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第3節 リスク要因

 ここまで見てきたように、世界経済危機及び欧州債務危機を経て、先進国経済は回復傾向にあり、米国ではこれまでの緩和的な金融政策を縮小方向へと転換し始めた。一方、世界経済危機後の新興国の高い経済成長を支えてきた先進国からの流入資金が減少することや、そのおそれは、ファンダメンタルズの弱い新興国の場合、さらなる景気減速を招きかねない。以下、世界経済のリスク要因について見ていく。

1.米国の量的金融緩和縮小による金融市場の動揺

 米国の量的金融緩和の縮小を巡る一連の状況が示すように、新興国の金融市場は、これまでリスクへの耐性を強めてきているが、金融環境の変動に対していまだぜい弱である。今後、量的金融緩和の縮小過程において、米国経済の予想以上の好調さ、市場の見方の変化、縮小の加速等によって急激な金利上昇が生じた場合には、他国の金融環境にも大きな変化を及ぼしうる。このような変化をきっかけに、一部新興国のファンダメンタルズのぜい弱性に対する懸念が強まると、証券投資の逆流や貸付等の引揚げが急速に行われることも想定される。この場合、当該国の通貨や株価の急落等の大きな変動が生じるだけでなく、他の新興国に対する懸念が連想されることにより、より大きな規模で金融市場の動揺が生じるリスクがある。

2.新興国経済のさらなる減速

 新興国経済の中期見通しが予想以上に低いことから、投資家の新興国に対する懸念が強まっている。金融環境は一部の新興国においてタイト化しており、企業の資金調達コスト上昇によって、投資及び耐久財消費は予想以上に減速している。この上、金融引締め、FRBによる量的緩和縮小の加速、投資家によるリスク回避姿勢の強まり等が加われば、金融市場の混乱、資金流出等が生じ、新興国にとって調整困難な状況となりかねない。そうした状況が広く波及し、金融ストレスが高まれば、経済成長の下押しリスクとなる。

3.中国の景気減速

 中国政府は、構造改革のため投資の抑制を行っているが、その一方で、景気を更に下押しする懸念がある。また、中国の金融面の安定性に対する懸念が高まる中、政府は信用拡大や地方政府の借入を抑制している。これらは、金融市場のぜい弱性を減少させる一方、予想以上の速さで金融引締めが進めば、現状の見通しよりも中国の経済成長を抑制しかねない。そうなった場合、世界経済の回復が更に遅れる懸念がある。

4.先進国を中心とした低インフレ

 先進国の多くはインフレ率が目標を下回っており、経済に打撃を与えるようなショックが生じた場合、デフレに陥るリスクがある。また、インフレ率が目標を下回る状態が続けば、長期的なインフレ期待が低下する可能性がある。さらに、主な先進国では政策金利は既にゼロ近辺にあり、一層の金融緩和の余地は限られていることから、実質金利の上昇によって実質的な債務負担が増加し、経済活動が阻害される懸念がある。ユーロ圏を始め先進国においては、低インフレによる低賃金、消費行動の抑制、企業の収益の伸び鈍化等により、経済成長が低迷することが懸念される。

5.ウクライナ問題を巡る地政学リスク

 2014年2月、ウクライナのクリミア半島において生じた混乱により、ロシアと欧米の対立が深刻化した。欧米によるロシアへの制裁が実施されたことを受け、ロシアによる欧州向け天然ガスパイプライン停止などの対抗措置が懸念されている。さらに、ウクライナが巨額の対外債務により破綻しかねないとの懸念も生じ、金融市場の混乱も予想されるなど、世界的に緊張感が高まった。これを受けたロシア及びウクライナの成長減速、さらに、CISへの影響拡大が懸念されている。今後、混乱が更に深刻化した場合、あるいは貿易面、金融面における制裁や対抗措置が講じられた場合に、世界の金融市場に新たなリスクがもたらされ、近隣の貿易相手国にとどまらず、他の国々の景気を下押しする懸念がある。また、天然ガス及び原油、更にトウモロコシや小麦の生産や輸送への影響も懸念される。

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