経済産業省
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第1部 ものづくり基盤技術の現状と課題
第2章 ものづくり人材の確保と育成
第2節 ものづくり産業における人材育成の取組について

1.より効果的なものづくり訓練の実施に向けて

国、都道府県等は、職業能力開発促進法に基づき、労働者が段階的かつ体系的に職業に必要な技能及びこれに関する知識を習得するため、公共職業能力開発施設を設置し、①離職者訓練、②在職者訓練、③学卒者訓練を実施している注3

注3 このほか、離職者向けの訓練として、主に雇用保険を受給できない方を対象とした求職者支援制度を実施している。訓練科目はサービス分野が中心となっている。

①離職者訓練(施設内訓練・委託訓練)

離職者を対象に、職業に必要な技能及び知識を習得させることによって再就職を容易にするための職業訓練

②在職者訓練

在職中の労働者を対象に、技術革新や産業構造の変化等に対応する高度な技能及び知識を習得させるための職業訓練

③学卒者訓練

高等学校卒業者等を対象に、職業に必要な技能及び知識を比較的長期間かけて習得させるための職業訓練

 国による職業訓練は、(独)高齢・障害・求職者雇用支援機構(以下「機構」という。)の職業能力開発促進センター(以下「ポリテクセンター」という。)及び職業能力開発大学校・短期大学校(以下「ポリテクカレッジ」という。)が、都道府県による職業訓練は、各都道府県の職業能力開発校・短期大学校がそれぞれ主となって、産業界や地域のニーズを踏まえて実施している注4注5。特に機構においては、訓練ニーズが高い一方、訓練を実施している民間教育訓練機関がほとんど存在しないものづくり分野を中心に訓練を実施している。ものづくりの現場における製品の品質や機器の高度化、新技術、納期の短縮等に加え、設備や品質の不具合、トラブルの発生、効率的な生産ラインの構築等に対応できる能力を身につけることのできる訓練を実施するとともに、訓練分野の不断の見直しを行っている。

注4 2018年度においては、離職者訓練は、約10.6万人(国:約2.6万人、都道府県:約8万人)(うち施設内訓練は、約3.3万人(国:約2.6万人、都道府県:約0.7万人))、在職者訓練は、約12万人(国:約7万人、都道府県:約5万人)、学卒者訓練は、約1.7万人(国:約0.6万人、都道府県:約1.1万人)が受講した。

注5 国においては、高度で専門的かつ応用的な訓練、都道府県においては、基礎的な訓練や地域産業の人材ニーズに対応した訓練を実施することで、適切に役割分担を図っている。

公的職業訓練の認知度を上げ、真に必要としている方に利用していただくため、2016年11月に「ハロートレーニング~急がば学べ~」という愛称・キャッチフレーズを作り、2017年10月にロゴマークを策定した。

今後は、本愛称・キャッチフレーズ及び本ロゴマークのキャラクター(愛称「ハロトレくん」)を活用し、キャリアアップや安定的な就職を目指す多くの方々にとって、公的職業訓練が職業スキルや知識を習得するための有効なツールであることの理解と、制度の活用促進に引き続き取り組むこととしている。

また、2018年9月にはハロートレーニングを始めとした人材開発施策全体の認知度及び関心度向上のための広報活動に協力する「ハロートレーニングアンバサダー」を任命し、人材開発施策全体のさらなる利用促進を図ることとしている。

(1)訓練ニーズを踏まえたものづくり訓練の実施

ポリテクセンター及びポリテクカレッジにおける職業訓練は、全国レベルで訓練水準の維持・向上を図るとともに、各地域の訓練ニーズに応じた訓練となるよう、地域ごとに訓練内容をアレンジして実施している。また、在職者訓練については、あらかじめ設定された訓練コースに加え、各企業の人材育成ニーズに即して設定するオーダーメイド型注6の訓練も実施している。

注6 企業から「自社の課題や目的にあった研修を実施したい」、「公開されている訓練コースでは日程の都合が合わない」、といった要望があった場合に、個別に訓練コースを設定し、実施している。

