業は、本来、ダイナミック・ケイパビリティが発揮しやすい体質なのであり、まさにいま再びデジタル化を通してそれを発揮する時期が来ているといえる。

(3)価値創造の原理

ダイナミック・ケイパビリティの中核にあるのは、資産を再構成する企業家的な能力であるが、この再構成の意義を説明するに当たって、ティース氏は「共特化(co-specialisation)」の原理を強調している。

共特化の原理とは、2つ以上の相互補完的なものを組み合わせることによって、新たな価値を創造することである。

共特化の原理は、経済社会の至るところで観察することができる。

例えば、自動車とガソリンスタンドの関係、美術館と館内カフェの関係、コンピュータのオペレーティング・システムとアプリケーションの関係、クレジットカードとそれを利用できる店舗の関係には、共特化の原理が働いている。

近年の例では、吉野彰博士らが開発したリチウムイオン電池は、ラップトップ・コンピュータや携帯電話と組み合わされることで、共特化の原理が働き、社会に大きな変化をもたらす価値を創造した。また、IoTも、IT(情報技術)とOT(制御・運用技術)の共特化の原理が、製造業に大きな変革を引き起こしているといえる。この他にも、近年、めざましい発達を遂げている「プラットフォームビジネス」は、他のプレイヤーが提供する製品・サービス・情報と一緒になって、初めて価値を持つ製品・サービスを提供するようなビジネスのことであり、まさに共特化の原理を巧みに活用したビジネスモデルであるといえる。

共特化の原理を働かせることで、企業は、差別化製品の提供が可能になるだけではなく、費用を節約することができる。共特化の原理が働く資産を識別し、投資する経営者の能力は、企業の競争力にとって決定的に重要である。

ダイナミック・ケイパビリティとは、環境や状況の変化に対応するために、共特化の原理に従って、組織内外の資産を再構成し、新たな価値を創造することともいえる。

この共特化の原理とダイナミック・ケイパビリティの関係を示す事例として、富士フイルムホールディングス(株)が挙げられる。同社は、デジタルカメラの普及という環境変化にさらされていたが、すでに自社で所有していた高度な写真フィルム技術を応用して開発した液晶パネルの生産に欠かせないディスプレイ材料事業に大胆な投資を行った。この事例は、同社が写真フィルムに液晶パネルとの共特化の関係を見いだし、写真フィルム技術という資産を再構成して、ディスプレイ材料事業の拡大を加速するというダイナミック・ケイパビリティを発揮したものと解釈できる。注17

注17 菊澤研宗『成功する日本企業には「共通の本質」があるーダイナミック・ケイパビリティの経営学』(2019年、朝日新聞出版)、第一章

なお、日本政府は、我が国の産業が目指すべき姿(コンセプト)として、人、モノ、技術、組織等が様々につながることにより新たな価値創出を図る“Connected Industries(コネクテッド・インダストリーズ)”のコンセプトを提唱し、世界に向けて発信している。ティース氏の理論に基づけば、この“Connected Industries”の意義は、多様なつながりが生み出す「共特化」の関係から、新たな価値を創出するところにあると言うことができる。

コラム:旭化成(株) 吉野彰名誉フェローインタビュー

2019年12月、リチウムイオン電池の開発に寄与した旭化成(株)の吉野彰氏が、ジョン・B・グッドイナフ氏(米テキサス大学オースティン校)、M・スタンリー・ウッティンガム氏(ニューヨーク州立大学ビンガムトン校)と共にノーベル化学賞を受賞した。

2020年版ものづくり白書刊行に寄せて、吉野氏に現在の製造業における基礎研究の課題や製造業関係者へのエールをうかがった。

インタビューに応じる吉野氏

-企業における基礎研究の在り方について。

「基礎研究といっても、アカデミアの世界と産業界とでは相当中身が違う。例えば、リチウムイオン電池の原点は福井謙一氏によるフロンティア軌道理論(1981年に日本人初のノーベル化学賞を受賞)。同理論による予測に基づき、白川英樹氏(2000年に同賞を受賞)が電気を通す新素材『ポリアセチレン』を開発した。このような、真理を探究する純正基礎研究と、新素材の発見くらいまでがアカデミアの領域。その先の、新素材をどのような製品にしていくかを考える部分が、産業界の基礎研究になる。

真理の探究的な純正基礎研究から、新素材の発見までがアカデミアに期待される役割。そこから先は産業界にバトンタッチされる。」

-企業が研究開発にかけられる時間は短期化しているのではないか。

「商品化までには、①世の中に必要とされる要件を満たす新素材の研究(基礎研究)、②安全性などの問題を解決する開発研究、③マーケットを立ち上げる上で必要な研究の3ステップあり、それぞれに約5年が掛かる。

元々、1つの基礎研究は2年単位で行う。可能性があれば更に2年研究し、基礎技術を固める。産業界では、基礎研究にはそこまでお金はかからないため、基本的には昔から変わっていないが、事業のテリトリーが広がり1つの研究所で全てを扱うことが難しくなったことから、研究機能を分散させている面はあるだろう。」

-AIなどの新技術がものづくりに与える影響について。

「基本的には変わらない。素材分野ではマテリアルズ・インフォマティクスなども進められているが、AIは人間の良いところも、悪いところも継承する。人間の良いところは学習すること、悪いところは学習するのに時間が掛かること。人間以上でも人間以下でもないので、サポーター的に活用すべきだ。過剰な期待をすべきでないし、恐れることもない。AIの登場により、相棒となるツールが増えたと考えるのが良いだろう。」

