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II 日本を活かして世界で稼ぐ力の向上のために
第1章 対外的稼ぎ方に見る日本の競争力
第1節 「輸出する力」の検証
2012年末から為替が円安方向に推移する中、2014年前半まで輸出数量は伸び悩んだ。その理由としては、①新興国の需要の伸び悩み、②企業が為替動向に応じて輸出価格を下げていないこと、③海外生産の拡大等が指摘されていたところである。本白書では、輸出数量に影響を与える要因として、外需、為替動向、輸出財の生産能力、輸出財の高付加価値化、海外在庫投資といった要因を想定し、これら全ての要因がどの程度輸出数量に影響を与えたかを輸出関数を用いて推計した。2008年以降の動きについて詳述すると、リーマン・ショック以降の4四半期を除き、海外需要要因は継続的に輸出数量を押し上げている。一方で、輸出品の高付加価値化(輸出品の価格帯の上昇)は概ね輸出数量の押し下げ要因となっている。輸出財生産能力は、2011年から2012年まで輸出数量の押し下げ要因となっていた。足下では、海外需要、為替、輸出財生産能力は輸出数量押し上げ要因として寄与している。分析対象期間において、高付加価値財の輸出数量は伸びにくい傾向が見られたが、輸出先の経済規模拡大や所得水準の向上によっては、数量増加も期待できる。今後、輸出財の高付加価値化と輸出数量の維持・拡大をいかに両立するかが課題である。
我が国の長期的な輸出のトレンドを国際比較も行いながら概観すると、世界の輸出額に占める日本の輸出シェアは緩やかに低減している。財別に見ると、米国、ドイツ、中国が最終財と中間財の双方を伸ばしているのに対し、日本は中間財の輸出額が最終財の輸出額を上回っており、最終財の輸出額が伸び悩んでいる。
続いて、輸出動向についてより具体的に把握するため、セクター、主要輸出品等別に国際比較を行った。まず、世界需要の伸びを獲得している割合(輸出増加傾向の品目(HS6桁レベル)が輸出額全体に占める割合)を見てみると、中国、米国、英国及び韓国が70%を超えているのに対し、我が国は47%と低い水準となっている。我が国は他国に比べ、伸びゆく需要の獲得割合が小さいことを示している。続いて、主要国の輸出につき、主要輸出先別に、数量・単価の動向を比較した。中国への我が国及びドイツからの輸出を比較すると、ドイツは我が国に比べ、主要セクター全体で、量が増加するとともに単価も上昇している品目の割合が高い。米国への我が国及びドイツからの輸出を比較すると、両国とも輸送用機械において数量・単価の両方が増加した品目シェアが高い。その他の業種では、ドイツは化学・プラスチック品、日本は繊維・衣料において数量・単価の両方が増加した品目シェアが高い。EUへの我が国及び米国の輸出を比較すると、両国とも数量・単価の両方が増加した品目シェアは分析した業種全てにおいて高くはない。しかし、単価動向を見ると、日本からEUへの化学・プラスチック品及び一般機械において、世界単価よりも高い品目の2014年輸出額が2005年と比べ増加している。同様に比較すると、米国は、化学・プラスチック品、電気機器、精密機器、輸送用機械といった幅広い業種において世界単価よりも高い品目の輸出額が増加している。
他国及び我が国の輸出品の中には、単価の伸びと数量の増加の両方を達成している品目が一定程度あり、また世界単価よりも高い品目の輸出が堅調な例も多い。価格が高いものであっても差別化した製品であれば、伸びゆく需要を捉えられると言えよう。
第2節 「呼び込む力」の検証
「呼び込む力」については、2014年の訪日外国人数が過去最高を記録したことに見られるよう、ヒトを「呼び込む力」は向上しつつある。ここ2年間の伸び率は世界主要国の中で首位であり、世界の旅行者に占める訪日旅行者の割合も上昇傾向である。並行して、訪日外国人の日本国内での消費金額も過去最高となったが、地域別の外国人旅行者数も、全ての地域で10%を超える伸びとなっている。地域への広がりをさらに具体的に捉えるため、外国人旅行客の消費金額を地域別に推計すると、全ての地域で前年比プラスとなる傾向が見られた。こういった訪日外国人旅行者の増加及び消費動向の背景には、ビザの要件緩和等、旅行者を呼び込む環境整備に加え、食、自然、文化等といった日本の固有の魅力が認識されていること、販売されている商品に対する信頼性が高いことがある。
企業を「呼び込む力」についても、世界経済フォーラムの日本の国際競争力順位の上昇に見られるよう、向上しつつあることが示唆される。ただし、他国も同様に事業環境整備を行っていることから、他国に劣らないスピードで事業環境整備を継続することが求められる。グローバル外資系企業への調査によると、事業コストに代表される一般的な事業環境とは別に、我が国の技術力・産業集積、人材や購買力の高い消費者層は個別要素的な強みとして認識されている。その一方で、イノベーション力や、英語でのビジネスコミュニケーション等には課題がある。持続可能な立地競争力は、コスト以外の強みをいかに強化するかによって決まると考えられる。我が国の人材、技術、購買力といった強みを最大限いかすとともに、新しいビジネスが次々と生まれ、世界中から集められたアイディアと組み合わされることで、さらにビジネスが拡大する仕組みを作っていくことが必要である。
第3節 「外で稼ぐ力」の検証
