経済産業省
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第1部 ものづくり基盤技術の現状と課題
第2章 ものづくり人材の確保と育成
第1節 デジタル技術の進展とものづくり人材育成の方向性

3.ものづくり現場におけるデジタル技術の活用と人材育成

これまで、ものづくり企業においては、生産工程全般に精通した多能工などの人材の確保と育成が、最も重要な経営課題となっていることを確認してきた。このような中で生産性の高い現場を構築するためには、「デジタルツールなどの利活用」が鍵を握ると考えられる。今日、高度で高価なツールだけでなく、汎用性が高く、扱いやすい安価なツールも数多く存在しており、そうしたツールを積極的に活用することが期待される。

(1)デジタル技術の活用の状況とものづくり現場への影響

まず、ものづくりの工程・活動におけるデジタル技術の活用状況を確認する。「すでに活用している」と回答した企業は49.3%であり、「未活用」と回答した企業は46.4%であった。デジタル技術を活用している企業割合を規模別にみると、中小企業では48.5%、大企業では60.8%となっており、大企業の方がデジタル技術を活用している割合が高い(図231-1)。

図231-1 ものづくりの工程・活動におけるデジタル技術の活用状況

資料:JILPT「デジタル技術の進展に対応したものづくり人材の確保・育成に関する調査」

さらに、企業規模別に、ものづくりのどの工程においてデジタル技術が活用されているかを確認すると、大企業では「製造」(35.1%)、「生産管理」(31.3%)、「受・発注管理」(30.6%)、「開発・設計」(27.5%)の順に高く、中小企業では「受・発注管理」(27.0%)、「生産管理」(24.0%)、「取引先とのネットワーク化」(22.2%)、「製造」(21.6%)となっており、企業規模による取組の差は「製造」が13.5ポイント、「設備間のネットワーク化」が13.1ポイント、それぞれ大企業の方が高い。また、業種別では、いずれの業種においてもデジタル技術を活用している企業割合は5割程度となっており、大きな差はみられない(図231-2)(図231-3)。

図231-2 ものづくりの工程・活動におけるデジタル技術の活用状況(企業規模別、工程・活動別)

資料:JILPT「デジタル技術の進展に対応したものづくり人材の確保・育成に関する調査」

図231-3 ものづくりの工程・活動におけるデジタル技術の活用状況(業種別)

資料:JILPT「デジタル技術の進展に対応したものづくり人材の確保・育成に関する調査」

デジタル技術の活用理由を問うと、「人の作業負担の軽減」(58.8%)が最も高く、次いで「生産態勢の安定」(52.1%)、「労働時間の短縮」(46.5%)と続いている(図231-4)。

図231-4 デジタル技術の活用理由(複数回答)

資料:JILPT「デジタル技術の進展に対応したものづくり人材の確保・育成に関する調査」

デジタル技術を活用したことによる、ものづくり人材の配置や異動における変化については、「そのままの人員配置で、業務効率が上がったり、成果が拡大した」(47.9%)と回答した企業が47.9%と最も高く、次に続く「影響は特になかった」(26.2%)、「既存の分野・製品に人員を振り向けることができた」(14.5%)を大きく上回っている(図231-6)。

図231-6 デジタル技術を活用したことによるものづくり人材の配置や異動における変化(複数回答)

資料:JILPT「デジタル技術の進展に対応したものづくり人材の確保・育成に関する調査」

デジタル技術の活用と労働生産性の関係をみると、自社の労働生産性が3年前と比較して「向上した」と回答した企業の割合は、デジタル技術活用企業(56.8%)が、デジタル技術未活用企業(42.2%)を14.6ポイント上回っている。一方、自社の労働生産性が3年前と比較して「変わらない」、「低下した」と回答企業した企業はデジタル技術未活用企業が、デジタル技術活用企業を上回る(図231-7)。

図231-7 デジタル技術の活用と3年前と比較した自社の労働生産性

資料:JILPT「デジタル技術の進展に対応したものづくり人材の確保・育成に関する調査」

また、デジタル技術の活用と人材の定着状況をみると、ものづくり人材の定着状況が「よい」と回答した企業は、デジタル技術を活用している企業(41.4%)が、デジタル未活用企業(31.8%)を9.6ポイント上回っている。「同じ程度」「悪い」と回答した企業は、デジタル技術未活用企業がデジタル技術活用企業を上回っている(図231-8)。

図231-8 デジタル技術の活用と人材の定着状況

資料:JILPT「デジタル技術の進展に対応したものづくり人材の確保・育成に関する調査」

(2)デジタル技術の活用において先導的な役割を果たす人材

デジタル技術の活用を進めるに当たり、先導的な役割を果たした社員について、企業規模別にみると、「経営トップ」と回答した企業は大企業28.5%、中小企業41.4%となっており、企業規模に関わらず最も回答が多い。大企業では、「工場長やデジタル技術を利用・活用した部門のトップ」(21.9%)、「デジタル技術を利用・活用した部門のリーダー社員」(21.9%)と続き、回答に大きな偏りはみられないが、中小企業では、「工場長やデジタル技術を利用・活用した部門のトップ」(15.2%)、「社内で特にデジタル技術に精通した社員」(14.8%)と続き、回答が「経営トップ」に大きく偏っていることが分かる(図232-1)。