-中小企業との連携について。

「研究段階でも部品や素材が必要だが町工場に協力してもらう。リチウムイオン電池では特に、治具等の開発で中小企業に協力してもらった。そうすることで、中小企業にも電池を作るのに必要なノウハウが溜まっていく。

研究が進むと、そうして蓄積された技術が製品になっていく。例えば、リチウムイオン電池に欠かせない放電評価装置では、研究用に協力してもらった東洋システム(株)(福島県いわき市)が今や世界を席巻している。電池への巻付けにもきわめて高度な技術が求められるが、研究に協力してくれた(株)皆藤製作所(滋賀県)もまた、世界を席巻している。」

-先が読めない長期的な開発をどうやって進めたのか。

「今のようなモバイルIT社会になることは誰にも分からなかった。当時、リチウムイオン電池の用途は限られていたが、ビデオカメラという市場ニーズはあった。ビデオカメラでもせいぜい100万個程度だったが、某大手川下メーカーが研究段階にもかかわらずリチウムイオン電池を高く評価していたため、何かあるのだろうと感じた。」

-日本の製造業における研究開発の課題は。

「(2019年版の白書で分析していたように)素材や基幹部品のような、いわゆる製造プロセスの『川上』が強い傾向は更に強まっている。川上は模倣に時間が掛かるため、まだ追いつかれていないが、何も手を打たなければ次期商品の開発目標を見失い、川上も衰退していくだろう。

昨今、『川上』と『川下』が直結する方向に動いていると感じる。これまで、川上の素材や部品は川中に評価をゆだねていたが、これからは自分で評価を行わないと、川下とつながることができない。自分が使う立場で評価する能力を持つことが、5年、10年先の新商品開発につながっていく。このような評価能力を持つことは非常に重要で、そのために、赤字でも自社で最終製品を作ることも戦略的に必要。評価能力を持つことで、川下企業がどのような将来像を描いているのか知ることができ、企画力につながる。

IT革命も、インテルとウィンドウズという川上と川下の連携によって生まれたと理解している。日本は川上が強いが、川下との連携によって世界的な企業が生まれれば、世界を席巻できるかもしれない。」

-世代の問題について。最近の若者や研究環境に対してどう感じるか。

「35歳前後の若手研究者が前向きな研究をできているかどうかが鍵。自分がリチウムイオン電池につながる研究をスタートしたのも33歳だが、ノーベル賞受賞者が研究をスタートした平均年齢は36.8歳と言われる。社会のことが分かり、体力があり、まだ再チャレンジの機会がある時期は、人生で35歳前後の1回しかない。それは、ポスドク時代の10年間にあたる。35歳前後で何をするかは個人次第だが、彼らが活き活きしているかどうかが将来の日本の試金石。30代からノーベル賞まで40年掛かる。それくらいの時期にスタートしておかないと間に合わない。」

-ものづくり関係者へのエール。

5年後、10年後必要とされるものに向けて、自分の道を見つけられるかどうか。90年代に起きたIT革命の土俵にいた人が、今成功している。

『イノベーション』は単なる技術革新ではなく、結果的に世界を変えた大きな変革。30年周期でそのような大きな変革が来るので、次は2025年。まさに大阪万博の開かれる頃に、第4次産業革命やSociety 5.0がいよいよ現実のものとして世界に現れるだろう。大事なのは、次のイノベーションの土俵に乗っておくことだ。あとは、そこで勝つか、負けるか。その際、環境問題が大きな鍵になる。第4次産業革命の技術で環境問題は解決する。それをつかんだ人が、勝つだろう。」

(インタビュー実施日:2020年1月23日)

(4)我が国製造業の企業変革力(ダイナミック・ケイパビリティ)

次に、我が国製造業のダイナミック・ケイパビリティについて検討する。

我が国製造業は、2019年版ものづくり白書において明らかにしたとおり、平成の時代を通じて、GDP(国内総生産)構成比のおよそ2割を占め続け、また、製造業の一事業所当たり付加価値額や労働生産性は着実に上昇してきた(図122-1・2・3)。

図122-1 製造業のGDP構成比の変化

資料:内閣府「国民経済計算(GDP統計)」

図122-2 平成以降の製造事業所数と1事業所当たり付加価値額の推移

資料:2011年、2015年は総務省・経済産業省「経済センサス‐活動調査」、他は経済産業省「工業統計調査」

図122-3 製造業、非製造業における労働生産性の推移

資料:国民経済計算

備考:ここでは、労働生産性=GDP/就業者数として計算

我が国製造業は、平成の時代において、バブル崩壊、アジア金融危機、リーマンショック、欧州債務危機、東日本大震災など、様々な不測の事態や環境変化を乗り越え、付加価値額や生産性を高めてきた。このことは、我が国製造業が、環境や状況の変化に対応できる高いダイナミック・ケイパビリティを有している可能性を示唆している。

加えて、主要先進7か国(米国、英国、イタリア、カナダ、ドイツ、フランス、日本)の製造業の労働生産性トレンドを比較すると、日本はより高い上昇率で推移していることから、日本の製造業は、ダイナミック・ケイパビリティのみならず、オーディナリー・ケイパビリティにおいても比較的優れていると考えられる(図122-4)。

図122-4 製造業の実質労働生産性の時系列変化(2010年を1とした時の上昇率)

