経済産業省
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第1部 ものづくり基盤技術の現状と課題
第2章 ものづくり人材の確保と育成
第2節 ものづくり産業における人材育成の取組について

5.社会的に通用する能力評価制度の構築

働く者の能力開発や評価をより的確に行っていくためには、企業が求める職務や人材像を能力要件として具体的に示すとともに、労働者も企業が示す能力要件に照らして不足している職業能力の開発向上を図ることができるような、双方をつなぐ「共通言語」が求められている。

(1)技能検定制度

技能検定は、労働者が有する技能を一定の基準に基づき検定し公証する国家検定制度であり、ものづくり労働者を始めとする労働者の技能習得意欲を増進させるとともに、労働者の社会的地位の向上などに重要な役割を果たしている。

技能検定は、厚生労働大臣が、厚生労働省令で定める職種ごとに等級に区分(一部職種を除く)して、実技試験と学科試験により実施しており、合格者は「技能士」と称することができる。

技能検定の職種は、2020年4月1日現在、130職種であり、製造業における中心的な検定職種(機械保全職種、電子機器組立て職種など)については、特に工業高校生の受検が過去6年間で急増している。2018年4月1日からは、エントリーレベルの3級の受検資格をさらに緩和したところであり、今後とも、技能検定の受検勧奨などを通じた普及拡大を図っていくことにより技能習得に取り組む若年者が増えることが期待されている。

本制度は1959年度から実施され、2018年度には全国で約81万人の受検申請があり、約32万人が合格している。制度開始からの累計では、延べ約697万人が技能士となっている。

また、ものづくり分野において人材を確保するためには、労働者の有する能力が公証される技能検定により、キャリアアップの動機付けを行うことが効果的である。このことから、2017年9月から、技能検定2級と3級について、都道府県などが受検料の軽減を図ることにより、技能検定を受検しやすい環境を整備する場合に、当該経費について支援を行っている。具体的には、ものづくり分野の技能検定の2級又は3級の実技試験を受検する35歳未満の者に対して、最大9,000円を支援するものであり、技能習得に取り組む若年者が増えることが期待されている。

コラム:技能と応用力を身につけるための手段として技能検定を活用・・・池田精工(株)

岡山県鏡野町の池田精工(株)(従業員71名)は、食品・医薬品の充填・包装機械部品、化学繊維・液晶・半導体などを製造する装置部品、水素関連装置・精密ポンプなど、あらゆるステンレスの部品を造る企業。材料調達から機械加工、溶接、バフ研磨仕上げ、組立てまで、一貫生産を行っている。

飲料や医薬品の充填・包装機械の部品は、小さな傷などでも菌が繁殖しやすくなってしまうために、加工した面をきれいに仕上げることなどが非常に重要になっている。また、寸法、精度についてもかなり精密なものが要求されるので、それに応える本当の意味で技能を要する仕事になる。

大量生産の業種ではなくて少量多品種、試作開発品や一品物の加工が多いことから、一連の流れを覚えればいいということではなく、色々な応用を利かせなければならない。同社の場合、そうした技能と応用力を従業員が身につけるための方法の1つとして技能検定を活用している。

技能検定の毎年の受検者数は3名から5名程。受検料は基本的には自己負担としているが、技能検定に合格すれば取得級に応じて報奨金を支給している。

従業員は皆、日々忙しくしているため、OJTを基本的としつつ、さらに技能を高めるための手段として技能検定を活用している。

写真:OJTの様子

「当社は完全な教習体制が備わっているわけではなく、OJTになっています。そこで重視するのは、コミュニケーションをしっかりとるというところです。」と代表取締役の池田英雄氏は語る。

従業員の間での技能の指導、伝承という点について言えば、現状ではやはり職人的な人間が多いこともあって、特に伝承については苦労している面があります。技能の高い先輩方が、それをうまく次の若い世代に伝承していくことがどうしてもスムーズにいかないこともあるとのこと。

「だからといって、先輩方に質問しにくい雰囲気のようなものはありません。わからないことは聞けば教えてくれる雰囲気があります。もっとも、1から10まで教えるのではなくて、考える力も大切にしています。当社の場合どうしても日用の品物とは違うものを作るので、そういった考えるというところが重要になってくるかと思います。」(同氏)。