さらに、全国的な雇用情勢の改善や労働需要の高まりなどに伴い、一層の人手不足が懸念されるところであり、地方創生の観点からも、それぞれの地域の特性を踏まえた人材の確保・育成対策の強化が必要になっている。このため、2015年度に、人手不足分野を抱えている地域において、従来の公的職業訓練の枠組みでは対応できない、地域の創意工夫を活かした人材育成の取組を支援するため、「地域創生人材育成事業」を創設した。この事業は、都道府県から提案を受けた事業計画の中から効果が高いと見込まれる取組を企画競争で選定し、年間3億円を上限に最大3年間、新たな人材育成プログラムの開発を都道府県に委託して行うものである。2019年度までに、32の道府県において地域の実情に応じた事業が実施された。

加えて、各都道府県においては、都道府県労働局の参集の下、労使団体、機構、都道府県、民間教育訓練関係団体等により構成される地域訓練協議会を開催し、求職者支援訓練に係る職業訓練実施計画を策定している。さらに地域全体の人づくりの視点で効果的な職業訓練を推進するため、2014年度から、都道府県と都道府県労働局が職業訓練も含めた包括的な協定を締結することや地域訓練協議会を活用すること等により、関係者のニーズを踏まえた公共職業訓練と求職者支援訓練の一体的な計画の策定を推進することとしている。

また、職業能力開発総合大学校では、第4次産業革命の進展による中小企業の人材ニーズ、人材育成ニーズ及び仕事の変化等を捉え、また、技術動向を整理することにより、第4次産業革命に対応して中小企業の求める人材の顕在化を図り、それを踏まえて、離職者訓練、在職者訓練、高度技能者養成訓練にどのような訓練内容が求められているかを明確化し、指導技法、教材作成等の考察と共に訓練の実施に繋げ、職業訓練の質のさらなる向上と、量の拡大を図ることを目的とした、「第4次産業革命に対応した職業訓練のあり方研究会」を2018年に立ち上げ、検討を行った。

コラム:第4次産業革命に伴う職業訓練の変化と役割・・・職業能力開発総合大学校 能力開発応用系 原 圭吾 教授

第4次産業革命の進展に伴い、特にものづくり分野の職業訓練においては、技術革新へ対応できる技術者の育成が重要となってきた。そこで職業能力開発総合大学校では、平成30年度に「第4次産業革命に対応した職業訓練のあり方研究会」を立ち上げ、今後必要とされる新たな職業訓練等について検討を行った。

調査研究の手順と内容

研究会ではまず、文献調査や企業等のヒアリングから人材ニーズ、人材育成ニーズを整理し、第4次産業革命に対応してヒトが担うべき仕事を求めた。例えば、勘コツを含んだ複雑な作業手順や加工条件を標準化する仕事などである。次に第4次産業革命のキーテクノロジーを求め、これらをもとに育成すべき技術者像を製造業、建設業、情報通信業、ものづくり基盤の4つに分類して定義した。製造業では、生産システム設計分野において、サプライチェーンをモノと情報の流れを考慮して最適設計できる技術者等、建設業では、設計・開発分野において、BIMを活用できる人材等が定義された。これら技術者像(仕上がり像)をもとに、第4次産業革命に対応した職業訓練の方向性と、職業訓練指導員(テクノインストラクター)に必要な能力、今後の展開等について検討を行った。以下、検討結果の一部を紹介する。

第4次産業革命に対応した職業訓練の枠組み

研究会で整理された技術者像の傾向から、第4次産業革命のキーテクノロジーを中核におき、図1に示す3つの枠組みで、ものづくり分野における第4次産業革命に対応した職業訓練のあり方を整理した。

