CONTENTS
1.特殊関税等調査室 ウェブページコンテンツの紹介(動画解説付き!)
2.【連載】特殊関税等調査室ウェブページコンテンツを活用したダンピング輸入リスク分析の視点(第3回 ガラス繊維編)
3.FAQ
-相談窓口(アンチダンピング申請のご相談はこちら)
ADニュースレターについて
特殊関税等調査室では海外からの安値輸入のモニタリングを日々の業務に取り入れていただくことを目的に、皆さまの経営課題の解決のヒントとなる情報を隔月でお届けしております。今年度のニュースレターの連載企画として、WTO加盟国においてAD調査開始件数が多い分野のダンピング輸入に関する分析を掲載しており、6月号では、AD発動件数が最も多い産品分野である(鉄鋼編)、9月号では、鉄鋼と同様にAD発動件数が最も多い産品分野である化学工業品をご紹介しました。いずれも米国での発動事例を取り上げましたが、11月号では、EUでの発動事例があるガラス繊維についてご紹介します。1.特殊関税等調査室 ウェブページコンテンツの紹介
当室では、「輸入モニタリングシステム」、「生産動態統計モニタリングシステム」、「他国発動事例リスト」の3点を毎月更新しています。輸入モニタリングシステムは、財務省が毎月公表する貿易統計データを基に、海外からの輸入金額、輸入数量、輸入単価を国別・品目別にグラフ形式で可視化するコンテンツです。調べたい品目や国を選択することで、海外からの輸入状況を把握することができます。
生産動態統計モニタリングシステムは、経済産業省が毎月公表する生産動態統計データを基に、日本国内の品目別の内需統計をグラフ形式で可視化するコンテンツです。調べたい品目や指標を選択することで、国内動向(生産・販売・在庫状況)を把握することができます。
他国発動事例リストは、品目別、AD措置発動国別、AD措置対象国別の貿易救済措置発動事例を調査するコンテンツです。調べたい品目や国を選択することで、安値輸入が気になる品目や国について他国での発動事例を調べることができます。
他国でAD措置対象となり行き場を失った産品が日本に流入する場合、他国の発動事例における被対象国からの日本への輸入動向と生産動態統計を見比べてモニタリングすることで日本への輸入量の増加や国内企業への生産・販売量への影響等の大まかな実態を把握することが可能になります。
2. 【連載】第2回
特殊関税等調査室ウェブページコンテンツを活用したダンピング輸入リスク分析の視点 ガラス繊維編
ガラス繊維が含まれる石材、セラミック製品、ガラス製品はWTO加盟国におけるAD調査開始件数のうち、およそ4%を占めます。(※WTOによる1995年~2020年のAD調査開始件数の集計結果に基づく) 図1では、ガラス製品について世界各国の措置対象品目数(HS70類)を示しております。オレンジ色が濃いほど、多くの品目がAD調査対象となっている国であることを示しています。
2011年以降の世界的な傾向として、AD調査対象国は10か国程度となっており、中国をはじめとするアジア諸国、エジプト、米国が調査対象となる事例が見受けられます。
本号では、AD調査対象国数が多い品目のうち、日本向けの輸出が増加基調を辿る「繊維強化プラスチック(FRP)(HSコード:7019.90類)」を事例として取り上げます。
それでは、実際に当室のモニタリングコンテンツを使ってみましょう。
輸入モニタリングシステムで、対象製品(HSコード:7019.90類)の日本への輸入動向を見ます。日本への輸入数量は、中国からの輸入が大部分を占めています。2014年以降のグラフを見ると、中国からの輸入数量が増加傾向にあります。2019年後半から2020年に落ち込みはあったものの、2021年は2020年の水準を上回っています。2021年の中国製ガラス繊維の輸入単価は2014年の6割程度となっております。(図2)
■ 他国のAD調査事例を調べる
中国からの輸入品単価が低下していることから、日本へのダンピング輸入の可能性を考え、他国発動事例を調査します。
当室が他国発動事例リストで取り扱っている米国、カナダ、EU、豪州、中国、韓国のうち、EUが中国とエジプトに対してAD調査/措置発動を実施しています。加えて、中国とエジプトは、EUの迂回調査の対象にもなっています。(図3)
ここで、中国・エジプト製ガラス繊維のEUへの輸出状況を見てみます。EUの調査当局のウェブページを確認すると[※1]、中国とエジプトからの輸入品は、2015年以降増加傾向にあり、市場占有率は調査期間中に31.4%へ増加したことがわかります。(表1)
一方で、EU域内で製造されたガラス繊維の販売状況を確認すると[※1]、2015年以降減少傾向にあり、調査期間中の市場占有率は63.4%まで低下しております。(表2)