資料:公益財団法人 日本生産性本部「労働生産性の国際比較」

備考:実質労働生産性は、GDP/就業者数(購買力平価PPP換算)で計算

また、企業は時代の大きな変化に対応できなければ、長期にわたって存続することは難しいことから、より長く存続する企業はより高いダイナミック・ケイパビリティを有していると推測される。加えて、ティース氏は、ダイナミック・ケイパビリティの中核には、企業内部の長年の学習によって構築された模倣困難な文化・遺産があると論じていたが、長期に存続する企業には、その企業固有の文化・遺産がより豊富に蓄積されている可能性がある。実際、図122-5によれば、我が国製造業において、創業10年以上の企業は、10年未満の企業に比べて、「不測の事態に対する柔軟性や俊敏性」をより重視していることがうかがえる。

図122-5 不測の事態に対する柔軟性や俊敏性を重視するか(創業年数別)

資料:三菱UFJリサーチ&コンサルティング(株)「我が国ものづくり産業の課題と対応の方向性に関する調査」(2019年12月)

我が国における創業百年以上の老舗企業において、製造業は全体の4分の1を占めている。このようなことから、我が国製造業にはダイナミック・ケイパビリティが高い企業が比較的多いと考えられる(図122-6)。

図122-6 業種別老舗企業構成比

資料:帝国データバンク『「老舗企業」の実態調査(2019年)』

しかし、1.(2)で論じたように、新型コロナウイルス感染症の感染拡大により、グローバルに発達した我が国製造業のサプライチェーンが不測の事態に対して脆弱である、すなわちサプライチェーンのダイナミック・ケイパビリティに課題があるということを明らかにしている。

次に、我が国製造業企業のダイナミック・ケイパビリティについて、経営形態・組織構造から分析してみよう。

ダイナミック・ケイパビリティは、オーディナリー・ケイパビリティとは異なり、ベストプラクティスのベンチマーク化が困難であるという性質をもつ。このため、ダイナミック・ケイパビリティの高い経営形態・組織構造を特定することは必ずしも容易ではない。ここでは、まず、菊澤研宗・慶應義塾大学商学部教授による研究を参考にしつつ、我が国製造業のケイパビリティについて検証を試みる。

菊澤氏によると、高いオーディナリー・ケイパビリティ(低いダイナミック・ケイパビリティ)は「堅固な組織」であり、逆に高いダイナミック・ケイパビリティ(低いオーディナリー・ケイパビリティ)をもつ組織は「柔軟な組織」である。

オーディナリー・ケイパビリティにおいて優位な「堅固な組織」は、次の特徴を有するとされる。

① 様々な職務権限を各メンバーに帰属させる

② 職務権限内容が明確に規定されている

③ メンバーが特定の職務権限を保有する期間が長い

④ 職務権限の配分が公的に正当化されている(メンバーがもつ公的資格に合わせて組織内の職務権限が配分される)

このような組織では、各職務権限が各メンバーに明確に帰属され、各メンバーが生み出す成果も各メンバーに明確に帰属するので、各メンバーは高い成果を出そうと行動する。このような「堅固な組織」は効率性を追求することができるので、オーディナリー・ケイパビリティは高くなる傾向にある。

しかし、新しい生産システムや新しい生産技術を導入しようとすると、全ての職務体系と権限体系を大幅に変化させ、それを各メンバーに再び明確に帰属させなければならない。その変更のコストがあまりにも高いために、オーディナリー・ケイパビリティに優位のある組織は、大きな変革を避けようとするのである。

一方、ダイナミック・ケイパビリティにおいて優位な「柔軟な組織」は、職務権限に関して、次の特徴を有するとされる。

① 職務権限を職務や地位に帰属させて、そこに人間を割り振る

② 職務権限があいまいに規定されている

③ メンバーが特定の職務権限を保有する期間が短い

④ 職務権限の配分が私的に正当化されている(メンバーがもつ公的資格に合わせて組織内の職務権限が配分されない)

このような組織では、もともと職務権限があいまいなため、組織変革に伴って生じるコストが小さく、新しい生産システムや生産技術を導入しやすい構造となっている。しかし、各職務権限が各メンバーに明確に帰属されておらず、各メンバーが生み出す成果も各メンバーに明確に帰属しないため、能力の低いメンバーが温存されやすいという弱点がある。このため、「柔軟な組織」のオーディナリー・ケイパビリティは、低くなる傾向にある注18

注18 菊澤研宗『成功する日本企業には「共通の本質」がある-ダイナミック・ケイパビリティの経営学』(2019年、朝日新聞出版)、第五章

このように職務権限の在り方を基準にした区分により、我が国製造業の組織の特徴をアンケート形式で調査した結果は、図122-7のとおりである。これによると、我が国製造業のうち、大企業については、オーディナリー・ケイパビリティに優位のある「堅固な組織」の方が多いという結果となった。一方、中小企業については、大企業よりも「堅固な組織」の割合が少なく、特に「職務権限の内容が明確に規定されている」と答えた中小企業は4割以下、「職位につくための資格要件が明確である」と答えた中小企業は3割以下となった。

図122-7 職務権限の在り方について「堅固な組織」寄りであると答えた割合(企業規模別)

資料:三菱UFJリサーチ&コンサルティング(株)「我が国ものづくり産業の課題と対応の方向性に関する調査」(2019年12月)

一般に、経営資源が少ない中小企業の方が、より高い不確実性に直面し、より大きな変動リスクにさらされているといえる。このようなことから、中小企業の方が、職務権限を柔軟に配分できる「柔軟な組織」とすることで、高いダイナミック・ケイパビリティを確保しようとする傾向にあるものと考えられる。

また、ティース氏は、ダイナミック・ケイパビリティには、資産を再構成する企業家的なリーダーシップが重要であると論じているが、オーナー企業については、経営者がリーダーシップを発揮しやすく、迅速な意思決定ができるという優位性があるという調査がある。注19また、図122-8にあるとおり、オーナー企業は、非オーナー企業に比べて、「不測の事態に対する柔軟性や俊敏性」をより重視していることがうかがえる。