図232-1 デジタル技術の活用を進めるに当たって、先導的な役割を果たした社員

資料:JILPT「デジタル技術の進展に対応したものづくり人材の確保・育成に関する調査」

注:「無回答」は表示していない

今後のデジタル技術の活用を進めるにあたって、先導的な役割を果たすことができる人材に必要なことを問うと、「自社が保有する技術や製品について熟知している」(60.7%)が最も高いが、次いで「自社が保有する設備・装置について熟知している」(52.2%)、「新しいことについて積極的に情報収集・学習する姿勢をもつ」(49.6%)など、多くの項目が4割を超えており、デジタル技術の活用においては、会社を取り巻く環境に関する幅広い知識と、挑戦する姿勢や、想像力が求められる様子がうかがえる(図232-2)。

図232-2 デジタル技術活用を進める上で、先導的な役割を果たすことができる人材に必要なこと

資料:JILPT「デジタル技術の進展に対応したものづくり人材の確保・育成に関する調査」

(3)デジタル技術を活用する企業の取組の現状と課題

デジタル技術を活用する初動のキーパーソンは「経営トップ」であることを確認したが、デジタル技術は導入することは目的でない。ものづくり現場において、導入されたデジタル技術を活用し、ものづくりの「現場力」を高めることで、作業負担が軽減され、労働環境改善や、生産効率の向上に繋がる。

ここからは、デジタル技術を「活用している」と回答した企業群(以下「デジタル技術を活用している企業」という。)と、「活用を検討中」、「活用していないし、活用する予定もない」「該当する工程・活動がない」と回答した企業群(以下「デジタル技術未活用企業」という。)に分けて、ものづくり企業のデジタル技術を活用するための取組や、ものづくり人材に求められる技能、人材確保について、すでにデジタル技術を活用しているものづくり企業には、どのような傾向がみられるのか分析を行う。

デジタル技術の活用を進めていくにあたって、デジタル技術を活用している企業が現在行っている取組では、「会社が必要とするデジタル技術活用の要件の明確化」(29.8%)、「社員のデジタル技術活用促進に向けた意識改革」(29.2%)、「会社の指示による社外機関での研修・講習会への参加」(24.5%)と回答した企業割合が順に高い。対してデジタル技術未活用企業では、「行っている取り組みは特にない」と回答した企業が21.0%と最も高い(図233-1)。

図233-1 デジタル技術の活用を進めていくにあたって現在行われている取組

資料:JILPT「デジタル技術の進展に対応したものづくり人材の確保・育成に関する調査」

今後のデジタル技術の活用を担う人材確保の方法について、デジタル技術を活用している企業は、「自社の既存の人材をOJT(職場での仕事を通じた教育訓練)で育成する」(57.0%)、「自社の既存の人材をOFF-JT(外部セミナー・講習等への参加など職場を離れた教育訓練)で育成する」(51.5%)、「ICTなどに精通した人材を中途採用する」(28.3%)の順に回答した企業割合が高く、デジタル技術未活用企業では、「自社の既存の人材をOFF-JT(外部セミナー・講習等への参加など職場を離れた教育訓練)で育成する」(39.5%)、「自社の既存の人材をOJT(職場での仕事を通じた教育訓練)で育成する」(29.7%)、「ICTなどに精通した人材を中途採用する」(23.9%)の順に回答した企業割合が高く、デジタル技術を活用している企業、未活用企業ともにOJTやOFF-JTを活用し、自社でデジタル技術を活用できるものづくり人材を育成しようとする傾向がみられる(図233-2)。

図233-2 デジタル技術の活用を担う人材確保の方法

資料:JILPT「デジタル技術の進展に対応したものづくり人材の確保・育成に関する調査」

また、デジタル技術を活用していく上で課題となる点について問うと、デジタル技術を活用している企業、未活用企業ともに、「デジタル技術導入にかかるノウハウの不足」と回答した企業割合が最も高く、次いで「デジタル技術の活用にあたって先導的役割を果たすことのできる人材の不足」、「デジタル技術導入にかかる予算の不足」と回答した企業割合が高い。一方、デジタル技術を活用している企業、未活用企業の「差」に着目すると、デジタル技術未活用企業は、デジタル技術を活用している企業に比べて、「デジタル技術導入の効果がわからない」が12.6ポイント、「経営ビジョンや戦略がない」が5.4ポイント高く、「デジタル技術の活用にあたって先導的役割を果たすことのできる人材の不足」は8ポイント低い(図233-3)。

図233-3 デジタル技術を活用していく上で課題となる点

資料:JILPT「デジタル技術の進展に対応したものづくり人材の確保・育成に関する調査」

図221-8で示した「主力製品の製造に当たって重要となる作業と5年後の見通し」について、デジタル技術を活用している企業の回答割合をみても、「今まで通り熟練技能が必要」と回答している企業が全ての製造工程において最も高い(図233-4)。

図233-4 デジタル技術を活用している企業の主力製品の製造に当たって重要となる作業と5年後の見通し

資料:JILPT「デジタル技術の進展に対応したものづくり人材の確保・育成に関する調査」

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