経済産業省
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第1部 ものづくり基盤技術の現状と課題
第2章 ものづくり人材の確保と育成
第2節 ものづくり産業における人材育成の取組について

4.若者のものづくり離れへの対応

(1)ポリテクカレッジを始めとする学卒者訓練

全国のポリテクカレッジや都道府県の職業能力開発校・短期大学校では、高等学校卒業者等に対し、ものづくり分野を中心とした学卒者訓練を実施している。例えば、ポリテクカレッジでは、高等学校卒業者等を対象に、機械加工や機械制御の専門的技能・技術を習得する「生産技術科」等において、高度な知識と技能・技術を兼ね備えた実践技能者を育成し、さらにその修了生等を対象とした「生産機械システム技術科」等において、製品の企画・開発や生産工程の構築・改善・運用・管理等に対応できる生産現場のリーダーを育成し、ものづくり産業を担う企業へ送り出している。

また、ポリテクカレッジでは、学生のものづくり技能の習得に対する意識を高め、訓練で身につけた技能・技術の成果を発揮するために、ものづくり分野に関連する各種競技大会及び技術交流展示会等への参加も行っている。

2019年度のポリテクカレッジ等の訓練生は約6千人、都道府県の職業能力開発校・短期大学校の訓練生(学卒者訓練)は約1万2千人である。

コラム:ポリテクカレッジの競技大会における活躍例

全日本ロボット相撲全国大会で世界一位を獲得し、文部科学大臣賞を受賞! 東海ポリテクカレッジ学生の活躍

写真1:優勝したロボット力士(電エネ2号)

 「全日本ロボット相撲全国大会」とは、富士ソフト(株)が主催するロボット競技大会である。1989年より毎年開催されており、2018年で第30回を迎えた。日本の国技である相撲に見立てたシンプルなルールのロボット競技であるため、世界中に愛好者がいる。「ロボット相撲」という語感から、初めて聞く方は人型のロボットを想像することが多いが、実際に大会に参加するロボット力士は、写真1のように小さく黒い車両型である。このロボット力士が直径1.54mの土俵の上でぶつかり合い、相手を土俵の外へ追いやった方が勝利となる。競技種目は、ロボットが自ら動作する「自立型」と、ロボットを人が操作する「ラジコン型」があり、東海ポリテクカレッジは自立型に出場している。

自立型のロボットは、試合開始の合図のあとは完全自動で戦うため、「相手の位置を検出するセンサ」「土俵際を検出するセンサ」「ロボット自身の動作を制御するマイクロコンピュータ」の搭載が必須である。さらに、マイクロコンピュータにはロボットの動作を制御するプログラムを書き込む必要がある。また、動作プログラムには「相手を検知したら突進する」「土俵際を検知したら回避動作を行う」などといった基本動作を組み込むにとどまらず、相手ロボットの特徴や相手ロボットとの相性などを反映した複数の動作モードの実装がないと地方予選でも上位入賞が難しい。相手ロボットの特徴を見極め、試合開始直前のわずかな時間での動作モードの設定が、勝敗を分けるポイントとなる。また、ロボットを駆動するモーターには大電流が流れるため、試合を重ねるごとに駆動回路の故障リスクが高まる。故障しにくい駆動回路設計も、勝ち進むためには重要な技術要素となる。

写真2:競技の様子(2019年大会)

全国大会は例年、両国国技館で開催され、全国大会に出場するには、国内の各ブロック6か所で開催されるトーナメント方式の予選大会で上位に入賞しなければならない。全国大会には日本国内だけでなく、海外から招待されたロボットも出場するため、全国大会=世界大会という位置づけとなる。

2018年12月15日から16日にかけて開催された全日本ロボット相撲全国大会では、日本を含む世界35か国から計3000台以上が予選に参加し、これを勝ち抜いた141台が全国大会に出場した。結果は、東海ポリテクカレッジの学生が製作したロボット力士が、優勝、3位、ベスト32と入賞し、目覚ましい活躍を見せた。また、優勝ロボットは文部科学大臣賞も受賞し、柴山文部科学大臣から学生へ直々に賞状が授与された。

2019年は大会2連覇を目指しての出場となり、全国大会の国内一般枠の実質的な出場台数は29台だったが、5台を東海能開大が占めた。そのうちの1台はトーナメントで決勝まで勝ち進み、2連覇目前だったが、残念ながら決勝で敗退し、準優勝となった。学生は悔しい思いをしたが、大会に参加するに至るまで、一生懸命にロボットに向きあった経験が、今後の人生・仕事に活かされるだろう。

~大会に参加した東海ポリテクカレッジの学生からのコメント~

予選大会で感じた、自分のロボットの弱点を改良して全国大会に臨み、結果的に世界一になれたのでうれしかった。(加藤さん)

世界大会はどの試合もこれまでにない緊張感だったが、とてもいい経験になった。(山口さん)

写真3:上段左から山口さん、加藤千貴さん、下段左から髙田さん、加藤匠さん

(2)若年者への技能継承

若者のものづくり離れが見られる中、長年培われた技能の継承が重要である。

このため、2013年度から、ものづくり分野で優れた技能、豊富な経験等を有する熟練技能者を「ものづくりマイスター」として認定注9し、若年技能者等に対する実技指導を行っている(「ものづくりマイスター」制度)。この実技指導は、若年技能者の人材育成を行う企業、業界団体、教育訓練機関にものづくりマイスターを派遣し、職種に必要な様々な技能の要素が盛り込まれた課題(技能競技大会の競技課題、技能検定の実技課題等)を用いて実施している。