また、新たな職業訓練の方向性として次の5項目について取り組む必要があると提案された。

① 受動的知識・技能習得型訓練から課題解決型訓練への転換をはかる。

② 各分野の訓練にIoT技術等のデジタル技術に関する内容を追加する。

③ 多能工化や複合技術に対応するため複合的な訓練内容を追加する。

④ ARやVR技術の活用による習得度、理解度の向上と習得期間短縮による訓練のスピード化、実物を取り扱わない実験や実習の導入を進める。

⑤ AI等を活用した学習管理システム導入による訓練品質の向上に取り組む。

職業訓練指導員(テクノインストラクター)に必要となる能力と今後の展開

実際に第4次産業革命に対応した新たな職業訓練を実施するためには、訓練を担当できる職業訓練指導員の育成が重要となる。研究会では、各指導員が現在有している専門性に限らず、IoTなどデジタル技術を使ったデータ収集に関する知識、技能・技術、さらに収集すべき有効なデータを判断し、分析するために必要な知識、技能・技術を習得することが必要であると整理した。その上で、各専門分野で必要となる新たな技能・技術を習得していくことにより、第4次産業革命に対応した職業訓練が実施できるとまとめている。このイメージを図2に示す。

今後は、研究会の結果を踏まえ、新たな訓練カリキュラムを開発することと併せて、指導員の研修体制や研修カリキュラムの開発なども進める必要があることから、令和元年度からは、「第4次産業革命に対応した職業訓練指導員の育成等に関する研究会」を起ち上げ、指導員の育成や新たな訓練方法の検討を行っている。

平成30年度研究会の検討結果は、以下の職業能力開発総合大学校基盤整備センターホームページからダウンロードが可能である。 (http://www.tetras.uitec.jeed.or.jp/research/detail?id=1057

(2)ものづくりの現場に求められる能力を身につけることのできる職業訓練の実施

国は、全国ネットワークによるスケールメリットをいかしたカリキュラムの作成、生産現場のリーダーを育成する「事業主推薦制度注7」の実施、全国の公共職業能力開発施設等において職業訓練の指導を担う職業訓練指導員(「テクノインストラクター注8)の養成により、全国規模でものづくり現場の動きを踏まえた訓練水準の維持・向上を図り、企業において真に必要とされる人材を育成するための取組を実施している。

注7 ポリテクカレッジの専門課程・応用課程(各2年間)で企業推薦の受け入れを行うもの。

注8 指導員の認知度向上を図るとともに、国として周知・広報活動に活用することにより、指導員となり得る人材・候補者を発掘し、今後の指導員の継続的かつ安定的な確保に資することを目的として、2017年11月24日に決定した指導員の愛称である。

カリキュラムの作成については、成長が見込まれる分野における訓練カリキュラム開発も行っており、例えば、生産現場においてロボット技術を活用した生産システムの構築・運用管理等ができる人材を育成する「生産ロボットシステムコース」のカリキュラムを開発し、それに基づいた職業訓練をポリテクカレッジで実施している。

また、地域のものづくり企業における生産現場のリーダーを育成するため、ポリテクカレッジにおいて、事業主が雇用する従業員を推薦する入校試験制度を設け、ポリテクカレッジの高度なものづくり人材を育成する教育訓練により、中小企業等の人材育成の支援を行う「事業主推薦制度」を実施している。

テクノインストラクターの養成については、機構の職業能力開発総合大学校において、テクノインストラクターとしての就業を希望する者に対する指導員養成訓練、及び在職のテクノインストラクターに対する指導員技能向上訓練(スキルアップ訓練)を実施している。

指導員技能向上訓練では、技術革新等に対応するための先端技術・専門性拡大の研修や、指導力向上のための指導技法・教材開発等の研修を実施している。また、職業能力開発総合大学校の講師が各地域に出向いて訓練を実施するなど、全国のテクノインストラクターが受講しやすい環境整備を図っている。

コラム:ポリテクカレッジにおける現場リーダーの育成・・・(株)SCREEN GPサービス東日本

(株)SCREEN GPサービス東日本は、世界有数の印刷機器メーカーである(株)SCREENグラフィックソリューションズのグループ会社であり、その印刷機器事業において、印刷機械の安定稼働を支える「保守サービス」と、印刷品質向上のための「テクニカルサポート」を提供している技術サービス会社である。

