第4節 高度化する消費
急速な経済発展を背景に、新興諸国・地域では、消費の高度化も進んでいる。
以下では、新興諸国・地域の消費支出や一人当たり所得の推移を概観した上で、これら諸国・地域で進む消費の高度化の実態を紹介する。
1.一人当たりの所得
次に、一人当たりの所得額(購買力平価ベースの一人当たり実質GDP)の推移を見ると、上位中所得国では、既に1980年代には、可処分所得の半分以上を裁量的支出に使うことができる水準とされる5,000ドルを超え、2015年には15,000ドルに達する見込みである(第Ⅰ-2-4-1-1図)。
第Ⅰ-2-4-1-1図 一人当たり実質GDPの推移
下位中所得国においても、2012年には5,000ドルを超えている。
他方、低所得国では、一人当たり所得の伸びは緩慢で、2015年時点でも2千ドルに達しない見込みとなっている。
一般に、年間可処分所得が5,000ドルを超えると、収入の半分を食料品以外への支出(裁量的支出)に充てることができるようになると言われている。そして、経済産業省(2012)によれば、世帯の可処分所得が5,000ドルを超えると、洗濯機や冷蔵庫、各種家庭製品の保有率が急速に上昇し、7,000~10,000ドル辺りから外食や教育、レジャー等、各種サービスへの消費性向が急速に上昇、12,000ドルを超えるとヘルスケア分野への消費性向が高まるという(第Ⅰ-2-4-1-2図)。一般的に、高品質・高機能製品を得意としてきた我が国企業にとっては、より高い所得層の人口が増加する地域がより魅力的であると考えられる。
第Ⅰ-2-4-1-2図 所得階層別の消費性向イメージ
2.消費支出
新興諸国・地域の消費支出額をみると、上位中所得国では、一人当たり所得が増加に転じた2000年代後半から急速に増加している(第Ⅰ-2-4-2-1図)。その結果、2013年には、支出額は約9兆ドルと、2000年時点の消費支出の4倍近い水準に達している。下位中所得国では、増加ペースは緩やかであるが、2013年の支出額は3.4兆ドルと、2000年時点の支出水準の4倍となっている。
第Ⅰ-2-4-2-1図 消費支出の推移
他方、低所得国では、消費支出の伸びは緩慢である。
3.消費の多様化・高度化
こうした所得水準の向上に伴い、新興諸国・地域では、今後、消費の多様化・高度化の進展が見込まれている。運輸・通信関連支出、レクレーションや教育関連支出、医療等ヘルスケア関連支出等いわゆる裁量的支出と言われる必需品以外への支出の増加が予測される。その結果、これら新興諸国・地域では、今後、様々な財・サービスへの需要が高まると予測されている。
例えば、経済のグローバル化を最も象徴する商品である携帯電話加入者数の推移をみると、上位中所得国及び下位中所得国の契約者数は、2000年代以降急速に伸び続け、それぞれ2008年と2010年に高所得国の契約者数を上回っていることが分かる(第Ⅰ-2-4-3-1図)。
第Ⅰ-2-4-3-1図 携帯電話加入者数の推移
インターネット利用者数も増加し続けている。
新興諸国・地域でもインターネットの利用者数は2000年前後から増加し始め、2013年には上位中所得国では2人に一人が、下位中所得国でも5人に一人がインターネットを利用している(第Ⅰ-2-4-3-2図)。
第Ⅰ-2-4-3-2図 インターネット利用者数の推移(人口100人当たり)
こうした中、新興諸国・地域の消費財輸入も急増している(第Ⅰ-2-4-3-3図)。
第Ⅰ-2-4-3-3図 消費財輸入額の推移
2012年の上位中所得国の消費財輸入額は、4,450億ドルに達している。下位中所得国を加えると両者で6,000億ドル近い規模となる。これは、高所得国の2012年の輸入額2兆8千億ドルの2割に相当する規模である。
また、新興諸国・地域のIT化の進展を示す指標として、情報通信機器の輸入額13をみると、2000年以降、上位中所得国ではその輸入額は急速に上昇しており、下位中所得国や低所得国を大きく上回る水準となっている(第Ⅰ-2-4-3-4図)。
第Ⅰ-2-4-3-4図 情報通信機器輸入額の推移
以上のように、新興諸国・地域における個別の消費財・サービスの消費動向は、急速に高所得国に近づいているように見える。しかしながら、実際の消費支出の内訳を高所得国のものと比較してみると、依然として、両者の消費構造には大きな違いがあることが分かる。
第Ⅰ-2-4-3-5図は、世界最大の都市である中国・上海市の消費支出の内訳を東京都と比較したものである。これを見ると、上海市は東京都に比べ、消費構造の多様化があまり進んでいないことが分かる。両者を比較して、特に大きな違いがあるのが、「その他商品とサービス」の項目である。当該項目は理美容用品や身の回り用品などといった裁量的支出の対象となる品目を中心に構成されている。
第Ⅰ-2-4-3-5図 中国・上海市と東京都の消費支出内訳の比較(2013年)
図を見ると、東京都ではその他商品・サービスは食料品に次ぐ大きな支出項目となっているが、上海市では当該項目に対する支出は極めて少ない。教養・文化とともに当該項目に対する支出の増加は消費の多様化を意味する。すでに高所得国並みに消費の高度化が進んでいると見られる上海市においても、今後、消費が一層高度化する余地はまだまだあると言える。
13 ここでの情報通信機器は消費財及び資本財の合計であることに留意。