なお、本稿では日本への輸入量と単価の動きにおいてダンピング輸入の懸念が比較的顕著なHSコードを選定し、当該HSコードを含む他国発動事例(当該HSを含む産品に対してAD課税をしている事実およびダンピングマージン、課税時期)を確認し、行き場を失ったダンピング製品が日本に輸入している可能性を検討しています。従って、以降の説明においては、前項「■日本への輸入動向を調べる」で調査したHS7019.90類以外のHSコードを含んだ内容となっております。
出典:EC[※1]
注:HSコード7019.90類を含む値を示す。具体的な調査対象HSコードは、7019.39、7019.40、7019.59、及び7019.90類
注:HSコード7019.90類を含む値を示す。具体的な調査対象HSコードは、7019.39、7019.40、7019.59、及び7019.90類
出典:EC[※1]
注:HSコード7019.90類を含む値を示す。具体的な調査対象HSコードは、7019.39、7019.40、7019.59、及び7019.90類
注:HSコード7019.90類を含む値を示す。具体的な調査対象HSコードは、7019.39、7019.40、7019.59、及び7019.90類
中国・エジプト製ガラス繊維のAD措置発動状況を確認すると[※1]、中国とエジプトからの輸入品に対して、2019年にAD調査を開始し、2020年にAD措置を発動しました。措置対象国・企業によって異なるダンピングマージンが課されていることがわかります。(表3)
表3 中国製ガラス繊維へのAD措置発動状況 対象企業とダンピングマージン
出典:EC[※1]
注:HSコード7019.90類を含む値を示す。具体的な調査対象HSコードは、7019.39、7019.40、7019.59、及び7019.90類
注:HSコード7019.90類を含む値を示す。具体的な調査対象HSコードは、7019.39、7019.40、7019.59、及び7019.90類
EUは、中国とエジプトに対するAD措置に加え、(図3)にあるとおり、両国の製品のモロッコからの迂回調査をも実施しています。EUの調査当局のウェブページを確認すると[※2]、AD調査開始以降またはその直前に、モロッコで組み立てられる中国・エジプト製ガラス繊維が大幅に増加したことが示されています。モロッコを迂回した輸出により、中国・エジプト製輸入品へのAD措置の効果が弱まっている可能性があるといえます。
続いて、EUがAD措置を発動した前後におけるガラス繊維の国別輸出の推移を見てみます。UN Comtradeのウェブページ[※3]から、日本への輸入量の大部分を占めている中国製ガラス繊維の輸出統計を見ると、2017年から調査開始年である2019年にかけて、中国からの輸出量は多くの国で増加していますが、2019年から2020年にかけては、EU諸国向けの輸出数量に減少が見られます。(表2)
(単位:トン)
UN Comtrade [※3]
注:UN Comtradeによる中国の輸出統計。対象HSコードは7019.90類
注:UN Comtradeによる中国の輸出統計。対象HSコードは7019.90類
中国製ガラス繊維の日本への輸出数量は、2020年には減少していますが、先ほど(図2)で確認したとおり、2021年は増加が見られます。このことから、日本への中国製ガラス繊維の輸入動向について、他国発動事例及びそれに伴う輸入統計を注視していく必要があると考えられます。
他国のAD措置発動と日本への輸入量増加の直接的な因果関係は慎重に見定める必要がありますが、安値輸入のモニタリングの観点においては、他国のAD措置発動状況により行き場を失った製品が日本市場に流入する可能性があるという視点を持つことは重要です。
[※1~3]出典は以下のリンクのとおり。
・[※1]EC
(https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/PDF/?uri=CELEX: 32020R0776&from=EN )
・[※2]EC
(https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/PDF/?uri=CELEX: 32021R0864&from=EN )
・[※3]UN Comtrade
(https://comtrade.un.org/data)
■ 日本国内の需給動向
最後に、生産動態統計モニタリングシステムを用いて、日本国内の製造業産品における内需(国内生産量や販売量、販売金額、在庫等)を把握します。安値輸入品による国内産業への影響の観点において、国内産品の需給動向を見てみましょう。