関東ポリテクカレッジの応用課程(生産電気システム技術科)の修了生である國見さんは、同社で次世代のリーダーとして活躍している。

写真1:國見さん

写真2:國見さんの作業風景

ポリテクカレッジの応用課程では、製品の企画開発など「ものづくり」の総合的な実習課題の設定により、生産現場に密着した課題を自ら解決するプロセスを体験する。さらに、専門分野をまたいだワーキンググループ実習により、創造的・実践的ものづくり能力や他分野との複合技術を習得することで、実践的なものづくり能力を身に着けた人材を輩出している。

これらの教育訓練方式が、生産技術・生産管理部門の将来のリーダーとなる人材の早期育成に大いに役立っている。

応用課程では、卒業研究に相当する実習として、製品の企画から仕様の決定、設計、製作、組立及び制御までの一貫した生産工程をグループで取り組む「開発課題」がある。國見さんは、この開発課題において近隣企業からの依頼に取り組んだことを振り返り、「現在、営業技術部に所属しており、印刷用はんこ(刷版)のレーザー露光装置の修理および定期点検の業務を行っている。開発課題では、製作する装置をメンバーで話し合い、自分たちで考え試行錯誤しながら完成を目指すことで、考える力などを養うことができた。この経験は現在のメンテナンスの業務等に役立っている。」と、生産現場に密着した実習課題での経験が、自身の業務へのスムーズな適応につながったことを語っている。

取材当時の國見さんの上司である、同社の営業技術部佐藤係長は、國見さんについて「主にCTP(プレートレコーダ)のメンテナンスが担当であるが、最近ではその周辺装置や全く別分野の機種も担当してもらっている。新しい機械に抵抗なく取り組めるのは機械・電気の両方の基礎知識を持っているためではないかと思う。上司や周囲とよくコミュニケーションを取り、情報の収集・共有に努めており、仕事に対する姿勢もとても良いと評価している。今後もこの姿勢を継続し、新人社員の手本となる事を期待している。」と話している。

(3)産業界や地域の訓練ニーズを踏まえた訓練基準や分野の不断の見直し

機構の職業能力開発総合大学校においては、最新の技術革新などの動向を踏まえた職業訓練内容への見直しや企業の人材ニーズを把握するための調査を実施しており、それを踏まえ、ポリテクセンター及びポリテクカレッジの訓練カリキュラムの見直しを行っている。また、PDCA(計画・実行・評価・改善)サイクルにより、訓練コースの見直しを実施している。例えば、2019年度の離職者訓練コースの設定に当たり、機構の2018年度の訓練コースのうち3割程度の訓練カリキュラムの見直しを実施した。具体的には、電気工事及びシーケンス制御に関する技能・技術を習得する内容により実施していた「電気設備技術科」について、IoT機器の導入により情報通信機器の通信に関する人材ニーズが増加していることから、LAN構築及び住宅配線の施工に関するカリキュラムを追加し、人材ニーズの変化への対応を図った。

(4)地域創生人材育成事業

全国的な雇用情勢の改善や労働需要の高まりなどに伴い、一層の人手不足が懸念されるところであり、地方創生の観点からも、それぞれの地域の特性を踏まえた人材の確保・育成対策の強化が必要になっている。このため、2015年度より、人手不足分野を抱えている地域において、従来の公的職業訓練の枠組では対応できない、地域の創意工夫を活かした人材育成の取組を支援するため、「地域創生人材育成事業」を実施している。この事業は、都道府県から提案を受けた事業計画の中から効果が高いと見込まれる取組を企画競争で選定し、年間3億円を上限に最大3年度間、新たな人材育成プログラムの開発などを都道府県に委託して行うものである。これまで、2019年度までに32の道府県において地域の実情に応じた事業が実施された。

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