注19 みずほ総合研究所『みずほリポート』(2008年2月13日発行) https://www.mizuho-ri.co.jp/publication/research/pdf/report/report08-0213.pdf

図122-8 不測の事態に対する柔軟性や俊敏性を重視する割合(オーナー企業かどうか別)

資料:三菱UFJリサーチ&コンサルティング(株)「我が国ものづくり産業の課題と対応の方向性に関する調査」(2019年12月)

そこで、我が国製造業におけるオーナー企業の割合を創業年数別で見てみると、創業30年以上の企業においては、オーナー企業が過半を占めていることから、オーナー企業は高いダイナミック・ケイパビリティを有する傾向にあると推測することができる。

このように、長期に持続する企業にオーナー企業が多いことは、経営者のリーダーシップがダイナミック・ケイパビリティにおいて重要であることを示唆している(図122-9)。

図122-9 創業年数別オーナー企業の割合

資料:三菱UFJリサーチ&コンサルティング(株)「我が国ものづくり産業の課題と対応の方向性に関する調査」(2019年12月)

なお、我が国製造業において、「不測の事態に対する柔軟性や俊敏性」を重視する企業の8割弱は「平時の際の効率性や生産性」も重視する傾向があるのに対して、「平時の際の効率性や生産性」を重視すると回答した企業のうち、「不測の事態に対する柔軟性や俊敏性」を重視するとの回答は約4割にとどまるという調査結果が得られた(図122-10・11)。

図122-10 不測の事態に対する柔軟性や俊敏性重視のスタンス(縦軸)と平時の際の効率性や生産性重視のスタンス(横軸)の関係

資料:三菱UFJリサーチ&コンサルティング(株)「我が国ものづくり産業の課題と対応の方向性に関する調査」(2019年12月)

図122-11 平時の際の効率性や生産性重視のスタンス(縦軸)と不測の事態に対する柔軟性や俊敏性重視のスタンス(横軸)の関係

資料:三菱UFJリサーチ&コンサルティング(株)「我が国ものづくり産業の課題と対応の方向性に関する調査」(2019年12月)

すなわち、ダイナミック・ケイパビリティを重視する企業は、オーディナリー・ケイパビリティをも重視するのに対して、オーディナリー・ケイパビリティを重視する企業にとってはダイナミック・ケイパビリティへの関心は劣後しやすいようである。

このことから導き出せる経営戦略上の含意としては、製造業は、ダイナミック・ケイパビリティの強化を優先的な目標とすることで、ダイナミック・ケイパビリティとオーディナリー・ケイパビリティの両方の強化を目指すことができるということになろう。

コラム:我が国製造業にみるダイナミック・ケイパビリティ・・・富士フイルムホールディングス(株)、ダイキン工業(株)

富士フイルムホールディングス(株)は事業環境の変化をいち早く察知し、変化することを恐れず、むしろ自ら変化を作り出すことで進化を遂げてきた企業の代表例といえる。特に、2000年以降、急速にデジタル化が進展し、主力ビジネスであった写真フィルム市場が激減するという本業消失の危機に直面したが、驚くことに世界で初めてデジタルカメラを開発したのは同社であり、カニバライゼーション(共食い)を恐れず、既存事業に固執せず新たな市場を開拓してきた。その後も化粧品、医薬品、再生医療などに参入し、ヘルスケアが同社の主力事業となっている。今の若者には写真メーカーではなくヘルスケアカンパニーとしてのイメージが定着するほど大きく事業転換した。例えば、化粧品事業へは自社のコア技術を応用し参入しており、また、医薬品・再生医療事業への参入ではM&Aを積極的に活用している。同社がM&Aを積極的に活用したのは、同社の技術・ノウハウと組み合わせることでシナジーを生み出せる会社や事業を買収することが、新たな価値を持つ製品・サービスをスピーディーに生み出していくことにつながるからだ。ここで、同社の変革の歴史を少し振り返る。

<STEP1 環境の変化に素早く、適切に対応する>

写真フィルムの世界総需要がピークであった2000年、写真フィルムや印画紙などの写真事業は同社の売上の約6割を占め、営業利益の約3分の2を稼ぎ出していた。しかし、デジタル化は驚異的なスピードで進展し、結果的に2010年には写真フィルム市場はピーク時の10分の1以下にまで縮小した。まさに会社存続の危機に直面したといっても過言ではない。この危機を乗り越えるため、写真フィルムの開発・生産で培った技術の棚卸しを実施し、これらを応用できる分野を検討し、厳しい経営環境下でも年間2,000億円規模の研究開発投資を続けた。また、全社横断的な先端研究を進め、新規事業や新製品開発の基盤となるコア技術を開発する「富士フイルム先進研究所」を2006年に設立し、研究開発体制の再構築も進めた。

しかし、同社は将来の市場変化を見据えて、デジタルカメラの研究は銀塩カメラ全盛期の1970年代からすでに着手していたのである。だからこそ、本格的なデジタル時代を迎える1988年に画像のキャプチャーから記録までをフルデジタルで行う世界初のフルデジタルカメラを開発・発表できた。同社は“主力事業が縮小するならば、自らが従来市場を侵食してでも新しい市場を開拓する”という基本的スタンスに立つ。守りの姿勢に入るのではなく、自ら新たな市場を開拓していこうという考え方である。