注9 2019年度末現在 認定者数(累計値)11,515人

また、2016年度から、ITリテラシーの強化や、将来のIT人材育成に向けて、小学生から高校生にかけて情報技術に関する興味を喚起するとともに、情報技術を使いこなす職業能力を付与するため情報技術関連の優れた技能をもつ技能者を「ITマスター」として派遣している。

コラム:ものづくりマイスター制度の実例①・・・電工(茨城県立土浦工業高等学校)

【指導の概要】

実施回数:4回/班(計4班)・ 受講者数:40名(電気科2年生)

金属製電線管・合成樹脂製可とう電線管を使い、配線図から金属管の切断・ねじ切り・曲げの加工を行うとともに、配線図通りにケーブルの配線、加工を行った電線管の造営物への取付け、電線の入線、接続までを行った。また、国家試験の第2種電気工事士の試験課題を使用し、より実践的な指導を行った。

【学校の担当教諭の声】

「生徒が電気について体験的に学ぶ機会はないだろうか」と考え、茨城県技能振興コーナーに相談し、ものづくりマイスター派遣で「実演と講義」をお願いしたことがきっかけとなり、年間を通じた本格的な実技指導が実現した。

マイスターによる指導は、当初の予想を超える効果があり、生徒の作業効率が飛躍的に向上したことだった。これまでにも総合電気の実習を行っていたものの、授業時間内に課題が終わらない生徒が多くいる状況だった。ところが、マイスターの実践的な指導を受けてから、生徒の動作に無駄がなくなったため、課題を時間内に完成できるようになり、生徒のレベルが上がっていることを実感している。

【受講生徒の声】

○ マイスターの指導はいつも優しくて丁寧だった。実習中の雰囲気は和やかで、分からないことがあれば気軽に相談することができた。

○ 実技指導は、マイスターの技能を目の前で見ることができるため、とても勉強になった。マイスターの手の動き1つ1つにまったく無駄がなく、自分ももっとマイスターのように手際良く作業ができるようになりたいと思った。

【ものづくりマイスターからの感想】

生徒1人1人の性格に合わせた指導をすることで、生徒は技能を身につけ、自信も生まれてくる。自信がつくと進路の意識も変わってくると思っている。

先生からは、3年生の進路面談で「電気工事関係へ進みたい」と希望を伝えてくる子が増えていると聞いており、大変嬉しく思った。

写真:ものづくりマイスターによる指導風景

コラム:ものづくりマイスター制度の実例②・・・機械加工(高洋電気(株))

【指導の概要】

実施回数:15回 受講者数:3名 

普通旋盤、マシニングセンタ、機械検査、数値制御旋盤等、機械加工について、技能検定の課題を活用しながら、それぞれの作業手順や作業内容について座学と実技指導を行った。

【企業担当者の声】

“就職氷河期”と呼ばれる時期に就職した40代の技能者は一般的に人材の層が薄いと言われていて、その世代が技能を継承しないと、当社のものづくりが続かないという危機感を感じていたが、日々の業務をこなすのに手一杯で、技能向上のために割く時間が無いのが現状だった。その中で、技能向上の1つの手段として、ものづくりマイスターの実技指導をお願いした。

ものづくりマイスターの実技指導の効果は大きく、技能検定の取得においても、機械加工(普通旋盤作業)1級が1名、機械加工(マシニングセンタ作業)2級が2名、機械検査(機械検査作業)2級が2名、数値制御旋盤2級が1名の合格者が出た。さらに、受講したメンバーを中心に、会社の中で新しいことに挑戦していこうという意識が高まり、その意識の変化こそが一番の効果と感じている。

【受講者からの声】

○ 日々の業務を行いながらの受講だったため、時間に追われ、正直何度も心が折れかけた状況もあったが、上司や周囲の理解に支えられ、続けることができた。何より、マイスターが二人三脚のように私のペースに合わせ、やさしく丁寧に指導してくれたおかげで、カリキュラムを全て修了することができた。受講後は、技能検定の機械加工(数値制御旋盤作業)2級にも合格することができた。

○ 熟練のマイスターが従来の方法にこだわらず、常に改善する思考を持っていたことに驚いた。

○ 現場で新しい取組を推進していく際に、時には仲間と意見が食い違うこともあるが、マイスターの指導を受けたことで自信が芽生え、仲間を粘り強く説得し前進することができるようになった。これからも自分と会社の成長のために、技能向上に取り組んでいきたい。

【ものづくりマイスターからの感想】

実技指導を通して、「挑戦し続ける心構え」の重要さを伝えたいと考えている。技術革新のサイクルが早いこの時代、1つの技術だけではなく、関連知識にも興味を持ち、幅広く情報収集し、工夫や改善していく姿勢が大切と考えている。

困難なことにぶつかる時もあるだろうが、「挑戦し続ける心構え」を忘れずに前進していってほしい。

写真:ものづくりマイスターによる指導風景

コラム:「溶接女子」の取組による女性のものづくり人材の育成(新潟県立三条テクノスクール(三条市))・・・新潟県

新潟県内に4校設置されているテクノスクールのうち、三条テクノスクールにはメカトロニクス科、工業デザイン科、生産システム科、溶接科があり、新規学卒者や離職者などを対象とした普通職業訓練で長期間の普通課程と短期間の短期課程及び就業者を対象とした在職者訓練(短期課程)を実施している。現在は25名の職員により指導・運営をしている。

