経済産業省
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第3節 企業支援施策

 次に、企業支援施策の進捗と今後の方針について示す。

1.トップセールス・各省連携体制の強化

 第Ⅲ-2-3-1表は、安倍政権発足後の首脳・閣僚によるトップセールスの実績について表したものである。

第Ⅲ-2-3-1表 首脳・閣僚によるトップセールスの実績(2014年5月時点)

 我が国企業の進出環境整備、資源確保・インフラ案件獲得に向けて、首脳・閣僚によるトップセールスから民間レベルでの交流まで総動員して、官民一体となったオールジャパンの取組を実現するため、内閣総理大臣を始めとする閣僚によるトップセールスがなされた。例えば、ロシアに関しては、安倍総理の就任後、プーチン大統領との間で既に5回の首脳会談が行われたほか、日露経済関係を更に促進させる観点から、日露交流促進官民連絡会議が創設された。トルコについては、2013年5月の安倍総理訪問時に署名した原子力協定等を踏まえ、シノップ原発計画の優先交渉権を日本企業が獲得するなどの成果が見られる。

 今後、インフラ等の需要に的確に対応していくためには、相手国のトップと直接対話し、インフラ整備はもとより国づくり全般にわたりアドバイスのできる人材を派遣すべきである。総理・各閣僚の訪問先にあわせた戦略的ミッションを組成するとともに、産業界が独自に実施するミッションと政府の連携を強化することが必要となる。

 トップセールスに加えて、その後の官民でのフォロー体制や、現地での継続的ロビイング体制を強化する。実際、日本企業が新興国市場に進出するに当たり、現地の諸制度の不備等が海外進出を阻害する一因となっている例が多く見られる。そのような課題を解決するため、現地商工会と連携して相手国におけるロビイングの実施体制を確立することが不可欠である。

 引き続き、国際会議のホスト、ミッションの派遣、投資協定の締結、ODA、公的ファイナンス等、あらゆる政策ツールを導入して、可能性を見いだしていくことが重要である。

2.中堅・中小企業及びサービス業の海外展開促進策

 日本企業が海外展開をする際には、情報収集・手続面など、様々なニーズがあるが、各機関の支援メニューが分かりづらい、また現地での法務・労務等の課題が多いものの、対処できる専門家を探すのが困難など課題が挙げられる。したがって、潜在力・意欲のある企業に対する支援をシームレスに行う体制を整備するため、国内及び現地において以下の施策を推進した。

 国内の施策として、自ら需要開拓のため新興国に進出する中堅・中小企業の増加にあわせ、支援体制を充実させるため、321機関連携の下、「海外展開一貫支援ファストパス制度」を2014年2月25日より開始した。当ファストパス制度の開始に伴い、地域の金融機関や商工会議所などが、顧客企業に、在外公館・JETRO等、海外展開を支援できる機関を紹介し、支援機関が連携し一貫した支援を提供することが可能となった。

 また知財分野においては、中小企業の知的財産の権利取得から権利行使までを一気通貫で支援すべく、外国出願費用等の負担軽減措置、外国出願関連情報の提供、海外における模倣品動向調査や侵害対策等の支援を行った。

 国外における施策として、「中小企業海外展開現地支援プラットフォーム」を世界10か所で設置することによって、法務・労務・知財問題等、様々な問題に迅速に対処するワンストップ窓口を整備した。

3.貿易保険制度の見直し

 日本企業の国際展開を支援することにより、著しい経済成長を遂げる新興国を始めとする、海外の旺盛な需要を獲得することが重要である。貿易保険制度は、対外取引を行う者が戦争やテロ等の発生によって被る損失を塡補する、日本企業の国際展開に不可欠な制度であるが、2013年1月にアルジェリアで発生したテロ事件に見られるような海外におけるリスクの増大や、取引形態や資金調達手法の多様化など、海外事業環境は急速に変化している。また、地域中小企業の海外展開も進展。こうした状況を踏まえ、貿易保険の機能を強化すべく、2014年4月に貿易保険法を改正し、以下を新たに貿易保険の対象とした。

 ① 日本企業が海外でプラント建設を行う際に、テロや戦争によって事業が中断された場合に当該企業が被る人件費、貨物保管費等の追加費用。

 ② 日本企業の海外子会社や日本製品を扱う現地販売会社による輸出などの取引。

 ③ 日本企業が参画する海外での資源開発等のプロジェクトに対する資金調達を円滑化するため、本邦銀行の海外拠点や外国銀行からの融資。

 また、再保険引受対象として、地域中小企業が利用する国内損害保険会社による対外取引保険を追加した。

4.投資協定・租税条約の締結・改正

 海外に進出した我が国企業の安定的な操業を行うためのビジネス環境を確保し、投資財産の保護、現地進出・資金還流の障壁を撤廃するため、投資協定の締結を促進している。新興国を中心に保護主義的、外資差別的な措置が増えつつある中、投資協定については、東南アジア諸国との交渉を一通り終え、現在、中東・アフリカを中心に交渉を進めている。

 2013年度においては4月にサウジアラビア、6月にモザンビーク、12月にミャンマーとの投資協定に署名した。現在、交渉中のものとして、ウクライナ、アルジェリア、ウルグアイ、カタール、アラブ首長国連邦が挙げられる(2014年4月7日時点)。

 また 、両国の課税所得の範囲等を調整する租税条約を新規締結・改正することにより、海外進出企業に対する課税の法的安定性の確保、我が国企業が海外で稼得した収益の国内還流の円滑化等に資することが期待される。

 2013年度には、6月にクウェートとの租税条約が発効するとともに、5月にアラブ首長国連邦と、2014年1月にオマーンとの租税条約に署名した。今後とも、我が国産業界のニーズや我が国課税権の適切な確保等の観点を総合的に勘案し、企業の海外展開の支援に資する租税関連条約のネットワーク拡充の取組を加速することが重要である。

5.公的ファイナンスの柔軟化・迅速化

 2013年4月、円借款の制度改善として、日本の強みをいかせる分野において「環境」「人材育成」に「防災」「保健・医療」を新たに追加の上、これら分野の金利を引き下げ、また本邦技術活用条件(STEP)について、本邦企業の海外子会社も新たに適格とする等の改善を実施した。

 また、同年5月の経協インフラ戦略会議で決定された「インフラシステム輸出戦略」に基づき、円借款の柔軟化に向けた検討を進め、途上国におけるPPP案件への日本企業参画を後押しすべく、同年10月にはインフラ整備事業に対する途上国政府の出資を補う円借款(Equity Back Finance)や事業運営権獲得を視野に入れた有償資金協力を含めたパッケージ支援(Viability Gap Funding)を導入した。

 これらの制度改善に加えて、円借款の要請から事業実施までのプロセスにおける更なる効率化・迅速化策を検討することが必要である。

6.技術協力の深化

 新興国とのWin-Winの関係構築が鍵となるため、新興国の課題解決やマーケット・インのアプローチが必要である。したがって、新興国の抱える課題解決と日本企業の市場獲得の両立するための技術協力の活用、都市が抱える課題の発掘・解決のための都市間関係の活用が不可欠である。

 さらに、日本からのインターン派遣拡充、日本人・現地人材の共同研修等を通じて、新市場の開拓・創造を担う「新興国イノベーター」を育成するとともに、現地研究機関との協力や規格の導入等を通じた制度環境の整備が必要である。

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