また、もう1点、この時期の同社の構造改革で特筆すべきは、写真フィルム市場の縮小に合わせて写真事業の生産・販売体制などをスピーディーにダウンサイジングするのと並行して、大きな可能性を秘めていると判断した事業には大胆な投資をしたことである。その1つが、液晶パネルの生産に欠かせないディスプレイ材料事業への投資である。同社は、市場規模が拡大する前から生産拠点を新設するなど、大胆な投資を決断して供給体制を整えた。その結果、その後拡大した需要にも対応することができ、写真フィルム事業の落ち込みをカバーすることができた。

<STEP2 変化を予測し先手を打つ>

その後、成長するバイオ医薬品市場の拡大を見据えて、2011年にバイオCDMO(Contract Development Manufacturing Organization;開発受託及び製造受託を行う組織)企業2社を買収し、バイオCDMOビジネスに本格参入した。バイオCDMO事業では製造プロセスの安定性や設計品質の管理が重要となるが、同社は業界トップレベルの培養技術や先進設備に加え、写真事業で培ってきた高度な生産/解析/エンジニアリング技術を保有し、それらを融合できることに強みを持っている。2019年には米バイオ医薬品大手の製造子会社も買収し、同事業において2021年に売上1,000億円達成を目指している。

<STEP3 自ら変化を作り出す>

同社は、自ら変化を作り出すことにより、産業や社会にポジティブなインパクトを与える企業になることを目指している。それを実現しつつあるのが、AIを活用した医療ITと再生医療である。医療ITでは、同社が70年以上培ってきた最先端の画像処理技術と最新のAI技術を組み合わせることにより、次世代画像診断に向けて新たな価値を創造している。再生医療は2015年から積極的なM&Aなどで本格参入し、現在では再生医療に不可欠な「細胞」「培地」「足場材」の3要素全てをグループ内に保有し、一体開発できる体制を強化している。再生医療の実用化、産業化に向けてグループシナジーを最大限生かすべく取り組んでおり、依然として高いダイナミック・ケイパビリティを発揮し続けている。

図1 「自ら変化を作り出す」進化し続ける企業へ

出所:富士フイルムホールディングス(株)より提供

ダイキン工業(株)は空調機の専用メーカーで、ルームエアコンからビル向けの大型まで幅広く空調事業を手がけ、全世界における100箇所以上の生産拠点を構えている。これだけグローバルに数多くの生産拠点を設置しているのは、市場ニーズがある場所で生産する「市場最寄化生産戦略」を進めているからである。

エアコンは商品特性上、季節や天候、景気等による需要変動が非常に大きい。ルームエアコンの月別生産量の推移をみると、7月がピークで繁閑差は3倍に上る。猛暑になれば受注量が一気に増え、その需要に対して生産が追いつかなければ販売機会を逸することになる。これに対応するために作り置きをする手もあるが、冷夏になるとこの作り置きは逆にリスクになってしまう。その他、競合他社が売れ残った旧モデルをディスカウントして販売した場合も、需要が減って在庫を抱えることになる。このように需給変動が激しい上、住宅事情やライフスタイルといった国・地域ごとの特性も色濃く反映される不確実性の高い事業といえる。

そのため、できるだけ作り置きをせず需要変動に対応できるようなグローバル生産体制を構築するために、同社では20年ほど前から「市場最寄化戦略」を実践している。これは、各市場のニーズを満たした製品を現地で生産して素早く提供するという考え方である。市場に近い場所で生産すれば、リードタイムを短縮することができ、需要変動にも素早く対応しやすくなる。加えて、「現地化」「地産地消」は為替変動リスクに強いというメリットがある。一方、市場最寄化戦略の推進により各地のマーケットニーズに合った商品を素早く作ることができるが、各地が自立していくと全体ではムダが出てくる。また、大きな技術革新は起きにくい。

このような「ローカライズ・個別最適」VS.「グローバライズ・全体最適」のバランスをどうとるのかについて検討した際、導き出した答えの1つが「ベースモデル開発」であった。これは、製品を構成する基本性能と要素部品をまとめた汎用性の高い「ベースモデル」を日本国内で作り、地域のニーズに応じて機能を組み換えて設計するというものである。日本国内で開発した日本国内向けのモデルを各地の生産拠点でアレンジする方式である。日本発の標準モデルをベースに、地域ニーズに応じたアレンジ設計を現地で行うことで、コスト削減に加えて商品開発期間を短縮し、適正価格でニーズに応じた製品を素早く提供できる。現地の開発部隊はマーケティング部隊と相談しながら部品チョイスを行う。その結果、日本と海外で同時に商品開発できるようになった。

次に、市場最寄化戦略を実現するために、生産ラインを構成する要素をモジュール化した。具体的には、生産ラインの機能(工程)を「搬送」(ものを運ぶ機能と組立機能を担う)と「検査」の2つに分け、それぞれの設備モジュールを用意し、レゴブロックのように「搬送モジュール」と「検査モジュール」を組み合わせることで、生産規模等に応じた生産ラインを構築している。生産量の変動や地域ニーズの違いに対応しやすく、工場の立ち上げ・移設が早いというメリットがある。モジュール化することでコストを抑えて安くつくることができ、かつ、素早く生産ラインを立ち上げることが可能となり、いち早く市場へ参入することが可能となる。特に新興国ではブランドの認知を高め、先行者利益を確保するためにもスピーディーな市場参入が重視される。

このように、同社の「市場最寄化生産戦略」は単なる「現地化」や「消費地生産・消費地販売」ではなく、市場の不確実性を乗り越えるダイナミック・ケイパビリティの真髄といえる。