新潟県の三条・燕地域を中心にものづくりを支える地場産業は、包丁や洋食器の製造をはじめ自動車部品などの金属製品加工業が多く、現在でも金物のまちや男性の職場のイメージを色濃く残す中、2016年に、県内で初めて三条テクノスクール溶接科に女性の溶接指導員が誕生したことをきっかけに、女性目線での溶接組立技能を活かした女性のものづくり人材の育成を推進する契機となった。

三条テクノスクールでは、女性の溶接技能者を「溶接女子」と呼び、このイメージに合うように「実は溶接って女子向きなんです!」をキャッチコピーにして、県内のハローワークや地元のものづくりイベントなどへ積極的にPR活動や広報を行っており、毎年、溶接科を希望する女性訓練生が増え、2016年から現在までに50名を超える女性技能者を育成している。

この溶接科の訓練は、年4期に分けて行われ、1期ごとに6カ月間の訓練期間で実施される。包丁などのキッチン用品や生活雑貨などの比較的小さく、軽い金属製品の製造工程を中心に、基本となる溶接技術を習得するほか、複数の溶接機やコンピューター制御の溶接ロボットなどを駆使して行う溶接技術や地場産業のものづくりを支えるプレス加工作業や研磨加工作業の技術指導なども行っており、多能工として活躍できる「溶接女子」の育成を行っている。

写真1:溶接女子科の女性訓練生

現在、溶接科では、20名中9名の女性訓練生が訓練中であり、溶接をやってみようと思った動機や溶接作業をやってみてどうだったかを聞いてみると、「ハローワークで求人の相談をした際に、三条テクノスクールに女性の溶接指導員がいることを聞き、私にもできそうかもと思ったのがきっかけ。やってみると最初は難しいところもあるけど、何回かやるうちに出来るようになった。」と教えてくれた。こうして6か月間の訓練期間中に、切磋琢磨して溶接技能を習得した溶接女子たちは、県内のものづくり企業からも即戦力を求められる人材へと着実に育ってきている。

同スクールの牧野校長は、「この地域では比較的小物で軽量な薄板板金の製品を製造する企業が多く、製造業は週末に休みが多いため、家族や友人に合わせた予定が立てやすいなど女性が就労しやすい環境にあります。ハローワークでの訓練説明会や雇用保険説明会で、溶接技術には女性の持つ繊細な感覚が生かせることや技術は一度身につければ忘れることはなく、安定して働き続けることができるといった魅力を求職者に説明しています。女性の求職者も反応が良く、毎週開催している施設内の職業訓練見学会にも来ていただいています。」と話す。

三条テクノスクールのほか県内の2校のテクノスクールにも溶接の女性訓練生が在籍していることから、新潟県では、各スクールの訓練生と卒業生に加え、女性溶接指導員からなる「溶接女子会」を開催し、日頃の溶接技術を競いながら、溶接女子同士のコミュニケーションの場としている。

また、新潟県職業能力開発課では、ものづくりがしたい女子を応援するための冊子として、「Fab girls(ファブガールズ)」を作成し、テクノスクールで技能を習得した女性技能者たちの活躍についても「新潟のものづくりを支える、”かわいい・かっこいい”ものづくり女子」として紹介することで、ものづくりの魅力を発信している。同課本間さんは、「これまでは職業訓練の内容を紹介するリーフレットをハローワークや就労支援機関に配布していました。今回は発想を変えてフリーペーパーのようなイメージにしたうえで、女性の生活圏を意識して美容院、図書館などに配置してみたところ、意外と手にしていかれました。これからも新たなチャンネルを活用し、ものづくりの魅力を発信していきたいと考えています。」と話す。

写真2:Fab girls(ファブガールズ:ものづくりがしたい女子の応援冊子)新潟県産業労働部発行

コラム:新潟県醸造試験場と酒造組合が連携した酒造りにおける人材育成・・・新潟県

新潟県内には現在88の蔵元があり、新潟の気候、良質な水環境に恵まれた地において、高品質な日本酒を造り続けるため、酒造用に最適な酒米の研究開発と生産に注力しつつ、新潟県の杜氏(越後杜氏)の知識や経験値等にも支えられながら、時代に適した酒造りを行っている。また、新潟県醸造試験場(新潟市中央区)は、全国で唯一の日本酒専門の県立試験・研究機関として1930年に設立され、県内の蔵元の酒造りを支えている。

杜氏は酒造りの過程では最も重要な役割を果たしているが、1980年代には日本酒の生産、消費をけん引する新潟県でも杜氏の減少、高齢化が進み、業界は、危機感を募らせていた。このため、新潟県醸造試験場と新潟県酒造組合は、県内の蔵元に対する技術開発や人材育成をサポートしていく必要があるとの強い思いを共有し、連携しつつ、将来的な杜氏不足を見据えた酒造技術者の人材育成を目的とした「新潟清酒学校」を1984年に設立・開校し、今年で創立36周年を迎える。

