第2節 対日直接投資拡大に向けた取組
1.政府目標
(1)日本再興戦略における位置づけ
政府は「日本再興戦略-JAPAN is BACK-」(平成25年6月14日閣議決定)において、海外の優れた人材や技術を日本に呼び込み、雇用やイノベーションの創出を図るため、日本国内の徹底したグローバル化を進めるとともに、「2020年における対内直接投資残高を35兆円へ倍増(2012年末時点17.8兆円)することを目指す」との政府目標を決定した。
また、「日本再興戦略改訂版」(平成26年6月24日閣議決定)では、対内直接投資残高倍増に向けた推進体制の強化が新たに決定された。具体的には、①対日直接投資推進会議を司令塔として、投資案件の発掘・誘致活動、必要な制度改革の実現に政府横断で取り組むことや、②在外公館・JETROが連携して、海外現地における誘致案件創出活動を強化すること、③関係省庁と連携したJETROのワンストップ支援機能の強化すること、④総理・閣僚によるトップセールスを先進的な地方自治体とも連携しつつ戦略的に実施することなどが盛り込まれた。
(2)成長戦略進化のための今後の検討方針
平成27年1月29日に開催された産業競争力会議では、成長戦略の更なる進化に向けた今後検討すべき課題として「成長戦略進化のための今後の検討方針」が決定された。その中では、対内投資環境の改善に資する制度改革を迅速に実現していくことに加えて、関係省庁、関係機関、地方自治体等が連携し、誘致機能を強化するとともに、国内市場の更なる成長・活性化が期待される分野への重点的誘致プロモーションの実施を検討することが盛り込まれた。
2.規制・制度改革の推進
国際的な立地競争力を高めて、外国企業による日本への投資を呼び込むには、経済連携によりモノ・サービス・投資の国境を越えた移動の障害を取り除くとともに、法人実効税率の引下げや規制・制度改革により事業活動コストを低減するなど、総合的な取組が必要となる。
(1)法人税改革
OECDやアジア諸国の法人実効税率は、日本と比較して低く、OECD諸国の平均は25%程度である(第Ⅲ-3-2-2-1表)。
平成26年6月24日に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2014」では、「日本の立地競争力を強化するとともに、我が国企業の競争力を高めることとし、その一環として、法人実効税率を国際的に遜色ない水準に引き下げることを目指し、成長志向に重点を置いた法人税改革に着手する。
そのため、数年で法人実効税率を20%台まで引き下げることを目指す。この引下げは、来年度から開始する。財源については、アベノミクスの効果により日本経済がデフレを脱却し構造的に改善しつつあることを含めて、2020年度の基礎的財政収支黒字化目標との整合性を確保するよう、課税ベースの拡大等による恒久財源の確保をすることとし、年末に向けて議論を進め、具体案を得る。
実施に当たっては、2020年度の国・地方を通じた基礎的財政収支の黒字化目標達成の必要性に鑑み、目標達成に向けた進捗状況を確認しつつ行う。」ことが盛り込まれた。それを踏まえ、平成27年度税制改正の大綱において、国・地方を通じた法人実効税率(現行34.62%)は、平成27年度に32.11%(▲2.51%)、平成28年度に31.33%(▲3.29%)とすることを決定した。
第Ⅲ-3-2-2-1表 法人実効税率の国際水準
(2)規制改革会議
規制改革会議では、平成25年7月に貿易・投資等ワーキンググループが設置され(平成26年9月以降は投資促進等ワーキンググループに改組)、対日直接投資の促進を重点事項の1つと位置づけ、国内外のヒト・モノ・資金・情報の流れを円滑化するための規制改革を進めてきた。
例えば、従来、外国企業が日本において子会社等を設立する際、設立登記を行うには代表者のうち少なくとも1名は日本に住所を有している必要があるため、いずれの代表者も日本に住所を有していない場合には設立登記をすることができない、法人登記がないと在留資格が得られず日本で住所を取得することができない、という問題が指摘されていた。これを受けて「規制改革に関する第2次答申」(平成26年6月13日規制改革会議)及び「規制改革実施計画」(平成26年6月24日閣議決定)でこれらの規制の見直しが盛り込まれた。これを踏まえ、平成27年3月に、内国会社の代表者のうち少なくとも1名は日本に住所を有していなければならないとする取扱いが廃止され、更に法務省令の改正により平成27年4月から、在留資格の申請の際、法人登記が完了していない場合でも、事業の開始がほぼ確実と認められれば、登記事項証明書の写しの提出を求めないこととした。
(3)国家戦略特区
政府は、国家戦略特区を活用し、規制改革等を総合的かつ集中的に推進することにより、国内にヒト・モノ・カネを呼び込むための事業環境整備を進めている。
平成27年4月には、外国人等の開業を促進するため、東京圏国家戦略特別区域会議の下に、国及び東京都が運営主体となり、「東京開業ワンストップセンター」が開設された。同センターには、政府職員等が常駐し、法人登記や税務、年金・社会保険、在留資格認定証明等に係る申請窓口が一元化されている。
(4)外国企業の日本への誘致に向けた5つの約束
平成27年3月には、安倍総理出席の下、対日直接投資推進会議が開催され、対内直接投資拡大に向けて重点的に取り組む項目として「外国企業の日本への誘致に向けた5つの約束」を決定した(第Ⅲ-3-2-2-2図)。「5つの約束」には、小売業等の多言語化や海外から日本に重要な投資をした企業を対象に副大臣等を相談相手につける企業担当制の創設に向けた取組などが盛り込まれている。
第Ⅲ-3-2-2-2図 外国企業の日本への誘致に向けた5つの約束
3.外国企業誘致体制の強化
(1)諸外国の企業誘致体制
近年、グローバル企業の誘致を巡る国際競争は激化しており、対日直接投資の拡大を実現するには、国内事業環境の整備を進めるとともに、誘致体制を強化することが不可欠である。シンガポールや韓国などにおいては、中核的な誘致機関の体制強化に力を入れており、我が国においてもこれらと遜色のない体制整備を進めていくことが課題となっている。
(2)産業スペシャリスト事業
政府の外国企業誘致体制を強化するため、経済産業省では、平成26年度から産業スペシャリスト事業を開始した(平成26年度予算15.3億円)。
同事業では、誘致競争の対象となっているグローバル企業に対する営業力を強化するため、個別業種に関する知識・ノウハウ・ネットワークを有し、外国企業の経営者と対等に交渉できる産業スペシャリストを活用し、JETRO海外事務所との連携による能動的な誘致活動を展開している。
平成26年度は、産業スペシャリストを活用して、外国企業3,000社以上にアプローチを行いつつ、対日投資が見込める外国企業に対して、具体的な投資計画等を提案し、日本市場に関する情報や生活関連情報等を提供すること等により、大型の投資案件等の誘致を実施している。
(3)トップセールス
政府においては、外国企業に対する広報活動を強化するべく、外国企業誘致に積極的な地方自治体の首長とともに、トップセールスを実施している。平成26年5月にはロンドン、9月にはニューヨークにおいて、安倍総理出席の下、対日投資セミナーを開催し、日本市場の魅力や政府の取組、国内各地域の優位性や投資インセンティブ等に関する情報を発信した。また、平成27年5月には、ロサンゼルスにおいて、安倍総理出席の下、日米経済フォーラムを開催し、対内直接投資により日米経済関係を強化していくことを発信した(第Ⅲ-3-2-3-1図)。
第Ⅲ-3-2-3-1図 外国企業誘致における広報活動例