図2 ベースモデル開発がローカライズ化とグローバル化の両立を可能に

出所:ダイキン工業(株)より提供

図3 生産ラインのモジュール化が全世界で安く・速くつくる体制を可能に

出所:ダイキン工業(株)より提供

(5)サプライチェーンの柔軟性と産業の多様性(グローカル)

ティース氏が提唱したダイナミック・ケイパビリティ論は、主に企業経営に関する理論である。しかし、不確実性に対応するための自己変革は、企業経営のみならず、企業間の取引関係や産業構造にも必要であろう。したがって、取引関係や産業構造のダイナミック・ケイパビリティをも高める必要がある。

1.(2)で論じたように、新型コロナウイルス感染症の感染拡大は、我が国製造業のグローバルなサプライチェーンの不確実性に対する脆弱性を浮き彫りにした。言い換えれば、我が国製造業のグローバル・サプライチェーンは、効率性、すなわちオーディナリー・ケイパビリティの観点からは優れているが、他方で、不測の環境変化に対応するダイナミック・ケイパビリティの観点からは難があったといえる。

では、我が国製造業の産業構造のダイナミック・ケイパビリティを高めるには、何が必要になるのか。

サプライチェーンの強化に関しては、PwCが2013年8月(日本語版は2014年12月)に公表した「サプライチェーンとリスクマネジメント」というレポートが参考になる。同レポートは、サプライチェーンの脆弱性を克服するための7つの要素を、以下のとおり特定している。

①リスクガバナンス

リスクマネジメントの体制、プロセス、文化が存在している。

②製品、ネットワーク、プロセス構造の柔軟性と冗長性

サプライチェーンの寸断への備え、変化への適応が可能なバリューチェーン上の柔軟性と冗長性を有している。

③サプライチェーン上のパートナーとの提携

重要な企業活動領域における戦略的提携、新たなパターンの認識とより高い価値の提供に向けた前進がなされている。

④サプライチェーンにおける上流・下流の統合

サプライチェーンにおける上流・下流間での情報共有、可視化、協業を行っている。

⑤社内業務機能の統合

戦略・戦術・業務レベルでバリューチェーンの機能が統合されている。

⑥複雑性のマネジメント

ネットワーク、プロセス、インターフェース、製品構造、製品ポートフォリオ、業務モデルの標準化及び簡素化がなされている。

⑦データ、モデル、分析力

サプライチェーン及びリスクマネジメント機能をサポートするために、知見の蓄積と利用がなされ、分析力がある注20

注20 PwC「サプライチェーンとリスクマネジメント:業務パフォーマンスを強化するリスクマネジメント」https://www.pwc.com/jp/ja/japan-knowledge/archive/assets/pdf/supply-chain-risk-management1412.pdf

以上の7つの要素のうち、特に②の柔軟性等を確保するためには、例えば、生産拠点や調達先の国内回帰を含む多様化やバックアップとしての在庫の確保など、サプライチェーンの再構築が求められるであろう。柔軟性等の確保にはコストがかかるため、短期的な効率性が犠牲になる場合もある。しかし、高い不確実性が常態となった時代には、効率性だけでなく、柔軟性等も考慮に入れて、サプライチェーンを再構築する必要があろう。

また、経済産業省のグローカル成長戦略研究会「グローカル成長戦略―地方の成長なくして、日本の成長なし」(2019年5月)も、産業構造のダイナミック・ケイパビリティを高める上で参考になる。

同レポートは「何が成功するか分からず、成長モデルも1つに定まらない中、特定分野に特化することがリスクともいえる状況下で日本経済が発展し続けるためには、産業の多様化と、スピード感のあるダイナミズムのある経営が不可欠であることを認識せねばならない」とした上で、大都市・大企業への集中ではなく、地方や中小企業を伸ばすことで「日本の産業全体の「多様性」を高め、国としての「リスク分散」をしていくことが重要である」と指摘している注21。このように、地方や中小企業の力を活かして「多様性」を高めるという成長戦略は、産業構造のダイナミック・ケイパビリティを高める上でも重要であると考えられる。

注21 経済産業省 グローカル成長戦略研究会「グローカル成長戦略―地方の成長無くして、日本の成長なし」(2019年5月) https://www.meti.go.jp/press/2019/05/20190515003/20190515003-2.pdf

(6)製造業のデジタル化

一般社団法人電子情報技術産業協会の「2017年国内企業の「IT経営」に関する調査」(2018年1月)によると、我が国企業は米国企業に比べて、「業務効率化 / コスト削減」のための「守りのIT投資」に重点を置いており、ITを活用した新たなビジネスモデルの構築やサービスの開発を行うための「攻めのIT投資」が進んでいない実態が示されている(図122-12)。

図122-12 IT投資における日米比較

資料:一般社団法人電子情報技術産業協会「2017年国内企業の「IT経営」に関する調査」(2018年1月)

また、我が国の製造業企業に対して、IT投資の目的について調査したところ、やはり、業務効率化やコスト削減、あるいは旧来型の基幹系システムの更新や維持を重視していることが明らかとなった(図122-13)。
図122-13 IT投資の目的

資料:三菱UFJリサーチ&コンサルティング(株)「我が国ものづくり産業の課題と対応の方向性に関する調査」(2019年12月)

確かに、デジタル技術が業務効率化・コスト削減に大きな効果を発揮することには、疑いの余地はない。また、設備の安定稼働や品質管理体制の強化、あるいは人手不足問題の克服の上でも、IoT、AIを始めとするデジタル技術は有効である。ただし、業務効率化、コスト削減、安定稼働、品質管理は、与えられた経営資源をより効率的に利用するオーディナリー・ケイパビリティに属するものである。