同校は、認定職業訓練校としても認定されており、修業年限3年、1学年定員20名として、県内の蔵元などから推薦された者が入校し、年間20日程度(約100時間)の授業を受ける。現在は、講師約40名の他、醸造試験場の職員らも年間を通じ、教鞭に立つ。また、各蔵元はいわばライバル同士の関係にあるが、人材育成のため、各社の社長や技術者も指導に当たる。受講生の1人が「同じ酵母と米を使っても同じ酒はできないので、県内の酒蔵の間では秘密はない。」と話すように、各蔵元で使用する麹などを持ち寄るなどして知見やノウハウの共有を行い、他社の技能者等と交流しながら研鑽を積むことで、県内の各蔵元の酒造技術者の底上げ・レベルアップにつながっている。

写真1:清酒学校の授業風景:講師は金桶場長

卒業者数は令和元年度までに530人(うち酒造技能士の取得者が約260名)を超え、県内蔵元の酒造現場の第一線において酒造技術者として活躍するとともに、清酒学校で後進の指導に当たることもある。

新潟県酒造組合の大平俊治会長は、「清酒学校の校歌として歌われる「日本一の酒造り、日本一の人つくり」とは、新潟清酒学校そのもの。全国の鑑評会や品評会で優秀な成績を収め、さらには講師として後輩の指導に当たる等、幅広く活躍する卒業生達は、まさに「酒造業界の発展に寄与する人材」となったのであり、清酒学校のこれまでの大きな成果として誇るべきものです。」と話す。

越後杜氏をはじめとする酒造技術者は、肉眼では見えない酵母などの微生物の力を借りながらも、自然環境、酒米、水などの諸条件や特性を見極め、日々研究を重ねながら、常に最適な酒造り環境や高品質な日本酒造りを目指している。

新潟県醸造試験場、酒造組合及び清酒学校による産官学が連携し、地道な酒造技術者の育成に努めてきた成果として、毎年、新潟市内において新潟清酒イベント「にいがた酒の陣」を開催しており、高い品質の新潟清酒の知識を深めつつ、今後の酒造業界の発展に寄与している。

写真2:新潟県醸造試験場が保有する貴重な試験研究資料:図書室

(3)ものづくりの魅力発信

若年者が進んでものづくり技能者を目指すような環境を整備するために、ものづくり技能者の社会的評価の向上を図ることや、子供から大人までの国民各層において、社会経済におけるものづくり技能の重要性について広く認識する社会を形成することが重要である。

また、ものづくりは、日本ならではの伝統や文化と密接に結びついている面も大きい。このようなものづくりのブランド性を高め、技能の継承に社会的な光を当てていく観点からも、様々なものづくりの魅力発信の取組が求められている。

このような観点から、以下の取組を進めているところである。

①卓越した技能者(現代の名工)

広く社会一般に技能尊重の気風を浸透させ、もって技能者の地位及び技能水準の向上を図るとともに、青少年がその適性に応じて誇りと希望を持って技能労働者となってその職業に精進する気運を高めることを目的として、卓越した技能者(現代の名工)を表彰している。被表彰者は、次の全ての要件を満たす者のうちから厚生労働大臣が技能者表彰審査委員の意見を聴いて決定している。

<要件>

① 極めて優れた技能を有する者

② 現に表彰に係る技能を要する職業に従事している者

③ 就業を通じて後進技能者の育成に寄与するとともに、技能を通じて労働者の福祉の増進及び産業の発展に寄与した者

④ 他の技能者の模範と認められる者

コラム:2019年度の現代の名工の紹介1~ナノメ-トルの領域で仕上げる技能を有する機械組立の第1人者~

(株)ミツトヨ宇都宮事業所 産業用機械組立工 黒崎 敦男 さん(59歳)

◆技能の概要

高精度な加工設備の製作における仕上げ技能に卓越しており、超高精度四直角マスタ(基準器)の製作においては、外周面四面と側面二面の真直度と平行度を500㎜以下、直角度は90度±0.007度以下に仕上げ、機械加工では不可能な領域での仕上げを実現した。

また、社内最高精度の高精度測長機(ナノマスタ)を製作し、タイ国計量基準局への設置・調整を行うなど、海外においても測定の合理化推進に多大な貢献をしている。

◆要求精度を満たす組立のため、試行錯誤の連続

高校の時から物を造ることに思い入れがあり、ミツトヨに入社。精密機械を製作する部署に配属された。高校で学んだ電気分野とは異なる、機械加工がメインの部署であり、当初は先輩の仕事を横から見たり聞いたりしていたものの、次第に、時間を作っては自分が納得するまで作業を続けるようになった。

高精度な加工設備の組立仕上げにおいては、部品単体の精度はもとより、各工程で要求される精度を満たし、かつ、その積上げを行うことが「必要不可欠」と語る。このため、組立仕上げに求められる多くの技能士資格を取得。試行錯誤を繰り返しながら技能を磨いた結果、ナノメートルの領域までの仕上げ技能を身に着け、タイ国の計量基準として活躍する最高精度の測長機の製作及び設置・調整に貢献するまでになった。

現在も精密測定機の生産設備で、専用工作機械組立作業と保全に従事。自身の技能研鑽とともに、後進の育成に精進している。

作業風景:高精度測長機部品のラップ仕上げ

作品写真:超高精度測長機(ナノマスタ)

コラム:2019年度の現代の名工の紹介2 ~ベルベット生地のカジュアルファッション分野進出を先導 / ファッションデザインに新風~

(株)山﨑ビロード 織布工 山﨑 昌二 さん(84歳)

