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第3節 世界的なインフラ需要の拡大

 昨今、急速な経済発展を続ける新興諸国・地域を中心に、旺盛なインフラ需要が顕在化している。世界の膨大なインフラ需要の獲得は大きなビジネスチャンスであるばかりでなく、インフラ整備を通じた当該国・地域への進出企業の事業環境改善やサプライチェーン強化等の波及効果も生み出す。本節では、新興国・途上国を中心とした世界におけるインフラ需要の伸びと、これらの国々が持続的な経済発展を遂げるための質の高いインフラの必要性について概説する。

1.新興国・途上国におけるインフラ需要の拡大

 中国が1990年代以降、急速に都市人口を伸ばしたのに対し、インドやサブサハラアフリカの都市化は今後の動きとして残っている。(第Ⅰ-3-3-1図)途上国の経済成長や都市化等に伴い、世界的に電力・運輸をはじめとするインフラの需要が建設・維持補修ともに高まっている。特に電力インフラに関しての需要は高く、世界銀行によれば2014年~2020年の間に3200億ドルの投資が必要であると予測されている(第Ⅰ-3-3-2図)。インフラは維持補修に関しても多額の投資が必要となっており、世界的に大きな市場となりつつある。

第Ⅰ-3-3-1図 主要新興国・地域の都市化率

第Ⅰ-3-3-2図 新興国・途上国におけるセクター別インフラ需要の将来予測(2014-2020)

 地域別に見ると、中国以外の新興国では需要に対して投資額が不足することが予測されており、特にインドをはじめとする南アジア地域では2014年~2020年の間では需要と投資額との間には2410億ドルのギャップが生じることが試算されている。そのほか、中南米地域でも1000億ドルのインフラ投資不足が発生することが見込まれている(第Ⅰ-3-3-3図)。

第Ⅰ-3-3-3図 新興国・途上国におけるインフラ需要・投資の将来予測(2014-2020)

 このインフラ投資のための資金需要を満たすための主な手法として、①政府予算による公共投資、②公共投資を支援するためのODAや国際金融機関による支援、③民間資金の活用、の3つがあるが、インフラ投資を必要とする多くの途上国において、公共投資の前提となる財政基盤は脆弱であり、政府予算による公共投資は十分とは言えない状況にある。例えば、アジア各国における政府予算による資本支出は、相対的に高いマレーシアでもGDP比で5%程度であり、フィリピン、インドネシア、タイではいずれも2~3%に止まっている。これは、1970年代の日本が9%を超える水準にあったことを考えると低い数値である。(第Ⅰ-3-3-4図)また、民間資金を積極的に活用するため、PPP(Public-Private Partnership:官民パートナーシップ)の手法によりインフラ整備を行うケースも増加しているが、制度の未整備やインフラを導入する途上国政府の能力不足の結果、官民の適切なリスク分担が行われない等の理由により、特に東アジアやサブサハラアフリカ等の地域ではPPP手法の活用は限定的となっている。(第Ⅰ-3-3-5図)今後、予想される需給ギャップを埋めていくためには、各国のODAや国際金融機関による資金供給に加え、途上国政府自身がインフラ投資への財源を確保し、公共投資を増やしていくことと、途上国における関連制度の整備や政府担当者のキャパシティ・ビルディングを通じ、民間資金の活用を拡大させていくことの双方が必要とされる。

第Ⅰ-3-3-4図 アジア諸国・地域の地方政府歳出の構成(対GDP比、2012年)

第Ⅰ-3-3-5図 PPPによるインフラ整備 地域別資金動向(融資契約ベース)

 また、インフラの未整備は事業環境の悪さにも繋がっており、途上国の経済成長のためにもインフラの整備は重要な要素となっている。例えば、南アジアでは1か月の平均停電回数が25回となっており(第Ⅰ-3-3-6図)、それによる損失は年間売上に対して約6.6%にも上っている(第Ⅰ-3-3-7図)。OECDの高所得国では、停電による損失は0.1%となっており、インフラを整備していくことによってこの差を埋めていくことが必要である。

第Ⅰ-3-3-6図 各地域における一ヶ月の平均停電回数

第Ⅰ-3-3-7図 各地域の停電による各企業の年間売上に対する損失(%)

2.質の高いインフラの重要性

 このように、アジア・アフリカ等の途上国においてはインフラの整備が急務であるが、持続的な経済発展を行うにはインフラの質の高さも重要な要素である。資金的余裕が無い途上国では、インフラの導入にあたり、価格を重視する傾向にあるが、イニシャル・コストが安い場合でも、ライフサイクルで見た場合のトータルでのコストが高くなってしまう場合がある。また、社会基盤として現地社会・経済に大きな影響を与えるインフラの導入により外部経済効果を最大化するためには、価格ばかりでなく社会・環境面での影響への適切な配慮や災害等への安全性・強靱性等の要素も考慮する必要がある。また、電力インフラを例に取ってみれば、停電率の低い国ほど、経済成長率が高いという傾向がある(第Ⅰ-3-3-8図)。道路に関しても同様に舗装されている道路を持つ国の方が経済成長率が高い傾向にある(第Ⅰ-3-3-9図)。これは、より質の高いインフラを持っている国の方が、単位時間あたりの生産性が上がるためである。

第Ⅰ-3-3-8図 実質GDP成長率と電力の質の相関(2005年)

第Ⅰ-3-3-9図 実質GDP成長率と道路の質の相関(2005年)

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