しかし、デジタル技術が製造業にもたらす恩恵は、オーディナリー・ケイパビリティの強化にとどまるものではない。デジタル技術の活用によって、製造業が環境や状況の変化に対応するダイナミック・ケイパビリティを高めることもできる。

ティース氏は、ダイナミック・ケイパビリティを、「感知」「捕捉」「変容」の三能力に分類したが、デジタル技術は、このいずれの能力をも増幅させる。

例えば、「感知」とは脅威や危機を感知する能力であり、ダイナミック・ケイパビリティの起点となるものである。この「感知」の能力を高める上で、デジタル技術を活用したデータの収集・分析は大きな力を発揮するであろう。また、近年、AIの発達と普及が著しいが、AIは、環境や状況の変化を予測し、不確実性を低減するのに効果的であろう。

「捕捉」、すなわち機会を捉え、既存の資産・知識・技術を再構成する能力を高める上で、リアルタイム・データの収集・分析は非常に強力な武器となる。特に、製造業の製品を通じた顧客へのサービスの提供(「製造業のサービタイゼーション」あるいは「ことづくり」)は、デジタル技術を活用して販売した製品からデータを収集して、顧客にサービスを提供するものであるが、これは顧客ニーズの機会を捉えて、製造業の資産・知識・技術を再構成して顧客体験価値を創造している。また、製造業のデジタル化により実現する変種変量生産やマスカスタマイゼーションは、顧客の特殊かつ少量のニーズの機会を逃さず捕捉することを可能にする。

「変容」は、競争力を持続的なものにするために、組織全体を刷新し、変容する能力であるが、デジタル技術による「変容」こそが、いわゆる「デジタルトランスフォーメーション」であるといえる。これについては、第3節において、改めて議論する。

このように、デジタル技術は、製造業のオーディナリー・ケイパビリティのみならず、ダイナミック・ケイパビリティをも高める上で、大きな可能性を秘めている。にもかかわらず、我が国の製造業企業の多くは、IT投資の主な目的は業務効率化やコスト削減や旧来型の基幹系システムの更新や維持にあるとみなしており、ダイナミック・ケイパビリティの強化のためにデジタル技術を十分に活用しているとは言い難い。しかし、デジタル技術の活用によりダイナミック・ケイパビリティを高めることができれば、不確実性の高い世界においても、競争力を維持し、場合によっては強化することすら可能になる。

したがって、デジタル技術を徹底的に利活用することにより、オーディナリー・ケイパビリティのみならず、ダイナミック・ケイパビリティを強化することこそ、不確実性の高い世界における我が国製造業のとるべき戦略であるといえる。

コラム:熊本地震を教訓にIoTを活用したMES構築による変種変量生産体制の確立・・・金剛(株)

金剛(株)(熊本県熊本市)は2016年に発生した熊本地震で工場が被災し、また、生産年齢人口の減少により人手不足はますます深刻化するとみられることから、2018年に新工場を新設した際には「自然災害」や「生産年齢人口の減少」という社会的課題に対応しつつ、人手に依存しない柔軟で安定した高効率な「変種変量生産体制」を構築することを目指した。具体的には、新工場建設を機に30%の生産性向上を目標に、工場IoT化としての金剛独自のMES(Manufacturing Execution System;製造実行システム)の自社開発、ロボット化に対応した生産設備と3DCAD/CAMシステムの設計に着手した。

従来の板金系の工場には多くの課題がありMESが普及しにくい素地があった。しかし、IoTやAIなどの最新の技術の普及により工場をとりまく環境は大きく変化しており、新工場は「MESを中心とした工場システム」とすべく様々な見直しに着手した。

図1 2018年に新設した新工場へ導入した省人化対応設備

出所:金剛(株)より提供

まず、変種変量体制に対応した柔軟な工場システムとするため、工場システムの中心に、生産管理、生産設備、及び3DCAD/CAMや可視化システムとのインターフェースをつかさどるMESを設け、各システムや設備間のデータを垂直横断的にクロス連携させた。また、MESは「UpperMES」と「LowerMES」に大きく機能を2分化し、お互いが協調しながら生産を実行し、生産実績のフィードバックも行う構成とした。UpperMESは、AP(アプリケーション)機能とDB(データベース)機能を保有し、主に生産管理システム、3DCAD/CAM、LowerMESと連携し、生産管理システムから取得した生産指示IDを生産設備へ伝達する重要な機能を有している。LowerMESは、PCやPLCで構成され、主にUpperMES、CAM、生産設備と連携し、UpperMESやCAMから取得した生産指示IDが付加された生産指示を生産設備へ伝達する重要な機能を有している。

「MESを中心とした工場システム」を稼働させたことで、省人化を行いながら生産性も向上する生産体制の構築が可能になった。また、すでに生産実績がデータとして蓄積されているため、データを活用していつでも改善活動が行える状態になった。今後は営業や施工などの工場外とのデータ連携や情報共有等も行い、MES導入の波及効果を高めていく。

なお、同社のこの一連の取組は中小企業のIoT化のモデル工場として高く評価され、第8回ものづくり日本大賞の「Connected Industries–優れた連携部門」において経済産業大臣賞を受賞している。

図2 MES開発の概要

出所:金剛(株)より提供

図3 設備・人・システムなどの連携

出所:金剛(株)より提供

コラム:CPSによる可視化とあえて人による柔軟性の確保で超変種変量生産を実現・・・富士通テレコムネットワークス(株)