◆技能の概要

ポリエステルやレーヨン、和紙や絹などを織り込んだベルベット生地製造に卓越した技能を有している。革新的な技術により生み出される生地は世界的ファッションデザイナーに採用されるなど、ベルベット生地のカジュアルファッション分野進出を先導し、作品はニューヨーク近代美術館に永久保存されている。また、機械の調整方法や生地の製造について、学生や企業を対象とした講演や実技指導を行うなど、後進の指導・育成にも貢献している。

◆カジュアルベルベットに無限の可能性を吹き込む

中学を卒業後、羽二重織物(日本を代表する絹織物)の2社で修行。独立にあたり、「羽二重なら織機8台、ベルベットなら織機4台で食べていける」と言われ、納屋には4台分のスペースしかなかったことから、ベルベットの道に入った。

独立当初は、フォーマル用のベルベット生地を受託生産していたが、「婦人ファッション用のベルベット生地を織ってほしい」との話が転機となり、カジュアル分野へ進出することとなった。有名ブランドとの取引も始まり、「この世にないものを短納期で求められた」と苦労したものの、試行錯誤した「未完の完成品」がパリコレクションで披露され、広く世に知られることとなった。

カジュアルベルベットは「68年間探求し続けても幅広く、奥深い」と語り、「生涯開発を続けていく」と、今も新たなベルベット生地を探求している。

作業風景:織機のよこ糸調整作業

製品写真:和紙ベルベット(ニューヨーク近代美術館永久保存作品)

②各種技能競技大会

子供から大人まで国民各層で技能尊重の気運を醸成し、ものづくり人材の育成の重要性が再認識されるよう、以下の大会等の実施及び参加を行っている。

(ア)技能五輪国際大会

青年技能者(原則22歳以下)を対象に、技能競技を通じ、参加国・地域の職業訓練の振興及び技能水準の向上を図るとともに、国際交流と親善を目的として開催される大会である。1950年に第1回大会が開催され、1971年からは原則2年に1回開催されており、我が国は1962年の第11回大会から参加している。

直近では、2019年8月にロシア連邦・カザンで第45回技能五輪国際大会が開催された。日本選手は、42職種の競技に参加した結果、「情報ネットワーク施工」、「産業機械組立て」の2職種で金メダルを獲得したほか、銀メダル3個、銅メダル6個、敢闘賞17個の成績を収めた。金メダル獲得数の国・地域別順位は、第7位であった(第1位中国(16個)、第2位ロシア(14個)、第3位韓国(7個))。

次回は2021年9月に中国・上海での開催を予定している。

コラム:第45回技能五輪国際大会(ロシア連邦・カザン大会)出場者の声

情報ネットワーク施工職種 金メダル(株)

きんでん 志水 優太 選手

情報ネットワーク施工職種では、LANの設計や施工技能、光ファイバーの施工や測定技能を競う。第45回技能五輪国際大会で金メダルを獲得し、同職種での日本選手の8連覇を成し遂げた、志水選手にお話をうかがった。

【技能競技大会に出場したきっかけ】

入社後、新入社員研修の際に技能五輪の訓練を見る機会があり、先輩たちの正確かつスピーディーな作業に憧れを持った。

情報通信に関する知識はほとんどなかったが、現代社会を支える通信技術に興味があり、挑戦を決意した。

【練習の内容・期間、練習過程で嬉しかったことや苦労したこと】

日々の訓練は毎日同じことを繰り返し行っていた。同じ姿勢で何度も行うので、腰や腕が痛い時もあった。また、壁にぶち当たり挫けそうにもなったが、絶対に金メダルを獲りたい気持ちだけは強く持って訓練に臨んでいた。

技能五輪では選手が皆同じ寮で過ごしており、休日など皆でショッピングやカラオケなどに行ってリフレッシュしていた。訓練はしんどかったが、苦しいことや楽しいことも仲間と共有できる環境は自身にとって充実した日々だった。

【技能五輪国際大会に出場した感想】

国際大会は一生に一度しか挑戦できない大会で、技術・技能だけでなく、他国の同世代の人たちと交流ができ、大変有意義だった。

日本の国内大会と違い、大規模な大会で国全体が盛り上がっていた。その中緊張で、思うようなスタートは切れなかったが、一人ではこの大会に参加もできなかった。支えてくれた家族や会社もだが、何より訓練の時から厳しくもやさしくもあった指導員に恩返ししたい気持ちで最後までやり切った。

金メダルを獲得できたことは本当に嬉しい。こんな自分を最後まで支えてくださった人たちには感謝しかない。

【大会で得た経験をどのように活かしていきたいか】

国際大会に出場したことで、知識や技術の向上だけではなく、最後までやり遂げる力がつきました。今後は技能五輪に挑戦する後輩の育成とともに、情報通信技術の発展に貢献していきたい。

【これから技能五輪国際大会を目指す方々へのメッセージ】

自分の技術技能を向上することのできる機会なので、是非挑戦してもらいたい。

訓練中は辛いこともあるかもしれないが、乗り越えた先には自身の成長と大きな達成感があるので、諦めずに頑張ってもらいたい。

サポートしてくれる周囲の方々への感謝を忘れず、悔いの残らないよう全力で挑戦してほしい。

写真:情報ネットワーク施工職種の競技の様子

写真:表彰台で歓喜する志水選手

(イ)技能五輪全国大会

国内の青年技能者(原則23歳以下)を対象に技能競技を通じ、青年技能者に努力目標を与えるとともに、技能に身近に触れる機会を提供するなど、広く国民一般に対して技能の重要性、必要性をアピールすることにより、技能尊重気運の醸成を図ることを目的として実施する大会である。1963年から毎年実施している。