貿易統計のHSコード(701990類)に紐づく品目は、「その他のガラス短・長繊維」に含まれます。2016年以降のその他のガラス短繊維の需給動向を生産動態統計で確認すると、国内企業による生産数量(国内)及び販売数量(国内)が2018年頃からマイナス基調であり、月末在庫も前年比マイナス基調であることから、当該製品の内需が縮小しつつある様子がうかがえます。(棒グラフの色は対前年同月比のプラス(赤)とマイナス(青)を示します。)
他方、その他のガラス長繊維の需給動向を確認すると、国内企業による生産数量(国内)及び販売数量(国内)が2018年のプラス基調から2019年は減少に転じています。2021年以降は生産・販売ともに前年比を大幅に上回り、月末在庫が前年比マイナス基調であることから、当該製品の内需が大幅に拡大していることが見受けられます。(図4)
図4 生産動態統計モニタリングシステム(その他のガラス短・長繊維)
■ 分析のまとめ
2020年にEUが中国製ガラス繊維へのAD措置を発動し、アジアや米国への輸出が増加した(表4)ことが貿易統計からわかりました。AD措置発動後の輸入量の動向を把握するためには継続的に統計情報を追っていく必要はありますが、2021年は日本向けの輸出も増加しつつあります(図2)。
特に長ガラス繊維の日本国内での生産・販売は増加基調である(図4)ことから、輸入増が国内生産・販売に影響を及ぼしているとは言いがたいですが、COVIID-19等を背景とした需給バランスの変化に伴い在庫水準が高まっている一方で輸入が増加基調を辿るなか、将来的なリスクとして輸入と国内生産・販売の動向を注視していく必要があります。
当室が月次で更新している他国発動事例リストや輸入モニタリングシステム、生産動態統計モニタリングシステムを日々の業務に活用することで、ダンピング輸入による国内産業の衰退及び自社利益への損害リスクを早期に感知することが可能となります。企業の経営戦略における重要なツールとして、ぜひとも当室のコンテンツを積極的にご活用ください。
・[※1]EC
(https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/PDF/?uri=CELEX: 32020R0776&from=EN )
・[※2]EC
(https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/PDF/?uri=CELEX: 32021R0864&from=EN )
・[※3]UN Comtrade
(https://comtrade.un.org/data)
■ 日本国内の需給動向
最後に、生産動態統計モニタリングシステムを用いて、日本国内の製造業産品における内需(国内生産量や販売量、販売金額、在庫等)を把握します。安値輸入品による国内産業への影響の観点において、国内産品の需給動向を見てみましょう。
貿易統計のHSコード(701990類)に紐づく品目は、「その他のガラス短・長繊維」に含まれます。2016年以降のその他のガラス短繊維の需給動向を生産動態統計で確認すると、国内企業による生産数量(国内)及び販売数量(国内)が2018年頃からマイナス基調であり、月末在庫も前年比マイナス基調であることから、当該製品の内需が縮小しつつある様子がうかがえます。(棒グラフの色は対前年同月比のプラス(赤)とマイナス(青)を示します。)
他方、その他のガラス長繊維の需給動向を確認すると、国内企業による生産数量(国内)及び販売数量(国内)が2018年のプラス基調から2019年は減少に転じています。2021年以降は生産・販売ともに前年比を大幅に上回り、月末在庫が前年比マイナス基調であることから、当該製品の内需が大幅に拡大していることが見受けられます。(図4)
■ 分析のまとめ
2020年にEUが中国製ガラス繊維へのAD措置を発動し、アジアや米国への輸出が増加した(表4)ことが貿易統計からわかりました。AD措置発動後の輸入量の動向を把握するためには継続的に統計情報を追っていく必要はありますが、2021年は日本向けの輸出も増加しつつあります(図2)。
特に長ガラス繊維の日本国内での生産・販売は増加基調である(図4)ことから、輸入増が国内生産・販売に影響を及ぼしているとは言いがたいですが、COVIID-19等を背景とした需給バランスの変化に伴い在庫水準が高まっている一方で輸入が増加基調を辿るなか、将来的なリスクとして輸入と国内生産・販売の動向を注視していく必要があります。
当室が月次で更新している他国発動事例リストや輸入モニタリングシステム、生産動態統計モニタリングシステムを日々の業務に活用することで、ダンピング輸入による国内産業の衰退及び自社利益への損害リスクを早期に感知することが可能となります。企業の経営戦略における重要なツールとして、ぜひとも当室のコンテンツを積極的にご活用ください。
3.FAQ
最終更新日:2022年9月12日