富士通テレコムネットワークス(株)(FTN)は、富士通グループが開発したネットワークインフラ装置の試作から量産製造を担う製造子会社であり、主な拠点を富士通(株)小山工場内に置く。

FTNは、最新機種から開発後10年以上経過した製品及び高機能から単機能製品などあらゆるネットワークレイヤをカバーする製品を製造している。その生産の特徴は、変種変量で生産品種のほとんどが繰り返し生産することなく、毎週造り続けられる製品は全体の10%以下であり生産量の月ごとの変動も3倍以上と大きい。今後、5G、ローカル5Gの普及は「もの」「サービス」の同時要求を加速させ需要予測が困難となり生産環境が大きく変わると考え環境変化をチャンスと捉え超変種変量生産力強化に取り組んでいる。

FTNが取り組んでいる「ヒューマンセントリック スマートものづくり」は、IoT活用で仮想と実工場がリアルタイムに再現・最適化するCPS(Cyber Physical System)を基盤とし、そのうえで人の柔軟性を最大化させるため「人・設備・AIをインテグレーション」させるものである。あえて、人を「要」とした背景には、ライフサイクルが長い製品において標準・共通化が時代と共に変化し自動化が困難な環境下を高い正社員比率の熟練・多能工作業者とデジタル技術融合でものづくりを進化し続けることにある。

図1 CPSを核としたスマートものづくりの実践ライン

出所:富士通テレコムネットワークス(株)より提供

FTNのCPSは「可視化」「最適化」「実行」を常に全体ループさせ続けることとどのように最適な解を導き出したかを「ブラックボックス化」させないことにあり、人を中心としたものづくりでは「可視化=ホワイトボックス化」が重要で人(実空間)を中心としたCPSプロセスである。

また、「最適化」には、変化が発生する度に繰り返される事前最適化と、製造中の変化をリアルタイムにフィードバックし最適化させる個別ループがある。さらに、データ活用事例として「過去」「現在」のデータを駆使し「未来」を予測する独自生産手法開発で非連続的な高い効果を実現している。

図2 サイバーフィジカルシステム(CPS)

出所:富士通テレコムネットワークス(株)より提供

図3 データ活用で独自生産方式を確立「ちょっと先の未来が見えるスマートものづくり」

出所:富士通テレコムネットワークス(株)より提供

継続的発展に向け、ものづくりの源泉と位置付ける「人」の成長や人に優しいものづくり・高齢化対策にも取り組んでいる。例えば、人の動作を映像分析し熟練作業者の作業のデジタル化で本人も気付かない・表現できないノウハウ的技能を可視化させ「人の成長促進(技能継承)」「汎用ロボットの匠化(リソース不足対応)」「人に優しいものづくり手法確立」などに派生しつつある。ものづくり力強化と同時に工場のアウトプットを「もの」だけではなく「人から出てくる価値」を新たな付加価値(価値創造)に発展させるため、あえて「人を要」とする生産に拘っており、進化がものづくり起点のDXに繋がっていく。

図4 ものづくりに関するデータを集約・可視化するダッシュボード

出所:富士通テレコムネットワークス(株)より提供

コラム:事業環境変化に柔軟に対応可能な1/N設備化による同期一貫生産ラインの構築・・・(株)デンソー

(株)デンソーは創業以来一貫して生産システムの合理化に取り組んできた。単一工程の合理化から製品単位→工場単位→グローバル単位へと合理化を進化させ、結果として「ダントツ工場づくり」を目指している。そして、ダントツ工場を実現するFactory。IoTとして、①開発から量産までのエンジニアリングチェーン、②取引先を含むサプライチェーン、そして③工場内のファクトリーチェーンという3つのチェーンの改善に取り組んでおり、工場内のファクトリーチェーン改善の要となっているのが生産ラインのコンパクト化を目指す「1/N設備化」である。

図1 コスト競争力のあるダントツ工場を支えるシンプル設備(1/N設備)

出所:(株)デンソーより提供

同社も従来は大ロットを高速加工する大量生産により競争力を維持してきたが、リーマンショック時のように稼働率が大幅に低下すると設備の償却負担が重くのしかかる。また、世の中の需要も変化して多品種少量生産化が進み、大量生産でまとめてつくる方式ではムダが増えるようになった。各加工機の能力差により工程間で発生する中間在庫を減らし、工場間での部材の運搬等のムダも減らし、ICTも活用して工程全体で最適工程設計をする同期一貫生産ラインを構築するためには、大規模設備からロットサイズやサイクルタイムに合わせて最適な生産量を実現できるコンパクトな設備に置き換えていく必要がある。それを実現するための加工機を“1/N加工機”と名づけ、従来比何%ではなく、Nを整数に置き換え、2分の1、5分の1、10分の1といった高い目標を掲げて、世界で戦える独自のコンパクトな加工設備の開発に取り組んできた。

例えばダイカストマシンは製品内部に発生する鋳巣をつぶすために高い圧力をかける必要があり、高出力、高剛性の大型設備になりやすい。従来の大型油圧ダイカストマシンは高さ4メートル、幅が7メートルもあったが、同社の1/N設備化により、高さ1.8メートル、幅が4.7メートルのコンパクトな電動マシンへと生まれ変わらせた。このようにダイカストや切削などの設備のサイズをN分の1に小さくすることで、生産能力を縮小して揃え、段取り時間も短縮することによって同期させていく。この取組は国内のみならず、グローバルに展開させつつある。

「現場こそが価値創造の主役」と考える同社の強みは、生産技術と現場力(人)の融合であり、それが驚異的な1/N設備化を可能とし、結果として事業環境変化に柔軟に対応できるものづくり力につながっている。

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