直近では、2019年11月に愛知県の愛知県国際展示場を主会場として第57回技能五輪全国大会を開催し、全42職種の競技に全国から1,239人の選手が参加した。

コラム:第57回技能五輪全国大会(愛知大会)出場者の声

左官職種 金賞

愛媛県選手団 (株)濱﨑組 吉村 静流 選手

左官職種では、金鏝(かなごて)、木鏝(きごて)などを駆使して住宅の室内や外壁を塗り、石膏の造形美と塗り壁の技と美しさ、精度の正確さを競う。第57回技能五輪全国大会で金賞を受賞した、吉村選手にお話をうかがった。

【技能競技大会に出場したきっかけ】

高校3年生、2018年にアイテム愛媛で行われた全国左官技能競技大会を見て、将来、自分もこのような技能を競う大会に出場したいと考えた。

具体的には、入社した時に技能五輪に出るのが目標となった。2級左官技能検定の実技で1位合格し優秀な成績であれば推薦されると聞き努力した。実技検定に1位合格できて推薦していただいた。

【練習の内容・期間、練習過程で嬉しかったことや苦労したこと】

大会2か月前の9月、本大会の課題が発表された。課題の難易度が高く、石膏置引きの作業は初めてで、普段の左官工事にはないので不安があった。

出場予定選手の新潟での研修会に参加して、他の選手との差を感じて帰った。最初の2週間は置引きの練習を集中して行い、墨出し等その他の作業を含めた通し練習を3週間くらい行った。慣れない作業だったが、練習場でたくさんの先輩や同僚が激励してくれて嬉しかった。大会ではたくさんの観客の前で競技を行うので、練習の時からできるだけ多くの人に見てもらいながら練習した。

当日も愛媛県、職業能力開発協会、組合、会社の人達が応援してくれ、感謝している。

【技能五輪全国大会に出場した感想】

前回の沖縄大会へ視察に行って雰囲気はわかっているつもりでいたが、愛知大会の規模の大きさや会場の広さに圧倒されました。多くの職種を同じ会場で行っていたので、他職種の競技風景を見ることができて良かった。職種は違うけれど、同年代の、技能を極めようと競技に取り組む姿は大きな刺激になった。

左官職種では、他県選手との親睦も深めることができた。特に日頃左官職は女性が極端に少ないので、研修会から本大会まで共に左官に取り組む女性が3名いて勇気をもらった。

学生さんも一般の来場者も多く、今までできなかった経験ができて、技能五輪に出場して本当に良かったと思っている。

【大会で得た経験をどのように活かしていきたいか】

何事も諦めずに、コツコツと努力していれば結果はついてくること。

【これから技能五輪全国大会を目指す方々へのメッセージ】

日々の努力を忘れず、自分が納得するまで練習することが大事だと思います。

写真:左官職種の課題に取り組む吉村選手

(ウ)全国障害者技能競技大会(アビリンピック注10

注10 「アビリンピック」(ABILYMPICS)は、「アビリティ」(ABILITY・能力)と「オリンピック」(OLYMPICS)を合わせた造語。

障害のある方々が日頃職場などで培った技能を競う大会であり、障害者の職業能力の向上を図ると共に、企業や社会一般の人々に障害者に対する理解と認識を深めてもらい、その雇用の促進を図ることを目的として開催している。

全国アビリンピックは、1972年からおおむね4年に1度開催される国際アビリンピックの開催年を除き毎年開催されている。

直近では、2019年11月に第39回大会が、愛知県及び独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構の共催により開催され、382名の選手が参加して、「家具」、「義肢」、「歯科技工」などのものづくり技能を含む23の種目について競技が行われた。

国際アビリンピック

障害のある人々が職業技能を競い合うことにより、障害者の職業的自立の意識を喚起すると共に、事業主や社会一般の理解と認識を深め、さらに国際親善を図ることを目的として開催されている。

第1回国際アビリンピックが国連で定めた「国際障害年」である1981年に日本・東京で開催されて以来、おおむね4年に1度開催されており、直近では第9回大会が2016年3月にフランス・ボルドーで開催された。

次回は2021年5月にロシア・モスクワでの開催を予定している。

コラム:全国障害者技能競技大会(アビリンピック)の開催

2019年度は、11月15日から17日までの3日間にわたり、愛知県常滑市において、「その技に誇りと感動あいちから」という大会スローガンのもと、第39回全国障害者技能競技大会が開催された。

大会には、技能競技23種目に全国から382名の選手が参加し、日頃培った技能を競い合うとともに、障害者雇用に関する新たな職域の一部として、「理容」、「フォークリフト操作」の2職種による技能デモンストレーションが実施された。

また、第39回アビリンピックの一環として、障害者の雇用に関わる展示、実演及び作業体験など総合的なイベントである「障害者ワークフェア2019」が開催され、盛大な大会となった。

