- 欧州ではようやく景気回復の兆しが見えてきたが、失業率は依然として高水準にあり、構造的問題となっている。こうした中、労働市場改革が重要な課題となっている。南欧諸国においてなされた労働市場の柔軟化(賃金調整手続きの緩和等)が注目されているが、全体としては、格差の是正(正規/非正規労働者)及び積極的労働市場政策(失業者に対する就業支援等)についても重視する方向性が見られる。改革におけるポリシーミックスの重要性が示唆される。
- 米国では、海外における賃金上昇を受けた単位労働コスト差の縮小、シェールガス・オイルの生産増による事業環境の好転などを背景に、内需向けを中心に製造拠点を米国内に戻すリショアリングの動きが見られる。他方、製造業を取り巻くマクロ経済指標を見ると、シェールガス・オイル生産の活況による影響などが一部に見られるものの、製造業の復権と言えるほどの構造的な変化は現時点では見られていない。また、雇用情勢についても、大きな改善・回復は現時点では見られず、質の高い雇用の創出は引き続き課題となっている。リショアリングの動向に注目が集まる一方、米国企業は積極的に海外において事業展開を行っている。設備投資や研究開発費などの経営資源の在外子会社への配分を強化する動きや、進出地域の特性に応じた戦略的な事業展開など、在外子会社の活用を通じて、業務の効率化や競争力の維持・強化を図っている。
- 中国は30年以上にわたって年平均10%近い経済成長を遂げ、GDP、貿易、外貨準備など世界経済におけるプレゼンスを拡大してきた。しかし、これまでの高成長を支えてきた人口動態、賃金水準などの諸条件が変化しつつあり、最近の成長率は7%台に低下し、所得格差など成長に伴うゆがみも顕在化してきている。このような中で、今後とも中国が経済成長を続けていくためには、相互に関連した幅広い分野での構造改革(投資主導型成長モデルからの転換、過剰設備問題や国有企業問題への対応、産業高度化の推進、規制緩和や金融改革、社会保障制度の確立、地方政府債務問題への対応等)への取組が課題となっている。
- ASEAN4(タイ、マレーシア、インドネシア、フィリピン)においては、持続的な経済成長に向けた各種構造改革への取組を行っている。タイは高付加価値産業の育成を図るとともに、最低賃金を引き上げた。マレーシアは2020年先進国入りに向けて、サービス産業の強化などを進めることとしている。インドネシアは、産業と輸出の構造改革を進めることとしている。フィリピンは成長が著しいアウトソーシング産業(BPO)を優先産業と位置付けている。
- 過去の通貨・金融危機によって、いくつかの新興国等は深刻な経済的被害を受けた。新興国等における経済のファンダメンタルズのぜい弱性は危機発生の原因の一つであったが、近年、これらの新興国等は、経済のファンダメンタルズを改善することによって、外生的なショックに対するリスク耐性を高めてきている。また、新興国を中心とするクロス・カントリー・データに基づいて、リスク耐性だけでなく、成長基盤も併せて分析したところ、両指標の間には正の関係が存在することが確認されるが、近年になって、この関係はやや緩やかになっており、各国間の総合的なリスク耐性及び成長基盤の差異は相対的に縮小してきていることが明らかとなった。
- 1997~98年のアジア通貨危機後、韓国経済はマクロ経済政策による景気刺激策に加え、構造改革の断行によって、比較的早期に危機による経済の落込みから回復した。大胆な構造改革によって、韓国経済は痛みを伴いながらも、経済のファンダメンタルズの改善と成長基盤の強化を目指した。なかでも注目に値するのが、積極的な対外開放戦略の推進である。韓国は、市場参入障壁の撤廃や外資参入規制の緩和、FTAの締結を相次いで実施してきた。その結果、韓国経済は、欧米式のコーポレート・ガバナンスが導入され資本市場が自由化されたほか、ベンチャー企業をはじめとする新規企業の設立が促進され新陳代謝が活発な経済となるに至った。
- メキシコとブラジルの上位10品目の輸出産品をみると、1990年代以降、メキシコでは工業製品中心の財を輸出する構造に大きく変貌する一方、ブラジルでは資源、農産物など一次産品とその加工品を中心とした輸出構造が継続しており、最近ではその傾向が更に強まってきているなど対照的となっている。この背景としては、異なる成長戦略があげられる。メキシコは、自由化・民営化といった構造改革を進めるとともに、米国と隣接する優位性をいかしつつ、対外開放政策を積極的に進めることにより、製造・輸出拠点として成長を遂げた。これに対して、ブラジルは、対内直接投資を受け入れる一方、国内産業の育成と中間層の拡大を通じて国内市場を成長させ、近年では中国向けを中心とする資源輸出によって発展を遂げている。
- メキシコ、タイ、インドの自動車産業を見ると、メキシコは海外市場への輸出、タイは国内市場と海外市場の両方、インドは国内市場を中心とした構造となっている。3か国とも、時期、内容や程度の違いはあるが、国内産業保護政策から国際的な貿易・投資の自由化の流れの中で規制緩和、FTA締結等を進め、地理的条件や国内市場の規模などそれぞれの特徴をいかしつつ、外資による投資を受け入れ、戦略的な生産・輸出・販売網を構築している。
東アジアにおける貿易投資の深化と成長モデル転換に向けた我が国の貢献
- 東アジアの貿易構造は、域内貿易においては部品や加工品などの中間財の比率が高く、欧米向けにおいては消費財や資本財などの最終財の比率が高い。これは域内において国際的な生産分業が発達し、組立てられた最終財が欧米へ輸出されることを示唆している。このような構造については、リーマン・ショック後、最終財輸出に占める欧米のシェアの緩やかな低下、東アジアの上昇という変化の動きも見られる。東アジアの輸出国の中では、長期的には日本のシェアが低下し、中国の存在感が高まってきている。
- このような東アジアの貿易構造は、我が国企業による海外展開と密接に関係している。日系製造業はアジアを中心に直接投資による現地法人を設立し、生産拠点間の資材調達の流れが中間財貿易の背景となっている。また、我が国企業の稼ぎ方として、基幹部品等の資材輸出とともに、海外現地法人からの配当金・ロイヤリティ収入の重要性が高まっている。進出地域別に見ると、日本企業にとってアジアが資材輸出、配当金・ロイヤリティの両面で重要な地位を占めている。アジアにおいて日系現地法人は、現地販売や現地調達を拡大するとともに、研究開発活動を活発化するなど関係が深化している。
- 各国が長期的発展を遂げるために現在模索している成長モデルの転換においては、現地における裾野産業育成及び地場企業の能力強化のための高度人材育成、ハード・ソフトインフラ整備の促進、非関税障壁の撤廃による取引コストの低減等、企業の活力をいかすための事業環境整備を進めることが重要な役割を果たす。先に示した我が国企業のアジアにおける事業展開の深化は、技術、ビジネスモデルやノウハウを提供するかたちで事業環境整備に貢献するとともに、高度化する消費者のニーズにも応えることができると考えられる。
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