「外で稼ぐ力」については、海外事業活動基本調査の個票を分析することにより、進出先別、業種別の活動状況と我が国との関係(資材調達及び配当等の支払い状況)を把握することを試みた。海外に進出した日本企業の収益と日本への環流状況を見てみると、日系海外現地法人の日本側出資者向け支払い(配当金とロイヤリティの合計)は増加傾向にあり、配当金は年による変動はあるものの、中国からの配当金が米国からのそれに匹敵する水準となっている。また、中国における日本企業の配当性向は、日本企業の進出先平均や米国における配当性向よりも高いことが明らかになった。そもそも、制約がない状態での海外子会社の配当の有無は、海外又は国内のどちらに投資することがリターンを最大化するかという観点から行われるはずである。このことを踏まえると、内外で自由な経営判断が行われる状態を確保すること(ビジネス環境整備等)が引き続き必要であるとともに、企業活動のグローバル化が進む中、成長のための資金が日本に再度投下されるよう、日本の立地競争力をさらに高めていくことが必要である。
日本のグローバル企業と他国グローバル企業の稼ぐ力を比較するために、財務分析を行った。2006年から2013年までの推移において、日系グローバル企業の売上高成長率、営業利益成長率、売上高営業利益率はいずれも、他国のグローバル企業よりも低い。また、日本企業のホーム市場であるアジア大洋州地域市場における売上高成長率は他国企業より低く、その上、3大市場の全てにおいて他国グローバル企業にシェアをとられている。企業特性別に違いがあるかを見るため、多角化している企業と専業的な企業に分けて比較を行ったところ、日本の多角化企業は総じて成長性、収益性が低い。また、日本の多角化企業群は、低収益部門の割合が他国の多角化企業群よりも高い。世界のマーケットで伍していくためには、事業分野の必要に応じた見直しとともに、多角化を高収益につなげる経営力を他国グローバル企業に劣らないスピードで発揮していくことが必要である。
第2章 世界で稼ぐ力を支える各国の立地環境とグローバル経営力の強化に向けて
我が国の世界で稼ぐ力―「輸出する力」「呼び込む力」「外で稼ぐ力」の3つの力―を伸ばしていくためには、我が国の立地環境を魅力のあるものにするとともに、企業のグローバル経営力が強化される必要がある。その観点から、幅広い産業に影響を与えるビジネスモデルの変革の動き、イノベーションを促進する各国の政策及びグローバル経営上の課題を概観する。
第1節 ビジネスモデルの変革とそれを支える各国の政策
インダストリー4.0は、高齢化やコストといった日本と同様の課題を抱えるドイツが、ファクトリーオートメーション等によって、競争力を有する製造業をさらに強化させるものと言うことができる。また、研究開発機関、大学、産業クラスターの連携が既に行われているドイツの事業環境が、新しい取組における業種横断的調整と中小企業のイノベーションを可能にしたと評価できる。
米国においては、従来から積極的なリスクテイクを許容する環境の下、イノベーティブな企業活動が米国の成長をけん引してきた。バリューチェーンを一変する可能性を有しているIoT(Internet of Things)や、人工知能を活用した先進的なビジネスモデルについても、米国企業が先行して展開している。これは、優位に立つプラットフォーム型ビジネスを他のビジネスとも統合することで、さらに優位性を高める動きである。米国政府によるイノベーション環境の充実、基盤技術を強化する政策がこれらの企業活動を下支えしている。
我が国においても、こういったドイツ、米国に後れない競争力強化策が必要である。
第2節 イノベーション力の強化のために
国の規模としては小さくとも高いイノベーション力を誇る国・地域(イスラエル、スイス、台湾)について、その特徴を分析した。
イスラエルは、①資金・技術の呼び込み(ハイテク企業が海外投資家から資本調達、グローバル企業のR&D拠点集積)、及び②政府が起業の初期段階のリスクを積極的にとり、スタートアップを支援することにより、革新的な技術やスタートアップ企業を次々生み出すことに成功している。
スイスは、①グローバル企業の呼び込み(約1,000社の立地)、留学生や外国人労働者の受け入れ、及び②連邦政府が、産業と大学・研究機関との橋渡し役となり、応用研究開発・スタートアップを支援することにより、生産性向上に成功している。
台湾は、①研究機関やサイエンスパーク内の企業への受け入れなど、起業家精神に富む人材の集積化、及び②政府がハイテク産業に資金等を重点的に投資するとともに、政府系機関が事業化に必要なあらゆるサービスを提供することにより、政府主導で優秀なハイテク人材の就業・起業の機会を拡大している。
これらの事例は、効果的な政府の支援を背景に、コスト競争力とは一線を画した呼び込む力と一体となったイノベーション政策で競争力を保持しているといえよう。
第3節 グローバル経営力の強化のために
変化の激しい世界市場で日本の強みを発揮するためには、日本企業のグローバル経営力強化が不可欠である。その一環として、世界中の才能を集め、人材のダイバーシティを進めることによる「内なる国際化」が急務である。この観点から、留学生の日本企業への就職や定着が重要であることから、アンケート調査に基づき、英語による採用を行っている企業割合が低いことや、外国人社員定着のために必要な取組につき、会社側と外国人社員の間に認識のギャップが大きいことを明らかにした。
日本企業の海外事業活動の拡大を踏まえると、リスクマネジメントについても必要に応じて変えていく必要がある。また、適切にリスクをとるためには、精度の高いリスクマネジメントが必要であることから、日本のグローバル企業のリスクマネジメント状況についてアンケート調査等を元に検討した。日本グローバル企業のリスクマネジメントに対する認識及び取組は充実しつつあると言える。その一方で、海外子会社やM&Aで取得した子会社については必ずしも本社と同様の管理ができていないこと、組織間の役割分担の曖昧さ等が課題であることが明らかになった。