写真写真:第39回アビリンピック競技風景

(エ)若年者ものづくり競技大会

職業能力開発施設、工業高等学校などにおいて技能を習得中の若年者(原則20歳以下)で、企業などに就職していない者を対象に、技能競技を通じ、これら若年者に目標を付与し、技能を向上させることにより就業促進を図り、併せて若年技能者の裾野の拡大を図ることを目的として実施する大会である。2005年からほぼ毎年実施している。

直近では、2019年7~8月に、福岡県のマリンメッセ福岡(現:マリンメッセ福岡A館)を主会場として第14回若年者ものづくり競技大会を開催し、全15職種の競技に全国から443人の選手が参加した。

コラム:第14回若年者ものづくり競技大会(福岡大会)出場校の声

奈良県立磯城野高等学校

奈良県立磯城野高校は、各種技能競技大会の造園職種で多くの入賞者を輩出しており、第14回若年者ものづくり競技大会では岡田竜来選手が金賞を受賞したほか、技能五輪全国大会や国際大会でも在校生・卒業生が好成績を収めている。技能競技大会を通じた技能向上・人材育成の取組について、同校にうかがった。

【技能競技大会に生徒を参加させるようになったきっかけ】

本校環境デザイン科では、十数年前より技能検定の取組を始め、より高いレベルの技術指導に力を入れてきた。しかし技能検定は個人の資格であることや、結果が合格・不合格だけで決められてしまうことに物足りなさを感じていた。生徒が身につけた技術を適切に評価してもらえる場はないかと色々と模索している中で、各種技能競技大会のことを知り、出場を目指すこととなった。

【技能競技大会に生徒を参加させる目的・効果、出場生徒にとってのメリット】

出場生徒が技能競技大会での上位入賞を目指して一生懸命練習に取り組むことで、周りの生徒のモチベーションも上がり、それが学校全体の士気の向上と活性化につながっている。また中学校からも多くの生徒が目的意識を持って入学してくるようになった。出場生徒にとっては、技術を向上させるために努力することで、ものづくりの本当の面白さや達成感を得ることができるとともに、自分の進路に直接つなげることができる。

また、技能五輪全国大会は、社会人になってからも出場できるため、卒業後の目標にもつながっている。

【出場生徒の選定方法】

造園に興味を持ち、技能競技大会に出場したいと自ら希望する生徒を集め、校内予選大会を行い、出場選手を選考している。

【練習の内容・期間】

大会の5か月前から早朝、放課後、休日に練習を行っている。過去の課題図面やオリジナル図面での施工練習だけでなく、農場の樹木の手入れ等の管理作業を通して技術指導を行っている。大会では生徒自身が自分で考えて臨機応変に対応する力が必要となるため、あらゆる内容の実習を行うようにしている。また、技能競技大会に出場経験のある卒業生が来校して後輩の指導に当たってくれることもある。

【学校としての今後の課題や抱負】

これまでの技能競技大会での結果は、出場生徒の努力だけでなく、指導に関わってくださった事業所の職人の方々、卒業生や家族などサポートしてくれた多くの人の存在が大きかったと思う。引き続き、生徒が授業で身につけた技術を発表する場のひとつとして技能競技大会の出場と入賞を目指していきたい。

写真:造園職種の競技の様子

写真:競技課題に取り組む岡田選手

(オ)技能グランプリ

特に優れた技能を有する1級技能士などを対象に、技能競技を通じ、技能の一層の向上を図るとともに、その熟練した技能を広く国民に披露することにより、その地位の向上と技能尊重気運の醸成を図ることを目的として実施する大会である。1981年度から実施しており、2002年度からは2年に1度開催している。直近では、2019年3月に、兵庫県の神戸国際展示場を主会場として第30回技能グランプリを開催し、全30職種の競技に全国から533人の選手が参加した。

コラム:第30回技能グランプリ(兵庫大会)出場者の声

紳士服製作職種 金賞

愛知県選手団所属 青木 久男 選手(紳士服工房アオキ)

紳士服製作職種では、背広上着を手縫いやミシン縫いで仕立て上げ、全体の見栄えや縫製の熟達度などを競う。長年にわたって紳士服作りの仕事に携わり、第30回技能グランプリで金賞を受賞した、青木選手にお話をうかがった。

【紳士服作りの道を選んだきっかけと、これまでの経歴】

高校受験に失敗した時、「職人」という仕事に憧れていたのと、洋服仕立をしていた叔父の楽しく前向きな生き方を見ていたので、この道に進もうと思った。

  • 昭和44年 第7回技能五輪全国大会 第3位
  • 平成15年 第30回全日本注文紳士服技術コンクール 内閣総理大臣賞
  • 平成22年度愛知県優秀技能者表彰
  • 平成23年度名古屋市技能功労者表彰

【これまでの職業人生で嬉しかったことや苦労したこと】

嬉しかったのは、初めて上衣を一人で縫い上げた時である。

苦労しているのは、生地の素材・織り方が以前より多様になり、その生地に合わせた寸法のとり方・縫い方が必要になっていることである。

【技能グランプリに出場したきっかけ】

2002年52歳の時、洋服技術者団体の講習会に行き、「技能グランプリ」という大会があることを知り、今後の仕事に対する危機感ともっと技術を磨きたいという思いで出場した。

【技能グランプリ出場を通じて得たこと】

競技終了後、審査員採点後に講評をしていただけるのだが、自分の縫った服だけでなく参加者全員の服にコメントがあり、自分の反省とともに、グランプリ5回の出場は大きな財産となった。