人材育成のシステムがないことから、どこまでできるのか、どこからができないのかという判断が難しい。そこで、どこまで成長しているかを測るのに技能検定が重要な手段になっている。「その意味では、若い人たちには、どんどん積極的に技能検定に挑戦してもらいたい」とのこと。

技能士のレベルも上の方になっていくと、加工のことだけではなく、その他の知識も身につけなければなかなか合格できない。「そういった知識が広がるというのは、会社に大きな貢献をしてくれます。また、技能士の存在というのは、対外的にはこれだけの技能者がいますという非常に重要なPRポイントになっています」。さらに「ステンレスというのは加工の難しい材質です。曲げにくかったり、切削、溶接のひずみが生じたりします。また、当社では、市場の要求が多くなってきたことを受け、ステンレスに限らずチタンなどのもっと難しいものも数多く手がけるようになりました。当社で受注している仕事は県外のほうが圧倒的に多く、全国から注文を受けています。これも、当社の技術・技能がある程度お客様に認められたおかげではないかと考えています」(同氏)。

(2)職業能力評価基準

職業能力評価基準は、職業能力を客観的に評価する能力評価のいわば「ものさし」となるよう、業界団体との連携の下、詳細な企業調査による職務分析に基づき、仕事をこなすために必要な職業能力や知識に関し、担当者から組織や部門の責任者に必要とされる能力水準までレベルごとに整理し体系化したものである。

業種横断的な経理・人事等の事務系9職種のほか、電気機械器具製造業、自動車製造業、金属プレス加工業等製造業・建設業を含む業種別に策定しており、2020年4月現在、56業種が完成している。

(3)社内検定認定制度

社内検定認定制度は、職業能力の開発及び向上と労働者の経済的社会的地位の向上に資するため、事業主などが、その事業に関連する職種について雇用する労働者の有する職業能力の程度を検定する制度であって、技能振興上奨励すべき一定の基準を満たすものを厚生労働大臣が認定する制度である。

2020年4月1日現在、49事業主など128職種が認定されており、認定を受けた社内検定については、「厚生労働省認定」と表示することができる。

コラム:金属研磨技術者養成の技能研修制度・・・燕市磨き屋一番館

新潟県燕市においては、主に金属研磨業に携わる後継者人材の育成、技術の高度化に対応した金属研磨産業の振興等を目的として、燕市磨き屋一番館(燕市)を平成19年5月に開設した。

金属加工製品の最終工程を担う金属研磨事業所(いわゆる「磨き屋」)は、最盛期(1970年頃)には燕市内に約1,700事業所があったが、海外への生産移管や個人事業者の高齢化による廃業等により、現在では333事業所までに減少している。このことから、ものづくりのまち燕特有の「磨き屋」としての金属研磨技術を次世代の若手職人に継承させていくため、燕市から燕研磨振興協同組合に技能研修事業ほか2事業を委託し、組合が運営している。

平成19年度から研修生を毎年数人受入れ、研修期間は3年間、現在1~3年生まで7名の研修生が在籍している(うち女性3名)。直近までの10年間で卒業(修了)者26人を輩出し、自主開業2名、県内企業に23名が就職するという実績を有する。

研修生に対しては、単に研修期間に技術を習得することのみとせず、実際の製品に磨き加工することによって商品化し、稼ぐことの実感もさせつつ、模擬的に開業する上での経営感覚なども養っている。また低価格化への対応として、燕地域の研磨業界が共同で受注する組織として「磨き屋シンジケート」を発足させるとともに、地元商工会議所で販路開拓を行ったことにより、全国から受注することが可能となった他、商品の高付加価値化や工賃の引き上げを実現している。

燕商工会議所中小企業相談所長の高野さんは、「人材育成と産業振興は密接な関係。後継者を育成してもやる仕事がなければいけない。この10年余りの取組で稼げる雰囲気が出てきたことで、自然と後継者が生まれるようになった。」と話す。

平成29年度からは社内技能検定制度を導入・活用して、研磨職人の研磨技術の高度化に対応した人材育成が可能となるようにするとともに、燕市磨き屋一番館のオリジナル商品を研修題材の1つとして、ステンレス素材のタンブラーに磨き加工を施し、より多様な製品の研磨技術を習得できるようにしている。(取材日:2019年11月12日)

写真1:磨き屋一番館内での磨き作業工程

写真2:24金の鏡面仕上げタンブラー(右は断面)

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