【これから技能の道を目指す方々へのメッセージ】

私は、師匠や先輩から教わった事、また、ラジオを聴いたり新聞を読んで「これは」という話はメモする。少しずつの積み重ねだが大切にしている。

写真:紳士服製作職種の課題に取り組む青木選手

(4)地域若者サポートステーション

地域若者サポートステーション(愛称:「サポステ」)は、働くことに悩みを抱えている15歳から39歳(一部は40代半ば)までの若年無業者などに対し、就労実現に向けた支援を地方自治体と協働で行う施設である。サポステは、厚生労働省が委託した若者支援の実績やノウハウのあるNPO法人などが実施しており、全国に設置されている。

サポステでは、①キャリアコンサルタントなどによる一人ひとりの課題に応じた専門的な相談や各種プログラム、②個々のニーズに応じたOJTとOFF-JTを組み合わせた職場体験プログラム、③生活面のサポートと職場実習の訓練を集中的に実施する若年無業者など集中訓練プログラム(一部のサポステ)、④就労後の職場定着のためのフォローやより安定した就労形態へのステップアップのための支援、⑤高校などとの連携強化による高校中退者や進路未決定卒業者などに対するアウトリーチ(訪問)型などの就労支援を実施している。

また、2018年度においては、就職氷河期に学校卒業期を迎えたおおむね40代前半の無業者に対する職業的自立支援の有効性や支援手法に係る課題などを整理、分析するためのモデル事業(就職氷河期無業者総合支援サポートプログラム)を全国10か所のサポステで試行的に実施した。

さらに、2019年度においては、就職氷河期無業者支援サポートプログラムの検証結果等を踏まえ、概ね40代半ばまでの無業者を対象に、基礎自治体の生活困窮者自立支援スキームとサポステ事業の連携を強化し、原則ワンストップ型で必要な支援・プログラムを提供するモデル事業(就職氷河期等無業者一体型支援モデルプログラム)を全国12か所のサポステで2か年にかけて試行的に実施している。

コラム:三条地域若者サポートステーション

支援の状況

「一歩踏み出せなかった自分に勝ち、職場体験から金属研磨の仕事に入ったAさん」

高校3年生の時、本人曰く「遅れてきた反抗期」で高校を自主退学した後、10年以上病気の祖父母の世話をしながら、家で過ごしたAさん。母の勤め先のスーパーにアルバイトとして採用され、5年間勤務してきたが、店長の交替で店の方針が変わり、勤務時間が減ってしまう。収入を増やして両親を安心させたいと思うものの、新たな就職活動に一歩が踏み出せず悩んでいたところ、妹のサポステ利用をきっかけに本人も利用を開始。アルバイトを継続したまま相談とサポステ支援プログラム(職場見学、ボランティア活動、職場体験等)に参加した。もともと物を作ることは好きで、父親が勤務していた工場系の職種を希望しており、サポステ職員と一緒に参加した工場の職場見学では機械作業を食い入るようにのぞき込む姿があった。

また、ボランティア活動にも参加し、新聞バックを作った。作業工程はすぐに覚え手先は器用だが、集団に苦手意識があり、緊張で気持ちにゆとりがないのか、仕上がりがきれいに作れなかった。このため、支援プログラムの種類を増やしてはと提案するが、「現在のアルバイトの勤務時間を減らすことは難しい」と一歩踏み出せなかった。

しかし、半年が経過した頃、「このままずっと同じことを繰り返していたら変わらない」と考え直し、両親の後押しもありアルバイトを退職することに決め、これまでの職場見学、ボランティア活動といった支援プログラムに加え、職場体験プログラムを追加し、サポステの協力農家で稲作の体験をしてもらった。室温の高いハウスへ育苗箱を運ぶ運搬作業などで、体力が続かず集中力も低下してのミスもあったが、職場体験仲間と共にコミュニケーションを取り、2ヶ月弱の期間満了までやり遂げ、体力と自信をつけたようだ。その後のボランティア活動での新聞バックは落ち着いて作れ、とてもきれいに仕上がっていた。

その後もサポステの相談と支援プログラムの参加を継続した結果、建設工具メーカーの「杉野工業」で全10日間の職場体験に入る。エンドレス研磨機で製品を研磨し仕上げていく工程を担当。最初は肩に力が入りすぎ、体中が痛くなったり、指にけがをしたこともあった。体験終了後、本人の希望もありパート枠で会社へ受け入れられた。

サポステによる定着支援等を行い、就職後3ヶ月が経過した頃、Aさんが、「社長から正社員登用の提案があった。受けようと思う。」とにこやかに報告に来てくれた。頬が少しふっくらし、肩幅も出て来てたくましく感じられた。今回の報告を受けて職場におうかがいしたところ「真面目で聞く耳があり、伝えたことを素直に実行にうつす。コツコツと頑張り、飽きたりだらけたりすることはない。」と社長よりAさんについて嬉しく頼もしい話が頂けた。

-付け足しコラム-

杉野工業は創業から57年の建設工具製造業である。企画開発から製造まで一貫した生産システムで、建設用作業工具各種を総合的に提供している。主力商品は結束用のシノー、ハッカーなどの工具で、顧客の注文により少量から受注生産し、短期納品をめざしている。従業員数は20名ほどで、温厚な社長とベテランの従業員が若手を指導し、面倒見よく育てている職場である。

写真:製造工程・研磨をするAさん

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